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□ DATE FORCE □

Operation Chord : 「DATE FORCE」3

3.MISSION 2.Side 風丸

「おい、今から豪炎寺が出るぞ」

 土門が豪炎寺にメールを入れるのとほぼ同時に、一ノ瀬も風丸の後方支援についている半田にメールを入れた。風丸についている後方支援は半田と壁山と染岡と少林。

「今のメール、土門達からか?」
「ああ、豪炎寺が動いた」
「そ、それじゃ、オ、オレ達も……」

 この複雑なミッションに緊張してか、壁山の声が上擦っている。

「落ち着け、壁山。今から、あのパパラッチ相手にトラップを仕掛けるんだから、不審がらせるな」

 そう小さく壁山に注意し、半田は着ていたパーカーのフードを目深に被った。

「よし、行くぞ!」

 半田を大柄な壁山と染岡で挟むような立ち位置で、風丸の家を訪ねる。

「こちら、風丸くん担当。編集長、今、サッカー部の部員が三人、風丸くんの家に来ました」
「え? 今日、風丸くんは彼女とデートのはずじゃ……」
「はい、その筈なんですが……」

 その報告の途中で、入ったばかりの三人がすぐ出てきた。

「悪かったな、風丸。デートの前に邪魔してよ」
「いや……」
「でも、いいっスねぇ~~。午後から雷門パークでデートなんて、羨ましいっス」

 玄関口で交わす四人の雑談はすぐ終わり、部員三人は訪ねた時と同じようなポジションで帰っていった。風丸担当のパパラッチが風丸の部屋を見上げると、カーテン越しに動く人影が見える。

「追加連絡です! 風丸くんは午後から雷門パークで彼女とデートです!!」
「……そう。では、午前中は自宅待機かしら? 何か、急な動きがあるかもしれないから、そのまま張り付いていて」
「了解です!」

 その様子を、物陰から少林が確認していた。
 ブブブブと、ポケットに入れた染岡の携帯が震える。

「おぅ、少林か。結果はどうだ?」
「大成功です。家の中に風丸先輩が居ると思い込んで、張り込みを続けています」
「判った。お前も引き続き、見張っていてくれ」
「OK!」

 パタンと携帯を閉じ、自分の横にいるフードを目深に被った者に声をかける。

「上手く行ったぞ、風丸」

 その声に、フードの下から青い髪と薄い茶色の瞳が覗く。

「……まさか、こんなトリッキーな事をさせられるなんてな」
「やるなら徹底的に、って事だろう。基本プランは夏未の発案だが、それにかなり鬼道が手を加えて完璧度を上げたからなぁ」
「時間差トリックって奴っスね! そこに居る奴が、他の場所に居る訳は無いって思わせるって奴で」
「ああ。だから、間違ってもあいつ等は豪炎寺のデート相手がお前だとは思わないって事だ」

 小声でそう会話しながら、三人は人目につかない位の早足で夏未たちが待っているリムジンへと向かった。


   ■ ■ ■


 夏未が通学に使っているリムジンに風丸だけを押し込むと、染岡と壁山は次のミッションポイントに移動した。リムジンの中で待機していたのは、夏未の他に春菜と秋のマネージャー陣。

「バトラー、車を隣の駅に回して頂戴」
「はい。お嬢様」

 車が動き始める。広い後部座席に乗り込んだ風丸を、二人の女の子たちが変身させて行く。シンプルなデザインの白いベルベットのワンピースを頭から被せられ、その下で風丸は着ていた服を脱いでいた。ワンピースの丈はミディアム・ロング。引き締まった足をニーソ丈のストッキングで包む。足元は、上質なラム革のローヒールのパンプス。

「うわぁ、風丸くん、良く似合ってるわ! 夏未さんの見立てが、ぴったりね!!」

 夏未が選んだデザインは、ほっそりした仕立てのスタンドカラーのフレアワンピ。これならば、ウエストさえサイズが合えば、腰周りのボリュームの無さはデザインでカバーできる。スタンドカラーで首元を隠せば、デコルテから胸にかけてのラインも誤魔化せる。さらに夏未はワンピースの上に、ピンクミンクのショートジャケットを羽織らせた。柔らかいピンクの毛色が色白な風丸の肌に映え、華やかさを添える。

「着替えは完了! 次は、ヘアースタイルね♪」

 そう言いながら春菜と秋は、風丸の結んだ髪を解き始めた。一度、丁寧にブラッシングし、次はいつもは左目を被うように下ろしている前髪ごと、後ろへと持ってゆく。

「あ、そんなに顔を出したら、拙いんじゃ……」

 面割れが一番怖れる事だというのに、顔を隠すことも出来ないこのヘアースタイルに不安を感じ、風丸が言葉を挟む。

「大丈夫、大丈夫。だって、誰も風丸くんの前髪をあげた顔なんて見たことがないんだもの。折角こんなに綺麗に整った顔をしているんだから、自信を持って!」
「……なんか複雑だ」

