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□ GOっ子達の色んな話 □

味方はいつもそばにいる

「太一! 太一!! 前半、リードしてるじゃない!! 後半も頑張ってね!」

 ホーリーロード地区大会一回戦、勝敗指示に反抗の意を示した神童のシュートで、2-0で地区予選初戦敗退であった雷門中は0-1とリードしたまま、ハーフタイムに入った。

 内申を引き合いに出され、フィフスセクターの勝敗指示に従うつもりだった三国は、この事態にどう対処したものかと考えていた。そんな三国の耳に飛び込んできた声。

 ……それは、ここにいるはずのない母の声。

「どうして……?」

 声がした雷門ベンチ後方に目をやれば、フェンス越し嬉しそうに手を振っている母の姿。三国はその姿を見つけると、慌てて駆け寄り小声で問い質した。

「母さん、今日会社は? 俺は来なくていいと言っただろ!?」
「太一、あんたが恥ずかしいのは分かるけどさ、あんたにとっては中学最後の大会でしょ。私にとっても最後なんだから、応援に来たいと思うのは当たり前じゃない?」
「でもっっ!!」
「中学に上がってからと言うもの、本当に恥ずかしがり屋になって、去年も一昨年も試合のスケジュール教えてくれなかったから、私は一度もあんたの応援にいけなかったんだよ?」

 三国の母はほんの少し頬を膨らませ、その時の事を思い出したのか悔しそうな残念そうな表情を浮かべる。そんな母を見て、三国は胸の内で苦々しく呟く。

( ……言える訳がない。応援してもらう訳にはいかなかったんだ。俺達、八百長をやっているんだから…… )

 それも、進学に有利な内申をもらうため。
 母子家庭である三国が、母の経済的負担を減らしたいと考え進学先に選んだ高校は、学費免除の特待生になるのに内申の比重が大きな学校であった。

「だからさ、今年はちゃんと前もってスケジュールは調べてあるの。試合日に合わせて、有給ももらってあるしね。会社の皆も、今年こそは優勝だねって言ってくれてさ。試合会場には行けないけど、応援してるからって」

 と、にこにことした笑顔で話す。母の顔が明るい分、その顔をまともに見れない疾しさに否が応でも気付かされる。

 いや、いつも忘れた訳ではない。
 ただ、見て見ぬふり、気付かない振りをしていただけだ。

「……どうしたんだい? 太一。あまり、元気がないみたいだけど……」

 心配そうにフェンスぎりぎりで覗き込もうとする母の視線を避けて三国は、当たり障りのない言葉を返した。

「あ、ああ、大丈夫。大きな大会の初戦だけに、やっぱり緊張するみたいだ」

 そう言って、無理に笑って見せる。
 母の顔が、ほっとしたようにフェンスから離れた。

「何言ってるんだい! お前は三年生でGKなんだから、どん!! と構えて一・二年生を安心させてやらなくちゃ!」

 そう言って、三国に発破をかける母に、弱弱しい笑みをを見せてぽつりと言葉を零す。

「出来るかな、俺に……」
「太一……」

 今まで見せたことのない息子の表情に、三国の母は何かを感じた。

「大丈夫! お前なら出来るさ、三国!!」

 背中を大きな手でバシンと叩かれ、明るく元気な力強い声でそう肯定される。

「監督……」
「神童達が、お前を待ってるぞ。早く、行って来い」
「はい、分りました」

 三国は母に向かってじゃ、と手をあげ不穏な空気が漂っているチームメイトの元へと駈けだした。

「あの、円堂監督……」

 円堂もそちらの方へ行こうとした時、三国の母に呼び止められた。その瞳には、子を思う慈しみの色。

「なんですか? 三国くんのお母さん」

 いつもの人懐っこい笑顔と、大人になってもまだどこか幼さの残る声で問い返す。

「……太一は、いえ、今あの子たちはサッカーを楽しんでいるんでしょうか?」
「なぜ、それを?」

 円堂の表情が、ピクリと動く。

「……中学に上がってから太一、サッカーの話を一切しなくなりました。小学校の頃まで、それはもう毎日楽しそうにサッカーの話をしていた子がです」
「……………………」
「年頃の男の子が、だんだん母親と疎遠になるのは仕方がないと思っていました。だけど、本当にそれだけが理由なんだろうかと思ってしまって……」
「お母さんが、そう思われた理由はなんですか?」

