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□ 円堂くんと風丸くん □

シアワセノ アオイトリ 

「頑張って来いよ」
「ああ、行ってくる」

 円堂が日本を飛び立つ日、風丸と交わしたのはそんな短い一言だった。

 高校在学中から、円堂には国内外のプロチームから複数のオファーが来ていた。そして高校卒業と同時に円堂は海を渡る。出発の日、空港にはかつてのクラスメイトやチームメイト、集まれるだけのメンバーが集まり、ちょっとした同期会のような様相になっていた。

「みんな、ありがとう! 俺、アメリカでも頑張ってくるからな!!」

 そう、円堂はサッカー先進地域であるヨーロッパや南米からのオファーを断り、今大きく躍進を続けているアメリカのプロチームと契約した。そこには、プロになる夢以上の大きな夢を追いかけている一之瀬達の力になりたいという気持ちも入っていた。
 その昔、まだまだ弱小だった雷門中サッカー部に一之瀬が入部してくれた、あの時の恩を返すのは今だ、と円堂は考えたのだ。

「向こうに行ったら、一之瀬くんの事、よろしくね」

 秋がほんのり頬を染めて、そう円堂に言葉をかけた。

「秋も行けばいいじゃないか、アメリカに。一之瀬も寂しい想いをしてるんじゃないのか?」

 茶化すようにそう言えば、秋の顔は更に赤くなる。

「もうっ! 円堂くんの馬鹿っっ!!」

 あの頃から変わらない、キャプテンとマネージャーの掛け合い漫才。男女間の友情が成り立つのなら、これこそが理想かもしれない。

「円堂、そろそろ搭乗しないと……」

 いつまでもじゃれていそうな幼馴染に、しばらくは世話してやれないんだな、という一抹の寂しさを感じながら風丸は声をかけた。

「あ、ああ! もう、そんな時間か」

 慌てて腕時計で時間を確認し、手荷物を掴むと元気よく大きく手を振りながらゲートを潜る。やがて、その後姿も他の乗客達の姿に紛れ見えなくなった。

「……なんだか、寂しくなるな」

 風丸の横に来た鬼道が、ぽつりと漏らす。

「ああ。3年前の豪炎寺に続いて円堂もだからな。それぞれが、夢の実現の為だとはいえ、はやりちょっとな……」
「……お前は、行かないのか?」
「え?」

 鬼道の赤い瞳が、意味深に光る。

「木野に話を振っていたが、あれはお前に言っていたんじゃないのか?」

 意味深な瞳に、笑みが浮かぶ。

「鬼道、お前なぁ……」
「今更隠すまでもない話だろう? お前たちが想い合っているのは、周知の事実」

 まるで当たり前の事のように、そう言葉を続ける。

「ん、まぁな。幼馴染で親友で、俺はあいつが好きで、あいつも俺の事が好きで。お互い言葉にするまでもない事。俺たちは一緒にいるってことで充分だった」
「確かに、付き合っているという風ではなかったな。『付き合う』以前に、もうお前達はお神酒徳利のように二人で一対って感じだった。だから、こうして離れ離れになるのが、不思議な感じなんだが」

 腕を組んで、軽く考え込むような仕草をする鬼道。

「……俺は男だから。女なら好きな相手の夢についてゆくのも、夢の成就だろうけど、俺がそれをしたら円堂のお荷物になってしまう」
「風丸……」
「あいつの隣に居続けるには、俺は俺の足でちゃんと立ってないといけないんだよ。円堂だって、その思いは同じはず」
「円堂の夢がプロになる事なら、お前の夢もまた別にあるということか」
「ああ、そういう事だ。鬼道だって、その選択をした口だろう?」
「……俺のは、俺の夢とは言い難いかもしれんが」

 鬼道のサッカープレイヤーとしての功績は、中学時代で幕を閉じていた。いずれは義父の跡を継ぐことを考え、高校は都内でも有名な進学校に入学した。国立有名大学の経済学部を卒業後、さらに海外での実績を積むためにも、もう部活に割く時間はない。現役から離れた今では、こうして昔のチームメイトに会う時だけが、あの頃の鬼道有人に戻れる時間だった。

「惜しいよな。俺なんかと違って、鬼道も豪炎寺も才能あふれるプレイヤーなだけに」
「……だから、良かった。中学時代、円堂や風丸、お前たちと楽しいサッカーができて。俺達の夢を、円堂が叶えてくれた」

 円堂の乗った旅客機が、ランプウェイをゆっくりと移動している。
 かつてのチームメイト達は、誰もがそれぞれのランプウェイを進んでいる。
 すでに飛び立った者もいれば、今 飛び立とうとしている者もいる。いつかみんな、飛び立つ時が来る。

( ……俺が本心から飛び立てる日など、来ないのかもしれないな )

 鬼道の表情には出さなかったはずのそれを、感じ取ったのだろうか?

「そろそろ屋上の展望デッキに移動しよう」

 風丸は、努めて明るくそう声をかけた。


   ■ ■ ■


 渡米して契約したプロチームと合流し、円堂は慌ただしい日々を送っていた。幸いにもチームメイトの中には昔からの知り合いも多く、また外国人枠で単身という事もあり、クラブハウスに併設された宿舎を、この地に慣れるまで円堂の住まいとして提供された事も有難かった。練習大好きな円堂には、これ以上ぴったりな住まいはない。また、練習帰りのチームメイトが入れ替わり立ち代わり円堂の部屋に入り浸るお蔭で、寂しさも紛らわされていた。

 やがて、円堂はローテーションでピッチに上がるようになっていた。時折、そんな姿が日本のTVにも映し出されることがある。そんな時は、試合後メールで皆からのメッセージが入っているのも嬉しかった。

 チームメイト達は、円堂がそろそろこちらの生活にも馴染めただろうと、あまり部屋に押し掛けることをしなくなっていた。プライベートを大事にする、彼ららしい思いやりである。

「なぁ、一之瀬。最近、あまりデュラン達が遊びに来ないな」

 久しぶりに部屋に遊びに来た一之瀬に、円堂はそう話した。

「ん? ああ。今までが円堂を構いすぎていたから、ちょっと控えているんだろ。円堂にも、プライベートな時間は必要だろうし」
「プライベート?」
「そう、プライベートv あいつらがいつも部屋にいたんじゃ、日本に電話をかけるのも控えなきゃいけないだろ?」
「電話をかけるって、誰に? 母ちゃんなら、勝手に向こうからかかってくるぞ」

 大きな目をくりっとさせて、そんな事を言う円堂。

「あー、母ちゃんって人種は、あまりそのあたり気にすることはないよな。でも、ほら! 人目を気にする電話もあるだろ? お前、こっちに来てから1回くらいは電話したんだろうな?」
「電話? だから、誰にだよ?」

 確認を取るような物言いの土門に、円堂の方が訊ね返す。

「えっ? まさか、お前こっちに来てから、まだ電話もしてないのか? 風丸に」

 その名前を言われた途端、円堂の顔が赤くなった。

「いやっ! その……、時差とかあるから、なかなか電話出来ないのは出来ないでいるんだけど……。でも。メールなら毎日でも送ってるぞ!! 今日はこんな練習をしたとか、こんな選手にあったとか」

