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□ イナズマ・クロノストーン □

Paparazzi  -ベータvs山菜-



 ―――― 人って大事な人の為になら、こんなにも凶暴な感情を抱く生き物なんだと、私は初めて知りました。


 二百年後の未来で、『覇者の聖典』を手に入れ現代に戻ってきた私たちの目の前に立っていたのは、プロトコル・オメガ2.0。
 勝ち誇った表情に、悪意の籠った可愛らしげな笑みを浮かべたベータ。

「どーでした? 二百年後の私たちの世界は? サッカーなんて過去の遺物、なくても良いものに成り果てていたでしょう?」
「いいや、それは違う! お前達の眼にはどう映っているか知らないが、あのミュージアムには、サッカーを尊ぶ気持ちが溢れていた!!」

 そう叫ぶのは、シン様。
 そうなんです、私もそう感じました。プロトコル・オメガ達の言動を見ていると、未来ではサッカーは憎悪の対象だと思っていたんです。でも、キャラバンのモニターに映し出された監視カメラの映像は、立派な館内設備と共に大事そうにきちんと展示されたサッカーの歴史を語る逸品に溢れていました。

「あら? あなた達にはそう見えたのね。あれは、エルドラドのリアル・モニターよ。世界中からサッカーに関する貴重な資料や逸品を集めてきちんと展示しているように見えるけど、過去を改変して歴史からサッカーが消えて行けば、ああやって展示されている物も消えてゆくでしょ? あのミュージアムが空っぽになった時が、私達の任務完了の合図」
「なんだってっっ!?」

 そんな声が、私達の中からあがりました。

「でもね、いずれ消えてしまう物だとしても、今それをあなた達の手に渡す訳にはいかない。さぁ、返して貰いましょうか? その『覇者の聖典』を」

 圧倒的強者が弱者を見下す、強烈な威圧感を放ちながら『覇者の聖典』へと手を伸ばすベータ。聖典を持つ天馬くんを庇うように、シン様がベータの前に立ちはだかります。

「あら? あらあらあら? まぁ~だ分ってないようですわね。あなた達なんて、私達プロトコル・オメガ2.0の前では、虫ケラですらないって事に!!」

 言うが早いか、ベータは足元のサッカーボールにコマンドをかけて物凄い威力のシュートをシン様のお腹目掛けて叩きつけました。

「いやっっ―――― シン様!!」

 思わず駆け寄る私。
 苦しげな表情を浮かべて、悶絶しているシン様を見て、私は私の中にめらめらと燃え上がるモノを感じたのです。

「シン様に……、シン様に、こんな酷い事をして…………!!」

 炎が燃え盛る時、薪や柴が爆ぜるを音を立てる様に、私はブツブツとそんな呟きを繰り返えしました。

「さぁ、次は誰かしらぁ? 私が遊んであげるわよ♪」

 シン様の体に当たり跳ね返ったボールを足元で弄びながら、ベータは髪の乱れを直しています。その様子は、不遜なまでに尊大で皆を見下していて、私は自分の中の炎がさらに大きくなるのを感じました。。

「……サッカーは、シン様に取って、大好きで大事なもの。それを奪うばかりでなく、あなた達は他人を痛めつける道具にしている」
「ええ、そうよ。サッカーを大事にしている者達の心を折るには、丁度良い道具だもの。そう、例えばこんな風にねっっ!!」

 言うか早いかベータは、足元で弄んでいたサッカーボールを勢いよく蹴り上げると、それに物凄いを回転をかけてゴールマウスの枠の角をかすらせるように打ち込みました。ほんの何ミリかの世界、高速回転をかけられたサッカーボールは自らの回転で枠の角に当たった所からナイフで切り裂いたように張り裂けてゆきます。まともに枠に当たっていれば、ゴールマウスくらいひっくり返せる威力。初動もないシュートで見せつける威力とコントロール。無残にも切り裂かれたサッカーボールの破片が辺りに飛び散って……。

「ね? どー足掻いてもあなた達じゃ、私達に勝ち目はないの。大人しく、改変を受け入れなさい」
「あなたにとっては、サッカーはただの道具。愛すべきモノではないのね? それじゃ、教えてあげる。愛すべきモノを武器として闘う者の本当の強さを」

