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□ DATE FORCE □

Operation Chord : 「DATE FORCE」1

1.EMERGENCY (緊急事態)

「夏未さん!! この記事見てください!!」

 そう言って、理事長室で理事代理を務め書類を捌いていた夏未の元に、新聞部と掛け持ちでサッカー部のマネージャーを務める春奈が飛び込んできた。

「どうしたの? そんなに慌てて」

 夏未は春奈の差し出した一枚の校内新聞らしき紙面に目を落とした。そこには、自分もマネージャーで籍を置くサッカー部の練習風景、それも隠し撮りっぽいスナップ写真が掲載されていた。

 発行は雷門ジャーナル。

 春奈が所属する新聞部が正式な部活動であれば、こちらはアングラ的な要素を持った同好会に過ぎないが、センセーショナルなスキャンダル性の高いすっぱ抜き記事で、学園内の読者数を伸ばしてきていた。
 その雷門ジャーナルの紙面を飾ると言う事は ――――

 一枚目の写真には豪炎寺が被写体で捉えられている。練習中の休憩中のひとコマだ。普段無表情の豪炎寺の顔に浮かんだ、微かな変化がはっきりと写し出されている。

 切ないようなやるせないような……。

 大写しされたその写真の下には、同じアングルで撮られた、ロングショットの一枚。豪炎寺の切なげな視線の先にいたのは、下校途中らしい小学校1年生くらいの女の子の姿。

「……そうね。夕香ちゃんも元気だったら、きっとこうして……」

 豪炎寺の転校してきた事情を知っている夏未には、その切なげな眼差しの真意など直ぐに汲み取れた。

 次の一枚には鬼道と春奈が写されていた。これもやはり休憩中の一場面で、ドリンクを微笑みながら手渡す春奈に、兄らしくほんの僅か笑みを返す鬼道の表情が鮮やかに切り取られていた。鬼道と春奈は幼い頃に両親を亡くし、それぞれ別の家庭に引き取られた過去を持つ。
 どうにかして春奈を鬼道の家に引き取りたいと、実の妹に悲しい誤解をされたまま頑張っていた鬼道。今では誤解も解け、その気持ち受け止め、そうして確かな「兄妹の絆」があるからこそ、春奈は「音無春奈」としての自分を選んだ。

 血を分けた、たった二人きりの兄と妹。
 一緒に暮らさなくても、それは絶対に切れることは無い、「家族の絆」。

 そんな二人を感じる事が出来る、その一枚。

 最後の数枚組みになった、円堂と風丸の写真。
 幼馴染で親友で、10年近くに渡って築き上げた確かな「信頼」を感じさせる。サッカーの技術であるアイ・コンタク以前に、本当に「目と目で語り合える」を体現している二人。

 見ているだけで微笑ましく、胸が温かくなる。

 この四人をちゃんと知っている人間が見れば、どれもそれぞれの人となりが伝わるベスト・ショットばかり。

 だが、それぞれの写真につけられたスキャンダラスな見出しは……。

「ショック!! 豪炎寺にロリコン疑惑!?」
「鬼道、恋のお相手は実の妹!?」
「二人は恋人!? 十年に渡る愛の軌跡!!」

 ばりっと、紙面を引き裂く音がした。

「夏未さんっっ!!」
「なんて、なんていい加減な記事なのっっ!! 断固、抗議しなくちゃ!!」

 理事長室を出た夏未を、その記事を読んだ一般生徒が取り囲む。

「雷門夏未さん!! ここに書いてある事は、本当のことなんですかっっ!!」
「理事長代理! これが事実であれば、由々しき事ですよ!!」

 詰め寄る生徒や学校関係者。

「そんな事はありません!! 彼らは、そんな道を外れた事をするような生徒ではありません!」

 凛とした夏未の言葉も、泣き喚くこの四人の追っかけ集団の黄色い悲鳴に掻き消される。

「あ~ん、豪炎寺くんも鬼道くんも。道理で私たちが幾らアタックしても、誰も彼女になれなかったのね~~っっ!!!!」

 彼女になれなかったのねぇぇ~~と、泣き叫ぶ中に、男子生徒の声が紛れていた事は幻聴という事にしたいと夏未は思う。


  ■ ■ ■


 コツコツと、細く小さな足音が足早に近付いてくる。雷門ジャーナルと書かれた木札がかかった教室の中で、黒縁眼鏡をかけた女生徒がその足音の主が現れるのを待ち構えていた。

