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□ DATE FORCE □

Operation Chord : 「DATE FORCE」10

8.MISSION 7.Side 鬼道+豪炎寺


 午前中の女装ミッションから開放され、しばしの休憩タイムを取る鬼道。
 そっと自分を見張っているパパラッチの様子を窓から伺えば、自分がこの屋敷を抜け出したのも、当の本人が逆に監視されているのにも気がついていないようである。

「……利口な相手じゃないようだ。朝から同じ場所で見張りを続けているなんてな」

 鬼道が次に動くには、豪炎寺の準備が出来てから。
 ふと、あの豪炎寺が一体雷門達からどんな女装をさせられるのかと思うと、可笑しくもありコワイものを見るような気持ちにもなってくる。

「まぁ、俺でさえあんな格好を円堂の前でさせられた。それを思えば、同情する必要はない」

 ニヤリとした余裕の笑みを浮かべ、携帯が鳴り出すのを今か今かと待ち受けていた。


   ■ ■ ■


 鬼道邸で張り込んでいる最後のパパラッチの携帯が、上着のポケットの中で振動する。

( こちら黒野。そちらの様子はどうかしら? )
( はい。まだ、動きはないようです。もしかしたら、こちらの方は空振りになるかもしれません )
( ……そう。そうね、幾らなんでも4人共に彼女がいるからって、同時にデートするなんて事もそうそうある訳ないわね )
( あの、他の皆からの連絡は? )
( ……ちょっとアクシデントがあったのかもしれないわ。豪炎寺くんと円堂くんに付けた二人と連絡が取れなくなっているの。あなたの所に連絡はないのね? )
( 連絡はなかったです。でも編集長、アクシデントって……。あの、やっぱりサッカー部の皆から責められたとか……? )
( それは判らないわ。とにかく、あなたは鬼道くんの動きを追って頂戴。誰かと会うようなら、その相手とのツーショット写真を撮ることだけ考えて )

 それだけ指示を与えると、桐子からの電話はそのまま切られた。
 鬼道付きのパパラッチの胸に、じわりとした不安が滲むように広がってゆく。
 どちらかと言えば、人に流されやすい性格で、面白そうな事ならすぐつられる少し頭の軽い子である。
 この雷門ジャーナルでの活動も、皆でゴシップ新聞を作るのが楽しいのであって、別に報道そのものに対しての自分なりの思いや姿勢がある訳ではなかった。

 気付けば、今ここには自分一人である。

 それに対して、相手は今では稲妻町の有名人となった雷門サッカー部。
 もしかして、自分はとんでもない事に手を出したのでは……、と言う思いが芽生えていた。
 そんなパパラッチの目の前を、連絡を受け上着を羽織った鬼道が通り過ぎて行った。

( あっ…、追いかけなくちゃ )

 桐子の言葉と自分の不安を半分ずつ抱いて、そのパパラッチは自分の後方にまったくの関心を払わないまま、鬼道を尾行し始めた。

 少し離れて、栗松と影野も付いてゆく。

「影野先輩、もう少し距離を取った方が良くないでヤンスか?」
「……大丈夫。あの子、こちらには気付いてない」
「へぇ、そうでヤンスか?」
「栗松の気配くらい、俺が消せる」

 影野の口元が少し上がり、多分ニタァと笑ったのだと栗松は思った。

( あ~、そうでヤンした。影野先輩って気配の無い人でヤンしたね )

 雷門イレブンの中では、影野ほど隠密行に適した人物はいないであろう。
 栗松がそんな事を思いながら後を付けてゆくと、パパラッチの足が少し手前で止まった。
 パパラッチの姿を見越して先を見通すと、その先にオープンスタイルのカフェがある。
 さらによくよく見ると、コーヒーのカップを手にした鬼道が見通しの良い席を選んで座った。
 その様子に、パパラッチの子が緊張するのが、後ろからでも良く感じられた。

「いよいよみたいでヤンスね。鬼道先輩と豪炎寺先輩のデート」
「……ああ。どんな格好で来るのかな。想像つかない……」
「本当でヤンスねぇ~」

 そんな二人も、現れた豪炎寺の姿に驚愕の叫びを必死で押し殺したのであった。


   ■ ■ ■


 コーヒーの紙カップを片手に、カウンターの近くにあったフリーペーパーに視線を落としていた鬼道は、カタンと椅子を引く音で顔を上げた。顔を上げた途端、鬼道は今、自分がコーヒーを口に含んでいなかった事を心から感謝した。そして、常着しているゴーグルにも。きっと今の自分の眼は、驚きと可笑しさで赤い瞳を見開いている。

