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□ DATE FORCE □

Operation Chord : 「DATE FORCE」6

6.MISSION 5.ハーフ・タイム

 
 デート場所の公園から駅までは、だんだん賑やかになる街並みの中を歩く。当然、人目にも付く訳で、円堂の顔を知っている者から意外な声が小さく上がり続けるのを、真っ赤な顔をしながら、それでも律儀に二人は駅を目指した。

「あれ? ねぇ、あれ雷門の円堂くんよね?」
「ああ、本当だ。相変わらず目立つバンダナとサッカーボール」

 春めいたお天気の土曜のお昼頃、街中を軽やかに歩く女の子たち。そんな女の子達の目に映る二人は、円堂の恥ずかしげな様子と常とは異なる不遜な態度の欠片もない鬼道扮するラテン系美少女が微笑ましいカップルに映っていた。
 勿論、女の子達だけじゃなく雷門中の男子生徒の眼にも触れる。そんな男子生徒たちは遠巻きにするだけじゃなく、近付いて来て声をかけてゆく。

「よぉ、円堂! その子、誰? もしかして、お前の彼女?」
「えっと…、その……」

 ニヤニヤ笑いの同級生。しどろもどろな円堂。

「と、友達!! 近くまで来たからさ、ちょっと……」
「友達~? 本当に?」

 ジロジロと美少女に化けた鬼道の姿を、頭の天辺から足の先まで眺めている。さしもの鬼道もドキドキが嵩じて来る。まさか、あの雷門イレブンの司令塔として知られる冷静沈着が売りな鬼道有人とバレた日には、義父の鬼道氏にも顔向け出来ない。
 視線を避けるように俯き、円堂の影に隠れる鬼道。そんな二人を後方から窺っていた松野が、今にも噴出しそうな顔で見ている。

「あ、あれあれっっ!! ほんっとーに鬼道が乙女に見せるぜ! ありえねぇ~~~~!!!!」

 自分で自分の膝をバンバンと叩きながら、笑いの発作を抑えている松野。

「……睨まれてますよ、マックス。そろそろ、僕達の出番じゃないですか?」

 笑い転げて苦しそうな松野をそこに捨てて行き、くいっと眼鏡をかけ直し二人に近付く目金。動けずにいる円堂達のフォローに入る。

「キャプテン、遅いですよ! カラオケの予約時間になっちゃいます」
「あ、ああ……」

 そう言いながら、グィと円堂の腕を引く。

「その前に、アリジンさんの見送りも済ませないと!!」
「へ? アリジンって……」

 間抜けた表情でそう問い返す円堂の両脇は、目金と鬼道から小突かれた。

「アリジンって……。目金、お前も彼女の事、知っているのか?」

 女装姿の鬼道をガン見していた同級生の視線が、ようやく鬼道の上から外れ、目金の方へ移る。

「ええ。キャプテンの大ファンで、サッカー部付けでよくファンレターを貰っていたんですよ。で、今回ちょっと時間が出来たので、あってみようかなぁ~~ なんて話になって」
「へぇ…、じゃ、本当に今はまだ、「友達」レベルなんだ」
「僕ら、まだ中学生ですからね」

 キラリ、と光る同級生たちの眼。

「じゃさ、今なら俺らも頑張れば、彼氏になれる可能性もあるって訳だ!!」

 げっ、と思わず出そうな悲鳴を飲み込む鬼道。
 いやいやいや、なれない、なれない、それは絶対に!!

「あ~でもさぁ、円堂にこんな可愛い彼女候補がいるって知ったら風丸の奴、複雑だろうなぁ」
「えっ? なんで風丸が?」
「なんでって、お前ら雷門ジャーナルに書かれるほどの仲良しじゃん? お前に彼女が出来たら、寂しがるんじゃねーの?」
「そ、そんなもんなのか?」

 目を丸くする円堂。
 今は作戦上でのデートだけど、もし本当に誰かを好きなってこうしてデートしたとして、それで自分の大事な誰かが寂しくなったり悲しくなるのは嫌だなと思う。

「そうそう。あいつ俺らから見れば、お前の彼女格だもんな。いや~、本当あいつが男でさえなければ、申し分のない彼女だよな~~~vvv」
「羨ましいぜ、このモテモテ男!」
「古女房、泣かすなよ!!」

 面白がってはやし立てる同級生の胸の中は、悔しさ半分、円堂の鈍感なりにも反応するその面白さ半分というところか。
 しかし円堂は、ナチュラルに風丸と自分はそーゆー風な雰囲気を醸し出していたのかと軽く落ち込む。
 そこに ――――