 焦ったように、うっすらと汗を額に浮かべて、あわわと言い訳のように言葉を続けた。

「ふ~ん。そのメール、ちゃんとラブレター代わりにもなっている訳?」

 ずばり、一之瀬が核心をつく。
 ボボン!! と真っ赤になって円堂が爆発した。
 まったくいい年をして、円堂は晩生だ。相手が幼馴染で親友だったせいもある。加えて、同性だということも。この悶々とした熱い気持ちを、どう言葉にして表せば良いのか分らないでいるのだ。メールを送る時でも、「会いたい」とか、「寂しい」とか、「大好きだ」とか、「愛してる」とか、誰も見ていないのに真っ赤な顔をして打ち込んでは送れずに、消去しては当たり障りのない文面を送ってしまう。

「一之瀬、土門……」
「不安がってるんじゃないのか? 風丸の奴。アメリカと日本じゃ遠すぎるからな」

 この二人も、円堂の想い人が風丸であると言う事は分かっている。円堂にそんな自覚がなかった中学2年の時、エイリア学園戦でのキャラバンで風丸が離脱した時の円堂の様子を知っている者からすれば、どれほど円堂にとって風丸が大きな存在であるか知れるというものだ。

「聞かせてやれよ、声。それだけで、相手は安心するんだよ」

 しみじみと一之瀬が、そうアドバイスをする。
 それはきっと自分たちもそうだから。
 そんな一之瀬らしからぬ発言を聞いて、隣で土門がぷっっっと笑いを堪えている。

「まぁ、経験者は語るだな。なぁ、そろそろ『秋』のエサ、買いに行かなきゃならないんじゃないか?」
「秋のエサ?」

 土門の言葉に、円堂が首を傾げた。一之瀬にとって『秋』と言えば、雷門サッカー部マネージャーの木野の事だろう。でも、その『秋』にエサ? と円堂の頭の上にハテナ? マークが浮かんでいる。

「土門っっ!!」
「見せてやれよ、一之瀬。お前が可愛がっている『秋』をさ」
「可愛がっているって……、一之瀬、お前まさか浮気してるのかっっ!?」
「そんな訳ないだろっっ!!」
「でも……」

 珍しく顔を真っ赤にした一之瀬が、言い出しっぺの土門の背中を叩いている。痛たたっ、痛たたと言いながら、茶目っ気たっぷりの笑顔を土門は浮かべていた。

「ほら、百聞は一見にしかず。見せなきゃ、円堂が納得しないだろ」
「そうだ、そうだ! 俺、日本を出発する時木野に、一之瀬を頼むって言われたんだからな!!」

 結局、一之瀬は円堂に今可愛がっている『秋』を、紹介する羽目になったのだ。


   ■ ■ ■


 一之瀬の部屋には初めて入るんだなぁと、円堂は考えていた。
 一之瀬が玄関で照明のスイッチを入れると、奥の部屋から小さくパチャン、と言う水音が聞こえた。

「あれ? 今、水音がしたけど」
「まぁまぁ、入って入って」

 土門が円堂の背中を押し、奥のリビングに案内する。
 一足先にリビングに入っていた一之瀬が、中央のテーブルの上で何かに小さく囁いていた。

「あれが、今一之瀬が可愛がっている『秋』さ」

 そう土門に言われ、円堂は一之瀬の傍に近づいた。そして、そこに在るモノを見て、一之瀬が顔を赤くした訳がようやく分かったのだった。
 テーブルの上には30センチ四方の水槽が置かれていた。水槽の中では水の浄化装置がコポコポと小さな泡を吐き出し、ライトの柔らかな光に照らされて水草がゆらゆらと揺れている。流木の破片や川の中にあるような石、ちょっとした水棲植物の花が水の中に影を作る。
 その影から、ちらりと赤いものが見えていた。

「一之瀬、これ……」

 一之瀬が、水槽をコンコンと叩く。それが合図なのか、一之瀬の水槽越しの指に懐くように、それは綺麗な赤い金魚がすぃと近づいてきた。

「そう、これが『秋』だよ」

 確かにその金魚の色合いは、秋の紅葉を思わせる美妙な赤で彩られていた。

「そっか、金魚の事だったんだ」

 にやにやとしながらリビングの入り口で土門が口を開く。

「こいつさ、お前には声を聞かせてやれよ、なんて先輩ぶってアドバイスしてたけど、そう言う自分だってなかなか言い出せずに、ずっとこの『秋』相手に話しかけていたんだぜ」
「わっっ~~~!!!! 言うな! 土門!!」

 一之瀬の顔の赤さは、水槽の金魚と同じくらいに赤い。

「だって……、そう! 円堂なら分かるよなっっ!? 好きな相手がその場に居れば、ちょっとしたことでも話したい時があるって」
「ああ、まぁ……」
「でも、そーゆー事って、改まって電話したり、メールするほどの事じゃないことも多くって、ちょっと寂しくなったりしてさ」

 その気持ちは円堂にもよく分かるので、うんうんと頷く。

「そんなことが続くと、電話した時でも言いたい言葉がなかなか出てきてくれなくて、困ったり焦ったりして」

 あの楽天的な一之瀬でさえ本命の相手に対してはこうなのだから、不器用で晩生な円堂なら、それに輪をかけたようなものだ。

「でさ、その度に俺に愚痴る訳。なんで、秋がここにいないんだろって。毎回毎回だからアホらしくなって、それならペットでも飼って、そいつに愚痴れって言ったんだ」

 やれやれといった口調で、眉間に皺を寄せ肩を竦めたジェスチャで土門がぶっちゃけた。

「そっか、この金魚は木野の代わりなんだ」
「お蔭で、愚痴を聞く回数は減ったぜ。金魚の『秋』をダシにして、秋に言いたい言葉も言えてるしな」
「へぇ~、そうなんだ」

 コ、コホンと咳払いをして、一之瀬が口を挟む。

「実際の話、普段言いつけていない言葉を、本当に大事な相手にここぞ!! っていう時に、あがらず噛まずに言えるかって話だよな」

 ああ、それもそうだと円堂も納得する。
 歌だって、歌ったことのない歌は調子はずれの下手っぴでも、歌いなれれば上手に歌えるようになるだろう。

「そっか…。俺も、一之瀬みたいなペットが欲しいな」
「よし! 話は決まった。どうせ、『秋』のエサも買わなきゃだしな」

 こうして円堂は、一之瀬が金魚の『秋』を買ったという、ペットショップに行くことになったのだった。


  ■ ■ ■


「へぇ、ここがそのペットショップ? なんか、変わった作りだな」

 素直な感想を漏らす円堂。初めてこの店に来た時は、一之瀬もそう思った。この店を紹介してくれたのは親のビジネス関係の相手からだった。その相手曰く、この店で揃わないペットはいない、という触れ込みで。だから、どんな大きな構えの店なのかと思って来てみて、狭い間口の作りに意外さを感じた。それだけではない、普通のペットショップと明らかに違うのは、店の作りそのものにもあった。中国の後宮風の店の前に、趣向を凝らした鳥かごやケースが並び、その中にペット達がいる。その様子が、「商品」として並べられている普通の店比べ、まるで自分の家で寛いでいるように感じられたのだ。