「……ぷっっっっ、くくくくっっっ。それは、凄いチョイスだな」

 物も言わず自分の前に座った豪炎寺に、笑いを抑えてかけた言葉はそれ。その言葉を、固まった表情で聞く豪炎寺。そう言われるのは、豪炎寺自身が良く判っていた。

 ピンクの女学生姿。
 手には可愛いマスコットを付けた学生鞄。

 黒いタートルネックのアウターを着込み、ピンクの膝丈のジャンバースカートとセーラーカラーの濃ピンクのボレロ。足元は白のニーソと濃茶のローファー。豪炎寺のアイディンティティとも言える怒髪天頭は、ワックスをすっかり落とされフワユルのショートボブにセットされ直している。黒のカチューシャと黒縁の眼鏡までオプションで追加されて、もともとの寡黙な性格と今回の女装でいつにないほど硬くなっている豪炎寺の放つオーラは、ちょうど規則に厳しい風紀委員のような雰囲気を醸し出していた。

「あれ、確か財界や政界の子女が通うって言う名門白皇学園の制服…。そう言えば鬼道くんって鬼道財閥の後継者だから、お付き合いするにしてもそういう家柄の子になるんだ」

 パパラッチは小さく口の中で呟きながら、パチリとそんな二人の様子をカメラに収める。
 しかし、二人で逢っていてもおよそ「デート」と言うムードではない。
 鬼道の方はまだしも、相手の女子学生の方が近寄りがたいほどの硬質でなにかこう、裁かれそうな気配を纏っているのである。

「……規律に厳しい学校だと、外出の時は制服着用って決まりが有るところもあるんだっけ」

 休日の土曜日に、わざわざ制服を着ているような真面目な子。もしかしたら、午前中は授業があったのかも知れない。余り代わり映えのしない二人のツーショットをまた何枚か写す。

「この写真だけじゃ、記事にはならないよね……」

 一瞬どうしようかと迷ったものの、このパパラッチはもう少し近付いて、二人の会話を盗み聞く事にした。コソコソと人目を気にしながら、鬼道と豪炎寺が座る席の一つ隣くらいまでに近付く。ここまで近付いたら、もうカメラを向けることは出来ないのでポケットの中のボイスレコーダーのスイッチに手をかけていた。

 小さな音が鬼道の携帯から聞こえた。メールの着信音だ。送ったのはパパラッチを監視している影野から。ざっとメール文に目を通し、それから豪炎寺に目配せをした。

「……お前、何か書くものをを持っているか?」
「ああ。鞄の中に何か入っているだろう」

 女学生らしさの演出で持たされた学生鞄は、正真正銘のお嬢様である夏未の物。中から取り出したペンケースもブランド物の華やかで上質な物で、その中から洗練されたデザインのプラチナのシャープペンシルを見つけた。

「これでいいか?」
「構わん」

 それを受け取り、先ほどまで読んでいたフリーペーパーの余白になにやら書き込む。それをすっと豪炎寺の前に差し出した。そこには ――――


 ―――― すぐ隣にパパラッチがいる。


 ああ判ったと言う様に、豪炎寺が頷いた。
 もう一つ、手早く何か書き付ける鬼道。


 ―――― 俺達の会話を盗むつもりだろう。言葉に気をつけろ。


 その指示にも、小さく頷く。
 すると今度は、豪炎寺の携帯にメールが入った。送信者の名前を見ると半田からとなっている。
 その文面を見た瞬間、豪炎寺はこんな格好をしているのがバカバカしくなった。

「どうした?」
「―― ん!」

 ずぃ、と携帯の画面を鬼道に見せる。ディスプレに表示された文字は……


 ―――― 円堂が自分から正体バラしちまった。
 んな訳で、俺等はここで強制終了な! 円堂の提案でそのまま雷門パークで遊んでるから、お前等も終ったら来いよ!!


