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□ 南沢さんと倉間くん □

今、俺に出来る事


 松風のせいで神童が変わり、三国先輩が変わり、そして雷門サッカー部は二つに分裂した。二度もフィフスセクターの勝敗指示に逆らった雷門サッカー部は、廃部の危機に晒されている。その証拠に、今まで監視しているだけだった剣城が、次の試合には自分を出せと円堂監督に言いだした。
 円堂監督だって、剣城がフィフスセクターのシードだと言う事は承知しているはず。出せと言っても、ここは拒否するだろうと俺は思っていた。

 だが、円堂監督は勝つために剣城を試合に出すと言う。
 そんな事をすれば間違いなく剣城は、フィフスの勝敗指示の通りに試合を運ぶ事くらい分かっているだろうにっっ!!

「……勝敗指示に従えば、まだ廃部にならずに済むのかもしれませんね」

 そうでも思わなければ、受け入れがたいこの状況

「どうだろうな? 指示に逆らってきた俺達だ。見せしめもあるだろう」
「多分、廃部だろうな」

 廃部、それは俺達からサッカーが奪われると言う事だ。不本意なサッカーでも、たまに勝敗指示のない、『本当のサッカー』が出来ることを楽しみに、今日まで頑張って来たのに、その我慢まで全て無駄になる。
 そして、また松風だ。

「こんなのおかしいですよ! 本当のサッカーをやっちゃいけないなんて、おかしい。こんな事はあっちゃいけない!! サッカーだって、そう思っている」

 ああ、そうだよ。
 それは、正論だよ。
 だけどお前は、今までの俺達の苦しさや悔しさ、我慢をどれくらい分かって、それを言っている? 先輩たちが、どれだけ我慢してきたか……。
 部を存続させるためならこんな奴、すぐに叩き出しても構わないとすら、俺は思い出していた。

( 俺達から、サッカーを奪うな!! どれだけ不本意なサッカーでも、今はそれが俺達のやるサッカーだ!! )

 俺はぐっと、拳を握りしめていた。俺の横で、先ほど廃部だなと一言口にしただけで、状況を見ていた南沢先輩が、すっと円堂監督の前に出る。

「ああ、もうつきあいきれない。監督、俺退部します」
「やめられるのか、南沢」
「………………」

 監督の問いかけには答えず、フィールドを去って行く南沢先輩。俺の怒りは頂点に達した。

「……雷門サッカー部を潰そうとしているのは、フィフスセクターでも剣城でもない!!、本当は、お前の方じゃないのかっっ!!」

 今までの憤りや怒りを爆発させ、俺は松風を糾弾した。
 松風の顔は、凍り付いていた。


  ■ ■ ■


 次の日、万能坂中のグラウンドに南沢先輩の姿はなかった。
 やっぱり、本当に退部してしまったんだ。

「南沢先輩……」

 俺がフィールドに立つ時は、いつも隣に南沢先輩がいてくれた。先輩がいてくれたから、負けなければいけない試合でも放り出すことはなかった。

( 負ければ、指示に従えば、まだ先輩達とサッカーが続けられる…… )

 それなのに!!
 昨日、あれだけ言ったのに松風の奴は、今日も本当のサッカーで勝つ!! と言いのけた。まだ、分らないのかっっ!? それが、どれだけ迷惑かと言う事に!
 試合開始、両校の選手たちがフィールドに散開する。

「松風……」
「倉間先輩」
「お前が勝ちに行くなら、俺が止めるからな」

 そう言い捨てて、俺はセンターサークル近くに位置を取った。
 試合開始早々、剣城のオウンゴールで1点を先制される。

 今日の試合で指示されたスコアは1-0で雷門の負け。オウンゴールで1点先制されているから、後は俺達は点数を取らないよう試合を運べばいい。相手も点を取りに来ないだろう。

 俺はFWだから、センターサークル内に戻されたボールの側で、剣城と万能坂の磯崎が、小声で打ち合わせているのを聞いてしまった。

「どういうつもりだ、剣城」
「どうもこうも、お前らに1点奪われるよりくれてやった方が、俺の性に合うんでな」
「雷門を甚振りながら、点を取る楽しみが無くなったじゃないか」
「安心しろ。最初から白旗上げているような雑魚の中に、まだ俺達に牙を剥こうとしている馬鹿が何人かいるからな」
「へぇ、そりゃ楽しみだ。潰し甲斐がありそうだ」
「ああ。雷門を潰せと指示が来ている。勝ちに行こうとする部員の足を引っ張ろうとするような奴もいる部だ。簡単に潰せるさ」
「ひっでーな、そりゃ! それがサッカーの名門とまで言われた雷門の実情か」
「ふん。すっかり『管理サッカー』に染まっちまって腐った奴らだからな。俺の仕事は終わった。後はお前らに任せる」