「オーナーが中国人だから、インテリアも中国風なんだ。でも、品ぞろえの良さは間違いないぜ。それにオーナーは日本語も話せるから、色々注文を付けやすいし」

 そのオーナーに会えば、また円堂はびっくりするだろうなと一之瀬は思いながら円堂の背中を押す。

「いらっしゃいませ」

 中国風のドアが開くか開かないうちに、中から若い男性の声が聞こえた。声のした方に円堂が視線を向けると、年齢的には自分達とあまり変わらないか少し上くらいの若い中国人が、にこやかに微笑んで円堂達を迎え入れてくれた。

「なんか、凄い……」

 思わず円堂の口から、そんな言葉が零れる。そして小声で、一之瀬に訊ねた。

「なぁ、あの人が店の主人? 中国風の長い上着の服着てるからよく分らないけど、男? 女? どっち?」

 ああ、と一之瀬が曖昧な笑みを見せる。

「たいてい初めて伯爵を見た人間は、同じ反応するんだよ。俺もそうだったし。そう、この店の主人で男だよ」
「へぇ~、不思議な感じがする人だな」

 そんな会話をしている二人に、さらにニコニコとした笑顔を見せて伯爵と呼ばれた店の主人が円堂に話しかけてきた。

「カズヤの説明にはミスが一つありますね。私はこの店の主人ではありません。祖父が留守の間、店番をしている者です」

 円堂の顔を覗き込むように顔を近づけ、にっこりと笑う。肩の長さで切りそろえた真っ黒で真っ直ぐな髪がさらりとした音を立てる。円堂を覗き込んだ伯爵の瞳は薄墨色と金のオッドアイ。

「あなたは何をお探しですか?」
「あ、えっと……。一之瀬みたいなペットが欲しいなと思って……」

 中性的な妖しい美しさに当てられそうになりながら、円堂はモゴモゴと要望を口にした。

「金魚ですか? 水槽の中をゆらゆらと優雅に泳ぐ様は、本当に癒されますからね」
「円堂、お前そこまで俺の真似しなくてもいいんじゃないのか? 『秋』は秋のイメージにぴったりだったから、一目惚れしたけどさ」

 土門がまた『秋』にかこつけた、ノロケが始まったと言う表情を浮かべた。

「そうそう。で、俺も『秋』のエサを買いに来たんだ」
「ん? 少しエサの無くなり方が早いようですが……。エサをあげ過ぎると、肥満金魚になってしまいますよ」
「えっ? じゃ、これ、ちょっと太ってる?」

 慌てて一之瀬が携帯で撮った、『今日の秋v』フォルダの画像を伯爵に見せた。

「まだ、大丈夫です。それにしても『秋ちゃん』は良い色に染まりましたね。カズヤの愛情の深さが伝わってきます」
「そりゃ、なぁv あれだけ、愛してる大好きだよって『秋』に囁いていればな!」
「土門っっ!!」

 ここでも土門が一之瀬の秘密をバラしてしまう。

「うん、そーゆーのもいいなぁ、なんて思っちまって ―― 」
「おや? あなたにも大事な人がいらっしゃるんですね。遠距離恋愛中で、寂しさを紛らわせる相手が欲しいと」
「え、遠距離恋愛っっ!? えっと、恋愛というか、なんというか、昔からの友達だから、えっとっっ……」

 真っ赤になって焦る円堂の様子を伯爵は、まるで初めて恋をした弟を見る兄のような姉のような優しい笑みで見守っている。

「その様子だと、その人にはまだ『大事』な言葉は伝えていないのですね?」
「は、はい……」

 円堂の頭から、プシュゥゥーと湯気が出ているのが見えそうだ。

「その恋を成就させるには、どの子が良いでしょうねv アドバイスに長けた兄貴肌のオウムか、気まぐれな恋人の扱いのレッスンになる可愛い子猫か……。ゆっくり店の中を見て下さいね」

 伯爵に促され、円堂は店の中の動物のゲージを一つ一つ見て回る。どのペット達も可愛らしく綺麗で、あるいは凛々しさや格好良さを持ち合わせていて、なかなか決められない。そんな円堂が一つの鳥かごの前を通り過ぎようとした時だった。

「クワッッ、クゥゥー クックッゥ――」

 と言う鳥の鳴き声が聞こえてきた。びっくりしつつ、そちらに目をやるとオウムぐらいの大きさの尻尾の長い青い鳥が翼を大きく広げ、それを打ち振って輪を描くような素振りを円堂に見せる。時折、首を傾げ円堂の様子を窺うように透き通った琥珀色の瞳で見つめてくる。

( 青と琥珀色…、風丸の色だな )

 その鳥の様子に、円堂も何故か心ひかれた。

「……珍しいですねぇ。この子が、こんなにも人間に関心を示すなんて」
「この鳥、人に懐かない鳥なんですか?」
「ええ。プライドの高い鳥なので、自分からアプローチすることはないんですよ。体色がとても綺麗な青色なので、幸運のシンボルとして買って行かれるお客様もおられますが、余りにも懐かないものなので最終的には店に戻って来てしまうのです」
「あの、俺が飼っても大丈夫ですか?」
「それは、勿論! この子はとてもあなたを気に入ったようですv 教えれば、オウムほどではありませんが喋れるようになりますし、今のあなたにピッタリなお相手でしょう」
「飼い方とかは……?」
「その点も大丈夫。雑食で強健な鳥なので。ああ、たまに生肉とかあげると、喜びますよ。鷹とか鷲に近い種ですから」
「じゃ、お願いします!!」

 先ほどの一之瀬の、「一目惚れ」と言う言葉を思い出す。
 きっとこんな感じなのだろうと。

「では、すぐご用意しますから。あと、大切な取り扱いのご注意もですね」

 商談がまとまった伯爵が、いそいそとした感じで店の奥へと入って行った。


   ■ ■ ■


 一之瀬は金魚のエサを、円堂は凝った作りの鳥かごを持って、ペットショップ『D伯爵』の店を出た。

「なぁ、一之瀬。あの誓約書ってなんなんだろ?」

 それは円堂がこの鳥を買う時に伯爵から提示された書類の事だった。
 書類の文面には ――――

 一つ、鳥の世話は必ず自分でする事。
 二つ、絶対鳥かごから鳥を出さない事。
 三つ、帰国する時はこの店に戻すこと。

 以上の事が守れなかった場合、飼い主にいかなることが起ころうと当店には一切関わりのないことを記するもの也 ――――

「最初の一つは分かるんだ。でも、残りの二つがなぁ」
「それは多分、懐きにくい鳥だから、鳥かごから出したらすぐ逃げてしまうからじゃないのか? 自分のミスで逃がしても、そう注意書きしてなかったからと訴訟を起こすお国柄だからなぁ、アメリカって国は」

 と、円堂の隣を歩いていた土門が言う。

「そっか、そういう理由なら分かる! じゃ、一番分からないのが三番目だよな」

 口の中でブツブツと零す円堂の顔を見ながら、声を潜めるように一之瀬が告げた。

「……これはあの店のよくない噂なんだけど、どんなペットでも揃うって事は、実はヤバイ事もやっているって噂があるんだ」
「ヤバイ事?」
「ああ。ワシントン条約に引っかかりそうな動物を扱っているとか。だからかもしれない。検閲でひっかかるから」

