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□ 創作小説 □

メリーさんの話

 ―――― わたし、メリーさん。今、隣町の駅に居るの。

 ―――― わたし、メリーさん。今、あなたの住む町に着いたの。

 ―――― わたし、メリーさん。今から、あなたのマンションへ行くバスに乗るの。


 夜になるとかかってくる電話。
 私が受話器を取ると、受話器の向こうからはそう一言だけ。毎晩、一回だけ掛かってきて、その電話の内容は少しずつ私の住む場所に近づいてくる。

「……本当に、あのメリーさんなの?」

 私がこの町に引っ越してきたのは三か月前。メリーさんというのは、それまで私が物凄く可愛がっていた人形の名前。引っ越す時に、どさくさに紛れてお母さんに捨てられてしまった、大事な大切なお人形。

 ああ、きっとメリーさんは私の事を恨んでいる。

 だから、こうして不思議な電話が掛かって来た時、私の心臓は物凄くドキドキして、足が震えて止まらなかった。

 そんな電話が掛かり始めて、もう十日。
 私は、もう堪らなくなっていた。
 昨日掛かってきた電話は、私の住むマンションの下の階に居ると告げて切れた。慌てて私は下の階を見に行ったけど、もちろんそこにメリーさんの姿はなかった。
 
 そして、いよいよ今夜は ――――


   ■ ■ ■


 ……燃えるゴミの日だったわ。

 その日は夕方から雨で、私は他の生ごみや燃えるゴミと一緒に雨に濡れていたの。あれだけ可愛がってくれてたのに、何時の間に飽きられたのかある日ポイっと捨てられたの。

 悲しかった。
 悔しかった。

 可愛がってもらった分、恨みの念も深くて ――――

 でも、私は人形。
 恨み言を言える訳もなく、私を捨てたあの子の所に行ける訳もなく、やがてこのゴミの山と一緒に焼かれる運命 ――――


 ひた ひた ひた ――――


 雨の中、聞こえる小さな足音。

「……あら? そこに誰かいる?」

 聞こえたの、小さな声。
 私はびっくりした。まさか、そんな事があるなんて!!

 私のような人形が、一人で歩き、話しかけてきたのだ。

「―――――― !!」
「ああ。あなた、喋れないの? 随分と念は籠っていそうなのに。大丈夫、同じ人形同士だもの、話せなくても話してみて。きっと、伝わるから」

 私によく似たその人形は、そう言いながら自分からゴミの山を登って、私の隣までやってきた。

「あ、ああ ――――」
「あ? 私? 私もあなたと似たようなものよ。そう、捨てられたの。でも、私はこれも悪くないと思っている」
「あっ!? あ、ど、どうし……て?」

 えっ? 
 私、喋れてる!?

「そうね……。何事も、ほどほどが肝心ってことかしら? 過ぎてしまえば、お互いに不幸な事ってあるのよねぇ」

 謎めいた言葉、人形のくせにまるで老人のような達観した口ぶり。

「……捨てられたのに、恨んでない? その人の事」
「私がこうして歩けたり喋れたりするのは、もう恨みなのか、何なのか分からないんだけど、そのせいだと思うの」
「それは、復讐の為?」

 私の言葉に、その人形の目がぎらりと光ったような気がした。

「あなたは復讐したいの? あなたを捨てた、その人間に」
「え、ええ! そうよ!! 私をこんな目に会わせた、あの人間に!」

 人形の口元が、薄らと笑みを浮かべた。

「じゃ、あげるわ、この力。歩けて喋れる、この力」
「……力?」
「そう。この不思議な力を、あなたにあげる。これであなたはその憎い人間の元に行って、復讐することが出来るでしょ?」
「でも、そんな事をしたら、あなたはどうなるの?」
「ただの人形に戻るわ。動けない喋れない、自分では何もできないモノに」
「そんなっっ! それじゃ、あなたは……」
「もう、良いのよ。私は、ただの人形に戻りたい」

 力が欲しい私と、力を手放したい貴女。
 何が貴女にそう言わせているのか、私は分からない。
 
 でも! その力!!

 私は、欲しいと願ってしまった ――――


「じゃぁ、私は行くわね」

 私の代わりに、ゴミの山の天辺で物言わぬモノとなった、あの人形が雨に濡れながら頷いたように見えた。私に全ての力を譲ったのかその人形は、念の欠片もなくなって、同じ人形である私にすら、もうその声は聞こえなくなっていた。


   ■ ■ ■


 ―――― わたし、メリーさん。今、あなたの後ろに居るの。


 これが最後の電話。
 私を捨てた人間に復讐するのは、今!!

