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□ 南沢さんと倉間くん □

夜刀神 ‐やとのかみ‐

 珍しく練習の無い日曜日だった。

 暇を持て余した俺は、駅前に出来た新しいデパートの中をぶらぶらしていた。ふと、目に付いたのはオープン記念で開催されていた「世界のヘビ展」という看板。入場無料という文字も目に付き、ふらりと会場内に足を踏み入れていた。

「へぇ、結構な人出だな」

 新規オープンの賑わいも手伝って、地味目な催し物の割には会場内の人数は多かった。

「確か蛇って、金銭運を良くするって言うし、商売人らしいな」

 俺は何気なく、会場内を見回る。たまたま目についたから入っただけの会場、そう思い入れのあるものじゃない。

「……あいつなら、喜びそうだけど」

 ぽつりと、そんな言葉が口から洩れた。自分と雷門でツートップを組んでいる後輩は、こういうものが好きだ。犬や猫の様に媚びないところが、性に合うと言っていた。

「あれ? なんだ、この感じ……」
 
 会場のどこからか、視線のようなものを感じた。ぐるりと首をめぐらし、その視線のようなものを強く感じる方へと足を運ぶ。そこは、一際人だかりがしている展示ケースの前だった。僅かな隙間を見つけながら展示ケースの前に立ち、中を覗き込む。丁度中にいた白蛇も、こちらにその鎌首を向けたところだった。

「うわぁ、こいつ……」

 思わず、感嘆紛いの声が出る。
 照明の光がその蛇の眼に反射して、ルビーのようにきらりと煌めく。

「……こんなに綺麗なら、飼ってもいいな。なになに、紅眼白躯のこのヘビは、神の使いとして崇められている、か。ふん、ガラスケースに閉じ込めておいて、崇めるもないものだ。神の使いなら、こんなガラスケース抜け出してこい。俺が可愛がってやるぜ」

 そんな戯言を、呟いてみる。
 そう思ったのはその白蛇の姿に、いつも自分の隣に居る後輩の事を思い浮かべていたからかもしれない。

「……まったく、折角の休みだっていうのに倉間の奴、俺を一人にするとはな。浮気でもするか」

 いつもなら二人で過ごす時間を、一人で過ごす手持ち無沙汰。軽い気持ちで、誰かひっかけて時間つぶしでもしようかとすら、思いだしていた。


   ■ ■ ■


 そう思ってはみたものの、ひっかけて遊びたくなるような女の子も見当たらず、からかい対象になりそうな顔見知りにも出会わない。これ以上の時間つぶしは出来そうにないと判断して、俺は渋々と面白くもない自宅へ戻る事にした。

 デパートを出たのは夕方。
 まだ梅雨も明けきらないこの時期。日が暮れた訳ではないのに空は、雨雲に覆われて妙に薄暗い。ぽつぽつと、雨粒も落ちてきていた。

「傘、持ってきてなかった。帰り着くまで持てばいいが」

 さほど強い雨足ではなかったので、思い切って雨雲の下に駈けだす。自分の家まで、後半分という所でいよいよ雨足は本格的になってきて、大粒の雨を落とし始めた。一瞬にして、バケツの底が抜けたような大雨。慌てて近くの家の軒先に飛び込む。

「デパートで、傘くらい買えば良かったか。あれ?」

 激しい雨幕越しに、辺りを見回す。
 間違いなく自宅に向かっていた筈なのに、余り見覚えのない家並みが続いている。住宅街の中のようで、雨宿りできそうなコンビニなどは見当たらない。雨が一足飛びに夜の暗さを連れてきた。

「まずいな、これ」

 どこかで道を間違えたようだ。何時までも他人の家の軒先に佇むのも気まずいし、頭の天辺から足の先までこうもずぶ濡れとなると、タクシーにも乗れない。、いっその事このまま大雨の中、道の分かるところまで出て、走って帰ろうかという考えさえ浮かんでくる。

「よし……っ」

 滝のような大雨の中に飛び出そうとした瞬間、良く知っている声が後ろから聞こえた。

「こんな所で、何してるんすか? 南沢さん」
「えっ……?」

 その声に振り返ると、自分を暇つぶしのデパート巡りに向かわせた張本人が立っていた。

「倉間、お前……」
「あ~あ、びしょ濡れじゃないっすか! 俺ん家、すぐそこなんで!!」

 有無も言わさず倉間に腕を取られ、相合傘で大雨の中を歩きだす。

「お前、今日は親戚の法事で泊りがけで出かけたはずじゃ……」
「その予定だったんすけど……。親が外泊するチャンスなんて滅多にないって思い直して、途中で色々理由つけて自分だけ戻ってきました」