「お~い、電車が来たぞ―!!」

 後方から、救いの一言。松野が大声で叫んでいた。

「あ、じゃぁ、急ぐから……」

 そう同級生には言い置いて、三人はバタバタと駅の階段を登ってゆく。
 その後姿を眺めつつ ――――

「なぁなぁ、悔しいけど今の二人って結構お似合いじゃなかったか?」
「ん~、まぁな。情熱系サッカー馬鹿には、やっぱりラテン系の娘が似合う」
「……可哀想にな、風丸。円堂に振られる訳か」
「おいおい、お前まで雷門ジャーナルの記事に毒されてるのかよ? 最初から付き合ってねーだろ? あの二人」
「あははは。そりゃ、そーだ」
「それにしても、ちょっと行き過ぎているよな。雷門ジャーナルの記事は」
「ああ。そのうち活動停止喰らっても、仕方が無いかもな」

 楽しそうに笑い合う、同級生達。週明けに、クラスで今見た事をクラスメイトに話して回ることだろう。

( よし! 雷門の狙いどおりだ )

 松野は確かな手ごたえを感じつつ、先に行った三人の後を追った。


   ■ ■ ■


「次の駅で夏未さん達が待っています。駅の地下駐車場です」

 目金が、駅のプラットホームで入ってきた電車に乗り込む鬼道にそう小声で伝える。

「ああ、判った」
「じゃ、僕達は次の作戦ポイントに移動しますので」

 そろそろ電車のドアが閉まろうとしている。

「鬼道、一人で大丈夫か?」
「小学生じゃあるまし、たった一駅の移動だろ? なぜ、そんな事を……」

 と言った時、鬼道は自分に集まる無数の視線に気がついた。天気の良い土曜昼間の電車の中、かなりの人数が乗り合わせている。今の鬼道はエキセントリックなラテン系美少女、人目を惹かない訳が無い。

( み、見られているのか? 俺…… )

 途端に、全身に恥ずかしさが駆け巡る。
 これが『鬼道有人』として見られるのなら、いくら見られても構わない。むしろ、人の前に立つ事を前提に、自分の人生設計を描いている。
 だけど、今は ―――― 

「本当に気をつけろよ。今のお前は、可愛い女の子なんだから」

 心配そうな光を浮かべて、円堂がさらに言葉をかけてくる。

( ……そ、そんな目で見るな、円堂! 妙に意識してしまうだろっっ!! )

「あ、円ど……」

 何か言いかけた鬼道の言葉は、電車のドアの閉まる音で掻き消されてしまった。
 動き出した電車、一人で浴びる視線。
 確かにこれは、自分が描いたプランである。女装して、その正体を見破られることなく完璧に振舞う事を他の三人にも要求した。
 そのくらい、腹を括れば何と言う事はないと思っていたのに、この恥ずかしさはどうだろう? いや、むしろ恥ずかしいと言うより、心元ないのかもしれない。

「……一人より二人の方が、やっぱり心強いな」

 ふぅと溜息を付く見た目ラテン系美少女は、電車の乗客の目には彼氏と別れて帰る一抹の寂しさを感じさせていた。


   ■ ■ ■

 プルルルッ プルルルッ
 リムジンで移動中、夏未の携帯から聞こえる呼び出し音。この音は ――――

「え? 豪炎寺くん? デート中は、直接連絡を取らないようにと打ち合わせていたのに」

 そう小さく呟きながら、夏未は携帯に出てみた。

「はい、雷門です」

( 俺だ、豪炎寺だ。こちらのミッションは完了した )

「思ったより早い上がりですね。でも、直接の連絡は控えて下さらないと、まだパパラッチの眼がありますよ」

 豪炎寺と風丸のデートコースは駅前の喫茶店で待ち合わせした後、名画鑑賞の予定だった。ミッション終了したと言う事は、豪炎寺はもう風丸を駅まで送っていった後と言う事だろうか? だが、それにしては豪炎寺につけた土門や一ノ瀬からの連絡が無い。

( いや、もうその心配は無い。風丸がパパラッチの武装解除に成功した )

「武装解除?」

( ああ。なんでもお嬢様姿の風丸を見て、自分のしている事が嫌になったようだ。俺に謝罪の言葉と、取材用のデジカメとレコーダーを渡して、走り去ってしまった )

「まぁ…。ではこちらの戦果も伝えておきましょうね。こちらも画像を収めたSDカードを入手しました。円堂くん担当の子は、戦線離脱したようです」

( そうか、そちらもか )

 そう返事を返してきた豪炎寺の声には、どこかほっとした色合いが滲んでいた。

( ……でも、これからがまた大変だ )

「ええ。本当の事が判れば、離脱した二人ももっとしつこく食い下がってくるでしょう。最後に誰も残らなくても、私たちのプランは最初の予定通り完遂しなくてはなりません」

( 見張りがいる家に、今度はどうやってあの二人を戻すかだな )

「それもありますが、豪炎寺くんや円堂くんの準備もありますからね」

( ………………………… )

 豪炎寺の携帯の向こうから、くくくっと小さく笑う声が聞こえる。きっとそれは、お嬢様姿の風丸だろう。

( 俺も駅まで戻らなきゃいけないんだろ? )