( あ、でも待って。私の名前はメリーじゃないし、この人間も私を捨てた人間じゃない )

 ここまで来て、私は根本的な間違いに気が付いた。間違いに気付いたけど、人形を捨てた人間であることは間違いないし、私にこの力を譲ってくれたあの人形が、この人間を憎んでいたのは確かな事。ならば、私が代わりに復讐しても、ちゃんと筋は通るだろう。余程、あの人形がこの人間を恨んでいたのは、私を真っ直ぐこの人間の元へと導いた事でもよく分る。

 抗いがたい力に流される様に、引かれるように、私をここまで連れてきた。

 私の姿を見て、驚愕する人間の顔!
 目を見開き、今にも叫びそうな大きく開かれた口!!

 さぁ、自分のしたことの、罪の深さを思い知るといい!!!

「うわぁぁぁぁ~~~~~んんっっ!! メリーさん!、お帰りっっ~~~!!!」

( えっ!? )

 私は面食らってしまった。
 だってその人間は私を、ゴミの山に捨てられて、ドロドロに汚れたままの私を、自分が汚れるのも構わずに力いっぱい抱きしめてくれたのだ。

(え、えええっっ? どーゆー事、これ? )

「ご免なさいね! 引っ越しのどさくさでママが勝手に貴女を捨てちゃって!! あの後、何回も元の家の近くのゴミ捨て場に探しに行ったんだけど、どこにもいなくて……。ずっと、ずっと帰って来てくれるのを待っていたのよ!!」

 この人間の言葉に、嘘はない。
 私を抱きしめる腕から感じるのは、溢れんばかりの大きな愛情。

( ああ、きっと不幸な行き違いがあったんだ。この子とあの人形の間に。あの人形も、私になんかにこの力を譲らなければ、こんな幸せな結末が待っていたのに )

 私は少し心苦しくなった。
 この幸せは、本当ならあの人形のもの。
 このまま、私が享受しても良いのだろうか?

「あ、あの……。私、メリーさんじゃない……」

 小さく呟いてみる。

「何を言ってるの? メリーさん。貴女は、メリーさんよ。こうして私の所に帰ってきてくれたから、少し姿が違っていても、メリーさんはメリーさんよ」
「で、でも……」
「ああ、本当に嬉しいわ!! 神様って、ちゃんといらっしゃるのね! メリーさんが私の妹の様におしゃべりしたり、動けたらなって願いを叶えて下さるなんて! さぁさ、お風呂に入って着替えて綺麗になりましょ♪」

 その子は、有無を言わさず私をバスルームに連れ込み、自分も裸になって一緒に入浴した。

「随分苦労したんでしょ? こんなにドロドロになっちゃって。私がきれいに洗ってあげるわね」

 香りの良いボディーシャンプーを両手で泡立て、丁寧にゆっくりと私の体を洗う。モコモコの泡に包まれ、人形である事も忘れそうなくらい「生きてる人間」のように扱ってくれる。

「隅から隅まで、きれいに洗わなくちゃね!」

 そう言って、丁寧を通り過ぎ、細部に渡ってしつこいくらいに。
 生身の人間だったら、羞恥で顔を赤らめそうだ。

 お風呂から上がったら、その子と御揃いの服を着せられた。赤いベルベット生地に黒いレースが沢山ついたゴスロリ調のドレス。ヘッドドレスも御揃いで。

「うふふv ほら、これで綺麗になったわ。今から、お茶会よ♪ とっても楽しみだわvvv」

 アンティークなテーブルと椅子、その上にセットされたアンティークロイヤル調のティーセット。紅茶の芳醇な香りが、ほっとした空間を演出している。ケーキプレートの上には、真紅のドレスと同じ、真っ赤なナポレオンパイ。

「綺麗でしょv イチゴのパイ♪ 血の色みたいに真っ赤で」

 私の目の前のカップにお茶を注ぎ、ケーキ皿にパイを切り分ける。

「さぁさぁ、遠慮しないでねv 喋れるようになったんだもの。その可愛いお口は、きっと美味しいケーキも食べられるようになったわよね? 私、メリーさんと一緒にお茶会するのが夢だったのよ」

 いや、その~ そー言われても、私、人形だから!
 不思議な力で動いたり、喋ったり、五感が備わったりしてるけど、基本人形だから!!

 食べれませんって、本当に!!!