 腸(はらわた)が煮えくり返りそうだった。
 そっちがその気なら、ここで負けなくてはならないとしても、こちらも潰せるだけ潰させてもらう。

( どうせ、こんな八百長試合、どうなろうと俺の知った事じゃない!! みんな道連れにしてやる! )

 色んな意味で、酷い試合になった。

 最初は、なぜか上手く松風や神童にパスが渡るので、神童からのパスをもらうふりをして、松風の体に自分の体をぶつけて転ばせる。だけど、そんなことしなくても良いとすぐに気が付いた。
 万能坂はパス回しが巧妙で、まるでこちらがインターセプトしたように見せかけてボールを持たせる。少し猶予を与えて、万能坂サイドに持ち込ませると、数人がかりのアタックでボールを奪うように見せて、手加減なしで選手の体ごと吹き飛ばす。
 前半だけで、皆 満身創痍な状態になっていた。


  ■ ■ ■


 ようやく、ハーフタイム。
 特に攻撃が激しかった神童や霧野、松風あたりの消耗は激しい。

「……これも、お前が『本当のサッカー』とやらを強制したせいだぜ」

 上がる息をどうにか飲み込み、俺は松風にそう吐き捨てた。
 ふと、視線を感じた。
 
 この視線は ――――

 俺は会場内を見回し、スタンドの出入り口の近く、階段の上に見覚えのある紫色の髪の人影を見つけた。

「南沢先輩っっ!!」

 思わず、走り出す。
 フィールドに立つ時は、俺の横には南沢先輩がいないといけないんだ!
 一息に階段の上まで駆け上がる。

「南沢先輩!」

 そう呼びかければ、物憂い表情で南沢先輩が俺を見る。

「酷い試合だな……」
「……どうせ廃部になるんです。それなら、後はもうどなろうと構わない」

 俺の言葉に、南沢先輩の顔が曇る。

「南沢先輩?」
「お前は、分かってないんだな」
「分かってないって、何のことです?」

 俺を見る南沢先輩の顔は、はっきりと悲しみを浮かべていた。

「何故、俺がサッカー部を退部したのかを」
「何故って、松風達のせいでやってられないと思ったからでしょう?」

 南沢先輩は、ゆっくりと頭を横に振った。

「……やってられないと思ったのは、あのままじゃ俺も、今のお前のようなプレイをしてしまいそうだと思ったからだ。俺は、自分のサッカーを守るために、サッカー部を辞めた」
「南沢先輩……」

 もう一度、俺に視線を戻した南沢先輩の顔には悲しみの他に、怒りのようなものも浮かんでいる。

「俺が内申の為と言い続けて、フィフスセクターの言いなりになってきたのは、お前たち後輩にサッカー部を残したかったからだ。たまに出来る、『本当のサッカー』の楽しみを残したかった」
「それは、俺もそうですっっ!! 俺はまだ、南沢先輩と一緒にサッカーをしたい!」

 俺も必死だった。もしかしたら南沢先輩は、戻ってきてくれるかもしれない。

「なぁ、俺はもう三年だぜ? この大会、負ければ引退なんだ」
「あっ……」

 そうだった。
 初戦で負けていれば、あの場で三年の先輩達は引退する。
 そうなったら、どうなる?
 四人の三年生が抜けて、その後部員が入らなかったら……。

 俺は、ぞっとした。
 フィフスセクターの指示通り負けていれば、廃部は免れたかもしれない。だけど、最低でも来年の新入生が入部してくれるまで、公式戦どころか練習試合さえ出来なくなるのだ。しかし、その新入生達は入ってくれるのか? ホーリーロード初戦敗退、部員不足の弱小チームに落ちぶれてしまった雷門サッカー部に。