 不正は許せない、真っ直ぐな気性の円堂である。
 その言葉を聞いた円堂は、また店の方に戻って行った。

「伯爵っっ!!」
「おや? 何か忘れ物でも?」

 軽く息を切らした円堂に、伯爵はそう声をかけた。

「この鳥、違反なのか?」

 すっと伯爵の目が細められる。

「いいえ、そんな事はありません。確かに珍しい鳥ですけど」
「じゃぁ、どうして帰国の際にはって……! 検閲に引っかかるからじゃないのか?」
「……その鳥の気性を良く知っているから、そう申し上げたのです。この鳥はこう見えても気性が荒く縄張り意識も強い鳥です。その反面、パートナーに対しては一途です。あなたが帰国すると言う事は、この鳥にとって大きく環境が変わると言う事。この鳥に取っては、良いことではありません」
「それで……」
「はい。あなたとその鳥の為を思っての事です」

 どこにも疾しさを感じない、優しい笑顔でそう説明され、円堂は心から安心した。

「ですから、国にお帰りの時は必ず、こちらに立ち寄ってくださいね」

 あらためて伯爵に見送られ、円堂は店を後にした。


   ■ ■ ■


 そうして、円堂とその青い鳥との同居生活が始まった。
 円堂は、その青い鳥に「カゼマル」と名前を付けた。

 一之瀬が『秋』にそう語りかけたように、円堂も『カゼマル』に毎日語りかけた。
 最初のうちは、朝起きたら「おはよう」とか「行ってきます」なんて言葉だったけど、だんだんとその言葉は、日本にいる風丸へ贈りたい言葉になってきた。

「俺の傍にいて欲しいんだ、風丸」
「風丸、お前が大好きだ!」
「……愛してる、風丸」

 円堂の語りかける言葉の数々を、カゼマルは嬉しそうに小首を傾げて聞いていた。不思議なことに、カゼマルが一番最初に覚えた言葉は「カゼマル」ではなく、「エンドウ」だった。円堂が言葉をかけると、その返事のように「エンドウ エンドウ」と言葉を返す。それは日本にいる風丸から、返事がもらえたような気持ちに円堂をさせた。

 そして ――――

 そんなカゼマルの様子に勇気をもらって、円堂は思い切って風丸に電話をかけてみた。今までの間にあった電話の回数なんて、ほんの数える程度で、それも何かの連絡絡みの事が多かった。「幼馴染」や「親友」だった頃なら、なんという他愛のないことも気軽に電話し合えていたのに、いつの間にか胸に抱えた想いの大きさの分、電話をかけるのが怖くなっていた。

 ル、ル、ルッ――

 電話のコール音。
 ドキドキする、胸の鼓動。
 カチャ、繋がった音がした。

「珍しいな、お前がメールじゃなくて電話してくるなんて」
「あっ、そのっっ……。今、電話しても大丈夫か?」
「ん、大丈夫だ。でも、本当に久しぶりだな、お前の声」

 円堂に取っても、風丸の声は随分と久しぶりだった。

「……ずっとお前の声が聞きたかった。でも時差とか、話題の無さとか、色々あって……」

 通話口の向こうで、クスリと風丸の笑う気配がした。

「じゃ、電話をかけるだけの話題が出来たんだな?」
「ああ! 俺、鳥を飼いはじめたんだ。そしたら、そいつ俺の名前を覚えたから、お前に聞かせようと思って」
「へぇ、飼い始めたってオウム?」
「いや、オウムじゃないけど、言葉を覚えるんだ。羽が青くて、琥珀色の目が綺麗な鳥でさ」
「ちゃんと世話、出来てるのか?」

 サッカー以外の事を円堂がすると、どこかで手助けをする羽目になってきた風丸が、いつものように心配してそう言う。

「ああ。こっちでの俺の大事なパートナーだもんな。ちゃんとやってる」

 通話口から聞こえた円堂の、「大事なパートナー」と言う言葉に、今の自分たちの距離感を感じた。日本とアメリカ、声は聞こえても手は届かないほどの距離 ――――

「……それでも心配だな。鳥の世話に手がかかって、お前の方が寝坊したり遅刻したりしていないのか?」
「それこそ、大丈夫!! こいつに「オキロ!エンドウ!!」って起こされるから。朝は、「イッテラシャイ、エンドウ」って送り出してくれて、帰ってきたら「オカエリ、エンドウ」って。寂しさが紛れていいんだ」

 風丸は円堂の話に、ちょっと気に障るものを感じた。

「ふ~ん。で、お前さっきから、こいつとかそいつとか言っているけど、名前つけてないのか?」
「……いや、あるけど。えっと、言ってもお前、怒らないか?」
「なんで、俺が怒るんだ?」

 口ごもったような感じの円堂に、逆に風丸が聞き返す。

「……鳥の名前、カゼマルってつけた」
「なんで、俺の名前っっ……!!」
「だって、ここには風丸いないからっっ!!」

 それは円堂の、偽らざる本心。
 言った方も聞かされた方も、通話口で真っ赤になっている。

「……はぁぁ、俺の代わりか」
「うん……」

 どんな気持ちで円堂がカゼマルに話しかけているのかと思うと、妬けるような嬉しいような奇妙な感じがした。

「寂しいのか? 円堂」
「うん、多分。時々……」
「俺も、お前がいなくて寂しい。寂しさを紛らわすために、いっぱい勉強してる」
「風丸はそーゆー所、真面目で頑張り屋だもんな」
「そういうお前だって、試合の度に頑張ってるじゃないか」
「へへ、ありがとう。風丸」

 あの頃の二人に戻って、まるで隣にいるかのようにたわいのないことを、楽しく笑顔を浮かべながら話し続ける。
 もう、どのくらい話し続けただろう? 

 チラリと風丸が時間を確認した。
 海外通話のため、サービスの利用方法によって通信料が高額になる恐れがある。それを心配したのだ。

「……電話、長くなっているけどいいのか?」
「えっ? もう、そんなに時間経ってる?」
「ああ、二時間くらいは話してるだろ」
「あ、本当だ!!」

 過ぎる時間も忘れるくらい、楽しい会話だったのだ。
 それが傍から見ればどんなに内容のないようなものであっても、ただ好きな人の声が聞ければ、それだけで心は満たされる。

「電話、ありがとうな。今度は俺から電話するよ。その前に、メール入れるからな」
「あ、うん! 俺、待ってるから!!」

 二人とも名残惜しげにそう声を掛け合い、ようやく通話を終わらせた。
 ふと心配になった風丸が通話料金を調べてみたら、やはりかなり高額になっていた。

 それから風丸は、心置きなく円堂とのテレフォン・デートを楽しむために、一之瀬に連絡してIT関係に疎い円堂の代わりにネット環境を整えてもらい、IP電話を導入させた。

( いつも側にいるカゼマルには敵わないけど、俺だってな )

