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□ 南沢さんと倉間くん □

シード南沢篤志

 雷門は、憧れだった。

 青と黄色のユニフォーム。
 胸に稲妻のエンブレム。
 そのユニフォームを着て、仲間と共にフィールドを駈ける。

 それはあの日、イナズマジャパンが世界一になった時から俺が見続けている夢だった。
 イナズマは、俺にとって絶対的なシンボル。
 何があっても、守らなければならないものだった。



 ……だから

 俺は、シードになった……

   
【 シード 南沢篤志 】


「これからの試合、俺は全て勝ちに行きます!!」

 神童の声が、部室内に響く。
 勝敗指示が出されていた栄都学園との試合、神童は指示に逆らい得点を決めていた。勝敗こそは指示通りだったが、それでも逆らった事実は隠せない。
 そこに来て、ホーリーロード地区予選1回戦で出された勝敗指示をも無視すると言う。

( マズイな……。これ以上やられると、もう俺の手じゃ負えなくなる )

 幸いなのは、勝つ気になっているのは神童と松風と西園の三人だけ。 
 これがもう最後のチャンスだ。
 反抗の意思を見せたにも関わらず試合に負ければ、この三人に責任を取らせる事が出来る。指示に従わなかった事を理由に、サッカー部から追放という自主退部よりも重い処置を『サッカー部』として取れば、まだ廃部を免れる可能性が出てくる。なにしろ現雷門中サッカー部キャプテンであり、「神のタクト」と異名をとる天才MFである。そんな神童を追放するとなれば、フィフス本部も考える余地くらい持ってくれるだろう。

( その為には、他の部員をこちらに引き留めておかなくては )

 内心の焦りを隠しつつ、俺はいつも通り冷めた計算高い風を装って、サッカーなんて内申を良くするためのものだと嘯く。逆らえば、サッカーそのものが出来なくなるぞと、脅すことも忘れずに。

 俺がそう言えば、FWの片割れの倉間が後を引き受けてくれる。俺は、良い相棒に恵まれた。まさか倉間までシードとは思えないが、倉間は俺の意思を良く汲んでくれる。元々勝気なこいつが、俺がこの試合負け試合だと言えば、悔しさで拳を握りしめてもシュートは狙わない。

 その分、練習では思いっきりシュート練習に付き合ってやる。
 あいつが喜ぶように。

「南沢さん」

 ぼっと考え込んでいたのか、倉間が俺の目の前に立っている。

「あ、ああ。なんだ」
「あいつら、本気みたいですよ」

 と、目つきの悪い視線を、練習に向かう神童達の背中に投げかける。

「馬鹿な奴らだ……」
「ったく! どうしちまったんだろう、神童の奴!! あんな一年坊主に感化されちまって!!」

 憤りを抑えることもせず、倉間は松風を睨み付けた。

「どんな気持ちで南沢さんが、ああ言ってるのか神童にだって分かっているはずなのに!!」
「倉間……」

 倉間の言葉に、俺はふっと自分の胸の内を顧みる。
 俺がシードにまでなった、その理由。

 いや、俺がシードになるまでもなく、俺は恐らくこの中で一番フィフスセクターに近い場所に居る。

 そう、俺の親は、先代の聖帝と呼ばれた男だった。
 フィフスセクターのフィールドは、俺にとって自分の家の庭のようなものだった。

 そして、俺はそこで聞いてしまったのだ。
 中学サッカーを完全管理してしまう計画に。その計画の真意は隠されたまま、その準備は水面下で着々と進み、妨げになるものがあれば、徹底的に排除してゆく姿勢を見せた。

 それは、中学サッカー界のシンボル、雷門中も例外ではなく。

 むしろ雷門中は、一番敵対視されていた。
 今なお、中学サッカー界における影響力は半端なく、フィフス本部の意向も軽んじられるほどに。
 全ての下準備を終え、「少年サッカー法」施行と共に聖帝の座を退いた父は、暗部にその居を変えた。
 二年前に始まった管理サッカーは、まず敵対勢力になりそうな学校に、『種』を撒いた。その年の新入生という形を取って、中から腐らせて行くために。場合によっては、些細な問題を起こさせて廃部に持って行かせることもある。
 
 そう、俺にとってはこの『雷門中サッカー部』を存続させることが、一番の願い。
 だから父に頼み、雷門へ配属されるシードとして入学した。


「……お前にも、俺の気持ちは分からないさ」
「南沢さん……」

 倉間の表情が、ほんの少し翳る。

 なぁ、倉間。
 お前、俺がフィフスセクターのシードだって知っても、そんな風に言ってくれるのか?

