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□ イナGOでもしも… シリーズ □

久遠監督が真相を知っていたとしたら…

「おい! 本当に退団してしまうのかっっ!?」

 チームの守護神の突然の退団に、チームメイト達は動揺を隠せない。

「今、退団するって事は、お前のプロ生命だって危うくなるんだぞっっ!!」
「プロには、そのシーズンの成績が一番の評価対象になる。どんな理由であれ、現役を離れた者への評価が下がるのは、お前だってよく知っているだろう?」
「ましてや、次々に若い選手が台頭してくるんだ。戻りたくても、もうそのポジションは別の奴のものだ。それでも、お前は良いのか?」

 共に戦ってきた仲間達みんなが、その実力と人柄を惜しみ、どうにか留意させようと次々と言葉をかけてきた。もちろん、そんな事は、退団すると決めた本人が一番よく分っている。

「ありがとうな、みんな!! 俺、このチームで一緒にプロとしてプレイ出来たことが、物凄く嬉しい!! きっと、俺の人生の中でも、一・二を争う宝物だ」
「なら、どうしてっっ!?」

 ロッカーを片付けていた手が止まり、つぶやくように言葉を続ける。

「……大好きなサッカーを守るために。サッカーが大好きで、サッカーを愛し続けて走り続けた俺の夢は、今こうして叶った。たくさんのサッカーを愛する仲間と出会い、力の限り戦って、高みに上って」
「円堂……」
「俺、思うんだ。俺がサッカーを愛したように、俺もサッカーから愛されているって。だからこそ、俺は今、日本のあいつ等のもとに戻らないといけないんだ!!」

 その言葉とともに仲間を見回す円堂の瞳には、今から試合に向かう時と同じ闘気に満ちた光が宿っている。

「……何か、のっぴきならない事情があるようだな」
「キャプテン……」
「お前がプロ生命をかけてまで、やらないといけない大事なことが」

 そのキャプテンの一言で、チームメイト達も円堂の決意のほどを知る。

「お前の眼、まるで決勝戦に挑む時のようだぜ」
「お前にとって、大きな戦いになるんだな」
「頑張って来い! 円堂っっ!!」

 留意の言葉は、新たな戦いに挑む円堂へのエールへと変わり、差し出された手を強く握り返しながら円堂はクラブハウスを後にした。


  ************************


 入学式前に一悶着があったものの無事入学式も終わり、天馬達はそれぞれ一年間を過ごす教室に移動した。新しい学校、新しいクラスメート、そして部活動。天馬にとっては、むしろそれこそが雷門に入学した一番の理由。あの幼い日の、憧れを実現させるために。

( ……でも、なんだか雷門のサッカー部って大変そうな感じがするなぁ。あの理事長は、あんまりサッカー部の事が好きじゃないみたいだし )

 それに……、と天馬は思う。
 この「サッカー」に対しての違和感は、剣城京介の存在でより際立たされた。あんなにサッカーの実力を持っていながら、なぜかサッカーそのものを憎んでさえいるかのようなあの態度に。

( しっかりしろ! ここで雷門でサッカーをやるために、俺は沖縄から来たんだろっっ!? 俺はやるって言ったら、絶対やるんだから!! )

 クラスメート達の代わり映えのしない自己紹介を聞きながら、天馬はペシペシと頬を叩いて気合を入れ直した。


 一年のクラス担任ではない教職員は教職員室に戻り、それぞれ明日からの授業の準備などにかかっている。そんな中、春奈はきょろきょろと室内を見回し、お目当ての人物の姿が無いことに気が付いた。
 その人物が居そうな場所をいくつか頭に思い浮かべ、体育教官室かサッカー棟の監督室か、それとも……と、候補を絞り込む。そして、はっとしたような顔をすると、窓の外に広がるグラウンドの奥に視線を向ける。

「……多分、あそこね」

 そう小さく独り言のように呟くと、春奈もまた教職員室を出た。


 ホコリ臭く、錆びた鉄骨の臭いもするその薄暗い空間。
 久遠がここで、生徒たちを指導したことはない。
 ないが、ここがこの雷門サッカー部の始まりの場所だと思うと、どんな近代的な設備を導入したサッカー棟よりも、気持ちが落ちつくのだった。

「……ここからまた、始めるのだからな」

 ポケットに入れた携帯が、ブブブっと小さく振動する。届いたメールは一言、「着いた」とだけあった。差出人の名前を確認し、もう誰も使わない旧サッカー部室内を見回す。

 十年前、ここには紛れもなく彼らがいた。

 今また、彼らの力が必要な時。

「……頼むぞ、お前たち。今がその時だ」

 久遠が旧サッカー部室から出てみると、ドアの所に春奈が立っていた。

「音無……」
「やっぱり、ここだろうと思いました」
「…………………」
「……今のサッカーって変ですよね。なんだか、サッカーをするのに一番大事な事を忘れたまま、他の理由をつけてやってるみたいで」
「それでもまだ雷門はマシな方だ。サッカーこそをやりたくて雷門に入学するような奴がいるうちはな」
「ああ。松風天馬くんのことですね。天馬くん、あの頃のキャプテンに似ているなって感じたんですよ」

