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□ イナGOでもしも… シリーズ □

その男、不動明王


「相変わらずの八百長試合でも、こりゃひっでー試合だな」

 万能坂中との試合を、観客席で見ている若い男。
 鋭い目つき、アクのあるそれなりに整った顔立ち。年齢的には二十代前半か? ラフな身なりで、それでも目の前で繰り広げられている試合内の些細な点の一つも見落とすまいと、その鋭い眸を凝らしている。

「まぁ、俺も真帝国時代にやったけどさ、相手の足を潰しにかかるプレイは」

 だから、判る。
 今の万能坂の磯崎と言う選手がかけたスライディングは、決まれば相手の選手の足は、二度と元に戻らないほどの大怪我を負う事を。今、このフィールドに立っている選手の中で、一番サッカーを愛している選手の悲劇を防いだのは、どうしたことか雷門に派遣されたシードであるのはどういう事だろうか?

「……あれが、あいつから円堂に託された選手、か。なんか面白くないな。昔の俺を見ているようでさ」

 試合はようやくハーフタイム。
 雷門イレブンは明らかな破壊行動を受けて、無事な者などそのシードを除いてただ一人としていない。もともと、フィフスセクターに反旗を翻した者と従う者とに二分されたチーム。この破壊行動で、その溝はさらに深くなっているのは、その雰囲気でも察せることが出来る。

「情けないなぁ。これが、あの絶対の仲間の絆を築いていた雷門イレブンかと思うと、監督の円堂も凹むだろうな」

 そう呟いたところで、携帯の着メロが鳴る。この曲は……。

「おぅ、どうした?」

( 試合、どうなってます? )

「ああ、今はハーフタイムだ。得点は1-1の同点。ただし、雷門サイドのダメージがでかすぎるな。潰しにかかられて、皆ボロボロだぜ」

( 1-1、確か万能坂中との勝敗指示は1-0で雷門の負けのはず。どこかで、予定調和が綻び始めてますね )

「ん~、見たところ雷門に入り込んでいるシードがそうみたいだな」

( 雷門のシード、確か剣城京介という生徒ですね )

「なぁ、こーなるのも円堂にとっては計算づくか?」

 男、不動は今の試合を見てざわつく観客席の様子を伺いながら、電話相手の目金に問うた。

( まさか! キャプテンはそんな計算の出来る人じゃありません。本能的なもので分かるんでしょうね。その子が本当は、サッカーが大好きだって )

「……後半が心配だ。ここで雷門が敗退したら、この計画は水の泡だからな」

( ……賭け、でしょうね。だけど、キャプテンは信じているんですよ。あの子たちの本当の力を )

「仕方ないよなぁ。いくら俺達が力を貸してやりたくても、もう十年前に戻る事は出来ない。あいつらと一緒にピッチを駈けることは無理だからな」

( ええ。だから、僕たちは僕たちの出来ることをしないとですね。で、どうです? 取材は捗ってますか? )

「おお、バッチリだ! と言いたいところだが、俺一人じゃなかなか狙ったショットが撮れない。あいつら、審判だけじゃなく、観客の目もうまく誤魔化してやがるからな」

( えっ? じゃ、観客には目の前で起こっている事の意味が分かってないんですか? )

「万能坂のラフプレイに、雷門がボロボロにされているってことくらいしか分かってないだろうな」

( う~ん、それは問題ですねぇ……。今の中学サッカーが『異常』だと知らしめるのが、君の仕事ですから )

「……抜け目のないお前の事だ。今日の取材でも、俺のバックアップは用意しているんだろ?」

( ふふふ、君も僕と言う人間が分かって来たようですねぇ。ええ、勿論!! 秋葉名戸の仲間に連絡して、その試合会場内に百名程のカメコを動員しています )

「ほぅ、凄いなそれは!! なぁ、そいつらに今から指示を送る事は出来るのか?」

( そりゃ、出来ますよ。でも、なぜ? )

「煽るぜ、今から!! そいつらに、万能坂のラフプレイを叩かせろ!!」

( 不動くん!? そんな事をして、観客たちがフーリガン化したら、下手すれば勝敗に関係なく両校ともに出場停止になりかねませんよ!? )

「へっ! この俺がそんなヘマをするものかっっ!! まぁ、結果を見ていろ」

 自信満々なその声は、あの頃と同じもの。
 鬼道と並び立つ、W司令塔と呼ばれた頃の。


  ■ ■ ■


 後半が始まると、試合会場内は異様な雰囲気に包まれた。万能坂のラフプレイが出るたびに、幼い子どもを教え諭すような声が観客席から投げられる。

「お~い。ダメだぞ? そんなラフプレイ、危険行為でイエローカードだぞ」
「お前たちは中学生なんだから、もっとフェアプレイでないとな!」

 そして、審判には厳しく。

「審判!! どこを見てる!? 今のプレイがどうしてファウルじゃないんだっっ!!」
「万能坂から八百長でも頼まれているのか? 明らかに、暴力行為だろう!!」

 試合会場のあちらこちらから、そんな声が上がる。
 目の前に、ボロボロになりながらも一生懸命になってボールを追う、雷門イレブン。タッチラインに並び、動かずにいる雷門イレブンにも声がかかる。