 週に1回の割合で、円堂の迷惑にならない時間帯を選んで風丸の方から電話を掛ける。電話をかける口実は、いつも「カゼマル、元気にしてるか?」だった。

 日本とアメリカ、距離はとても離れているけど、二人の心はカゼマルの青い翼がしっかりと繋いでくれた。



 ==== 【2】 ====


「じゃあな、そっちもう遅いだろう? また来週かけるから」
「ああ。今日もすごく楽しかったぜ! おやすみ、風丸」」

 本当に楽しかったという余韻を声に滲ませて、円堂は就寝の言葉を伝える。いつだったか円堂が、風丸の声を聞いた後はぐっすり眠れる、とか言っていた。

「ん、おやすみ、円堂。明日の練習も頑張れよ!」
「ありがとう! 風丸もな!!」

 その声を最後に、ぷつっと通話は終わる。

「おやすみ、かぁ。こっちは時差が15時間もあるから、まだ昼間だもんな。俺も円堂の声を聞きながら熟睡したい」

 午後の白々しいほど明るい光の中、ぽふんと風丸は自分のベッドに身を投げ出す。話していた時はすぐ近くに感じていた円堂の存在が、ぱっと跡形もなく消えてしまう感じが風丸は嫌だった。その感じは、回を追うごとに強くなる。それでも、やはり週に1回の声のデートは止められない。

「……こういう事だったんだ。俺と円堂の関係って」

 円堂が日本を発つ時、鬼道に話した言葉は今でも変わりはない。

 ―――― 幼馴染で親友で、俺はあいつが好きで、あいつも俺の事が好きで。お互い言葉にするまでもない事。俺たちは一緒にいるってことで充分 ――――

「……離れてみないと、本当の所は分からないもんだな。あの頃も、円堂の事が好きだった。おそらく、幼馴染の親友の延長として。お互いの傍が、居心地が良くて ―――― 」

 あの時では、まだ早かった。若かった。
 自分の足でちゃんと立って、その上で円堂の傍らにいたいと思っていた。

「なぁ、知ってるか? 円堂。俺、大学でスポーツバイオメカニクスやってるんだ。お前さ、昔からめちゃくちゃな特訓してただろ? いつか、それじゃ無理が来るって思ってさ。そんな時に、力になれるようにって」

 トップアスリートと一流のトレーナー。
 どこまでも、夢のゴールを目指して。

 ……それなら二人、いつまでも一緒にいられるから。

( ああ、そんな理詰めじゃないんだ、この気持ちは!! )

 声だけを絆に、触れることも出来ない時間が風丸の気持ちを純化していた。
 ただ純粋に、円堂の存在が恋しかった。
 それは、円堂も同じだった。
 風丸に伝えた、「大好き」も「愛してる」もこの時間と距離の間で精製され、何物にもまして揺るぎ無いものになっていた。


 やがて、円堂のアメリカでのチーム契約期間は満了し、日本に帰ってくる日がやってきた。
 アメリカに旅立った時とは違い、帰国の連絡は風丸にだけ知らせていた。
 帰ってきたら真っ先に、風丸に伝えたいことがあったからだ。

 誰にも邪魔されずに、伝えたい ――――

 アメリカで、一人きりの夜にカゼマルを相手に、何度も何度も練習した言葉。
 カゼマルのお蔭で、テレフォン・デートの時に「大好き」や「愛してる」の言葉は伝える事が出来た。でも、この言葉は電話なんかじゃなく、ちゃんと相手の目を見て伝えるべき言葉だと思っている。

 だからこそ、円堂は願をかけたようにこの時まで、日本に帰省することはなかった。
 途中で会ってしまえば、もう気持ちを抑えることは出来ないだろう。
 風丸への想いは、そんな簡単なものではないと、強く強く戒めていた。

「お帰り! 円堂!!」
「ただいま、風丸!!」

 風丸はあの日のまま、時を止めて待っていたかのように変わらない姿だった。長い髪も、笑顔も。

「円堂は向こうに行っていた間に、随分と逞しくなったな」
「ああ、アメリカは肉食の国だからな。筋肉が増えた気がする」
「筋肉だけじゃなく、背も伸びただろ?」

 すっと風丸が円堂の横に並ぶと、ほとんど変わらないか、少し風丸の方が高かった身長が頭半分ほど追い抜かれていた。

「やっと、お前の身長を追い抜けたな」
「なんだよ、それ……」
「へへ、気持ちの問題だから」

 アメリカ時代の荷物は、捌ける分は現地で捌き、どうしても持って帰りたいものだけ荷造りをして、日本に向けて送り出していた。今は気楽な手荷物一つだけの帰り姿。

「この後、どうする? みんなに声をかけて、帰国祝いをやるか?」
「ん~、それは後日。その前に、俺行きたいところがあるんだ。風丸、付き合ってくれ」
「あ、ああ。構わないけど……」

 そう言って、二人は空港を後にした。
 円堂が向かった先は、あの懐かしい鉄塔広場。
 夕焼けが、辺りを暖かなオレンジ色に染め上げている。

「6年ぶりかぁ。変わってないな、ここも」
「ああ。ここもお前の帰りを待ってたんだろうな」

 人影はなかった。
 あの頃から、夕方になると急に人気のなくなる広場ではあった。

「なぁ、風丸。お前は10年前、ここで俺の手を取ってくれたんだよな」

 それは、円堂が雷門で本格的にサッカーを始める為に助力を願った時の事。陸上部のエースであった風丸は、その手を取ってサッカーの世界に足を踏み入れたのだ。

「10年か……。あっと言う間の気もする」

 くるりと円堂が風丸に向き直る。
 円堂の瞳に、夕日の光が差し込んで、瞳の奥でゆらりと炎が燃えているように見えた。
 今まで見たこともないほど真剣な表情をして円堂は、大きく息を吸い込んだ。

「風丸、これからの時を、これからの人生を、俺と一緒に歩んでくれないか!!」

 そう叫ぶように言うと深々と頭を下げ、両手を風丸の前に差し出した。

「……人生を一緒に歩んでくれって、それって ――――」

 差し出された円堂の手が小さく震えている。
 頭を下げた顔が赤いのは、夕日に照らされているからだけじゃないだろう。
 ぽろり、と風丸の頬を涙が伝う。夕日の光を反射して、どんな宝石よりも綺麗に煌めく。

 風丸が円堂からもらったその言葉は、風丸が一番欲しかった言葉――――  
 
「馬鹿野郎……、そんな風に手を差し出されたら、俺が取らない訳がないだろう?」
「風丸……」

 差し出された手を、風丸はしっかりと握りしめた。

「一緒に歩めば、俺達どんな遠くにでもいけるよな」
「風丸っっ!!」

 夕日の中で、二人のシルエットが一つになる。
 二人は初めて口づけを交わす。

 それは、二人だけの誓いの口づけ。


   ■ ■ ■


 円堂は一旦実家に戻ると、すぐに稲妻町の外れに庭付きの一軒家を借りた。

 この町に戻って、雷門中サッカー部の監督を引き受けた関係もあり、いつ生徒たちが訪ねてきても、すぐ指導できるようにと少し広めの庭のある物件を選んでいた。借りたのは古い洋風の家で、リビングにある両開きのガラス戸からすぐ庭に出られるのが決め手だった。その家に、今は円堂と風丸、それからこの6年間アメリカで円堂の友人であったカゼマルと暮らし始めた。

 風丸と一緒に暮らすと円堂が自分の両親に告げた時は、流石にびっくりした顔をされた。それでも相手が、幼い時から知っている自分の子どものような風丸だけに、強い反対はされなかった。風丸の両親の方も、この6年間の風丸の様子を見ていて、薄々は風丸の気持ちに気付いていたような感じだった。
 年頃の息子が恋人も作らず、週に一回幼馴染との長距離電話を喜んでいるとなれば、気持ちはもうそういう事なのではないかと。