 そんな風丸の心境など他所に、マネージャー達は器用に風丸の髪を整えてゆく。いつものポニーテールの位置より低く結ばれ、結び目に大きなリボンを付けられる。一掬いずつ残していた両サイドの髪は、ヘアーアイロンでくるくるの縦ロールに仕上げる。仕上げに、ちょっとだけ唇に薄ピンクのグロスを乗せて出来上がり。

「うん! これで、どこからどう見ても、良家のお嬢様にしか見えないわ!!」
「本当、正体を知っている私たちでさえ見蕩れるくらいに綺麗だわ!!」

 自分達の力作に、心酔したように熱い感想を口にする。

「あ、ありがと」

 風丸は、小さくそう言うしかなかった。風丸の支度が出来るのと、隣の駅に着くのはほほぼ同時。

「じゃ、次の電車に乗って、待ち合わせ場所にいる豪炎寺くんと合流してください」
「ああ、判った」
「私たちは、今から鬼道くんの所へ移動します」

 風丸は覚悟を決めて、リムジンから降りた。その様子は、どこかのお嬢様を駅まで送ってきたようにしか見えなかった。


   ■ ■ ■


 待ち合わせの喫茶店に入ってきた風丸は、一瞬にして店内の視線を一身に浴びることになった。履き慣れないパンプスで、いつものように颯爽とは歩けず、見た目にはしゃなりしゃなりとしたおしとやかな歩き方になっていたのも、風丸のお嬢様度を上げていた。
 待ち合わせの豪炎寺の姿を見つけ、そっとその前に座った時には、思わず大きな溜息をついていた。本当なら声を上げて笑いたいだろう豪炎寺の、それを口元に当てた手で誤魔化す様は、彼女(?)に優しく微笑んでいるように店内の者の目に映る。

 当然、豪炎寺担当のパパラッチの眼にも。

( あ、いつも無表情な豪炎寺くんでも、彼女の前ならあんな風に優しく笑うんだ…… )

 春の日差しを思わせる、彼女の青い髪と豪炎寺の白金の髪。
 きらきらと、どこまでも明るく、気品高く ――――

 パパラッチの胸が、きゅんと痛む。

 同じくらいの歳なのに、何故自分はこんな薄ら暗い事をしているんだろう……?
 スキャンダラスな記事を作るために、豪炎寺に張り付いていたのに、このパパラッチの眼は、もうお嬢様姿の風丸しか見ていなかった。並みの少女なら、ただの美少女なら、嫉妬と僻みで、いくらでも歪んで見ていただろう。

 でも、今、目の前にいる、この少女は ――――

「……通路の植え込みの向こう側、お前の背中側の一番奥の席」

 コーヒーを飲みながら、ぼそっと豪炎寺が言う。

「ああ、気付いている。あれが、お前に張り付いているパパラッチか」

 見た目を裏切る、その口調。そのギャップに、またも豪炎寺は込み上げてくる笑いを押し殺すのに苦労した。

「笑うな! 次はお前の番だぞ!!」

 周りに聞こえないように、小声で顔を寄せ合うようにして会話をする二人の姿は、噛み殺した笑いでいつになく柔らかな表情の豪炎寺のせいで、微笑ましくも爽やかなカップル像となっていた。