 私は、静かに言い放つ。
 本当なら、武器としてなんて使いたくない。
 でも、愛用しているモノが持つ力も、私は良く知っている。

「はぁぁ? あなたが? あなた、サッカー部のマネージャーでしょ? サッカー出来るの?」

 私の様子を見て、明らかにベータがバカにする。

「止めろ! 茜、怪我するのがオチだぞ!!」

 水鳥ちゃんが叫んでいる。

「止めてください!! 山菜先輩!!!」

 ごめんね、葵ちゃん。心配させて。

「……くっ、山菜! 止めろ!!」

 気が付いたのか、私の身を案じて苦しげな声で叫ぶシン様。
 だけどこればかりは、シン様が止めても私は止まらない。
 あの切り裂かれたサッカーボールは、私にとっては愛用のカメラを地面に叩きつけられて粉々に踏みつけられたようなもの。ましてや、その瞬間の『真実』を写し出す種類の人間に、『歴史の改ざん』なんて嘘は到底受け入れがたいの。

「ふ~ん。あなたがどうしてもやりたいって言うなら、相手してあげてもいいけど……。でも、多分シュート一本であなた、再起不能になるわよ?」
「そうかしら? やってみないと判らないと思う」

 私の返事に、むっとした表情を見せるベータ。私はワンバダと、ちょっとした打ち合わせをする。

「……悪い事は言わん、止めておけ。普段から鍛えている神童でさえ、ああだぞ?」
「大丈夫だから。だから、例の件はお願いね」
「うむ、それくら容易いものだが……」

 心配そうに私を見るワンバダに私は微笑みかけ、そして皆にも笑顔を向ける。

「それじゃ、行ってくるわ」

 そうして、私とベータはサッカーコートの真ん中で対峙する。


  ■ ■ ■


「で、どういう勝負になるのかしら? 一対一じゃサッカー勝負にはならないわ」

 新しいボールを足元で転がしながら、ベータが訊ねてくる。

「ルールは簡単。相手の動きを封じた方の勝ち」
「動きを封じた方の勝ち? それじゃ、あなたに取って不利なんじゃないの?」
「そうでもないと思う。ベータがサッカーボールを道具として使うなら、私はこれ」

 そう言って、私は手にした最新鋭のスマートフォンを見せた。予備機として後3台、このスマートフォンと互換性のある超コンパクト一眼レフデジカメを装備している。

「ええぇ~~、そんなモノ。私の一蹴で粉々になるじゃない。私たちの時代のモノと比べれば、ローテクも良い所なのに。それに、それでどう私の動きを封じるのよ?」

 ぷっ、くすくすと失笑を漏らすベータ。
 今はそうやって、嘲り笑っておくといいわ。
 あなたは本気の私を知らない。


 あなたは、私を本気で怒らせた。


「それは内緒。さぁ、いつでもどうぞ」

 ベータから、ある一定の距離を取って私はそう声をかけた。ベータの初動無しのシュートはさっき見た。タイミングは外さない。山菜茜の名に賭けて!!

「一秒後には、後悔できないくらいぼろっぼろにしてあげる!!」

 ベータが戦闘態勢に入る。禍々しいオーラが立ち上り、その表情を悪鬼の様に歪ませる。しなやかな体が大きくしなり、シュート体勢に入った右足がボールをジャストミートし、打ち出されたサッカーボールが轟音と共に私に向かって飛びかかってくる。狙うのはそのシュートが放たれた、僅か0.001コンマ後のタイミング。サッカーボールの直径は22センチ、そしてコントロールが良いだけにその幅だけ躱せば、どんなに威力のあるシュートでも何の脅威にもならない。

( それにベータは、低い位置は狙わない。このスマートフォンを狙って、シュートの照準を上半身に合わせてくる )

 ボールが当たる!! と言う瞬間、私は身体をサッカーコートに投げ出し、超ローアングルで被写体をスマートフォンのカメラのフレーム内に収める。ベータのシュート速度を上回る神速の連写モードで。

 シュートを放った後の、無防備なまでの大股開きのその姿。超ローアングルからの撮影は、驕り高ぶって鼻息を荒くし、いつもより大きな鼻の穴まで鮮明に激写する。

「へぇ……、あなたトロそうな見かけなのに、反射神経が良いのね。シュートを避ける事に専念して、私を疲れさせる作戦って訳?」

 オメガのメンバーがボールをベータにパスしてくる。
 あくまでも一対一なので、雷門の皆もオメガのメンバーもただ固唾を飲んで事の成り行きを見守っている。

「それは、どうかしら?」

 私はパンパンと服の土埃を払い、立ち上がる。
 皆には内緒だけど、私の制服とストッキングは某ダーティなペア御用達の特別製。動きやすく防御力の高い特殊繊維で出来ている。撮影の際、決定的瞬間を収める為に、地面に身を投げ出だしたりスライディングしたり、飛び上ったりは日常茶飯事。それから靴にも秘密がある。ここ一番という時には半端ない瞬発力が必要。とある博士が考案した、足のツボを刺激して蹴る力を極限まで高める事が出来る靴を愛用している。被写体に、一歩踏み込めるか込めないかで、スクープ写真になるかならないかが決まってしまうから、常にオンの状態で。普段の動きがゆっくりなのは、意識してその力をセーブしているからなの。