「あいつら……」
「……円堂らしいな」

 ふぅと溜息ともつかないものと一緒に、鬼道はそう言った。

「俺とのデートの最中でも、サッカーに逃げ出したくらいだから」
「じゃぁ、なんで俺達はここにいる?」
「一応、まだミッション中だからだ」
「それはバレたんだろう? それなら……」

 早くこの状況から開放されたい豪炎寺が、鬼道に詰め寄る。

「どこまでバレたのか判らない。円堂と風丸のデートに関してだけなら、今ここでお前が焦る必要はないだろう。それとも何か? お前も、この衆目の中で自分の正体をバラす度胸があるのか?」
「ぐっっ……!」

 この会話は、声を拾われないように互いに顔を寄せ合って小声での会話であった。それだけに、何か重要な打ち合わせをしているように見えなくも無い。

「……まったく!! どうして、こんな事になったのか!」
「それは、あの根も葉もない記事が公表されたからだ。それに対して、こちらからもそれの相応対応をせねばと、と言う事だ」

 この辺りの会話から、音を拾われても良いように少し大きな声で話しだす。
 その間にも、鬼道の手元は忙しなく動き、自分たちが話す内容の台本を書き続けている。

「落ち着いて考えてみれば、他に良い方法があったはず」
「ああ、俺もそれには気付いていた。だけどな……」

 ちょいちょいと鬼道が豪炎寺を手招く。鬼道はまた顔を近づけて、小声で囁いた。

「……気付いたのが少し遅くてな、俺が女装した後だったんだ。それなら、お前たちにもやってもらわないとなぁ」

 そんな事を言い放ち、ニヤリと笑う。

「鬼道!! お前っっ……!」
「女学生は、そんな物言いはしない。バレるぞ、正体」

ちらりと隣の席の方に視線を流す。その鬼道の動きにパパラッチの子が体を硬くしたのを、デート中の二人も支援係の二人も察知した。


   ■ ■ ■


(  ―――― っっ!! も、もしかして。気づかれている!? )

 もともと他の部員よりも、だたその場の勢いでこんな事をやっているところのある子である。スクープを取ることや、面白い記事を書くことに執着心のあるほうではない。胸に抱えていた不安の方が、編集長の言葉よりも大きくなっていた。
 そんなパパラッチの子の耳に、鬼道の声が鋭く飛び込んできた。

「……で、ここに君に来てもらったのは他でもない。今回の名誉棄損懸案に関して、法律を勉強している君の意見を聞きたかったんだ。法的処置を取ろうかと思ってな」

( 名誉棄損!! 法的処置って…… )

 パパラッチの心臓が、ドキドキと不安で大きく打ち始める。

「名誉棄損だけじゃない。肖像権の侵害および個人情報保護法違反にも問える」

 無理のある裏声で話す豪炎寺。さすがに口調までは変えられないようだ。しかし、意外にもハスキーに響くその声質は、話す内容と相まってズシンと重みを与える。

「うむ、やはりな」
「証拠はその紙面があるし、他の者からの証言も取れる。叩けばいくらでもホコリが出そうだ」

 大きくなった心臓の鼓動が、頭の血管をドクドクと脈動させ、パパラッチは目の前がすっぅと暗くなるような気さえした。

「一口に名誉棄損と言っても、この記事に書かれた個人としての四名分だけじゃなく、雷門サッカー部への名誉棄損、しいては雷門中学校全体への名誉棄損もある。また鬼道財閥への名誉棄損も加えることが出来ると考えるが」

 はっきりと周りに聞こえるくらいの声量で、そんな中学生らしからぬ物々しい内容の会話を続けている。もちろん、これは鬼道の書いたシナリオであるが。しかし、そんな事とは気づかないパパラッチは、法的処置の一言でもう震えがくるくらいビビリ上がっていた。

「民事裁判を提訴したとして、勝率は?」
「それは、もう100%の勝率。雷門中学関係の…、理事長口利きの弁護士と鬼道財閥お抱えの弁護団を相手に、そうそう勝てる被告もいない」
「ならば、すぐに代理人を立てて訴訟の準備に入ろう。ああ、雷門にもその旨伝えておかないとな」
「本当なら、自分で訴訟を起こしたいくらいだろう?」
「まぁな。しかし未成年ではそれは出来ん。まどろっこしい話だが」
「全部をひっくるめての損害賠償請求となると、賠償額は億の単位を下るまい」
「もちろん、そのくらいは計算している。俺達は、そんなに安っぽくはないからな」


( 損害賠償請求!! ……請求額の単位が億を下らないって、100%こちらが負ける裁判なんて…… )