 円堂の瞳にも、真剣な光が浮かんでいる。

「理由は円堂監督、あなたです」
「俺?」
「はい。太一に取って『円堂守』、監督あなたは神のような存在なんです。あの子はあなたに憧れて、あなたの様になりたくて、GKのポジションを選んだんです。キーパーのポジションを任された時のあの子の喜びようを、私は今でもはっきりと覚えています」
「お母さん……」

 三国の母は、じっと円堂を見つめる。

「それなのに、あの子はあなたが雷門サッカー部の監督になった事を、家で話したことがありません。『円堂守』こそが、あの子のサッカーの原点なのに!!」

 ……子どもがどれだけ親を慮って嘘をつこうとも、親には分かってしまう。

「……だから、俺が来たんです。もう一度、あの頃の『楽しいサッカー』を取り戻すために」
「円堂監督……」
「見ていてください、お母さん。三国の顔の上に、いや、あいつ等の顔の上に『サッカー馬鹿、上等!!』って笑顔を浮かばせてやりますから!!」

 三国に、『大丈夫!!』と言ったのと同じ強い言葉の響きでそう言い切る。三国の母と円堂の間に、子どもを核とした協力の絆が生まれる。それは、今の理不尽な体制に苦しめられる子ども達を救う網となる糸の一本。

「それじゃ、俺もあいつ等の所に行きます」
「はい。お願いします」

 三国の母の眼には、円堂に対する信頼の光が浮かんでいた。


   ■ ■ ■


「どうするつもりなんだよ! 神童!! 一度ばかりか、二度までもフィフスセクターの勝敗指示を無視して! 今度こそ、雷門サッカー部は潰されるぞ!!」

 そう厳しい口調で神童を糾弾しているのは、意外な事に三年の南沢ではなく二年の倉間だった。

「……言ったはずだ、倉間。俺はこの試合、勝ちに行くと」

 一触即発な雰囲気を漂わせる神童と倉間。

「……キャプテンのくせに、部員の不利になることしていいと思っているのか? 神童」

 倉間の横にそう言いながら南沢が立つ。

「でもっっ!! おかしいですよっっ! フィフスセクターの言う事さえ聞けば、内申が上がるってやり方は! それじゃ、一生懸命頑張る意味はどこにあるんですか!?」

 天馬は神童の隣で、そう声を大に雷門のエースストライカーの言葉に食ってかかる。部員の中で、一番内申を重視し、この体制を受け入れるべきだと割り切った事を言っている南沢。だけど、サッカー歴の浅い天馬でも、雷門のエースとなるのは並大抵の練習ではなれないと分かっている。入学式のすぐ後の、雷門サッカー部崩壊の危機の時でさえ、南沢はサッカーを止めなかった。

「……意味などない。いまどき一生懸命に頑張る奴なんて、馬鹿もいいところだ」
「そんなことないよ! 頑張らなきゃいけない時に頑張らなかったら、きっと後で悔んじゃうと思うよ!!」

 信介も天馬と同じ意見だ。二人、顔を見合わせ頷きあう。

( ……今じゃないかもしれない。でもどこかで南沢先輩も一生懸命に練習して、ここにいるんだ。その頑張りを、自分の口で無いものにしていいんですかっっ!? )

 心中で、そう呟きながら。

「って言っても、頑張る事でフィフスセクターに逆らう事になってサッカー部潰されたら、部活での内申や推薦受けられなくなっちゃうでしょ。それって、三年生だけじゃなく、僕ら二年生も困る訳で……」