「でも、いつまで逃げ続ける事が出来るかしら? それに、手にしたそれだって、何をどう使うのよ? あんな風に動いてちゃ、使いモノにならないでしょ?」
「ううん、そんな事は無いわ。私にとってはカメラは自分の眼にも等しいの。ファインダーを覗いてなくても、どんな風に動き回っても、この子達は私が見たものを、正確に撮ってくれる」
「言うわね、あなた。どうせ撮れてもブレまくった映像でしょ? それに、そんなモノ撮られたところで、私は痛くも痒くもないわよ!」

 ベータの、私を馬鹿にする言葉は留まらない。
 でもあなたは知るのよ。
 馬鹿にする意味すらない相手と見下している私に、本気の怒りを抱く時が来ると。
 ねぇ、知ってる?
 相手に怒りを抱いた瞬間、相手と同じレベルまで落ちてしまうってことに。


  ■ ■ ■


 また元の位置に戻った私とベータの間に、空中でホバーリングしているTMキャラバンから、ひらひらと沢山の紙片が降ってきた。

「ん? なぁに、これ?」

 ベータが、ひらりと近くに落ちてきた紙片の一枚を手に取る。私には、その後の様子が手に取る様に分っていた。

「な、なによっっ!! これ!!!」

 手荒く、びりびりと引き千切られるその紙片。そこに在ったのは、大股開きのあの瞬間を神速連写した、紛れもないベータの真実の一コマ。

「うふv それがあなたの本当の姿よ」

 私はにっこりと笑って、手にしたスマートフォンのファインダーも覗かずに、怒り狂っている今のベータの姿を余さず撮影する。

「止めろっっ!! このメズ豚っっ!!! それをこっちに渡せ!」

 ああ、なんて勿体ないのかしら。
 ベータは、女の私の眼から見ても十分可愛い女の子なのに、心の内にその女の子らしさを食い殺す邪悪なモノを抱いているせいで、こんなにも醜い。
 私のカメラは、その人の真実を写し出す。束の間見せる、心の表情までを。

 カシャカシュカシャ、と鳴り響くシャッター音。

「てめぇ……、あたしを馬鹿にしてんのかぁ~っっ!!」
「あなたは本当の自分を知らない。だから、教えてあげるの。私のこのカメラで」

 シャッターを切る指の動きは止まらない。
 今時のスマートフォンは無線LANでプリンターと連動できる。TMキャラバンに積んでいるプリンターから大量印刷するなんて、とても簡単な事。たった今撮影したばかりの、激怒したベータの鬼か悪魔かモンスターのような形相が大量にプリントされサッカーコートに舞い落ちる。拾うベータの指が、震えている。チームメイトであるオメガのメンバーが、目を背けながら散らばった紙片を拾うのに追われていた。

「あたしに、こんな恥をかかせやがって……。判った。てめぇには、あたし以上の恥をかいてもらおうじゃないか!! その顔、二目と見らねぇほどぐちゃぐちゃに潰してやる!!!」

 ……人の心の醜さも、ここまでくるとどこか哀れです。
 私と同じくらいの年頃だ言うのに、ここに至るまでの時間、どんな生き方をして来たのかと思うと……

 私の中の怒りは、いつしか相手への憐みへと昇華していました。
 修羅の世界でもがく彼女を救うのは、今の自分をしっかりと把握させる事。そこで立ち止まらせる事。

 ベータの必殺のシュートも、神の領域に入った私の眼には、まるでコマ送りの映像の様にはっきりと見えます。私の顔を潰すと言った言葉通り、鋭く重たいシュートが私の眉間目掛けて突き刺さろうとしています。こんな威力のあるシュート、まともに受ければ顔面が潰れるだけじゃなく、頭蓋骨粉砕で即死は必至。
『人を殺す』と言う禁忌さえ、今の彼女の中にないのです。

 これだけ威力のあるシュートだと、軌道から避けるだけではその音速に近いスピードが起こす空気の波、衝撃波の影響は避けきれません。
 だから、私は自分の脚力を最大限に高めて、一歩前に踏み出します。
 そして、そのシュートの速さにも負けないスピードでベータとの間合いを詰めました。

