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□ 円堂くんと風丸くん □

バレンタイン・キッス!?

「風丸さん! これ、受け取ってください!!」

 学校に登校した途端、そう言って可愛らしい小さな包みを俺の前に差し出してきたのは、陸上部の後輩。俺が部員の少ないサッカー部に助っ人として入っていたのを、部員も増えた事だし、そろそろ陸上部に戻ってきて欲しいと言った、あの後輩だ。

「えっ? なに、それ?」

 訳が判らず、俺は随分間抜けな答えを返した。

「いやだなぁ、風丸先輩! 今日は2月14日、バレンタインですよ!!」
「いや、だから……」

 それは知っている。
 あれだけTVや雑誌で、この日に向けて宣伝していれば。
 だけど、彼女なんて作るヒマもないほど、サッカー漬けの毎日の俺たちには関係の無い話だと思っていた。

「どうしたんですか? 先輩!」
「俺、男だぞ?」
「そんなこと、言われなくても分かってますよv」

 にこにこと、無邪気な後輩パワーで俺に迫ってくるこいつに、俺は冷や汗と一緒に何とも言えない緊張感を感じていた。

「そして、お前も男だよな?」
「そーですよ! 俺のどこが女に見えます?」
「いや、だから……」

 ……二度目の同じ言葉を口にする。

「あっ、嫌だなぁ、風丸先輩!! 俺、そっちの気はないですよ! そりゃ、先輩はカッコいいし足も速いし、尊敬してますけどね」
「…………………」
「知ってます? バレンタインって、好きな人だけじゃなく、お世話になった人や親しい人にも贈り物して良いんですよ!」
「あ、そうなんだ……」

 奇妙な緊張感が解けて、どこかほっとした気持ちになる。

「……今でも本音を言えば、同じフィールドで走りたいって気持ちはあります。でも、グラウンドの上でボールを追って風の様に走る先輩を見ていたら、頑張ってくださいって、もうそれしか言えないんですよね」

 そう言うと、俺の前に一歩踏み出し俺の手を取り ――――

「じゃ、これv」
「あっ……」

 後輩は小さな包みを俺の手に押し付けるように渡すと、教室に戻って行った。


  ■ ■ ■


 午後の授業、教室の窓ガラスを風がコツコツと叩く。
 2月半ば、外はずいぶん明るくなってきたけど、吹く風はまだまだ冷たい。でも、今の俺の気持ちは、もう春のように暖かかった。どんなに苦しくても頑張った事を、ちゃんと見ていてくれる人がいることがこんなに嬉しい。

( それもこれも、あいつのお陰か。まったく、凄い幼馴染だよ )

 春のような暖かさの後ろに、まるで真夏の太陽のような笑顔を忘れない円堂の顔を思い浮かべていた。


 放課後、部室に行ってみると、まだ誰も来ていなかった。

「あれ、まだ誰も来てないんだ。先に着替えて、ウォーミングアップでも初めていようかな?」

 練習着に着替えようと学ランの上着を脱いだ時、ポケットに入れたままにしていた包みが落ちた。

「そういえば、これ……」

 誰もいない部室で、その包みを開ける。中には一枚のカードとバータイプのチョコが3本入っていた。その形状にも、俺はほっとした。これが口でああ言っていても、もしハート型なんてしていたら、また悩むところだ。安心した所で、カードの文字に目を落す。そこには ――――