「倉間、前半のプレイ。あれがお前のやりたいサッカーの姿か?」

 そう問いかけた南沢先輩の声は、冷たく咎めるような響きを含んでいる。

「あ、いえ……」

 たらりと、俺の背中に冷たい汗が流れる。

「雷門のツートップとして、試合のたびにお前は俺の隣にいた。だから、判る。お前が、どんなに悔しい想いをして、負け試合を演じていたか。握りしめた拳、爪で傷つけた掌から血を流すお前を、俺は見てきた」
「…………………」

 南沢先輩の顔が、力なく微笑む。

「俺が本当にやりたかったサッカーは、後輩のお前たちと一緒に試合で本当の実力をぶつけ競い合い、さらに高みを目指すそんなサッカーをしたかった。決して、仲間の足を引っ張るようなそんなサッカーじゃない」
「南沢先輩……」
「これが最後だ、倉間。お前の思う通りの、お前が本当にやりたいサッカーをやってみろ。お前が、俺の事を一番気にかけていてくれたのは、知っている。だけど、俺はもう部外者だ。お前が俺に合わせる必要はない」
「まさか、南沢先輩……」

 優しさと寂しさ、そんなものがぎゅっと詰まった、そんな笑みだった。
 こんな笑みを浮かべた南沢先輩は初めてだ。いつものクールさが、微塵も感じられない。
 ……いや、これが本当の南沢先輩の姿なんだ。

「まさか、俺の為にサッカー部を辞めたんですか……?」

 ドキドキと心臓がいっている。

「三国は覚悟を決めているからいいが、車田と天城には俺も迷惑をかけるな。一年の松風と西園はああだし、神童も腹を決めた。おそらく、霧野もだろう。後は二年生のお前たち三人だ」
「三人……」

 ゴクリ、と唾を飲み込む。

「……俺達三年がいなくて、一年のあいつらが廃部になってもいいから、本当のサッカーを心からしたい!! と望んだら、お前はどう応える?」
「俺は……」

 それは、俺だってやりたい!!
 ずっと、ずっとやりたかった!!

( あっ……! )

 あの時、俺は松風に俺達からサッカーを奪うなと言った。
 奪える訳なんか、ないのに。
 この『心』の熱さまで。
 サッカーが好きだと思う、この心を。

 サッカーが『出来ない』のと、『自分のやりたいサッカーを奪われる』のは、意味が違う。
 俺はもう少しで、『自分のやりたいサッカー』を失くしてしまうところだった。

「南沢先輩、俺……」
「気づいたみたいだな、倉間」
「へへ、すみませんね。先輩。みっともないとこ、見せちゃって。後半、期待しておいてください」

 俺は強気でそう言うと、にやりと笑って見せる。
 そんな俺を見下ろしながら、南沢先輩の口元にもクールな笑みが戻って来る。

「ああ。雷門の次期エースストライカーはお前だと、相手にも観客にも見せつけてやれ」

 お互い笑い合って、拳をぶつける。
 ハーフタイムが終わろうとしていた。


  ■ ■ ■


「神童」

 俺は後半に向けて、神童に自分の気持ちを伝える。

「なんだ、倉間」
「後半は、俺にパスを繋いでくれ」
「倉間、お前……」

 驚いたような、半信半疑な表情の神童。

「……負ければこれが最後なんだって、やっと気づいた。最後にしたらいけないんだってことにも、気が付いた。だから ―――― 」
「倉間……」

 あ~あ。
 本当に涙もろい奴だな。
 神童の瞳に浮かぶ、嬉しそうな涙。

 審判のホイッスルが鳴り響く。
 後半戦が始まる。

 今、俺に出来る事。
 それは、勝ちに行く事。

( 俺、まだまだ南沢先輩と走っていたいです。本気の本当のサッカーを、この大舞台で楽しみたいです!! )

 振り返らなくても、分かる。
 俺を見てくれている、先輩の存在。

 俺は、ゴールに向かって走り出す。
 俺の背中を押してくれた、南沢先輩のために ――――
 


  2011年07月14日脱稿





   === あとがき ===

イナGO11話目で、とうとう南沢先輩退部しちゃいました~~っっ!! 
今までは、退部無しの方向で妄想SSを書いていたのですが……。でも、諦めません!! 退部しても、また戻ってくればいいんです!! 
今回のSSは、倉野くん視線です。どんだけ南沢先輩の事、好きなんだってノリですが、あまり腐っぽくないかな?こう、もうちょっと甘めの話が書けたら良いのですが、どうにも自分、熱血系みたいで、夕日に向かって突っ走るタイプのようです。





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Date:2012/03/16
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