「雷門ジャーナル編集長、黒野桐子はいますか!」

 教室の入り口をがらっと引き明け、夏未が大きな声で呼びかけた。

「これはこれは、理事長代理。こんな部にも昇格出来ないような同好会に、どんな御用でしょうか?」
「私の用件は、言わなくても判っているはず!! 直ぐに、このふざけた記事に対しての謝罪記事を書きなさい!!」
「ふざけた記事? 私は、可能性を示唆しただけですよ? どの記事も、断言した内容にはなってないでしょう?」

 雷門ジャーナル編集長・黒野桐子は薄っすらとした笑いを浮かべ、見出しにつけた「?」マークを指差した。

「ねv」
「うっ……」

 得体の知れないオーラを漂わせ、黒野桐子は夏未にはっきりと嘲笑を浮かべた顔を向けた。

「私に謝罪記事を書かせたいなら、はっきりとそんな可能性はない!! とそちらから示してもらわないと、出来ない相談ですね」
「可能性の否定……?」
「そう。あの四人に、実はちゃんと彼女がいるっていう証明でもしてもらえれば、私も考えるわ」
「証明……」
「ええ、証明♪ 出来ないでしょうけどね。この記事、反響かいいから、もう既に、第二弾、第三弾の紙面も校正中なの」
「……っっ!! まだ、こんないい加減な記事を垂れ流す気なの!?」

 ここで明らかに黒野桐子は、勝ち誇ったような笑みを夏未に向けた。
 サッカー馬鹿の円堂を始め、日々サッカーの練習に明け暮れるサッカー部員たちに、そんな彼女どうこうなんて考える暇などない。これは、円堂たちに彼女などいない事を確認してからの、黒野桐子の挑戦でもあった。
 根も葉もない噂だとしても、これが校外に広がればどんな事態に発展するか、それを理事長代理として夏未は考えた。

( ……まずいわ。もしこれがサッカー協会の役員の耳にでも入ったら、なんて言われるか分からないわ。下手して、それで試合が出来ないなんてことになったら…… )

 ぐっ、と夏未は息を飲んだ。
 そして ――――

「 ―――― これは、部員以外オフレコなんだけど、実はあの四人にはちゃんと彼女がいるわ。でも、今はあの人気でしょ? 彼女達の身に何かあってはいけないから、ひた隠しにしているのよ」

 黒野桐子が黒縁眼鏡に手をかける。斜めに差し込む西日を反射して、レンズがきらりと光った。

「それこそ、信じられない話だわ。これでもちゃんと、彼らの身辺調査はしているの。彼女らしい存在の影は、察知できなかった。苦し紛れの嘘は、見苦しいわ」

 これはもう、夏未と桐子の意地をかけた真剣勝負となっていた。

「ふっ。それは、あなたの眼が節穴なだけじゃないかしら? もう一度ちゃんと、彼らのことを観察してみてはいかが?」
「なんですって!!」
「あなたは、必ず謝罪記事を書く。これだけは、断言しておくわ」

 夏未はそう言い置くと、その場を後にした。
 夏未の足音が遠ざかる。
 黒野桐子は黒縁眼鏡を外すと、思いのほか鋭い視線を教室にいた他の部員に向けた。

「ほらね。特ダネは先に仕掛けたものが勝ちなのよ。私が本当に欲しかったネタは、いるかもしれない「あの四人の彼女」のネタだから」
「……で、どうするんですか? 編集長」
「そのネタを上げるまで、徹底的に張り付くわよ!!」
「はい! 編集長!!」

 そっと足音を忍ばせて教室の外からその様子を伺っていた夏未は、黒野桐子が自分の撒いたエサに食いついた事を確認し、また足音を偲ばせ足早にその場から立ち去った。


  ■ ■ ■


 夏未はその足で、サッカー部の部室に向かった。いつもなら練習に余念のないメンバーが、今は誰一人として練習をしていない。いや、練習できる雰囲気ではないのだ。グランドを取り囲むようにして、手に手にあの記事を持った一般生徒が集まり、渦中の人物たちの出方を待っているのだ。

