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□ GOっ子達の色んな話 □

それは、波の音にも似て

 その人に会った時、俺はその人の事を、なんだか寂しい人だなと感じた。

 夕日の沈んだ暗い海を見ている眼は、その海と同じ色をしていて、髪は空の月と同じ色をしていた。波止場の船を繋ぐ杭の上に腰を下ろして、ずっと寄せては返す波を見つめている。

( あれ? 旅行者かな? )

 沖縄の海は、夜でもきれいだ。
 だから、それを見ているのかなと思ったのだけど、突然立ち上がって海に背中を向けてこちらを見た時の眼を見て、見ていたのは海じゃないような気がした。

( ……あの時の、俺の眼みたいだ )

 そう、俺が父さんと母さんを海で亡くした、あの時の。

 
 ■ ■ ■


「ばあちゃん! 俺、ドリブルの練習してくる!!」

 夕方、海女の仕事から帰って来たおばあちゃんの手伝いを終わらせると、俺はもう暗くなった波止場にサッカーボールを持って走って行く。

 波止場はコンクリートで真っ直ぐ舗装されているから、ドリブルの練習がしやすいんだ。でも、気を付けないと海に落としたら大変なことになる。このボールは、俺の命の恩人。大切な宝物なんだから。
 俺の練習相手は、犬のサスケ。ボールが変なところに行ったりしたら、すぐそっちに走って行ってボールをつかまえてくれる。

( 今日もあの人、来てるのかな? )

 俺はドリブルの練習をしながら、ちらりといつもあの人が座っている杭の方へ眼を向けた。あれから一週間、いつもこのくらいの時間になると、この場所であの人を見かけるようになっていた。

 目を向けて、俺はびっくりした。

 あの人も、俺の方を見ていたのだ。思わず視線が合ってしまい、足元が不注意になって、ボールを大きく海の方へ蹴り出していた。

「あっ! しまった!!」

 あれだけ気を付けていたのに、ボールが海に落ちてしまう。それも、夜の海にだなんて最悪だ。飛び込んで、拾ってくるのも難しい。すると ――――

 ふわっと、その人の体が夜空に浮いた。
 月を蹴るような感じで綺麗に伸びた足が、俺が蹴ったボールに届く。

 ポーン、と軽く蹴り上げられた俺のボールは、いつの間にか着地していたその人の腕の中にスポン、と納まっていた。ふと、その人の視線がボールの上に止まる。ボールにはイナズママークが描かれている。俺が描いたんじゃない。本当の、このボールの持ち主が描いたイナズママーク。

( あれ? もしかして、ちょっと笑ってる? )

 ボールを見つめるその人の眼が、いつも夜の海を見つめている眼と違って見えた。

「あ、あのっ! 済みませ~ん! 俺、飛ばしちゃって!!」

 たったったっ、と俺はその人の許に駆け寄る。

「ありがとうございました!! このボール、とっても大切なものなんです」
「大切?」

 言葉少なくそう聞き返したその人の手から、俺はボールを受け取る。

「はい。このボールは俺の命の恩人なんです。小さい頃、材木の下敷きになるところを、助けてもらったんです」
「…………………」

 何か言いかけようとして、その人は俺を見る。

「あの……」

 改めて、俺はその人の顔を間近に見る。今まで一週間近くその人を見ていたのに、今頃気付く自分の頭の悪さに、自分でもちょっと呆れた。

「あの、もしかしてイナズマジャパンの豪炎寺修也さんじゃないですか? お、俺、松風天馬って言います!!」
「 ――― !! ――― 」

 物凄くびっくりした顔をされた。

「俺、豪炎寺さんのファンなんです。俺を助けてくれた人のシュートに似ていて……」

 もしそうなら、俺嬉しすぎるよっっ!!

「そうか、成程な。ああ、俺は豪炎寺だ」

 一人興奮する俺に、豪炎寺さんは優しい目を向けてくれた。


  ■ ■ ■


「……いつも一人で練習しているのか?」

 ぽつりと、そんな事を訊かれた。

「あ……、はい。俺、ばあちゃんの手伝いをしているから、皆が練習している時間に合わなくて……」
「寂しくないのか?」
「寂しいって言うか、サッカーが好きだっっ!! て気持ちで繋がってるから大丈夫!!」