 懐かしむように少し微笑んで、春奈はそう言った。

「音無は、剣城をどう思う?」
「剣城くん…? ですか。サッカーのテクニックはすごいけど、サッカーへの情熱みたいなものは感じない子ですね。むしろ、憎んでさえいるような……」

 そう、それは入学式前のあの態度からも感じられたこと。
 サッカー部を潰してやると、サッカーなど下らない、必要のないものだと言い捨てたあの言葉。

「……どうだろうな。あいつが下らない、必要ないといったのは果たしてどちらのサッカーを指して言ったのだろう」
「えっ?」

 春奈が聞き返そうとした時には、久遠は振り返りもせず歩いて行ってしまった後だった。
 昔から、どことなく読み切れないものがある人物であったなと、改めて春奈は思った。


  ************************


 今は一人暮らしの久遠は、早めの夕食をとる為に町の小さな洋食屋に足を運んだ。ここは年若い店主が、しっかり者の年上の奥さんと二人で切り盛りしている隠れた名店。入ってみると早い時間にも関わらず、七割ほど客が入っていた。

「あっ、いらっしゃいませ!!」
「お久しぶりです! 監督」

 昔からの知り合いである二人が、にこやかにあいさつをする。

「繁盛しているようだな」
「はい、お陰様で。秋には二人目も生まれますし、じゃんじゃん稼がないとですねっっ!!」

 そう言うと、店主は幼馴染で姉さん女房であるナナミのお腹に愛しげな瞳を向けた。
 二人の足元には、二歳になる男の子がサッカーボールをちょこちょこと蹴っている
 店主は父親になってもあの頃の童顔の面影はそのままの、宇都宮虎丸であった。
 他の席からオーダーの声がかかり、身重の奥さんはニコニコしながらそちらの方へと移動していった。
 それを見届け、周りが自分たちに注意していないことを確認すると、声を潜めて虎丸が久遠に訊ねた。

「で、今日店に来た本当の目的はなんですか?」
「ああ。あいつに連絡してほしい。時は満ちた、と」
「分かりました」

 そんな短いやり取りだけで、虎丸は久遠の側から離れた。

 程なくして、久遠の前に虎丸お勧めの料理が運ばれてきた。それを、機械的に口に運びながら周りの様子に目を配る。虎丸と久遠の関係は、第一回FFI大会の時の監督と選手、そして雷門中在学時の3年間の監督と選手という関係で完結していた。虎丸は高校へは進学せずに、調理専門学校で調理師の資格を取り早いうちから自分の店の後を継いだ。余りあるサッカーの才能を、惜しむ声も多かったがそれでも虎丸は自分の選んだ道を後悔することなく、まっすぐに歩んでいる。

 サッカーから縁が切れた存在。

 だからこそ、今回の連絡役を頼んだのだ。
 そして ――――

( ……すまん。円堂と変わらぬくらい正義感の強いお前に、酷いことを頼んだと思う。だが、お前の働きにこれからのサッカー界が左右されるといっても過言ではないのだ )

 久遠がこの事態の全貌を知った数年前、一個人、一中学校の力くらいでは、もうどうしようもないほど事態は大きく動いていた。あの財前元総理の力を持ってしても、止めることはできないほどに。

 それから密かに、自分たちでできる対抗手段を用意してきた。本来「在るべきサッカー」の姿を守るためにも、雷門は最後の牙城でもあった。どれほど管理サッカーへの転向を強いられようとも、断固拒否し続けてきた。それだけでなく、切り札として組織内に送り込む人間として白羽の矢を立て、高校卒業後留学したドイツまで直接自分が説得のために飛んだ。

 あの時の言葉は、そのままあいつのサッカーへの情熱と愛情の表れ。

( 分りました。今日から今までの俺は死んだものと、自分でも言い聞かせます。大事な仲間を裏切り、そしられようとも、それが、あいつが…、いや、俺たちが愛したサッカーを守るためになるのなら、どんな汚名を被ろうとも怯みはしません )

 静かな炎をその瞳に燃やし頷き、いつしかサッカー界からその男の名前は消えていった。
 密かに久遠が残した繋がりは、同じくサッカーから縁が切れた、僅か1年ばかり共にグラウンドを駈けた虎丸との一方通行の連絡手段だけ。
 それ以外は昔の仲間はおろか、最後に必ず戻るからとの一言を残し、家族さえとも一切連絡がつかない音信不通の状態となっていた。
 


 少年のあの日、夢を追い、仲間とともに愛と希望に満ちて駆け抜けたグラウンド。
 大人たちの手で管理され『サッカー』と言う名の手段に成り下がった今のサッカー。
 グラウンドから消えたあの輝きを取り戻すため、かつての少年たちは走り出す。


 雷門から、今 新しい風が吹こうとしていた ――――
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Date:2012/03/07
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