保管庫

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ 雷門イレブンの話 □

「永遠の空」

三月半ば、早春の風は未だ冷たいが降り注ぐ光は明るさに満ちている。
 清々しくもどこか荘重な気持ちで、温子は家を出た。

 今日は、雷門中学校の卒業式。
 そう、守の、一人息子の卒業式だ。

 友達同士で登校する子や親子で歩いている、どの子ども達の顔にも、今日という日を迎える嬉しさが浮かんでいる。

( ……そうね。きっと守も、こんな顔をしているわね )

 そう思うと、込み上げてくるもので視界が揺らぐ。

「ダメダメ! しっかりしなくちゃ!! あの子に笑われるわ」

 いつも強気な笑顔を忘れなかった我が子。
 自分は、その『円堂守』の母なんだから。


   ■ ■ ■

卒業式が行われる講堂の、指定された席に着く。
 温子の周りでは、すでに小さく押し殺したような泣き声が聞こえた。
 そんな声も、いつにない程の厳粛さをもって行われる式を妨げる事はない。

 粛々と式次第に沿って卒業式は進む。

 卒業証書授与に移り、卒業生の名前が一人ひとり呼び上げられる。
 知っている子の名前もあれば、知らない子の名前もある。
 知っている子の名前を聞けば、その子の顔を思い浮かべ、やはり一筋涙が零れる。

 そして ――――

「円堂 守」

 壇上で校長が一際大きな声で読み上げた。
 会場内で、またすすり泣く声とざわっとしたざわめきが生まれる。

「はい!」

 温子は座っていた席で、しゃんと背筋を伸ばした。


  ■ ■ ■

 静かな理事長室の窓辺に立ち、温子はもう見ることはないだろうグラウンドの様子に目を向ける。
 ここで、焼付くような真夏の炎天下でも、凍えるような冬の寒さの中でも、あの子達は大きな声を上げながら元気に駆け回っていたのだろうと思うと、もうそれだけで胸がいっぱいになる。

「……練習や試合、もっと見てあげれば良かった」

 過ぎてしまった時間は、戻らない。
 いつも、「今」が大事なのだから。

 コンコン、と理事長室がノックされた。
 ノックとともに、サッカー部のユニフォームに着替えた一人の生徒が温子に向かってペコリとお辞儀をした。

「失礼します」

 温子は、その子の顔に見覚えがあった。

「あなた、確か半田君よね? 1年の時から守と一緒のサッカー部だった……」
「はい。……あの、今から円堂達の為の壮行試合を行います。それで、呼びに来ました」
「判りました。皆が揃ってするサッカーも、これが最後ですものね」

 窓辺を離れると温子は、手に卒業証書の入った紙筒とアルバムを入れた紙袋を持って、半田の後をついていった。


   ■ ■ ■

 
 グランドの周りは、この試合を見ようと大勢の人達が詰め掛けていた。
 知っている顔も知らない顔もそこにはある。

( ……すっげー人だかりだな。こりゃ良い試合にしなくちゃな!! )

 その言葉に、皆が頷く。

( だけど、俺嬉しい!! また、この仲間と一緒にサッカーやれるのが! )

 にぱっとした、いつもの笑顔。

( あっ…… )
( ん? どうしたんだ )
( いや、あそこに…… )

 指差した人ごみのなかに、じっとこちらを見つめる者。
 長身長髪、その髪を後ろで一つに束ね、相変わらず目元はサングラスで隠したまま。
 だけど不幸を噛み締めていた口元は、ほんの少しあがり笑っていた。

( 良かったな。見に来てくれたんだ )
( ああ。本当に…… )

 それは、影の呪縛から開放された瞬間。

( 兄ちゃ~ん!! 頑張れよっっ! )

 コクリ、と頷く。
 もう一人ではないという、安心感を得て。

 ピィィィー、と試合開始のホイッスルが鳴り響いた。


   ■ ■ ■


 子ども達が駆け抜けるグランドを、遠い眼差しで温子は見ていた。
 気付かぬうちに手にした紙袋を、きつく抱き締めている。

「守、良かったね。あんたは、今もあの時と同じ空の下を走っているんだろ? ナイズマジャパンが世界一になった、あの日の空を」

 もう温子は、溢れようとする涙を押し留めようとはしなかった。
 ポタリ、ポタリと溢れ落ちる涙は、守の卒業証書を卒業アルバムを濃い色に変えていった。
 あの日、流しきったと思った涙は、今もこうして枯れる事無く溢れてくる。

 涙で揺れる温子の視界の中に、守の姿はなかった。

「大好きな仲間と、大好きなサッカーを、今もあんたは……」


 温子の我が子の名を呼ぶ声が、空に高く吸い込まれていった。
 


   ■ ■ ■


  第一回FFI大会で優勝したイナズマジャパン。
 勝利を讃えられ、最高のプレイと笑顔で幕を閉じた大会。



 輝かしい栄光と未来を手にした円堂達が乗った旅客機は、日本の地に舞い下りることはなかった。


 あの子らは今も14歳のまま、一つのサッカーボールを追いかけている。
 
 あの空の下で ――――





(  みんなー、 サッカーやろうぜ!! )
 

 




2011年04月21日脱稿



関連記事

*    *    *

Information

Date:2012/03/09
Trackback:0
Comment:0
UserTag: * 

Comment

コメントの投稿

:
:
:
:
:

:
: ブログ管理者以外には非公開コメント

Trackback

TrackbackUrl:http://hokanko11.blog.fc2.com/tb.php/10-1410e906
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。