 俺は、豪炎寺さんを安心させるようににかっと笑って見せる。

「似てるな、あいつに」
「えっ? 誰ですか、その人」

 そう俺が聞き返した途端、豪炎寺さんの顔がふっと暗くなったような気がした。

「……俺が知っている最高のサッカー馬鹿だ。よし天馬、つきあってやる」

 そう言うと豪炎寺さんは、すいっと俺の手からボールを取り上げると、たったたと軽く走って距離を取り、ポンとボールを蹴って寄越した。

「豪炎寺さん?」
「ドリブルで走りながら、俺にパスしろ」

 パス練習!!
 一人では絶対できない練習に、俺の心はワクワクして仕方が無かった。

 でも……

 今までパスを出す相手のいなかった俺のパスは、上手く豪炎寺さんの所に届かない。予想外の所に飛んで行って、しまった!! と思う事も何回もある。それなのに豪炎寺さんは先回りして、綺麗に俺のパスを受けてくれる。豪炎寺さんからのパスは、気持ちが良いくらい俺の足元に納まる。

 楽しかった。
 やっぱりサッカーって、皆でやるものなんだって良く分る。
 パスを出しあいながら、俺達は色んなおしゃべりをした。
 もっぱら、俺が喋る事が多かったけど。

 俺に分かった事は、豪炎寺さんは沖縄の友達の所に遊びに来ている事と、今はもうサッカー選手じゃないって事だけだった。

「……遅くなった。天馬、そろそろ帰れ」
「はい! ありがとうございました!! 豪炎寺さん!」

 今夜はきっと、飛び切りの夢が見られそうだ。


  ■ ■ ■


 あれから俺と豪炎寺さんは、日が暮れてからサッカーの練習を続けている。いつまで豪炎寺さんが沖縄に居るか分からないけど、できればその日が一日でも遅ければ良いなぁと思っている俺がいる。

「だいぶ上手くなったな、天馬」
「豪炎寺さんのおかげです!」

 波止場の杭に腰を下ろし、夕日が沈もうとしている水平線に目を向けた豪炎寺さんの顔は、懐かしそうな顔をしている。

「久しぶりだ、こんな気持ちになれたのは」
「豪炎寺さん?」
「……お前は、本当にあいつに似ている。一人でも頑張るところや、こうして夕暮れまで特訓している姿は」

 豪炎寺さんの言う、『アイツ』が誰だか俺には分からない。だけど、その人が豪炎寺さんに取って、とても大事な人なんだってことは、子どもの俺にも分かる。そう、俺にとっての、このサッカーボールの様に。

「俺はお前が羨ましい。俺が無くしたいろんなものを持っているお前が」

 水平線に夕日が落ちた。辺りは、すっと暗くなる。

「俺、何も持ってません。サッカーは下手っぴだし、あんまり頭も良くないし」

 たはははっ、て感じで頭を掻く。

「お前は、『これから』だから」
「豪炎寺さん……」

 真っ暗な海面に、ところどころ船の照明や港の灯りが映り、ゆらゆらと揺れる。その合間を縫って、ザザン、ザザンと波の音が大きく聞こえる。

「もし俺が、今のお前くらいの時代に戻れたら……」

 ぽつりぽつりと言葉を続ける豪炎寺さん。
 豪炎寺さんの眼には、きっともう、俺は映っていない。

「お前の様に一人でサッカーをしていた、あいつの所へ行ってこう言ってやる。『サッカーやろうぜ』ってな」
「…………………」

 波の音が、遠くから聞こえる。

「最初から一緒に入学して、入部して、練習して……。違う未来を作れたかもしれない」

 そう言う豪炎寺さんの言葉が、なんだか悲しく聞こえる。
 俺は初めて会った時の、豪炎寺さんの寂しそうな様子を思いだしていた。

「豪炎寺さんっっ!!」

 豪炎寺さんが、深い海に沈み込んでゆきそうな気がして、思わず大きな声を出していた。

「ああ、すまん。愚痴だな。それも、俺が年を重ねたって事か。風が冷たくなってきた、戻ろう」

 杭から立ち上がり、俺に家に帰るようそう言う。俺は、無意識に右手を豪炎寺さんに差し出していた。いくら暗くなったからって、もう小学四年生だ。夜道が怖くて歩けないような、臆病者じゃない。だけど、この時の俺には、豪炎寺さんがどこかに行ってしまいそうな怖さを感じていたのだ。