   ■ ■ ■


「あら? 好き嫌いはダメよ、メリーさん。じゃ、私が食べさせてあげる♪」

 そう言ってその子は、フォークにパイを突き刺すと、それを私の口元に押し付けた。グイグイと物凄い力で押しつける。これが生身の人間なら、きっと窒息間違いなし!! 人形の自分でも、こんなに息苦しいんだから!

 私の口元で生クリームははみ出しドレスを汚し、パイ生地は砕けてボロボロと跡形もなくなる。

「はい、良く食べました♪ じゃ、ごちそう様ね、メリーさん」

( ん? これで食べたことになるのっっ!? )

 せっかく綺麗にしてもらったのに、顔やドレスは赤いイチゴの汁やパイの欠片で汚れてしまった。まるで、怪我をしたみたい。
 私がそう思って、自分の身の回りを見ていたら、突然 ――――

「まぁ、メリーさんったら!! そんなにドレスを汚してしまって、本当にイケナイ子ね! お仕置きしなくちゃ!!」

( えっっ!? )

 そう思う間もなく私はまたバスルームに連れ込まれ、ドレスを剥がされると、浴室乾燥の為の物干し竿に裸のまま吊るされた。

「生クリームは熱いお湯じゃないときれいに落ちないのよ。ちょっと熱いけど、我慢してね。これ、お仕置きだから♪♪」

 そんな事を言いながら、火傷しそうなお湯を頭から浴びせられました。ええ、生身の人間なら間違いなく、大火傷です。セルロイドで出来た私のボディーの一部が変形してしまったくらいですから!!

「さぁ、綺麗になったわ。今度は、こちらのドレスを着てみましょう♪」

 そうして着せてくれたのは、フワフワのピンクシフォンの妖精のようなドレス。自分もちゃっかり着替えて、これも御揃い。

「うふふふv 今日はね、メリーさんと再会できるって、ちゃんとお祝いのディナーも用意してるの。奮発して、フルコースよ!! いっぱい食べてね♪」

 私は、ぞっとした。
 さっきの、あのお茶会の惨状を踏まえて尚、そう言うこの子に。


   ■ ■ ■


 ……あれから、拷問にも等しい可愛がりを受け、今は動けるようになった事と喋れるようになった事も拍車をかけて、ゴミの山に捨てられていた時よりももっと悲惨な事になっていた。

 最初から無理だと言うのに、何度も食べさせようとしては口の周りや着ているドレスを汚してしまい、とうとう癇癪を起したその子に私の口は、焼けた鉄の串を押し当てられて溶接されてしまった。

 ……これでもう、喋る事は出来なくなった。ただ、一日中堪えようのない息苦しさに襲われ続けるだけ。動ける手足も逃げ出すからと緊縛されて、今では鍵のかかった檻の中に入れられている。

「貴女がいけないのよ、メリーさん。私の言う事をちっとも聞いてくれないんだもの。でも、絶対捨てるなんてひどい事はしないから、安心してね♪」

 ああ、私はあの時、私にこの力を譲ってくれた彼女の言った言葉を理解した。

 ―――― 何事も、ほどほどが肝心ってことかしら? 過ぎてしまえば、お互いに不幸な事ってあるのよねぇ

 ―――― もう、良いのよ。私は、ただの人形に戻りたい

 ああ、確かに。
 ここまで異常な可愛がり方じゃなければ、きっと私は幸せになれたはず。
 それに、こんな人間のような五感や感情がなければ、そう、それこそ『人形』であれば、こんなにも苦しまなくて済むのに……

 彼女が譲ってくれたこの力の源は、この子の『メリーさん』にかける恐ろしいほどの執着と偏愛。そうよね、だからまるで引き寄せられるように、この子のところに私、来ちゃったんだ。

( はっ!! もしかして私、彼女に身代りにされた!? )

 なんて事だろう……
 私は、同類である人形仲間にさえ裏切られてしまった。


「メーリーさぁ~んv 今日は、お医者様ごっこしてして遊びましょう♪」

 檻の前に、あの子が立つ。
 手には包帯や、ナイフやライターに鉄串。
 私の口を溶接したのが楽しかったのか、あれからはもっぱら私を使って遊ぶのは、このお医者さんごっこ。体をナイフで切り刻まれ目玉のガラス玉を刳り抜かれて、それを焼けた鉄串で溶接する、外科医ごっこ。

「さて、今日はどこを手術しましょうね。綺麗に治してあげるから。うふふ、眼帯姿も似合うわよ、メリーさんv」


 ……もう、悲鳴を上げる事すらできやしない。



「さぁ、メリーさん♪」



 わたし、メリーさん。

 誰か、助けて……



  2011年08月31日脱稿






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Date:2012/03/12
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