「いや、少し安心しただけだ。俺がお前の性別を間違えたのかと思ってな」
「ふん、間違えるな! ちゃんとついてるからな!!」

 このとき初めて、風丸も声を上げて笑う豪炎寺を見たかもしれない。
 彼女とのひと時を心から楽しむ、雷門サッカー部エースストライカー、豪炎寺修也の姿。

「そろそろ移動するか。ここでの印象付けは十分だろう」
「ああ、そうだな。次の行動は ―――― 」

 今日の二人の行動は、いや、四人の行動はあらかじめ全て、夏未と鬼道の計画に沿ってスケジュールが組まれていた。その目的は、

1.スキャンダル疑惑をかけられた四人には、それぞれちゃんとした「彼女」がいること。

2.そのお付き合いも、健全な中学生らしい模範的な男女交際であること。

3.「彼女」の詳細は不明なままであっても、誰が見ても申し分のない相手であること。

4.そして、その行動を周周囲に知らせめること。

 となっていた。

「これ。雷門に渡された」

 そう言って豪炎寺が上着のポケットから取り出したのは、近くの美術館で開催されている名画展のチケットだった。

「……本当に、絵に描いたような『清いお付き合い』だな」
「お前は、『清くない』方が好みか?」
「なっっ!!」

 一瞬、風丸の顔が赤くなる。
 会話が聞こえない周りの者には、そんな風丸の表情の変化も初々しく、ただただ見惚れるばかりである。

「もちろん、相手は俺じゃないだろうがな」

 今度は皮肉っぽく口角だけを持ち上げて笑った豪炎寺を、上目遣いに軽く睨む表情に、周りの者はまたまた魂を持ってゆかれていた。


   ■ ■ ■


 静かな美術館の館内、中学生でありながら周りの眼を引かずにいられない鮮やかな二人。ヒソヒソと、こちらに視線を投げかけては同行者とささやき交わす言葉が切れ切れに耳に届く。


( ―――― ねぇ、あれ雷門のエースストライカーよね? )
( あの、ロリコン疑惑のある? )

 ロリコンの響きに、豪炎寺の拳に力が篭るのを風丸は見た。

( え~、じゃぁ 隣にいるのは誰? )
( 誰だろう…? もしかしたら、彼女じゃない? )
( それじゃ、ロリコンって言うのは…… )
( デマでしょ、デマ。その記事書いたのって、あまり噂の良くない、非公式のとこだし )

 その言葉を聞き、豪炎寺の拳が解ける。
 その言葉は、豪炎寺についていたパパラッチの耳にも届いていた。

「……夏未達の狙い通りだな」
「たいしたゲームメーカーだな、二人とも」

 すっかり気分を良くした豪炎寺と風丸は、心から名画鑑賞を楽しむことにした。

 きらきら、きらきら――、名画の中を歩く二人。
 あまりにきれいで、眩しくて、思わずパパラッチは目を逸らした。

( 本当に、あたし何をしてるんだろう …… )

 肩身が狭い。
 心が苦しい。
 
 メールの着信音に携帯を開いてみれば、桐子からの彼女の画像を送れとの催促の内容。

( ……それをすると、きっとあの人が困るんだろうな ―――― )

 どうして良いか判らない思いで、ふと目の前の名画を見た瞬間、パパラッチは泣き出してしまった。そこにあったのは、昔大好きだった睡蓮の絵。きらきらした光と風と水の中、優しく咲き誇る睡蓮の花の絵。綺麗なものを綺麗なままに感じて、好きだと思えたあの頃の自分。

 どうして、こんな事になってしまったんだろう ――――

「豪炎寺」
「あれは予想外の反応だな」

 突然泣き出したその子を遠巻きに、様子を見ている観客たち。

「……ちょっと、行ってくる」
「……バレるぞ」
「バレるようなヘマするもんか」
「それでも……」

 止めようとする豪炎寺を優しげな微笑で黙らせ、優雅な足取りで風丸は泣いている女の子の所にやってきた。そして、声でバレないように小さく可憐な声色で話しかける。

「どうしたの? なにかあったの?」

 一目見て憧れて、薄汚い自分に気がついた。
 この絵を見て、昔の自分は純粋で、綺麗なものを綺麗と感じる事が出来たのにと、悲しくなった。
 それが、辛くて、苦しくて ――――

 ぽつり、ぽつりと、それだけを言葉にした女の子。

「……気が付いたのなら、そこからやり直せばいいわ。誰でも、間違わずに生きて行くことなんて、出来ないのだから」

 そう言って、風丸は優しく微笑む。
 自分も、そうして救われた事があったから。
 
 そんな二人の様子を見て取り、豪炎寺も二人の下へ歩み寄る。

「ごめんなさい!! 豪炎寺さん! あたし、もうこんな事、止めます!! あんな酷い記事を書いて、本当に、本当にごめんなさい!!!」

 女の子はそう言うと、取材用のデジカメやレコーダーを豪炎寺に渡し、二人の前から逃げるように走り去っていった。

「ミッション、終了。以外に早く決着がついたな」
「……ある意味、俺はお前が怖ろしい」

 風丸は、男に対しても女に対しても、どれだけ罪な事をしているのだろうかと、思わずにはいられない豪炎寺であった。

「さて…、と俺は次の準備に掛かる。豪炎寺、お前もだろ?」
「あ、ああ……」

 うきうきした感じが露わな風丸に対し、どんよりと沈み込み始めた豪炎寺。

「報告が楽しみだな、お前の女装姿。鬼道と上手くやれよ!」
「……お前は本命とのデートだから、役得だな」
「それを言うなら、俺より先にデートしている鬼道はどうなる?」
「女装して、それであいつが楽しんでいるんならな……」

 それでも、まだまだミッションは続いている。
 二人は、それぞれのポジションに付く為、歩く速度を速めた。



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Date:2012/03/11
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