「…手を繋ぐのか」

 そう言いながらも、豪炎寺さんは俺の手を握ってくれた。

「豪炎寺さん、雷門中ってどんなところですか?」

 俺の中で、さっき豪炎寺さんが呟くように言っていた入学という言葉に、自分の憧れでもある雷門中の事を思い浮かべた。それがそのまま、言葉になる。

「……雷門、か。サッカー馬鹿には居心地の良い学校だろうな。サッカー馬鹿が集まる、サッカー馬鹿な学校だ」
「そっか、いいなぁ~。そんな所で、サッカーしてみたいな。あ、勿論地元の大海原中もいいけど」

 そう言った俺に向けてくれた視線は、やっぱり優しい色をしていた。
 その優しい色に、俺は油断したのかもしれない。
 聞いてはいけないことを、俺は口にしてしまった。

「豪炎寺さんは、どうしてサッカー選手を辞めたんですか?」

 繋いでいた手が、ピクっと震えた。
 それから、すっと手を離される。

( あっ! しまった!! )

 そう思ったが、もう取り返せない。
 豪炎寺さんは、俺を残し一人帰って行った。


  ■ ■ ■


 玄関の引き戸を開ける音がした。
 ここしばらく、この時間に帰ってくるのは……。
 土方は相手を確認もせずに、いつものように声をかけた。

「どうだ? 豪炎寺。天馬の上達ぶりは?」

 自分も家庭の事情で、好きなサッカーの練習もままならなかった。それだけに、同じ境遇の天馬を気にかけていた。

「……ああ、悪くない。チームできちんとした指導者がつけば、もっと強くなれる素質を持っている」
「そうか。なぁ、豪炎寺。お前、そっちの方に進む気持ちはないのか? 医者と選手の二足の草鞋は難しくても、地元のサッカーチームの監督やコーチなら大丈夫じゃないのか」
「土方……」
「あの天馬のような、取りこぼされているような才能を磨いてやるのも、これからのサッカーを作る事になると俺は思う」

 まだ話を続けようとした土方の言葉を、豪炎寺の低い声が遮った。

「……長逗留して、世話になった。俺は、そろそろここを出ようと思う」

 その言葉に、土方は豪炎寺がこれからの方向性を見出したのかと、にかと笑いかけた。

「そうか、そうか。戻るか、あいつ等の所へ。まぁ、医者になる勉強は日本でも出来るし、いずれ世界に出ていた奴らも帰ってくる。一足先に、久遠監督の許でそっちの経験を積むのも悪くないよな」
「悪いが土方、俺はあいつ等の所へ行く気はない」

 強い口調でそう言い切られ、思わず土方は豪炎寺の顔を覗き込む。

「どういう事だ!? 豪炎寺!!」

 肩に手をかけ、揺さぶりながら詰問する。
 土方は、豪炎寺が人知れず自分の所を訪ねてきた時の事を、思い返していた。

 まるで別人のような雰囲気を纏い、この世の終わりのような眼をしていた豪炎寺を。

「……俺が、豪炎寺修也だからだ」

 家の中に上がり、畳の上に足を伸ばす。

「そして、その豪炎寺修也はあの時、永遠に死んでしまったからだ」

 穿いていたスラックスを膝上まで捲り上げ、膝裏に手を入れる。
 ゴトンゴトンと無機質な音が響き、畳の上に豪炎寺の膝下の部分が転がる。

「豪炎寺……」
「日本の装具技術は世界一だ。お蔭で日常生活に困らないどころか、軽い運動ぐらいなら問題無く動ける」
「……………………」

 見せられた現実に、土方は沈黙する。
 そう、これが豪炎寺がサッカー選手を辞めた理由であった。

 留学先での交通事故。

 一命を取り留めた代償は、この炎のエースストライカーから膝下からとはいえ両足を奪った。
 勿論、そんな事で絶望するような豪炎寺ではない。義手義足のスポーツ選手は、沢山活躍している。自分もそうなるべく厳しいリハビリを続け、今の様に自由に動けるようになった。それでも……

「ファイアートルネードを撃てない豪炎寺修也は、もうあの豪炎寺修也ではないだろう」
「豪炎寺……」

 嫌なものを見せたと、豪炎寺は手際よく装具を装着する。

「自由に動けるようになって、ランニングからドリブル、パスにノーマルシュート。そんなサッカーの動きも、まず問題なく出来るようになって、リハビリの仕上げに試しに撃ったファイアートルネードが、『豪炎寺修也』を死に至らしめた」