( 本当にまずいわ。練習すら出来ないなんて…… )

 部外者を近づけないよう、壁山を初めとする1年生が部室の外で頑張る中、この一件の当事者である円堂を始めとする他三人があれこれ考えを巡らしていた。

「……不愉快だ」

 最初に、そう一言言ったっきり、豪炎寺は口を噤んだ。

「仲が良いだけで恋人同士なんて書かれたら、世の中恋人だらけだよなぁ。なぁ、風丸!」

 こちらは鈍感なのと晩生なのが合わさって、比較的生温い。むしろ、同意を求められた風丸の方がドキドキしていた。鬼道は難しい顔をして、ここ数ヶ月の学内の出来事を自分のモバイルPCで調べ直している。

「何か判ったか? 鬼道」
「ああ。もしかしたらこれは、インナーテロ的妨害工作かも知れん」

 そう言うと鬼道は、自分が開いたログページを円堂達に指し示した。
 そこには、雷門ジャーナルにスキャンダル記事を書かれた部の、急に低迷し始めた成績の傾向が顕著に表されていた。

「……理事長代理はどうしている」
「夏未か? あの性格だから、多分一人で雷門ジャーナルの編集長の所に乗り込んでるんじゃないかな?」

 そう風丸が答えたとき、夏未が部室に入ってきた。

「その通りよ、風丸くん。理事長代理として、そしてサッカー部マネージャーとして、今回の捏造記事に対しての、謝罪を載せるよう求めてきたの」
「で、相手はなんて答えた?」

 夏未の言葉に呼応する、鬼道の問いかけ。

「……そうではないと証明されない限り、謝罪には応じないと突っぱねてきたわ」
「証明?」

 円堂が首を傾げる。

「そう。つまり、あなた達に「彼女」がいるって証明」

 思わず部室内で、ええぇぇ~~と言う声が上がる。

「ちょっと静かにして頂戴。私に考えがあるの」

 夏未は皆を静かにさせると、部室の外で見張りをしている壁山達に小声で、こう指示を出した。

「……今から重要なミーティングを行うから、絶対部外者を近づけないで。あなた達のディフェンス力を信頼してますからね」
「は、はい! 分かったっす!! 絶対、誰も近づけないっす!」

 夏未の言葉が嬉しかったのか、見張り役の1年生が頑張ったのは言うまでも無い。
 そして、一方 ――――

「話が見えない」
 
 ぼそっと豪炎寺が言葉を口にした。

「いないものをいる、とどうやって証明するつもりだ」

 この発言は、鬼道から。

「鬼道くん、あなたは雷門ジャーナルの行動はテロ的だと分析したのよね?」
「その可能性は高い。しかし、ただのゴシップ好きな連中に過ぎない可能性もある」

 そんな会話の応答に、鬼道と夏未の目には策略家としての炎が燃えている。

「私も同意権だわ。むしろ、私はこれを雷門へのテロと受け取っています!」

 きっぱりと、夏未はそう言い切った。
 テロのスタイルも、時代に沿って多種多様だ。物的損傷や人的損傷を与える、古典的なテロもあれば、サイバーテロに見られる知的テロもテロ行為には違いない。
 今回のような謝った情報を操作して、対象にダメージを与えるのは、後者に属するだろう。

「その根拠は?」

 微かな不安を感じつつ、風丸が夏未に聞く。

「……相手は、もう既にこのスキャンダル記事の第二報・三報を用意しているの。今でさえ、この状態。練習や気持ち的なものに悪影響を及ばしている。こちらも、早急に手を打たないと」

 夏未の言葉を聞き、鬼道が小さく頷いた。

「……なるほど。こちらからも情報戦を仕掛ける、と言う訳か」
「そのためのエサは撒いてきた。ちゃんと食いついたのもね」

 なかなかの呼吸だと、夏未と鬼道を見比べ円堂は思う。
 二人の話している内容は、いまいち良く話はよく分かってはいなかったのだけど。

「先ほどの鬼道くんの質問の答えにもなるのだけれど、今からあなた達の「彼女」を用意します!!」

 もう一度、部室内から大きな声があがった。

 

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Date:2012/03/11
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