 ぼしょぼしょと速水が、神童と倉間の間で困惑している。

「なぁ、浜野。お前はどっちだ?」
 
 その速水の後ろに立っていた霧野が一言、隣の浜野に声をかけた。

「どっちって、どっち?」
「勝ちたいか、負けたいかって事だ」

 う~ん、と浜野が珍しく頭を捻っている。普段、何か聞かれてもその問いには、問う相手の希望のようなものが含まれている。それを浜野は「いーんじゃね?」とか「そーなんじゃね?」と軽く肯定して、その場をしのぐような所がある。だから、この問いのように先に自分の答えを求められると、躊躇してしまうのだ。

「ん~、どっちも同じじゃね? 勝てば間違いなく勝敗指示に逆らったと言う事で、廃部にされっだろうし、負けても1点取った後だから、やっぱ逆らったと言う事になるんじゃね?」
「そうか。このままだと、負けても廃部なんだな。じゃ、俺はこっちだ」

 そう言うと霧野は、すっと神童の後ろに移動した。そんな大会初戦のハーフタイム中に部員が二つに分かれるような危機的状態を目の当たりにして、三国は頭を抱えた。
「何をしているんだ! お前たちはっっ!! 今は試合中だぞ!」

 三国の一喝が飛ぶ。
 三国も十分、キャプテンの資質を持っている。本来なら、昨年の大会が終わった時点で、キャプテンになるのは三国の筈であった。だが三国は、神童の才能を高く買い、自分たちの代では出来ないだろう部の変革を神童に託したのだ。

 その変革の願いは、管理された中学サッカー界の中でも、サッカーへの熱意と愛情を忘れないサッカー部であって欲しいとの想い。

「そうは言ってもな、三国。直接俺達に関わってくることだぞ、この試合の結果は」
「そうだど。俺達の中では三国、お前が一番シビアな筈だど」

 後輩たちの諍いに参加していなかった車田と天城が、三国にそう言葉をかけた。

「ぐっっ……。それは、そうだが……」

 神童は勝ちに行くと言う。
 一旦、そう言いだしたら言葉を翻すことはないだろう。それほどに、神童のサッカーへよせる想いは強く熱い。だからこそ、三国はまだ一年生であった神童に、キャプテンマークを譲った。

 噴出しそうな、マグマのようなものを感じる。
 この体制に対しての憤りが、指示を無視した神童への怒りのような形で現れそうな気がして。

「なぁ、お前ら。どーして正々堂々と戦ってそれで勝ったのに、なんで廃部にされなきゃならねーんだ?」

 膠着しかけていた空気に、能天気にも聞こえる明るい声が割り込んでくる。

「監督……」
「円堂監督!」

 にこっとしたその笑顔。
 そこにいるだけで、大丈夫だと思える安心感。

「俺、監督するのも初めてなら、管理サッカーっていうのも初めてなんだ。で、どーやって廃部にする訳?」

 真顔で円堂は部員全員の顔を見回しながら、そう尋ねた。
 憤懣やる方ないといった表情を浮かべて神童が、授業で指名され解答を述べるように口を開いた。

「……最初は、顧問や監督の入れ替えです。久遠監督から円堂監督に変わったように。本来なら、ここでフィフスセクター直属の監督が派遣されてくるのですが……」
「うん、それで?」
「それから、あの剣城のようにフィフスセクターから派遣された複数のシードがサッカー部に入部します」
「ふむふむ、そして?」
「複数のシード達が、その監督の下で通常では考えられないレベルの練習を部員たちに強います。その結果、怪我をするもの・潰されるもの・それを恐れて退部するもの・フィフスに従属するものとに分かれます」
「なるほど。廃部にする場合は、元からいた部員を全員追い出して、そこでお終いにしてしまう訳か」