 傘を差し上げ、俺の隣を歩く倉間が、意味深に笑いながらそう言う。

「それって、お前……」

 俺を見上げながら笑うその眼に、何とも言えない表情が浮かんでいる。

「たまには、親の眼を気にせずにってのも、いいんじゃないすか? あっ、でも南沢さんは変態だから、そーゆーバレそうなアブナイ方が興奮するとか?」

 明らかに、俺を誘っている。

「おい、倉間。そんな口叩いているが、いつも足腰立たなくなるのはお前の方だろう? 俺にヤられて、ヨガって興奮しまくって」
「そーゆーあんたも、相当じゃないですか♪ 気持ち良いんでしょ? 俺ん中v」

 喧嘩しているように見えるかもしれないが、これが俺と倉間のコミュニケーション。お互い、媚び合い狎れ合う甘ったるい関係は、気持ち悪くて鳥肌が立つ。

 余り歩かないうちに、倉間の家に着く。
 人気のない玄関には、ぼんやりと常夜灯だけが点いている。

「暗いな……」
「そりゃ、そっしょ? 俺達だけなんすから」

 部屋の明かりを点ける気配もなく、倉間は俺を浴室へと連れてゆく。さすがに浴室の灯りは付けたが、それでもあまり明るくはないオレンジ色の白熱球。

「まずはその濡れた服脱がなきゃ、風邪ひきます。脱いだ奴はそのまま洗濯機に放り込んでおいてください」
「ああ……」

 それは言われるまでもない。
 びっしょり濡れた服を脱ぎ、無造作に放り込む。浴室に足を踏み入れ、シャワーの栓を捻る。最初は冷たい水が、だんだんと心地好い温度に変わってくる。シャワーの立てる湯気が浴室を満たし、オレンジ色の光が柔らかな色に変わる。その時、冷やりとしたものが俺の足に当たった。

「なっ……!」
「あ、すんません。俺も濡れたんで、一緒にシャワー浴びさせてください」

 湯気で見通しの悪くなった浴室の中、するりという感じで俺の横に立つ倉間。

「……お前の家だ。好きにしろ」
「じゃ、ついでに南沢さんの背中、流してあげます」

 嬉しそうな顔をして、倉間は言うと直接俺の背中にボディソープをたらし、片手にタオルを持って、俺の背中を擦りだす。

( 雨の中で冷えたのか? 随分と冷たい手だな )

 最初触れた時は、びっくりするくらい冷たかった手も、だんだんシャワーの湯で温まって来たのか、微かに冷やりとするくらいになっていた。むしろ、倉間に背中だけでなく体中を洗われて、その刺激で熱を持ち始めた体には心地好い感触ですらあった。

 微かに冷たい掌、滑らかな肌、柔らかさと弾力のある不思議な感触。
 そのどれもが、俺の官能を掻き立てる。

「……随分と念を入れて洗うんだな?」
「そりゃ、後で咥えさせて貰うんで♪」

 背中越しで洗いながら自分の胸を密着させ、脇からひょこと顔を出した倉間の眼は、浴室のオレンジの光を受けてか、いつもより赤っぽく見えた。


   ■ ■ ■


 ―――― 乾燥が終わったのか、可愛らしい機械音が遠くで聞こえた。


「倉間……」
「あぁ、洗濯終わったみたいですね」

 あの後、バスタオルだけ身に着けてそのまま倉間の部屋に直行した。俺は着替えが無かったし、倉間も着替えを用意してなかった。どうせ、着てもすぐ脱ぐことが分かっていたからだろう。

 濡れた服が渇く間、俺達がしていたことは ――――

「……ずいぶんとがっついてるな、倉間」

 火照った肌に心地好い、倉間の少し低めの体温の手や頭を下腹に感じながら、俺は熱い息を吐く。

「だって南沢さん、美味いし」

 下腹に埋めた水色の髪の間から、やはり赤味かかった目を満足げに半眼にして、そう言いながら倉間がにいまりと笑う。珍しいなと、俺は思う。いつもの倉間は、こちらが仕掛けないとなかなか乗ってはこない。自分から誘うような真似はまだ恥ずかしいのか、もじもじとして言い出せないでいる。だが今日は、まるで別人のように積極的だ。