 その間も、撮影することは忘れません。
 手元から送信されるデータは、キャラバンで受信され、『ベータの真実』を大量に印刷して、まるで紙吹雪のようにまき散らします。

 そして、もう一つ。

 キャラバンから全方向へとスクリーンが映し出されます。
 連写で撮影したベータの画像を元に、セルフで編集するようにセットしていた山菜茜特製の動画ソフトが動画投稿サイトへと、ベータの動画をUPし始めたようです。

「ベータ様っっ!!」

 まだ気付いていないベータに、オメガのメンバーから声が掛かります。視線は空中のスクリーンに釘付けになったままで。

「なっ……! なんだ、これはっっ!!」
「ベータの雄姿を、世界の皆に紹介してあげようと思って♪ ほら、もうコメントが付き始めたわ」


 うわぁ、可愛い子じゃん♪ ちょっと変な格好だけど。

 ん? サッカーやるみたいだな。ちょっとタカビーな感じも好いよ好いよ~vvv

 うっ……、て、これはないわぁ~ ないない。あのユニフォームで、これはない。

 いやいや、これは有りだろ! 有り!! 良い感じに食い込んでんじゃん(邪笑)

 なんだ、お前。見るとこ、ソコかよ(^'^) いや、俺もソコだけどv

 どーせなら、こんなピタピタのユニフォームなんか脱いじゃってさ、ばーん!! と全裸でっっ!!! 

 ぎゃぁぁ~~~、これ、同一人物かよ!? ギャップ萌えも出来ねーだろ!!

 ああ、びっくりした。こんだけ人間って豹変出来るんだ。

 元が可愛いだけに、これはヒドイな


 流れる大量のコメントは、ベータの怒りを恐怖に変えるのに十分でした。


「あ、ああ……。なに、これ? いや……、止めて…………」

 映像と流れるコメントに視線を奪われ、思わずベータの膝が頽れます。自分の映像に注がれる、無責任なまでの感想や評価。
 ベータの悪意に満ちた姿には、それに比例した悪意のコメントが積み重なって行きます。そこに映し出されたのが、生身の一人の女の子だという意識はこれっぽっちもなく、皆で甚振る面白いおもちゃの様に面白おかしく一握りの悪意を込めて。

 無数の身元不明の人間達から寄せられる悪意は、ベータといえど怖気させてしまうほどの威力がありました。

「あなたがシン様やみんなに向けた悪意が、こんな形で返って来たのよ? どれだけ酷い事をしていたか、分ったでしょう?」
「お前が……、お前が仕組んだ事だろうっっ!? さっさと、この映像を削除しろっっ!」

 カシャカシャカシャ。

 私はベータの言葉に、耳も貸さない。
 次々と、新しい動画がUPされてゆく。

 カシャカシャカシャ。

 シャッター音が響くたび、ベータが鎧っていたモノが一枚一枚剥がされて行くを私は感じる。

「ううっ……。覚えていろ! 過去に飛んで、お前がカメラなど手にしないよう歴史を改変してやる!!」
「出来るの? サッカーを皆から取り上げるように、カメラやビデオなどの映像技術を取り上げるつもり? そんな事をして、未来が無事に済むと思ってる?」
「ぐっ……。いや、お前限定だ。お前から撮影機材を取り上げるくらいなら、未来は大きく変わる事は無い。そう、お前のその目を潰せばいいだけの事だ」

 それは、ベータの最後の虚勢の様に私には見えました。

「……どれだけ過去を改変されても、例えあなたが言う様に私が失明していても、私はカメラを手放したりしない! 今もあるかもしれない全てのパラレルワールドの『山菜茜』が、そう断言する!!」
「なんで……、なんで、そうも強く言い切る事ができるんだっっ!?」
「だって、私はカメラを愛してる。その瞬間瞬間を写し出すことに、命をかけている」

 それが、愛するモノを武器として戦う者の強さ。
 ベータ、あなたに取ってのサッカーは、そこまで『想い』が籠るものではないでしょう?

 だから、サッカーの『本当の楽しさや良さ』を知らないあなたじゃ、私に勝てないのよ。


  ■ ■ ■


「心臓が縮み上がったじゃないか、茜!」

 『相手の動きを封じる』という勝負に負けて、傷心のベータをオメガのメンバーが連れて立ち去る。ようやく緊張の糸が切れた頃、水鳥ちゃんが大きな息を吐きながら私に声をかけた。