 神童の言葉に真剣な顔をした円堂を、周りの部員は不安そうな顔で見ている。

「なんだぁ、その不安そうな顔は! 安心しろってば!! まず、俺はなにがあっても雷門の監督を止めない。だから、フィフスセクターから代わりの監督が来ることもない!」

 はっきりと、そう言い切る。

「複数のシードが送り込まれても、監督は俺だ。そいつらの言いなりになるわきゃ、ねーだろ? 試合には使わないし、練習も別にやってもらうさ」

 円堂の言葉を聞いていると、自分たちが重く受けてめていたことがそうではないのかもしれないという気になってくる。

「……でも、そのシード達が妨害工作に走ったらどうなるんだ?」

 ベンチに座ったままの剣城に視線を走らせ、南沢がぼそっと不吉な事を言う。

「まぁ、それも雷門の伝統だからなぁ。大丈夫、大丈夫。なるようになる、一生懸命頑張れば、悪いようにはならないもんさ」
「……伝統って、聞いてませんよぉ、僕達」

 物事をネガティブに考えがちな速水が、さっそく顔色を変えている。

「何が伝統なのか、天馬知ってる?」

 なんとなく流れが変わってきた雰囲気を読みながら、信介が小声で天馬に尋ねた。

「う~ん、俺も良く知らないんだけど、秋姉から聞いた感じだと、なんだか色々あったみたいなんだ」
「色々?」
「そう、色々。最初は五十年前の初代の雷門イレブンの時の事で、決勝戦の試合会場に向かう途中で、バスが事故って結局不戦敗をしたとか。でも、その事故が実は雷門イレブンを狙った意図的なもので、結局それが原因でその後四十年に渡って雷門中にはサッカー部が無かったとか」
「……雷門って、そんなに長くサッカー部がなかったんだ」

 今や全国的にサッカーの名門校としてその名を轟かせている雷門。
 が、意外やその歴史は長い空白期間を挟んだものだった。

「ああ。今の雷門サッカー部は円堂監督が雷門中に入学した時に立ち上げたもの。そうですよね、監督」

 信介と天馬の会話が耳に入ったのか、そう神童が言葉を挟む。

「そうなんだよな。俺、雷門にサッカー部が無いなんて知らなくてさ、びっくりしちまったよ」
「……監督、そーゆーのって間抜けだと思いません?」

 倉間が円堂を下から馬鹿にするように見上げてくる。

「俺のじいちゃんが雷門サッカー部の監督だったからさ、サッカーやるなら雷門だってずっと決めてたんだ」

 懐かしい話を、子どものような表情で話す円堂。その表情は、入部届を出しに来た天馬と似ていると神童は思った。

「で、さ! ないなら、作ればいいやって思って作ったのが、今 お前らがいるサッカー部って訳」

 にこっと笑う円堂の顔がまぶしくて、それと同時に自分たちがしていることが後ろめたくなってくる。昔の話だったとしても、同じ中学生。ここで、雷門でサッカーをやりたくてやりたくて、その情熱のままにゼロからスタートした円堂。

 それに比べ、『無くすこと』を恐れている自分たちは……

「最初は俺とマネージャーの二人で立ち上げて、それから二人俺と同じ1年生の部員が入ってくれて……」

 思い出を語る円堂の顔は、大事な宝物を披露する子どもの様に少し紅潮している。

「いつでも、廃部の危機にあったと秋姉に聞きました。理事長代理からしょっちゅう、廃部・廃部と言われ続けていたって」
「あはは、まぁ、そんな事もあったけなぁ」

 円堂は頭に手をやり、楽しそうに笑う。

「それだけじゃないですよね? あの頃一番強かった学校が、急に練習試合を申し込んできて、かなり無茶苦茶な事をして帰って行ったとかも聞きました」
「うんうん、あの頃のあいつ等ってかなりヤバかったからな。俺が2年になってもサッカー部の部員は、新しく入部してくれた1年生の4人を加えても7人しかいなかったんだからさ。そんなサッカー部に、昨年全国大会優勝校が練習試合を申し込んでくるんだぜ? 無茶苦茶だよな。おまけに、その試合に負けたら理事長代理からは有無を言わせず、サッカー部を廃部にするって宣言されてたし」