 昔の仲間たちは、当たり前のように受け入れてくれた。

 全てが希望に満ちて、幸せな明日へのスタートを切った。
 二人とも仕事柄、朝はゆっくりできる。円堂はサッカー部の監督として普通は午後から雷門中に赴けばよく、風丸の方もスポーツジムのトレーナーをしているので、だいたいは早くても朝10時以降の出社で間に合っていた。

「おはよう、円堂」
「ああ、おはよう」

 同じベッドの上で朝、眼覚める。
 朝日の光の中、何にもまして大事な者の笑顔を間近に起きると同時に見られる幸せは、あの離れ離れの6年間があってこその至福の時。
 どちらともなく顔を寄せ合い、小鳥が啄むようなキスを交わす。
 その唇が離れるか離れないかのうちに、リビングの方からけたたましく ――――

「オキロッッ!! エンドウ! オキロ――――!!」

 かごの中で、ばさっばっさと羽を広げて羽ばたきの伴奏つきで、カゼマルが円堂を起こす。

「って、もう、起きてるっての!」
「円堂が顔を見せないと、ダメなんだろ? 目覚まし代わりには、本当にいい奴だな」
「ああ。でも日本に帰ってきてから、だんだんボリュームが上がってるぞ、あいつ」

 もう少し、こうしていたいなと言う気持ちを振り切って、頭をボリボリと掻きながら円堂はカゼマルの所へと歩いて行った。円堂の姿が見えたのか、途端にその鳴き声が変わるのが、風丸にも分かる。

「エンドウ、エンドウ、エンドウv」

 くすっと、寝室を片付けながら風丸が微笑む。自分と同じ名前だけに、どれだけ円堂の事が好きなのか、分かるような気がしたのだ。

「おはよう、カゼマル」

 円堂がエサをやっている隣から、そう風丸は声をかけた。その声は聞こえたはずなのに、プイッとカゼマルは顔を背ける。エサをやり終えた円堂がすぐ、風丸の横にやってきた。

「……なかなか慣れないな」
「カゼマルに取っては俺は、まだ余所者なんだろう。警戒してるんだ」
「そう言えば、カゼマルを買ったペットショップの人が言ってた。人には慣れにくい鳥なんだってさ。俺は何故か気に入られたみたいだけど」
「そうか。じゃ、円堂は特別なんだ」
「そうなんだろうな。すぐ慣れたし」
「俺にも慣れてくれたらいいな」
「大丈夫さ! 風丸は俺と一心同体なんだから、絶対慣れるさ!!」
「なっっ!! 朝っぱらから何言ってんだよっっ!」

 朝食の支度に掛かっていた風丸は、そんな円堂の言葉に顔を赤くした。

( あれ――? )

 ふと、風丸は何か見られているような感覚を覚えて、ぐるりと部屋の中を見回した。その風丸の視線が、ある一点で止まる。

( カゼマル……? )

 さっきは背けていた顔を今は風丸に向け、そのガラス質の琥珀色の瞳でじっと風丸を見つめている。その瞳の色は、円堂を見る時とは違うような気がした。


   ■ ■ ■


それからだった。円堂と二人で寛いでいる時などに、その視線を感じるようになったのは。

( なんだろう? 俺が気になるのかな? )

 鳥に限らず、犬でも猫でも新参者には警戒心を抱く。そうでなければ、野生では生きてゆけない。都会に暮らす動物でも、その野生の本能は残っている。

「円堂だけの時は、甘えたような仕草を見せるんだけどな。俺が円堂といる時と、俺だけの時ともまた違うし」

 円堂と一緒の時の視線は、突き刺さるように鋭い気がした。
 そして風丸一人の時は、まさしく鷹の目のような光を帯びて ―――― 

「……考えすぎるのは、俺の悪い癖だ。円堂があれだけ大事にして、可愛がっているペット。それ以上でも、それ以下でもない」
「ん~? 何か、言ったか?」

 玄関先で今にも出勤しようとしていた円堂が、風丸の呟きを聞き留め玄関から声をかけてきた。

「いや、なんでもない。あ、そうだ! 円堂。今日は傘持ってけよ。局地的豪雨の予想が出てた」
「え~、今は降ってないぞ」
「お前、東京でのここ近年のゲリラ豪雨知らないだろ? あまりに酷いと、傘なんて使い物にならなくなるけど、まぁ、お守り代わりに持ってけ」

 雨雲一つない空を見上げ、風丸に持たされた傘をちょっと不服気にブラブラさせながら、いつもより早めに雷門中に向かう円堂であった。


   ■ ■ ■


「伯爵、『秋』のご飯がそろそろ無くなりそうなんだ」

 練習の帰り、一之瀬は土門と一緒に伯爵のペットショップに足を運んだ。

「お久しぶりですね。最近はお見えにならないので、どうしたのかと思っていました」

 スイート好きの伯爵が、練習帰りで小腹を好かせている一之瀬たちにアップルパイとミルクティーをサービスする。

「いや~、流石に10年近く飼ってると、気を付けていてもかなり大きくなってしまって、エサの量を調整していたんだ」
「カズヤに『秋ちゃん』をお譲りして、もうそんなになりますか。どうです、最近の『秋ちゃん』は?」
「あv 見る? ほら、これなんだけどvvv」

 ニコニコしながら見せた画像には、もう金魚とは言えないくらい大きくなった『秋』が写っていた。細心の注意と愛情深く飼育された『秋』は、長期飼育の金魚にありがちの丸々と太ったデブ金ではなく、すらりとした体型に、長年の飼育で美しく分れた長いヒレを持つ、水中の天女のような金魚に育っていた。

「ほぅ、見事なものですね。カズヤの『秋ちゃん』にかける想いが結晶したようです。人間の秋ちゃんも、きっと美しい女性になっているのでしょうね」

 にっこりと微笑まれてそう言われた一之瀬は、顔を紅くしながら今の想いを告げた。

「ああ。俺も円堂を見習って、そろそろ秋にプロポーズしようと思っている」
「まぁ、それは! おめでたい事の二重奏v マモルも長距離恋愛のお相手にプロポーズしたんですね」

 手をパチンと叩いて、伯爵が嬉しそうに笑う。

「そう、ようやく、やっとだけど。一足先に日本に帰った円堂なんて、もう風丸と一緒に暮らし始めているんだから」

 やれやれと言った感じが拭えない土門は、この前写メで送ってもらった円堂と風丸の幸せそうな様子に、これからの一之瀬と秋の様子を思い浮かべしみじみとした表情になっていた。

「えっ? マモルはもう日本に帰った?」
「あ、そうか。伯爵は知らなかったんだな」
「……ええ。あの、それで、マモルの所にいたカゼマルは、カズヤかアスカが預かっているのですか?」

 そう、それは円堂がカゼマルをこの店で買った時の契約。
 円堂が日本に帰る時には、この店にカゼマルを返すこと。

「その事なんだけど、6年間一緒に暮らしたカゼマルを、アメリカに置いて帰るのはどうしても出来ないって言って、連れて帰ってしまったんだ」
「まぁ……」

 伯爵は頬に手を当て、困ったという表情を露わにした。

「そんなに、マズイ事なのか? 検閲で引っかかることはなかったみたいだけど」
「……引っかかる事はないでしょう。禁止項目などに登録されるようなありきたりな種ではありませんから。それでも ―――― 」
「伯爵?」
「契約の、残りの二つをきちんと守ってくれさえしたら、最悪な事態は避けられるのですが……」