「おい! お前たち!! お前たちは、ピッチの外の石ころか? なぜ、動かない!?」
「サッカーをするために、お前たちはそこにいるんじゃないのか?」

 会場内の観客はいつの間にか、少ない人数でも必死で懸命に全ての力を振り縛ってプレイをする神童や松風に、惜しみない声援を送り出していた。

 サポーターは十二人目の選手。

 今、ピッチを駈けている雷門イレブンは五人だが、この六人目の選手の力はとてつもなく大きかった。

「キャプテン、こんなことって……」
「ああ。俺達は間違ってない!! それを、ここにいる皆が認めてくれたんだ!」

 神童の表情も明るい。

「剣城!!」
「なんだ、松風」
「俺、お前に必ずパスを繋ぐから! だから、あいつ等からまた一点、取ってくれよ!!」

 剣城の隣を走りながら、嬉しそうに松風が声をかける。

「お前、俺を信じるのか? あんな事をした俺を……」

 松風の、剣城を見る笑顔が眩しい。

「あのシュートを腹に受けて、俺分かった。お前がどんなに苦しい想いで、ここに立っているか。サッカーが好きだからこそ、今のサッカーが辛いんだって。その気持ちが」
「松風……」

 一瞬、剣城の頭に聖帝と交わした会話が蘇る。


 ―――― 俺の昔の知り合いに、こんな事を言っていた奴がいる。そいつが蹴ったボールを受ければ、そいつが何を考え、どう思っているかが分かるってな。


 そんなことなど、ある訳ないと思っていた。
 だけど、松風は ――――


( 兄さん、俺…… )

 剣城の思いは迷う。
 でも今は、この自分の中の想いのままに、ピッチを駆け抜けたいと思った。


  ■ ■ ■


 試合の最後半は、化身合戦の様相だったが、どうにか雷門が辛勝した。皆、ボロボロだったが、この勝利にはもっと大きな意味があった。

 皆が今、神童と松風が翻した反旗の下に集ったのだ。

「ようやく、舞台は整ったな円堂。さて、俺は今から俺の仕事をさせてもらうか」

 今頃、目金経由で俺のPCに、この会場にいる百名余りのカメコ達から送られた試合中の画像が送られている事だろう。その中の、飛びっきりの奴を使って、思いっきりペンで叩かせてもらう。

「褒めたり、和ませたりする記事は苦手なんだよな。俺の本領を発揮できるのは、相手を叩く記事だ。叩いて叩いて、社会的地位なんぞ粉々に打ち崩してやる!!」

 舌なめずりをしながら、獲物の喉笛に食らいつく肉食獣の眸をぎらつけせ、不動は試合会場を後にした。

 数日後、教育委員会と文科省宛に危険な運営している大会として、この万能坂戦の詳細な画像データと試合展開を明記した意見書が送付された。それと同時に、全国紙の広告欄の中に、この意見書を基にした糾弾記事が載せられた。週刊誌やスポーツ新聞の『記事』としては、上から圧力をかけられる恐れがある。その為、新聞社にとっても大株主が高額で買い取った広告欄というスペースに、この記事を載せさせた。
 勿論、この大株主というのが鬼道財閥だというのは、言うまでもない話だ。

 この記事を見、また実際に試合を見た観客たちの声もあって、その後のホーリーロードでは、審判の目も観客の目も厳しくなり、あからさまなラフプレイは出来なくなった。万能坂中にも処分が下され、雷門中との試合でラフプレイに走った選手は退部を余儀なくされ、監督・コーチ共に左遷された。また、向こう三年間の大会参加禁止の処分も加算された。

 これで、万能坂中のサッカー部が廃部になるかどうかは、残った部員がどれだけサッカーが『好き』かどうかにかかるのだろう。少なくとも、この三年間は、フィフスセクターの支配から逃れられたのだから。

「まぁ、こんなものかな? さて、次はどんな記事を書いてやろうか」

 自分の書いた記事が載った全国紙を、近くのゴミ箱に投げ入れ、不動は次の獲物を狙うがごとく町の雑踏に消えてゆく。

 まだまだ、道は遠い。

 ピッチでボールを追えなくなった分、自分はこのペンを走らせるのだと不動は心に呟いていた。



 2011年07月22日脱稿





   === あとがき ===

イナゴ12話から、またまた突発SSです。
あんなにラフプレイばかりの万能坂中のプレイに、どうして観客たちは何も言わないのかと思いまして、そこのところで書いてみました。
この話は、IFシリーズの目金くんの話と繋がっています。
私の中では、不動くんはフリーライターなので、まぁこんな感じの戦い方かな? って(*^^)v 
10年後不動くんがあんな感じなんで、まぁフリーライターもありかな? って思っちゃいますね(笑)


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Date:2012/03/15
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