( まぁ、こっちは任せっ切りで愉しませてもらってるから楽だけどな )

 なにしろ、こちらが倉間を弄る暇がないくらい、貪欲に求められている。前戯から本番、後戯まで、すべて倉間のペースだ。特に口淫の巧みさは、今までで最高の上手さだ。絶妙な舌使いで、煽りあげ、なんど堪らずに吐き出したことか。

「おい。さすがにヤり過ぎだろう?」
「そーですか? 俺、久しぶりなんで、つい♪」

 ようやく顔を俺の下腹から上げた倉間の唇は、赤く濡れて妙に艶めかしい。ちろりと覗く舌先が、別の生き物のようで背筋がぞくりとする。このままでは、一晩中でもヤってしまいそうで、俺は両手に力を入れて倉間の体を引き離す。

「このくらいにしておかないと、明日がきついぞ」
「大丈夫っす。俺、明日は休みなんで」

 と言いながら、俺の胸もとにしな垂れかかるようにぬるりと倉間が体を絡みつけせてきた。

「お前、ズル休みか!?」
「いやだなぁ、ちゃんと学校には休むと届けを出してます」

 軽く息が上がり、上気した俺に比べ、やはり少し倉間の体は体温が低い。まだ余裕があると言う事か。

「倉間……」
「はいはい。これ以上したら、南沢さんの足腰が立たなくなるんですね。そうですか♪」

 楽しそうに、からかう様に言われた。

「俺は、お前ほどがっついてはないだけだ」
「それって、俺以外ともヤってるから?」

 そう言った倉間の眼が、物騒な光を帯びている。

「かもな。とにかく、今日は帰る!」
「残念っす。今日なら泊りで、まだまだたっぷりヤれるってぇのに」

 これ以上ここに居たら、倉間に精も根も吸い上げられそうな気がした。絡みつく倉間の体を力を込めて離し、立ち上がると部屋を出る。出た瞬間、がくと足元がよろけた。

「うわっ、こんなに来てる。ヤバいな」

 決して自分も体力が無い方だとは言わないが、今夜の倉間の絶倫ぶりには敵わない。
 
 事後の痕跡を流すように、もう一度シャワーを浴びる。洗濯機からまだ暖かい自分の服を取りだし、身に着けた。ふと耳を傾けると、あれだけ大降りしていた雨も上がったようだ。これなら濡れずに帰れるだろう。

「じゃ、邪魔したな。倉間」
「それじゃぁ、また。南沢さん」

 裸にシーツを巻き付けただけの姿で、倉間が見送ってくれた。相変わらず室内の照明を付けようとしないので、玄関先は薄暗いままだった。


   ■ ■ ■


 その夜は、疲れ果て泥の様に熟睡したお蔭か、翌朝は意外とすっきり目が覚めた。

「これが若さってもんか。なら、折角のチャンスを棒にしたか?」

 次の日の事を憂えてあえて自重したが、この体調なら倉間に誘われた時に泊まって行けば良かったかもしれないと、そう思う。

「あの倉間があんな風に誘う事って、まず無いからな」

 少し惜しい事をしたかと、今頃になって後ろ髪を引かれる。学校に欠席届を出した手前、さすがに部活だけ顔を出すと言う事もなく、一人足りないグランドはどこか広いような気がした。
 部活を終え帰宅し、慌ただしく用意された夕食と風呂を済ませる。後は部屋に籠って受験勉強だ。練習の疲れで眠たくなる眼を、根性で開く。内申と日頃言ってはいるが、部活推薦だけでは心許無い。やはり学力や学習態度も重要だ。

 コンコン。

 机の時計が十時を過ぎていた。
 俺の部屋は一戸建ての一階、北側にある。その窓を、誰かが叩いている。

 コンコン。

 もう一度。
 泥棒や、妖怪オバケの類じゃなければ、こんな風に俺の部屋を訪ねてくるのはあいつしかいない。

( おい、昨日の今日だぞ!? )

 コンコン!!