 少し考え込むと、すぐに伯爵は一之瀬に言った。

「それでも、やはり心配です。私が日本に迎えに行きますから、その旨マモルに連絡してもらえませんか?」
「そこまでしないといけないモノなのか!?」

 伯爵の反応に、一之瀬も土門もびっくりする。
 たかが、鳥一羽のこと。
 わざわざ、アメリカから日本に行かなければならない事なのかと。

「……そう言えば、カズヤ達にはあの鳥の、特性を話していませんでしたね。あの鳥は、自分のテリトリーに侵入したモノを絶対に許しません。番(つがい)のパートナーを守るために、闘い続ける戦闘的な禽(とり)なのです」

 伯爵の、常とは違う雰囲気に、一之瀬は慌てて円堂の携帯を呼び出していた。


   ■ ■ ■



 朝の天気予報で言っていた局地的豪雨の様相を見せている、夕方近い稲光町。
 黒く厚い雷雲が、町の上空に低く垂れこめている。町名を見ても分かるように、この辺りは都内でも雷が発生しやすい特異点に当たるらしい。雨量は少なくても、落雷の数はかなりのものだ。
 風丸はスポーツジムの入っている建物全体のメンテナンスの為、今日は夕方前に自宅に帰り着いていた。

「……これは、降るな。降られる前に、帰って来られて良かった」

 ますます暗くなる空を見上げ、そう呟く。雲の上でゴロゴロと雷鳴が響き、雲の切れ間から紫色の雷光が閃く。玄関に入った途端、ドーン!! という音とともに雷が落ち突風が吹き始め、大粒の雨が道路や屋根を叩く。丁度その時、風丸の携帯が鳴った。

「はい? あ、俺」

 かけてきた相手は、円堂。

( そっち、もう降ってる? )
( ああ、丁度今、降りだした )
( うん、こっちもなんだ。この雨の勢いと雷とで、身動きが取れない。雨が小降りになったら子ども達を送りながら帰るから、少し遅くなる )
( ん、分った。気をつけて帰って来いよな )

 用件だけの、短い電話。
 パタン、と携帯を折りたたむ。

「大事な子ども達を預かっているから、監督業も大変だ」

 玄関を上がると、まだ夕方くらいの時間にも関わらず、室内は夜のように暗い。照明を付けようと、スイッチに手をかけた瞬間、物凄い雷鳴が轟き、一瞬だけ辺りが真っ白になった。

「うわっ! これは近くに落ちたな」

 一際雨足が激しくなり、分厚い雨雲に夕日は完全に隠され真夜中のような暗さになる。カチカチと何度かスイッチを入れ直しても、部屋の照明は点きそうにもない。

「停電か……。これじゃ、夕食の支度が出来ないな」

 そんな事を呟いた風丸の耳に、リビングの方から物凄い音がした。

「なんだっっ!? 一体!!」

 慌ててリビングに駆け込むと、両開きのガラス戸が全開になっており、激しい風雨が吹き込んでいる。

「……留め金が、緩くなっていたのか?」

 びしょびしょになりながら、ようやくの思いでガラス戸を閉める。その時、カラカラカラと風丸の足元に鳥かごが転がってきた。

「カゼマルっっ!?」

 思わずしゃがみ込み、それを良く見てみる。
 今の突風に吹き飛ばされたとしたら、中にいたカゼマルも無事ではないかもしれない。

 だが、鳥かごは空だった。
 落ちたはずみで蓋が開き、外に出たのか……。

「……まさか、外に?」

 閉めたばかりのガラス戸に顔を近づけ、豪雨に叩かれる庭に瞳を凝らす。
 激しい雨に、庭には大きな水たまりが出来ていた。庭木も強い風にあおられ、小枝が折れてガラス戸にピシピシぶつかっている。風丸はこの嵐の様相に、すっかり気を取られていた。

 ……だから、気づくのに遅れたのだった。


「 ―― !! ―― 」


 風丸は、自分の背後に立つ何者かの気配を感じた。

( マズイ! 空き巣か強盗!? )

 緊張感で、体が強張る。手は、かけたばかりのガラス戸の留め金を外そうとしていた。こんな天気でも、外に出ればそうそう風丸の足に敵う者はいない。そのタイミングを、どう図るかだ。

「 ―――――― 」
「えっ?」

 不審な侵入者が、なにか小さく呟いた。
 まだなにか口の中で繰り返していたが、ふいにその不明瞭な音が風丸の耳に届く。

「エンドウ、エンドウ……」

( この声は、カゼマル? )

 不思議さと不安と恐れの混じった思いで風丸は、思い切って振り返ってみた。
 ガラス扉越しに、庭先に落ちた雷の光がリビングを真っ白に照らし出す。

 その白い空間に、いたモノ。

「お、お前……、俺……?」

 青い髪、琥珀の瞳。
 自分と寸分変わらぬ、もう一人の『風丸』。
 その背には、大きな青い翼をひらめかせ ――――

 激しい雷光に照らし出された、幻想。
 風丸は、そう思った。

 真っ白な空間はすぐさま光を失い、幻想は闇に沈む。

( はは、そんな訳がない。俺がもう一人いるなんて、そんな馬鹿なっっ!! )

 心臓の動悸が激しく、呼吸が苦しい。
 頭から血の気が引く、そんな音が聞こえた。

「カゼマル ―――― 」

( えっ!? )

 暗闇から、風丸を呼ぶ声がする。

「キエロ」

 もう一度、今度は少し先の場所に雷が落ちる。
 ガラス越しに飛び込む雷光に照らされ浮かんだ光景は、風丸と同じ姿をしたモノが、風丸の喉元目掛けて鋭い鉤爪のついた禽の腕を伸ばすシーンだった。


   ■ ■ ■


「ふぅー、ああ、凄い雨だったな」

 神童達をそれぞれ家まで送り届けようやく帰宅した頃には、先ほどまでの豪雨が嘘のように上がり、雨に洗われた夜の夏空には、いつも以上に星が瞬いていた。

「ただいまー、風丸。今日の天気、お前の言うとおりだったぜ」

 そう言いながら玄関を開けた、その時だった。
 円堂の目の前を、青いモノがすぃっと翔け抜けていく。

「あっ? なんだ!? 今の!!」

 呆気に取られていると、リビングから慌てたような風丸の声が聞こえた。

「円堂、カゼマルが逃げた!!」
「え? じゃ、今の……」

 風丸の言葉に外に目を向ければ、さっき目の前を通った青いモノの姿はもうどこにも見えない。

「すまない、円堂。さっきの嵐で……」

 そう言いながら奥から出てきた風丸は、髪も解けびしょ濡れの姿だった。

「嵐がどうした?」
「リビングのガラス扉の掛け金が緩くなってたみたいで、突風で開いてしまったんだ」
「それで?」
「突風で鳥かごが吹き飛ばされて床に落ちて ――――」
「……かごから出てしまったんだな? んで、俺が玄関を開けたものだから、外に出てしまったという訳か」

 しまった! と言う表情をする円堂。

「雨も上がったし、俺 探してくるよ」

 そのまま外に出ようとした風丸を、円堂が引き留めた。

「ちょっと待て! お前、そのまま行ったら風邪をひくぞ!! それに考えてみたらあいつ、初めてかごの外に出たんだ。本当は、ずっと羽ばたきたいと思っていたのかもしれない」