 仲間の待つフィールドに戻りたい一心で、頑張った。
 円堂の、鬼道の、そして他の沢山の仲間が待つ、あのフィールドへ。

 ……ファイアートルネードを撃った瞬間、装着した義足は粉々に砕けた。
 豪炎寺が振り下ろすパワーとボールとの衝撃に、義足の素材が持たなかったのだ。

「……じゃあ、どうするつもりだ? お前」
「俺のサッカーへの実績を買って、ある組織から打診を受けている。表立つことはないが、そんな形ででもサッカーに触れることが出来るのなら、受けてみようかと」
「表立つことはないっっ!? お前ほどの男が、何故陰に潜む!!」

 何か嫌なものを感じ、止めようとする土方に向けた豪炎寺の眼は、あの夜の海と同じ深い光の無い色。

「……あいつ等と同等でいたいから、としか。豪炎寺修也であれば、それはもう叶わない事。ならば、豪炎寺修也の名を捨てても、あいつ等と真っ向からぶつかり合う事になっても、それで同じフィールドに立てるのなら、俺はそちらを選ぶ」

 静かな声だった。
 遠くの波の音の様に静かで深く、変わることのない意志を、繰り返し繰り返し浜辺に打ち続ける。

 どれだけの、想いが込められているのだろう。
 どれだけの、絶望を飲み込んだのだろう。

 その気迫に、土方はもう何も言えなかった。

 あの時、もし天馬がサッカー選手を辞めた理由を豪炎寺に訊かなければ、また違う選択肢もあったかもしれない。
 天馬に訊かれて、豪炎寺は天馬の前では『豪炎寺修也』でいたいと思ってしまった。炎のストライカー、豪炎寺修也のままで。だから、辞めた理由も告げずに天馬の前から姿を消した・


  ■ ■ ■


「しっかり頑張って来いよ!」

 俺が豪炎寺さんと出会ってから、三度目の春。
 近所の土方さんを通して、俺を雷門に通わせてくれる『足長おじさん』が現れた。
 豪炎寺さんとはあの夜、あのまま別れたきりで、その後どこに行ったか俺なんかが判る訳もない。

( もしかして雷門中に行けば、また会えるかな? 会えたなら、ちゃんと謝りたい。誰にだって、聞かれたくない事があるんだから )

「じゃ、行ってきます!! 雷電にぃに、おばぁの事、頼んだね!!」
「ああ、任せておけ!! お前は、お前の夢を叶えるんだぞ!!」

 そうやって、俺は親しい人たちに見送られ一人上京した。
 入居するアパートの管理人さんが、俺の遠縁ということにして在学中の保護者兼身元引受人になってくれた。

 ここから俺の新しい生活が始まる。

「どんな出会いがあるんだろう? どんな仲間に会えるのかな? ワクワクして堪んないやっっ!!」

 俺は空を見上げる。
 どこまでも続くこの空を、どこかで豪炎寺さんも見ていると良いなと思いながら。


  ■ ■ ■


 雷門中を見張らせていた者から、『聖帝』の下に報告が上がる。
 その報告書に目を通していた聖帝は、そこに見知った人物の名前を見つけた。

「……巣から一人で、飛び出す翼は持っていたようだな」

 普段、表情を変えない聖帝の片頬がほんの少し上がったのを、側近の誰一人として気付いていなかった。そして、もう一つの報告書には、海外で活躍している日本選手の動向が、事細かに記されていた。

「ふ…ん。こいつも海外から帰国するのか。少し前に、あいつも帰って来てたな。そろそろ駒が揃ったか」

 楽しげな口調ではあるが、その眼には深い海が横たわっている。
 今も、ザザンザザン、と同じリズムで同じ音色を繰り返して。

「楽しみにしているぞ、天馬。あいつを、円堂を俺の前に、お前のサッカーで連れてこい。円堂やお前の言う『サッカー』と、俺が率いる『サッカー』との、真っ向勝負。こうして同じフィールドで戦えるのが、嬉しくて仕方がない」

 『聖帝』の座に着く月の色をした長髪の青年は、愉しそうに夜の海色の眼を揺らめかせた。



  2011年09月27日脱稿





   === あとがき ===

沖縄時代の天馬くんと豪炎寺くんの話。豪炎寺=聖帝設定で、聖帝になった捏造理由や円豪っぽかったりしています。
天馬くんの家族状況が悲惨だったり、豪炎寺くんの現状が悲惨だったりと、私得妄想が満載です♪




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Date:2012/03/15
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