「本当にそうですよ!! 山菜先輩!!」

 葵ちゃんの大きな瞳には、溢れる寸前の涙が光ってる。

「山菜、お前って奴は……」

 ああ、ごめんなさい!! シン様。シン様の優しい目元にも涙の浮かんでいる。

「……まっこと、肝の据わった女子ぜよ、山菜は。見ていて、こっちの心臓がバクバクなって仕方なかったじゃきに」

 額の汗を拭う、錦くん。
 目を見開いて石のように固まっている天馬くんと信助くん。私への心配からか、それとも私のやり方に何か思う事があるのか、剣城くんの視線は厳しい。

「……仕方がないとはいえ、感心しないやり方だな、山菜」

 その視線の意味を、鬼道コーチが言葉にする。

「鬼道コーチ……」
「あんなやり方は、サッカーボールとカメラの違いはあっても、ベータ達と変わらん。本来の意味から言えば、カメラマンの道から外れる冒涜行為だぞ」

 不思議な形のサングラスの下の瞳は、きっと裁断者のような険しい色を浮かべているに違いない。

「……ベータが相手だからといって、山菜先輩まで汚い手を使う必要は無かった。未来人の個人情報はどういう取扱いになるか判らないが、それでもWEBに上げた映像は、全て削除することが難しいことくらい俺だって知っている」

 根が真面目な剣城くんらしい言葉。
 ええ、そうね。
 WEBで配信された画像や情報を、『無かった事』にすることは出来ないものね。それを目にした誰かの記憶に残ってしまうから。

「あ~、待て待てお前達。山菜は立派なカメラマン魂を持っている。命を賭けて愛しているモノを、そんな事で穢すことはないぞ」
「ワンバダ……」

 いつの間に地上に下りてきたのか、TMキャラバンの中からワンバダが飛び出してきて、私を弁護してくれる。

「でも、ワンバダ。山菜先輩が、動画をUPしたのは間違いないし……」

 恐る恐る天馬くんが、そう言葉を発する。

「うん? 山菜が、どこの動画投稿サイトにあの動画をUPしたと言うんだ?」
「え? それって、どういう意味……」

 みんなが私の方を見る。私は、テヘペロっと舌を出して皆に笑って見せた。

「あれ、ワンバダに頼んで、いかにも動画投稿サイトにアップロードしたように偽装してもらった、ただの動画映像。そう、みんなでDVDを観賞するような、そんな感じの」
「じゃぁ、WEBには……」
「上げてない。コメントは、本家の投稿サイトからそれっぽいのを借用させてもらったけど」
「あ、でも! あの大量にプリントされた画像は……?」
「うむ、あれにも仕掛けのタネがあってな。あれは特殊な用紙で、24時間後には空気中の水分で分解して土に還る、未来のエコペーパーなのだ」

 えっへん、と胸を張るワンバダ。
 そう、それこそ紙ふぶき用に開発された特殊ペーパー。

 私だって、カメラマンの端くれ。カメラで人を傷付けるつもりなんて、これっぽっちも持ってはいない。ただ真実を伝えるのみ。

 あのベータの真実の姿だって、本人が意識していないだけで、私達だけじゃなく、オメガのチームメイトも目の当たりに見ている。ゴールシーンの映像をリピートするなんて、当たり前でしょ?

「そうか、そういうトリックか。まぁ、確かにそういう事なら……。しかし、やはりあのコメントの嵐はどうかと思うぞ」

 鬼道コーチのトンボの様なサングラスの下の視線が緩んだのを、私は感じた。

「因果応報。私のシン様を、いえみんなを悪意の籠った言葉で責めたんだもん。巡り巡っただけです」

 私は涼しい顔をしながら、スマートフォンに記録されたベータの画像データを全部削除した。


   ■ ■ ■


 『覇者の聖典』解読の為、TMキャラバンはMr.Dこと円堂大介のもとへと移動中だった。

「……茜、寝ちゃってるよ」
「仕方ないですよ、瀬戸先輩。山菜先輩、あれだけの大活躍したんですから」

 マネージャ二人の会話が聞こえる。

「まったく……、山菜も無茶をする」

 大きなため息交じりに、神童が言葉にする。

「でも、勇敢な人ですね。大事なもの・愛するものの為に立向う勇気は、僕らに取って何よりも忘れちゃならないものだから」

 フェイの茜を見る眼差しに、尊敬の念が滲んでる。

「だけど、敵に回すと怖い相手ということだな」

 一言、鬼道コーチが呟いた。
 その言葉に、キャラバン内の皆が言葉もなく頷く。

 茜は心地好いキャラバンの振動に身を預け、あの頃の様に試合中に活躍する輝くような笑顔の神童達を激写する夢を見ていた。

 とても暖かく、幸せなその夢。

 夢を取り戻す戦いの合間の、ほんの束の間の戦士の休息であった。






 
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Date:2012/08/28
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