 それでも、そんな事までも、今では円堂の中でなにものにも代え難い『宝物』。

「……7人って、まともに試合できる訳がない」

 ぼそっと神童が呟く。

「ああ、そうさ! 今までまともな試合どころか、練習さえままならなかったから、そうやって試合を申し込まれたのがメチャクチャ嬉しくてさ。なにがなんでも、その試合をしたくて、学校中かけまわって助っ人を集めたんだぜ」

 助っ人で、練習さえままならない状態で、初試合。
 それも、昨年の優勝校と!?

 神童もサッカー部キャプテンとしてサッカー部の歴史は聞いてもいたし、知ってもいたつもりだった。創成期の頃には色んな大変さが付きまとうものだと、しみじみ思ったりもした。だけど、ここまでだとは……。

( 俺は、雷門は今の雷門たるべくして最初からあったと思っていた。その練習試合にしても、雷門にそれだけのポテンシャルがあると判断されての事だと )

 この辺りの帝国が絡んだ事柄は、先の先代雷門イレブンの事故の件やその後の事件とも関連がある為、極秘裏にと後年のサッカー部員には伏せられたままの事実だった。

「……戦う前から結果が分かっている試合じゃないか。やるだけ無駄だ」

 腕を組んだまま、南沢が言い捨てる。
 その言葉に円堂は指を立ててチッチとふり、それから部員に向かって手招きをして、自分の周りに集めると、声を潜めて話を続けた。

「いいか、お前たち。ここからの話は、オフレコだぞ? 過ぎたことではあるけど、やっぱり外に聞こえたらマズイ話だからな。練習試合に来た奴ら、挨拶代わりにまず、校舎の一部を壊したんだよ。そうやって俺達を威嚇してから、試合を始めてさ。そりゃ、もう鬼の様に強かった! 全国優勝は伊達じゃないっっ!! 皆、立っていることも出来ないくらいボロボロにされて、点数もバカバカ入れられて、誰の眼にも俺達の負けは決まってたんだ」

 負けが決まった試合 ――――

 それは、この試合も同じ。
 だけど、円堂の言葉を聞いて感じるこの胸の鼓動は、ドキドキする高揚感は一体 ――――

「俺達は最後の最後、無敵を誇った相手のキーパーから1点をもぎ取った。試合の残り時間は、余り残っていなかった。俺も、他のみんなもボロボロのメタメタ。次の一点を取るだけの力はもうない」

 みんながごくりと、円堂の話の続きを待っている。

「相手は試合時間を残して、試合を放棄した。不戦敗ということで、自分たちの負けで良いと言い捨ててな。そうしたら、理事長代理も勝ってはないけど、負けてもないから、廃部は免除するといってくれて……。そこからなんぜ、お前たちのサッカー部はっっ!!」

 ぱぁぁと、円堂の顔がこれ以上はないと言うほどに輝く。

 廃部廃部と言っていた理事長代理が、いつしかサッカー部のマネージャーとなり、チームオペレターとして力を尽くしてくれたり、無茶な練習試合を申し込んできて校舎を壊したり、部員をボコボコにした相手チームのキャプテンが雷門に転校してきてチームの司令塔になり、今では円堂の10年来の親友である。

( ……お前たちにも手にして欲しい。いま、その時じゃないと出来ないことがある!! お前たちが中学時代のサッカーを振り返る時、そこには灰色の思い出しかないなんて、俺は絶対嫌なんだ!! )