 今度は、ガラスが割れそうな勢いで叩かれた。

「いい加減にしろ! 倉間っっ!!」

 サッシ窓をガラッと開けると、やはり上目づかいで薄らと笑っている倉間が立っていた。

「あれぇ~、機嫌悪いっすね? いつもは、南沢さんがこうして俺を呼び付けるくせに」
「だけど、今日は呼んでない」

 そう。
 俺達が学校外で会う時は、大抵俺の部屋だ。
 父親は単身赴任中、だから母親が残業の時などに。

「でも、今日はお母さん、残業の日っすよね?」
「ん? なぜ知っている?」

 確かにそれは、そうだが……。
 今日は、学校も部活も休んでいた倉間が、なぜそんな事を知ることが出来る?

「そんな事、どーでも良いじゃないですか。それよりもいつものアレ、やりましょうよ♪」

 こちらの許可も得ないまま、窓から倉間がするりと入ってくる。

「どうでも良いじゃない! 今日はお前、このまま帰れっっ!!」

 俺は力づくで、追い返そうとした。
 一体、どうしたんだ倉間?
 お前、こんな奴だったか!?

「……嘘吐き。可愛がってやるって言ったくせに」
「は? お前、何を言って……」

 その言葉は、途中で立ち消える。
 俺を見上げた倉間の眼光に射抜かれ、俺は何故か身動きが取れなくなった。
 すぅと意識が遠のいていく。

( あ、ヤバイ…… )

 倉間の、冷たく底光りする眸を間近に感じた。
 ひんやりとする手が俺の体を這う感触、俺の中心にチロチロと絡む舌。
 たぷんとした官能の蜜の中に、俺は投げ込まれた。。


   ■ ■ ■


 あれから……

 毎晩のように倉間が、俺を訪ねてくる。
 訪ねてきて、同じような押し問答をしている間に俺は意識を失くし、その間に倉間は事を済ませて帰っているようだった。

 昼間や部活の時はそんな素振りは見せないのに、夜になると豹変する。
 俺はだんだんと、そんな倉間の言いなりになりつつあった。

 そして、今夜も ――――

「毎晩ご馳走様です、南沢さん。でも、そろそろお終いっすかね?」
「あ、ああ、そうだな。こう毎晩だと、体が持たない」
「ですね~♪」

 俺の下腹から顔を上げた倉間の唇は、もうぬめぬめと赤く濡れ光っている。俺は快感と引き換えに、命を吸い取られているような気がしていた。

「知ってます? 断末魔の瞬間が一番快感を得られるって話」
「な…に……? 断末魔……?」

 ぬるりと倉間の体がぬめって、俺の体に絡みつくように這い上がり、そう俺の耳元で囁く。首筋に当てられた唇は少し冷たく、しっとりと肌に吸い付く。

「ああ、良い匂いだ。ここ、新鮮な血の匂いがします」
「倉間……」

 だんだん自由が利かなくなる自分の体、かろうじて視線を動かし横目で倉間の顔を見る。

「倉間っっ……」

 眸は人のそれでなく、縦に走る虹彩は爬虫類のそれ。
 頬まで裂けた口には、上下二対の毒牙が光る。

 その牙が、今にも首筋に打ち込まれようとした、その時 ―――― 


「サイドワインダーっっ――――!!」


 開け放されたままだった窓の外から、鋭い一声!!
 金色の、『氣』の大蛇が、俺に食らいつこうとしていた倉間の横っ腹に鋭い牙を打ち込んだ。

「何が、起こったんだ……?」

 勢い余って倉間と大蛇は部屋の壁に、大きな音を立ててぶつかった。見れば倉間の姿はなく、代わりに白い蛇がそこに居る。

「一体何してんですっっ!! 南沢さん!」

 窓の方から声が聞こえる。
 そこには、ひらりと軽やかな身のこなしで窓を乗り越えた、怒りも露わな倉間が立っていた。

「えっ? 倉間が二人……?」
「しっかりしてください!! あれは俺じゃありません!」

 つかつかと近づいてきた倉間に、バシッバシッと二・三回張り手を喰らう。

「まったく、どんだけ変態なんですかっっ!! 南沢さん、あんたって人はっっ!?」
「……倉間、倉間、だよな?」

 まだ、頭がぼんやりしている。

「どこで憑けてきたか知りませんが、あんな蛇相手に毎晩毎晩ヤリまくって!! もう少しで命落とす所だったんすよ!」
「蛇……? だけど、お前が俺を誘ったんだろう? あの大雨の日曜日から」
「大雨の日曜日? 俺が法事で親の田舎に行っていた日じゃないですか。いくら俺が居なくて寂しかったからって、蛇は無いっすよ、蛇は!!」