 携帯を豪炎寺の手から取り上げたのか、風丸の声が携帯から聞こえてくる。

「はい。今丁度、鬼道くんも向かっているところです。先に鬼道くんの女装を解いてから、風丸くんでいいですか?」

( ……段取りもあるし、いいですよ )

「こちらから連絡するまで、駅前で時間を潰していてください」

( 了解 )

 ここで前半戦は終了。
 ハーフタイムに入ったが如く、今まで動かなかった要員が一斉に動き始める。

「雷門は何と言っていた?」
「ああ、先に鬼道の女装を解くって。俺はもうしばらく、このままで待機だ」

 豪炎寺の携帯を返そうとしたら、それが風丸の手の中でブルブルと震えた。

「豪炎寺、電話だ」
「誰だ?」

 風丸から携帯を受け取り、通話に出る。相手は土門だった。

( ……確認した。相手はその足で家に帰ったのを見届けたぞ )
( そうか、判った。これで少しは動きやすくなるか )

 土門からの通話も終らせると、豪炎寺と風丸ペアは美術館のロビーを後にした。

「どうする? 少し歩くか?」
「余裕だな、豪炎寺。俺を見せびらかすつもりか?」

 ロビーを出たものの、さてどうしようかと考えた豪炎寺は、風丸にそう声をかけた。言葉は悪いが、確かに今の風丸ならどこに出しても恥ずかしくない、むしろ誇らしささえ感じる程の『お嬢様』。男として、連れて歩いて悪い気はしない。

「……俺は、トロフィーワイフじゃないぞ」

 そんな豪炎寺の気持ちを見抜いたのか、冷笑に似た笑みと共にその言葉を返した。どこからどう見てもお嬢様にしか見えない風丸の浮かべた笑みは、なぜか底が知れないものを含んでいる。

「……それも、雷門や鬼道の計算のうちだろう」
「そうだな、でも……」

 今の会話を聞く限りでは、駅前近くには鬼道と別れたばかりの円堂がいる事になる。そこで、鉢合わせと言う事になったら……。

( ……なんか嫌だ。他の奴等なら騙されやがってと、少し楽しむ気持ちもあるんだけど )

 何故そう思うのか、薄々自分の気持ちに気付いていた風丸でもあった。


   ■ ■ ■


「さぁ、忙しくなるわ! 急いで次の駅に車を回して」

 夏未の声に応え、運転手がリムジンを隣の駅へと走らせる。中に待機している、春奈と秋。一度、雷門邸に戻った時に積み込んだ道具で少し手狭になっている。

「いい? ここからが私たちが本領を発揮する場面よ。簡単に段取りの確認をしておきます」

 前席に座った夏未が、後ろを振り返り二人に言葉をかける。

「まず最初に、鬼道くんの女装を解きます。着替えとメイクを落とし、それからあの髪型を戻すこと」
「車の中では、スプレー式のヘアカラーを洗い落とせないので、沢山の濡れタオルを用意したけど、大丈夫かしら?」
「出来るだけいいわ。あらかた落としておいて、次に出かけるときまでに髪を洗ってもらっておけば。鬼道くんと豪炎寺くんのデートは一番最後のミッションだし」

 そろそろリムジンは隣の駅に着き、駅の地下駐車場の入庫する。リムジンが入庫するのと、ラテン系美少女に化けた鬼道が近寄ってくるのはほぼ同時だった。
 周りの人気のないのを確認して、滑るようにリムジンの中に乗り込む。

「ご苦労様!! お兄ちゃん」

 春奈が真っ先に、保温ボックスから蒸しタオルを鬼道に渡した。鬼道はリムジンに乗り込むと同時に、黒のカラーコンタクトを外し目薬を注している。

「う~、慣れないものを装着していたせいで、ずっと涙目なのは辛い」

 そう言いながら、春奈から手渡された蒸しタオルで顔を丁寧に拭いてゆく。小麦色のファンデーションが取れ、元の肌色に戻ってゆく。

「はぁ、ようやく皮膚呼吸できるって感じだ。女って、大人になったら毎日こんな事するのか。面倒だな」

 汚れたタオルを足元のゴミ袋に入れながら、ほぅと大きく息をついた。ようやく、いつもの自分に戻ってゆけそうで、それだけで身体中の力が抜けそうだ。

「ちょっとゴメンね、お兄ちゃん。髪、ヘアカラー落すから」

 その声と同時に、二人の女の子の手が鬼道の髪に触れる。ドレッドの一本一本を手に取り、丁寧に塗れタオルで拭き始めた。

( うわっ、なんだか物凄くくすぐったいぞ。それに ―――― )

 女装の時とは別の種類の恥ずかしさが、沸きあがってくる。
 そうして、服装をもと着ていたものに変え、髪を結び、ゴーグルをかけると、リムジンに乗り込んだときのラテン系美少女は、もうどこにも居なくなっていた。


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Date:2012/03/11
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