 それは円堂の、偽らざる熱い想い。


   ■ ■ ■


「天馬―っっ!!」

 雷門ベンチ近くの応援席から、天馬を呼ぶ声がする。

「あっ、秋姉!!」

 座る場所は変わっても、あの頃のマネージャー時代の面影を残して、応援席から元気な声をかけてくる。

「あの人、松風の知り合い?」

 浜野が秋の姿を認めながら、天馬に尋ねる。

「うん、俺がお世話になっているアパートの管理人さんで、親戚のお姉さんなんだ」

 そう浜野に答えながら、改めて秋の姿を見直してみると、その両側に……

「あれ? いつの間に帰って来たんだろう? カズ兄」

 と、首を傾げる。その天馬の様子につられるように、浜野もまた秋の姿を見直し、その両隣に座っている人物に気付く。

「あ~っっ!! あれっっ!!」
「なんだよ、浜野うるさいぞ」

 もともと悪い目つきを更に眇め、倉間が浜野の横腹をつつく。

「だって、あれ! なぁ、あれって、アメリカのプロチームにいる一之瀬と土門だろ!?」

 騒いでいる二人に気付いたのか、土門は控えめに、一之瀬はいつものようにすちゃっと効果音が聞こえそうなさわやかな笑みを見せた。

「おっ、一之瀬達も応援に来てくれたのか!」

 嬉しそうな声を上げる円堂に、つんつんとジャージの裾を引っ張って霧野が問いかける。

「……監督の顔の広さは知ってますが、なんでアメリカのプロ選手がわざわざ中学生の大会なんて見に来るんですか?」
「なんでって、そりゃまぁ、一応あいつらも雷門イレブンOBだし」

 その隣で、速水があちゃ~と言う顔をしている。

「どうしたんだ? 速水」

 と、その表情に気付いた車田が声をかける。

「なんでウチのお母さんが来てるんだよぉ……」

 しゅんと速水のツインテールが項垂れた。

「負ける試合なんて見せたくなかったから、今日の事は教えてなかったのに」

 その呟きが三国の耳に入る。

( そうか、みんな同じだよな。嘘をついている自分の姿は、大事な人には見せたくないからな )

「げっ! ウチのかあちゃんもいる!!」

 車田からも同じような言葉が飛び出した。

「オラもだ」
「………………」
「あれ~、なんで俺の母ちゃん、あんなところにいんの?」
「ば、バカ!! 来なくていいって言ったのに!!」

 異口同音に、部員の口からそんな言葉が飛び出してきた。

「あっ、俺の母さんもいたよ、天馬!!」
「良かったな、信介! 目いっぱい頑張って、良いところ見てもらおうな!!」

 一年生二人は手を取り合って、微笑ましくそう声を掛け合っている。
 なぜかこの初戦、雷門イレブンの皆には、それぞれ家族か近しい人の応援がついていた。
 それは秋を中心に、ほぼ固まって座っている。その端に、ぽそりと座っている人影が ――――

「あれ? あれは、確か ―――― 」

 その姿を、三国が目に捉える。恰幅の良い年配の男性と、鋭い雰囲気の若い男。

「ああ、雷雷軒のオヤジさんと兄ちゃんだ」
「あそこの兄ちゃんは、オラが落ち込んでいる時はいつもラーメン大盛りにしてくれるぞ」

 そんな会話に円堂の顔がまた綻ぶ。

「お前たちも部活帰りは雷雷軒か!? 飛鷹は見た目おっかないけど、良い奴だもん。響木のオヤジさんも、良い二代目が出来て安心だな」

 円堂は応援席に向かって、大きく手を振った。
 その応援席では ――――

「ありがとう、目金さん。試合スケジュールを前もって教えてくださって。去年も一昨年も応援に来たかったんだけど、予定を教えてもらえなくて、都合がつかなかったのよ」
「いえいえ、こんなことくらいお安い御用です。雷門イレブンOBとしては、今年は是非とも優勝をと願ってますしね。どうせなら、選手の保護者のみなさんと応援ツアーと洒落こんだ方が楽しいじゃないですか」