 と、星が瞬く夜空を見上げる。

「……だけど、寂しいんだろ?」
「ああ、まぁな。長い付き合いだったからな」

 円堂の答えに、風丸は嬉しそうな柔らかな笑みを浮かべた。

「……戻って来るさ。あいつも円堂の事は、大好きなんだから。そしたら、今度は絶対逃げ出さないよう、頑丈な鳥かごに入れておこうな」
「風丸……?」

 円堂はそう言った風丸の言葉に、どこかひんやりとした響きを聞いたような気がした。

「疲れて帰って来たところ悪いんだけど、リビングを片付けるのを手伝ってくれ。もう、ひどい有様でさ」
「お、おお。いいぞ、手伝う!」

 そう感じたことは気の迷いと割り切り、円堂は先に家の中に入って行った風丸の後を追いかける。リビングを片付け、遅くなった夕食は外で取る。食事を済ませ、家に戻ると今まで違って、物音一つしない。

「……なんだか、やっぱり勝手が違うな」
「オカエリ、エンドウ! か」

 風丸がクスクス笑いながら、カゼマルの声真似をする。

「風丸……」
「……俺が、いつも円堂の傍にいるよ。お前を置いて、どこかに行ったりはしないから」

 風丸の円堂を見つめる瞳が、熱っぽく揺らいでいる。

「なぁ、今夜からは俺達二人っきりだな」
「か、風丸っっ!!」

 風丸の瞳の色が何を語っているか、もう分らない円堂ではない。

「ずっと、こんな夜を待っていた」
「……お前なぁ。もしかして、カゼマルにヤキモチ妬いてた?」
「さぁな?」

 余裕を含んだ声。
 玄関先で風丸は、円堂の唇を軽く啄む。

「風丸!!」
「続きは、なv」

 真っ赤になって咎めようとした円堂の声を振り切り、軽やかに家の中へと駆け込む風丸。敵わない、と言うような表情を浮かべて円堂も家の中に入って行った。


 その姿を街路樹の葉の茂った枝の上から、悲しそうに見つめる小さな青い影一つ。


   ■ ■ ■


二人とも、翌朝はかなり寝過ごした。
 いつにないほど情熱的な風丸に翻弄され、寝付いたのは早起き鳥がそろそろ朝を知らせようかという頃合いだった。
 ぐっすり寝入っていた円堂を起こしたのは、アメリカの一之瀬からの電話。

「ふぁぁぁ~、なんだよ。人が気持ちよく寝ていたのにさぁ」
「すまない! どうしても、お前に連絡を取ってくれって伯爵がっっ!!」
「伯爵が?」

 その名前に、円堂の隣で寝ていた風丸の体がピクンと身じろぐ。

「ああ、ちょっと代わるな」

 そういうと通話口の向こうで、人が入れ替わる気配がした。

「お久しぶりです、マモル。いきなりですが、カゼマルを買われた時の約束、覚えていますか?」
「あっ、悪い!! あれだけ懐いていたから、手放せなくてさ。日本に連れて帰ってしまったんだけど……。でも、あいつは日本でも元気にしてるぜ!!」
「元気に……。それなら、良ございます。申し訳ありませんが、直ぐにもカゼマルを引き取りに伺いますので、準備しておいてくださいね」

 伯爵の声は、今まで聞い事もないほど冷たい響きを帯びている。

「引き取りにって、アメリカからわざわざっっ!!」

 ビクリと風丸が体を竦ませ、シーツに包まってベッドの端に身を寄せる。

「……とにかく、間に合って良かった。良いですか? 私が行くまで、絶対カゼマルをその鳥かごから出してはなりませんよ」

 その言葉に、携帯を持つ円堂の手が震えた。

「……済まない、伯爵。昨日の夜、嵐が吹き荒れてリビングに置いていた鳥かごを吹き飛ばされたんだ。そのはずみに、カゼマルが外に出て……」
「逃げた?」
「ん。だから、アメリカから来てもらっても、もう引き渡せないんだ」
「そう…、そうですか……」

 すっと、伯爵の声から力が抜けたように聞こえる。

「……一つ、お聞きしても良いですか?」
「なんだ? 伯爵」
「マモルの恋人は無事ですか?」
「恋人? 風丸の事か? いや、いつもと変わりないけど」
「……分かりました。もう、結構です」

 その一言を残し、その電話は切れた。

「……なんだったんだろう? 今の電話」
「円堂……」

 小さな声で、風丸が呼びかける。

「どうしたんだ? そんな所で丸まって」
「うん…、いや、なんでもない」

 シーツから抜け出すと、裸のまま風丸は円堂の胸の中に飛び込む。

「本当にどうしたんだよ? 風丸」
「ううん。なんでもない。円堂の胸が温かいから……」
「おかしなやつだな。いつもと、変わらないだろ?」

 自分の懐に飛び込み、小さく震えているような風丸の背中を優しくなでてやる。

「なぁ、円堂」
「うん? なんだ、風丸」
「俺達、ずっと一緒だからな。お前が、繰り返し囁いてくれたように」

 そう呟いて、円堂を見上げた風丸の瞳はガラスのような透き通った琥珀色をしていた。


   ■ ■ ■


「……お返しします、カズヤ」
「円堂、なんて言っていた?」
「もう、あのカゼマルはいないようです」

 そう言う伯爵の声は沈んでいる。

「伯爵……」

 ふっと、伯爵は店の窓の外に広がる暗い夜空に視線を向ける。

「……気づかなければ、きっと幸せなのでしょうね」
「伯爵?」

 小さく頭を振り、この話はもうお終いと手を広げる。

「私が日本に迎えに行く必要は、もう無くなりました。さぁさ、まだパイもお茶もお代りがありますよ。どうぞ、食べて下さいね」
「あ、ああ。じゃ、もう一杯だけ」

 断りがたい雰囲気を感じて、一之瀬と土門はお代りをもらった。伯爵の呟きの意味が、とても重要な内容を含んでいるような気がしたが、それをあらためて尋ねることも出来ない。

 ぎこちなく、何事もなかったように過ぎてゆく時間。

「……青い鳥は、幸せのシンボル、か」

 ぽつりと、そんな言葉が一之瀬の口をついた。






 幸せの青い鳥。



 そう、あの青い鳥は、今 幸せなのだ ――――




  2011年06月08日脱稿




   === あとがき ===

このSSは、ホラー漫画「Petshop of horrors」とのクロスオーバーSSです。
普通の犬猫からワシントン条約に引っかかりそうな絶滅危惧種、幻獣・妖獣はては大昔の絶滅種までペットとして提供する、超次元的なペットショップが舞台です。

中には人間を捕食するものもいますが、やはり「ひとでないモノ」である伯爵とっては約束を守らなかった人間に、どんな災厄が降りかかろうが、責任を負うことはないとあっさり切り捨て。
後半部分は、ある意味ホラーです。
まったくの私的趣味全開で、イナイレ見ている人のうち何人くらいPetshop知っているかなぁ~ なんて^_^; 
新の方じゃなく、無印の方の設定を使っています。

ホラーのまま終わるのは、風丸くんが可哀想なので救済編書きました^_^;



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Date:2012/03/13
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