『次の試合も頑張ってください!! 必ず応援に行きます!』

 嬉しい気持ちが、そのまま表情に出る。貰ったチョコを1本、口に入れた。

「美味しいな、これ」

 そして、もう1本。
 と、そこに ――――

「あー、風丸っっ!! 美味そうなもん、食ってんな! 俺にも分けてくれ!!」
「円堂……」

 円堂守。
 雷門中サッカー部キャプテンでゴールキーパー、そして俺の幼馴染でもある。

「なぁ、いいだろ? 風丸!?」

 そういう円堂の手にも、チョコらしき包みが。

「……自分だって貰ってるじゃないか。嫌だよ」
「えっ? あ、これ? これは、そーゆーんじゃないんだ」

 自分の貰った分だけは、特別。
 そんな風に、俺は感じてしまった。

「嫌だよ」

 プイっと横を向いて、最後の1本を口に咥えた。

「……ならば、実力行使!! 腹が減った男子中学生の実力見せてやる!!」
「へっ!? あ、馬鹿!! やめろって……っっ!!」

 思いっ切りガキの表情で、それはもう嬉しそうに俺が咥えたチョコバーの反対側に勢い良く喰らい付いてきた。つまり、それって……。


  ■ ■ ■


 俺は体勢を崩しそのままひっくり返り、俺の上に円堂が。
 それだけでなく、俺の唇の上には温かくて柔らかいモノが触れている。


 ―――― ファースト・キスは、チョコの味。


「一体、何をしているの!! あなた達はっっ!!」
「円堂っっ!」
「キャプテンっっ!」
「風丸さん!」

 夏未の、皆の厳しい声が聞こえた。
 俺の上で、俺と唇を合わせたままで、円堂が口の中でチョコ・バーをガリガリと噛み砕く音が遠くに聞こえた。

「いや~、悪い、悪い。腹が減っていたもんだからさ」

 俺の上から起き上がった円堂が、悪びれた様子もなく皆に向かってにかっと笑った。その口元には、俺から奪ったチョコの痕跡。

「……腹が減ったから、風丸を食うのか」

 そう言ったのは、豪炎寺。
 いつも冷ややかな口調だけど、今はいつもにも増して冷たく聞こえる。

「腹が減っていたのもあるけどさ、塩チョコ食った後だから、口直しもしたくって」
「円堂くん!」

 慌てて夏未が円堂の言葉を遮る。

「風丸で口直し、か……」

 その言葉は、鬼道の口から。
 
「夏未さん、買って来ました!!」

 女子マネ三人の声がハモって聞こえた。女子マネ達の抱えた紙袋から、甘い香りが立ち上っている。匂いに惹かれ、部室の入り口近くにいた他の部員がそれぞれに紙袋の中を覗きこむ。

「うわぁ~~v チョコだ、チョコだぞ!!」

 騒ぎ出す壁山と栗松。

「へぇ~、俺たちにはこの日にチョコなんて関係ないと思ってたけどな」

 そう言ったのは誰だったのか?

「どうせ貰うなら、手作りがいいなぁ~なんて、贅沢ですよね」

 そんな声も聞こえる。

「……仕方ないでしょ。チョコなんて初めて作ったんだから!!」

 その一言で、この騒動の原因が夏未にあったと判ってしまった。
 おそらく夏未は、生まれて初めて作ったチョコを円堂に、何か理由をつけて食べさせたのだろう。
 砂糖の代りに塩が入ったらしいチョコを。

「さぁさ、練習が終ったら皆に分けるから! 早く、練習に行きなさい!!」 

 夏未に一喝されて、そして練習後の楽しみを励みに、他の部員たちは早々に着替えてグラウンドに飛び出していった。もちろん、真っ先に飛び出して行ったのは円堂だ。

「……風丸。いつまで床に座り込んでいるんだ」
「あ、ああ……」

 そう豪炎寺に言われ、まだ着替えてもいなかった事を思い出した。

「円堂に押し倒されて、腰が抜けたか」
「なっ! 何、言ってるんだ!! 豪炎寺!」

 なにもやましい事はないんだから、焦る必要も無いのに、俺の声は上擦っている。

「……あいつは鈍感だからな。今、お前に何をしたかも気付いていないだろう」

 冷静な厳しい目付きのその端をほんの少し細めた豪炎寺に、俺は笑われたような気がした。

「何をって、何……」
「サッカー馬鹿で、サッカーのことに関しては敏感なのに、その他の事になると途端に鈍感になる。あんな奴を好きになると、女も男も苦労するな」
「おい! それって……っっ 」

 今度は、はっきりとした笑みを浮かべ、真っ赤になった俺を残して豪炎寺も部室を出て行った。

「べ、別に俺は、円堂の事が好きな訳じゃないぞっっ!! あ、でも、嫌いって訳じゃないし……。いや、確かに友人としては好きだ。凄い奴だし、本当にいい奴だし…、あれ?」

 もう俺は、自分でも自分の気持ちがごちゃごちゃして判らなくなっていた。
 ただ分かっていたのは、これからもっと大変な事が起こりそうだなという予感を感じている事だった。


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Date:2012/03/07
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