 と、選手保護者たちの前で、眼鏡の縁に手をかけながらポーズを決める目金。

「本当に、自分一人だけだと応援も遠慮しがちになるけど、こうして皆さんとご一緒なら力いっぱい応援できますね」
「雷門中で行われる試合以外は、こうしてお弁当付きのバスツアーを組みますから、どうぞ皆さんお気軽にお申込みください。決勝戦まで、バッチリご案内させていただきます」

 そんな言葉で締めくくりながら目金は、仕出しのお弁当のケースを抱えていた虎丸にウインクで合図する。
 なかなか抜け目のないOB達であった。


   ■ ■ ■


 そろそろハーフタイムも終わる。
 雷門の選手たちには、ハーフタイムに入った時の、仲間に対しての刺々しさはない。勝ちに行くと決めた選手たちは、それなりに引き締まった表情をしており、そうでない選手たちは親しい人たちの姿を前に、大きな困惑を抱えているように円堂の眼には映った。


 指示に従うべき、否か ――――


 円堂が感じた選手たちの困惑を、いち早く察知したのは応援席の秋だった。秋は、応援席からすっと立ち上がると、掌をメガホン代わりに大きな声でエールを送る。

「ら~いも~ん!! ら~いも~ん!! ら~いもん!!」

 その声に合わせて

「雷門! 雷門!!」
「雷門、雷門!!!」
「雷~門っっ!! 雷門っっ!!!」

 辺りに轟く雷門コール。
 声が、波動が、びりびりと選手たちの体を震わせ、心を震わせ、魂を揺さぶる。

「なんだよ、これ……」

 一人ベンチに座っていた剣城でさえ、胸の動悸が早まるのを感じた。

「監督、これは……」

 皆が円堂の顔を見る。

「お前たち、お前たちはサッカーの試合を自分たちだけでやっていると思ってはいないか?」
「えっ? それは、どういう事ですか……」

 円堂はすっと、自分の目の前にいる11人の選手を指さし、それから応援席を指さした。

「12人目の選手の事をお前たちは忘れているだろう? お前たちのプレイを応援してくれているあの人たちを!!」
「あっ……」

 皆が一瞬、息を飲む。

「さぁ、後半戦が始まるぞ。思いっきり行って来い!!」

 監督の声に、皆が一斉にフィールドに散らばる。フィールドに入る直前、南沢が三国に問う。

「……お前は、どうするつもりだ」

 もう、三国の心に迷いはない。

「ああ。俺も勝ちに行く!! 天河原にゴールは割らせない!」
「良いのか、お前それで……」
「折角応援に来てくれた母さんの前で、恰好悪いところは見せたくないからな」

 ふっと、呆れたような諦めたような笑いを南沢は浮かべた。そして ――――

「分かった。俺の背中はお前に預ける、しっかり守ってくれ。その代り、点は俺が取ってやる!」

 三国の顔にも笑みが浮かぶ。

「よし! 任せたぞ!! 雷門のエースストライカー!」

 その声を聞きながら南沢はセンターサークルに、三国はゴールマウスに向かう。

「先輩!! 後半も頑張って、絶対勝ちましょうねっっ!!」

 天馬の声が広いフィールドに響き渡る。


 まずは、勝ちに行く ――――


 それからの事は、それからだ。
 円堂の言葉を、信じてみよう。
 12人目の仲間がくれる力を、信じてみよう。


 きっと、なんとかなる!!


 部員みんな心の中に、そんな風が吹き抜けた ――――   



  2011年07月06日脱稿




   === あとがき ===

天河原中との試合、三国くんたちフィフスセクターの勝敗指示に従うといった子たちの心境の変化を書いてみました。
この子たちって、「自分たちだけ」って気持ちが強すぎて、もっと周りの大人や人たちを頼ってほしいなぁと思うことがあります。
ま、相変わらず妄想100%なので、今日の放送が入る前にどうにか投稿したいと思った一文です。
今回、頑張ってチームの子みんなにしゃべらせてみました♪ 
マネージャー達まで入れられなかったのは、ちょっと残念です。

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Date:2012/03/15
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