 ……そんな訳、ないな。
 あの剣城を見るような、嫌悪感いっぱいの目で睨みつけられるのがオチか。


  ■ ■ ■


 俺の、そんな思いをあっさり裏切って、あろうことか受験を控えた大事な時期でもある三年の三国まで引き入れて、神童達は天河原に勝利してしまった。

 ここまで来たら、もう俺の手には負えない。

 せめて俺が雷門を離れるまでは、どうにか「サッカー部」が存続できるようにと画策してきたが、もう限界だ。

[ 戻って来い、篤志  ]

 天河原に勝利したその日、俺の携帯に入っていた短いメール。
 差出人は、先代聖帝である父親から。

( ……仕方ないな。もともと地区予選1回戦で敗退した時に、転校という名目でサッカー部を離れる予定だったんだ。別の全国大会に出場する学校のサッカー部に入部させて、俺の経歴に更に箔を付けさせようとな )


 昨年のホーリーロード全国大会準優勝校だった雷門。
 だから……、今年はそんなに大きな星を付けさせる訳にはいかない。

 それが管理サッカーにおける平等という名の「八百長」。
 今年の雷門は去年と違う、それを世間的に認めさせるために、剣城は投入された。新入部員とのトラブルで部員が減り、今年の雷門は去年よりも戦力が落ちた。その証拠に、最近頭角を表してきたとはいえ、サッカー歴の浅い栄都学園との練習試合でも3-0で負けた。それなら、地区大会1回戦敗退もありうるなと。

 この筋書き通りなら、来年もサッカー部は安泰だったのだ。

( それをっ……! 松風の奴がっっっ!! )

 人知れず、壁を拳で打ち付ける。

 本当なら、転校なんてしたくない。
 最後の最後まで、雷門中サッカー部でいたかった。
 だけど、それは出来ない話。

 だからこそ!! 

 ……雷門中サッカー部を残したかった。
 あいつに、あいつ等の為に。


  ■ ■ ■


「ああ、もうやってられない。俺、サッカー部を辞めます」

 天河原に勝利し、2回戦の相手である万能坂中との試合をどう進めるかというミーティングの席でのことだった。そう仕向けたのは確かに管理側の指図だが、それでもチームメイト同士が諍う様は見たくない。

 ……どちらの言い分も分かるだけに。

 部室の扉を閉めて立ち去ろうとした時、中から倉間の叫ぶ声が聞こえた。

「……雷門サッカー部を潰そうとしているのは、フィフスセクターでも剣城でもない!!、本当は、お前の方じゃないのかっっ!! 松風!!」

 その言葉は、正解で不正解。

 松風は、正しい。
 その正しさが、通らない現状が異常なんだ。
 それが分からないお前じゃないだろう? 倉間。

「……俺の側に居すぎて、あいつ腐っちまったか。まぁ、俺が腐ってるからな」

 自嘲気味に、小さく声に出す。
 誰も引き留めに来ないこの事実が、俺と言う人間への評価。
 雷門のエースストライカーも、随分と安っぽくなったもんだ。

 ロッカールームに戻り、制服に着替えサッカー棟を出る。その足で、教職員室に赴き、転校する旨を伝え必要な書類を貰ってくる。
 こんな時期だし、ましてや一応雷門のエースストライカー。事情を知らない先生方が、あれこれ訊きたがるのを当たり障りなく捌くのに時間がかかり、俺が校門を出るのはかなり遅くなってしまった。

 最後にと、こっそりグランドの方へ足を向ける。

 サッカー棟からは明かりが消え、唯一残っている灯りは監督室のものだけ。当然、グランドににも人影一つ無い。

「……雷門サッカー部が残る方法は、ただ一つ。ホーリーロードで優勝するしかないというのに、あんなことくらいで誰も練習してないなんて、もう駄目だな」

 そんな呟きを落とし、踵を返そうとしたその時。
 俺は自分の背後に人が立っていることに気付いた。

「 ――― !! ――― 」
「嫌だなぁ、南沢さん。そんなにびっくりしないで下さいすっよ」

 相変わらず、人を小馬鹿にしたような口調。
 下から見上げる目つきの悪い視線、ケンカを売られているのかと思うその態度。

「倉間か。どうして、ここに」
「どうしてって、部室の鍵を返しに行ったら、教職員室にいるのを見かけたんで、後付けてきました」
「お前な……」

 暗くなるグランドを背景に、倉間の水色の髪がぼぅと浮かび、視線が鋭くなる。

「サッカー部を辞めるだけでもびっくりなのに、その上転校ですか」
「聞いていたのか」
「聞こえたんですよ、先生方が騒ぐから」

 倉間? と思う。
 なんだか、いつもと様子が違う。

「……お前くらいには、相談すべきだったかもな」
「無理はしなくていいっすよ。俺らフツーの中学生とかと違って、色々守秘義務? みたいなもんがあるんじゃねーすっか?」
「守秘義務?」