 ドキドキが昂じて、軽く酸欠状態に陥る。体は恐怖でガタガタ震えだしていた。

「勝訴すれば訴訟費用も被告持ちになる。親も自分の子どもの躾が至らなかった責任として、社会から抹殺。厳しいものだ」

( 社会から抹殺って……、莫大な損害賠償金を払うために、まともな生活はもう送れなくなるの……? )

 豪炎寺の言葉が頭を駆け巡り、当の二人が席を立ったのにもパパラッチの子は気づいていなかった。


   ■ ■ ■


 愕然として固まっているその子の前に、ゆらりと人影が落ちる。

「あっ……」

 青ざめて泣きそうな表情で見上げてみれば、そこには上から射竦めるような気配を纏った鬼道と豪炎寺が立っていた。

「……今の話、聞いていたな?」

 低く落ち着いた声で鬼道が尋ねる。

「は、はい……」
「何か言うことはないのか」

 言葉を続ける鬼道。二人の気配に委縮し、鬼道の問いかけにも答えることが出来ない。
 まるで石像のようなその子に一言、豪炎寺が声をかけた。

「ジャッジメントっっ!!」

 ビックっっ!! と体が反り返る。

「ご、ごめんなさい!! もう、あんなことはしません!! あの記事もでたらめだってみんなに言います!!! だから、裁判を起こすなんて、そんなこと言わないでください! お願いします、お願いします!!」

 勢い良く下げた頭がテーブルにぶつかる音がした。頭をテーブルの天板にこすり付けたまま、じっと二人の裁断を待っている。

「今の言葉に嘘はないな?」
「はい! 間違いありません!!」
「……他の部員たちにも、同じ内容を伝えろ。もし、今の言葉が履行されなかった場合は…、分っているな?」

 自分が女装していることも忘れ、素の豪炎寺修也のままの態度でダメ押しの言葉をかけた。
 コクコクと頷くとそのパパラッチの子は取材用機材を鬼道と豪炎寺の前に差出し、慌てふためいて二人の前から消え去る。小さくなる後姿を見送りながら、どちらからともなくふぅという、小さなため息が聞こえた。

「……終わったな」
「ああ」

 これで雷門ジャーナルの記者は全て、雷門イレブンの緻密な(?)オペレーションの前に投降したことになる。残るのは編集長の黒野桐子だけだが、こちらに対しては理事長代理である雷門夏未が強権を執行することだろう。

「……まったくバカバカしいオペレーションだった」

 こんな似合いもしない女学生姿を晒す羽目になった豪炎寺が、忌々しげに小さく毒づく。

「バカバカしくても、他の奴らはそれなりに楽しんだようだ。まぁ、俺も楽しかったぞ? 後にも先にもお前の女学生姿なぞ、拝めるものじゃない」
「鬼道!!」

 ゴーグルで目の表情が読めない分、口元だけで笑われたようなその様子は、かなりムカつくものがある。

「……このオペレーションで一番気を使ったのは、この嘘だらけのデートの組み合わせだった。女装した相手をどうリードするかが問題になってくるからな」

 鬼道はそんな豪炎寺の怒りをさらりと流し、カフェを後にしながら説明を続ける。二人の少し後方から支援役の影野と栗松が先に行く二人に合流しようと足を速めていた。

「問題は円堂だ。あいつは彼氏役でも彼女役でも、嘘はつけないだろう。それをフォローできる相手じゃないと上手くゆかない」
「ああ、まぁな」
「そこで、質問だ。円堂の「彼女役」として豪炎寺、お前上手く立ち回れるか?」
「…………………」

 そう質問を振られ、ぐっと答えに詰まる。
 豪炎寺も、あまり器用なほうではない。
 ましてや、こんな女装姿をあの円堂に見られるなんて、冗談ではない。

「無理だ」
「そうだろ? それじゃ、風丸の彼女役だとしたら……」
「ぐっっ……」

 女装していなくても女の子に間違われることの多い風丸だ。そんな奴の隣で、自分のような男顔の者が女装なんてすれば、その違和感は否が上でも悪目立ちする。

「分かってもらえれば、それでいい。じゃ、俺達も円堂達に合流するか?」
「ちょっと待て! その前に、この格好をどうにかしろ!!」

 中学生らしく騒ぐ二人の前に、影野達からミッション終了の連絡を受けた夏未達が黒塗りのリムジンの中で待っていた。 



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Date:2012/03/11
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