 ポンポンと歯切れの良い口調、先輩を先輩とも思わない生意気さ。
 そして、こんなにも心配してくれている。

「倉間、本当に倉間なんだな?」
「当たり前っしょ!? 俺は俺です。どうにもここ数日、南沢さんの様子がおかしいから、気になって様子を見に来ればこの有様。びっくりっすよ!」

 疲れて動けない体を倉間が支える。小柄ながらもがしっとした掌、少し硬い肌とほんの少し自分より高い体温。

( ああ、間違いない。俺がいつも腕の中に抱きしめていたのは、この倉間だ )

 ほぅぅと、大きく息を吐く。

「あ、あの蛇は……」

 いつの間にか、壁際に居たはずの二匹の蛇が消えている。

「俺が気合で、叩き出しました」
「済まない、倉間。助けてもらったな」
「良いっすよ。相手が相手だし。でも、もう二度と浮気はさせませんから、覚悟しておいてください」

 そう言った倉間の眼光も鋭い。
 微かに悪寒が走ったが、俺はしっかり頷いていた。

「じゃぁ、今夜は帰ります。南沢さんも、早く体力回復させといてください。俺、一週間以上ご無沙汰なんで、楽しみにしてます」
「え? おい、倉間。それって……」

 憑物の蛇よりも、もっと死ぬ目に合うかもしれない。

( まぁ、それも本物の倉間相手なら、悪くはないか )

 とにかく今は、体を休めることに専念しようと俺は瞳を閉じた。


   ■ ■ ■


 夜道を一人、倉間は歩いていた。

 人影のない住宅街の路地、前方にぼぅと白い影が浮かぶ。
 鎌首をもたげ、大きく口を開き、毒牙を薄暗い街灯にきらめかす。あの蛇が、倉間の行く手を塞いでいた。

「……お前、まだそんな所にいたのか」

 シャー、という威嚇音。
 ぞろりと、長い蛇体をうねらせ、倉間の方へにじり寄る。身を屈め、いつでも倉間の喉笛に食いつこうと隙を伺っていた。

「さっさと俺の目の前から消えろ失せろっっ!! 俺が一目惚れしたくらいだから、南沢さんは確かに蛇好きがする。だからといって、余所者のお前に渡すような俺じゃない!!」

 挑発する倉間に我慢が出来なくなったのか、あの白蛇が襲い掛かる。ひゅうと息を飲む音がし、次の瞬間倉間の背後には、金色に光るサイドワインダーの巨大な姿が浮かび上がっていた。

 飛びかかった白蛇は、そのサイドワインダーの大きな口に捕捉されている。

「南沢さんは、俺の獲物だ! お前如きが、触れるんじゃねぇっっ!!」

 パチ、倉間が指を鳴らすとサイドワインダーは捕捉した白蛇を毒牙で突き刺し、歯牙の代わりに強力な顎骨で噛み砕くガキっ、ボリっ、ぐちゃという咀嚼音がしばらく響く。

「あ~あ、あのデパート、預かりものの蛇を逃がしたうえ、行方不明にして賠償が大変だなぁ。まっ、俺には関係ない事だけど」

 全て食べ終えたサイドワインダーが、倉間の顔近く頭を下げてくる。

「ご苦労様。ヘンなモノ食べさせて悪かったな」

 労わりの言葉を理解したのか、嬉しそうにその頭を倉間の顔にすりつけると、ふっと暗闇に溶けるようにその姿は掻き消えた。

「さて、と。明日も朝練だし、俺も早く帰って寝ようっと」

 そう言いながら、倉間は満足げに頷きながら後ろを振り返り、南沢の部屋にその視線を向ける。


「本当、俺楽しみにしてますから。南沢さん」 

 呟き、薄い笑みを浮かべる
 弱々しい街灯に照らされた、暗闇でも金色に光る縦に裂けた虹彩。


 それは、捕食するモノの眸 ――――



  2011年09月21日脱稿





   === あとがき ===

南沢さんと倉間くんと蛇の妖しい話。すっかりデキ上がっている南倉なんで、それっぽい描写があります。えっと、南沢さんはやられ沢さんで、倉間くんがアレですが…^_^;  先週のサイドワインダーで滾って、勢いで書いてしまいました。



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Date:2012/03/16
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