 その言葉に、嫌な予感がする。
 まさか、倉間は……

「俺、南沢さんの後付けたのって、これが初めてじゃないんで。だから知ってるんすよ、南沢さんも管理する側の人間だってこと」
「なっっ……!!」

 言葉が出てこなかった。

「ちょうど一年くらい前だったかなぁ? 偶然町で見かけて。胡散臭そうな中年のおっさんと一緒だったんで、何かヤバイ事になるんじゃないかって」
「……それで、付けたのか」

 あのギョロっとした眼が、俺を映す。

「変な所にでも連れ込まれたら、怒鳴り込んでやろうと思って。そしたら、着いたところがフィフスセクターの本部じゃないっすか。あれ~? と思って見ていたら、受付の奴が、その中年のおっさんにペコペコしてるから、あっ、これココのお偉いさんだって気付いて。先輩も当たり前の顔してるから、ああ、そうなのかって」

 真っ直ぐに見てくる倉間の視線が辛い。

「なんで、皆に言わなかった」
「どうして?」
「俺は、お前達を裏切っていたんだぞっっ!?」

 表情の無かった倉間の眼に、薄く笑いが浮かんでくる。

「……裏切ってなんかいない。口では内申・内申って言ってたけど、あれって他の部員を暴走させないための呪文じゃないっすか」
「倉間……」
「俺、覚えてる。俺がどうして一年でファーストのFWに成れたかって事。あの時、先輩は三年の先輩とツートップを組んでたんですよね?」
「あ、ああ……」
「あの先輩も、今の松風みたいなところがありましたっけね。本当のサッカーをやるんだ!! 格下のチームにわざと負けるなんて、雷門サッカー部の名折れだっていっていた先輩」

 向こう気の強い所は似ているかもしれないが、その本質は大きく違うと俺は思う。最強の雷門サッカーというブランドに拘っていた三年の先輩に比べれば、松風は純粋にサッカーそのものを見つめている。

「その先輩に南沢さんはシュート勝負を仕掛けて完敗させ、サッカー部から追い出した。そう、南沢さんは事あるごとに、そうやってフィフスセクターから俺達が目をつけられないようにしてくれていたんですよね」
「……………………」
「それって、俺らサッカー部を思っての事。だから、言わなかったんです」

 珍しい事に倉間は左目に掛かる前髪を掻き上げ、両の眼で俺の顔をじっと見つめる。
 その眼には、絶対の信頼の光。

「……そうか。お前は分かってくれていたんだな」
「これでも、先輩とツートップ組んでるっすからね」
「じゃぁ、お前もサッカー部を辞めるのか? 随分厳しく松風を責めていたが」

 俺の事を分かってくれていたのは嬉しいが、だからといって辞めてしまう事になるのは俺の本意ではない。

「ああ、あれ。あれは、単なる八つ当たりです」
「八つ当たり?」
「そう。俺達が必死で蓋をして見ないように隠していたものを、後から来てその蓋を引っぺがし、臭い臭いと喚き立てるもんだから、つい」
「お前なぁ……」

 どこか、ほっとする。
 まだ、こいつは腐ってないと。

「これからどうするか、俺もまだ決め兼ねています。生半可な覚悟じゃ出来ない事だから。だけど……」

 言葉を途切らせた倉間だが、おそらく答えの半分はもう出ているのだろう。

「……お前の納得のゆく答えを出せばいい」

 思えば、サッカー部の中でこいつの事が一番、気がかりだったのかもしれない。今こうして話すことが出来、俺の心は一つ重荷を下ろしたような気持ちになっていた。

「じゃぁ、俺はもう行くぞ」
「最後に一つだけ、約束してください。俺達が覚悟を決めて全国大会に出た暁には、必ず対戦してくれると」
「倉間、お前……」

 俺の表情を読み、倉間の蛇眼がにやりと笑う。

「先輩ほどの選手が、まさか雷門以下の所に行くとも思えません。当然、全国大会に出ますよね?」
「お前、探偵にでもなるか? 大した推理力だな」
「……俺、ずっと南沢さんを見てたから、南沢さんの考えていそうな事って大体分かるんすよ」

 と、そう言った時だけ倉間は頬を少し赤らめ、眼が空を泳いだ。


  ■ ■ ■


 全国大会、開幕。
 それぞれの地区予選を勝ち抜いてきた強豪が、今一同に会する。
 その中に ――――

「えっ? あれって、南沢じゃないか!?」
「あっ! 本当だど!!」
「あいつ、親の都合だとかでいきなり転校していったと思ったら、こんなところで会うなんてなぁ」

 いずれ対戦するチームの中に南沢さんの姿を見つけて、ひとしきり騒ぐ三国さん達。

「南沢さん、サッカー止めてなかったんだ……」

 なんだか声が潤んでいる神童は、あんな形で辞めた南沢さんの事を、口には出さなかったけどずっと気にかけて居てくれたんだと少し嬉しくなる。

「なんか、なんか凄いねっ! サッカーって!! またこうして出会いをくれるんだよっっ! ね、信助!!」

 誰よりも喜んでいるのは、天馬だ。
 こいつも自分のせいで南沢さんが、雷門サッカー部を辞めたと思っているからだろう。

「なぁなぁ、倉間! お前、な~んにも言わないけど、感激のあまり言葉失くしちゃった?」

 にやにや顔で俺の顔を覗き込む浜野。

「俺は冷静なだけだ」
「我慢しなくていいんですよ?」

 速水も、俺が南沢さんにべったりだったのを良く知っている。 

「我慢なんかじゃねーよっっ!!」

 そうさ、俺は知っていたんだからな。
 ここに来れば、あの人に会えるって。

 あの人の代わりに、この雷門中サッカー部を守る!! と決めた。
 俺達のサッカーで! 
 それが、本当のサッカーを取り戻すことに繋がるから、俺は当たり前の本気で本当のサッカーをするだけだ。
 もう、管理されたあの頃には戻りたくない。

 当たり前のことをする、その覚悟が出来たから。

「俺、ちょっと南沢さんに挨拶してくる」
「ああv ゆっくりな♪」

 何を勘違いしたのか、浜野がにやぁと笑って俺を送り出す。
 ふん! 残念だな。
 俺達、そんな甘いもんじゃねーよ!!


「南沢さん」
「来たな、倉間」

 相変わらずの、不思議な瞳を俺に向ける。

「当然っしょ? 俺ら、雷門中サッカー部っすよ」
「……まだ、潰れずにいるんだな」

 その言葉にこそ、南沢さんの真意が籠っている。

「いずれ、俺ら対戦します。その時は、実感してください南沢さん。俺達が、どれだけ強くなったかを! 南沢さんが守りたかった雷門中サッカー部は、俺が、俺達がちゃんと守り抜いて見せます!!」
「倉間……」

 俺はまた、少し下から上目使いで南沢さんを見る。

「で、俺らに負けたらまた、雷門に帰ってきてください」
「なぜ……?」

 微かに首を傾げる南沢さんが可愛く見えた。

「卒業の時、後輩として送り出したいんっすよ、俺。あ、高校どこ行くか後で教えてください。また、後付いていきますんで」
「お前は、もう……」

 そうさ、俺気が付いたんだ。
 俺達のやろうとしている事は、中学サッカー界の『革命』らしい。
 ぶっちゃけ、そんな大事なんかはどうでもいい。
 でも、これが成功すれば、今のような管理サッカーから解放される。

 そう、南沢さんも ――――

 中学で出来なかった分、高校では思いっきり自由で楽しい、本気のサッカーやりたいんすよ! 
 南沢さん、あんたと二人で!!

 フィフスセクターを野放しにしていたら、高校サッカーまで管理されかねないし。

 という訳で、南沢さん。
 あんたのシードとしての役目もこの大会限り、俺達は全力で勝ちに行きます!!
 ああ、今から対戦するその時が楽しみで仕方がない。

 
 サッカーって、本当に楽しいもんなんですね、南沢さん!!
 俺が南沢さんを自由にします!

 だから、だから…………

 絶対、帰ってきてください!! 南沢さん!



 2011年09月16日脱稿





   === あとがき ===

シードの南沢さんと、それを知っていた倉間くんの話。
そろそろ南沢くん再登場のフラグが立っているんで、本編でやる前に捏造ネタ投下です。



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Date:2012/03/16
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