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□ 南沢さんと倉間くん □

朝(あした)見る夢

 12月31日、いよいよ今年も終わる。
 
 色んな事がありすぎた、2011年。
 色んな出会いや、色んな出来事……、どっちかって言えば困難の方が多い年だった。廃部への恐怖感や、漠然とした未来への不安感、奴らの言いなりになる屈辱感や、それでも辞める事の出来なかったサッカーへの想いや、クソ生意気な一年への怒りなんや。

 でも、この年の瀬に思う事は、そんな事全部ひっくるめて、俺は『変わった』って事。ここまできたら、もう成るようにしかならない。ならば、それを俺の望む形に少しでも近づけたい! その為の苦労なら、それはもう『苦』じゃない。俺が乗り越えるべき、大切な課題だ。


 だけど、たった一つ、俺の心に引っ掛かるものがある ――――


「ううっ、流石に寒いな。俺、寒いの苦手なんすよ」

 普段練習に明け暮れる生活のせいで、正月を迎えるのに相応しくない自分の部屋の片づけを途中で放り出して、俺は明かりのない一軒の人家の前に立っていた。時間は、もう夜の九時を過ぎている。後、三時間もしないうちに、新しい年がやってくる。

「……やっぱり、帰ってこないですね。最後に会ったのが、あの試合の時だなんて、少し寂しいっすよ」

 暗い家の前で、暗い顔をして佇む俺は、他の人から見たらどんな風に映っているだろう? そう思ったら、なぜかだんだん腹が立ってきた。そう、いつもあの人は何も言わない。何も言わないうちに、どこかに行ってしまう。退部した時だって、転校した時だって、転校先でまたサッカーを始めた時だって、それで俺達と対戦するって分った時だって!!

「何も言わないあんただから、こっちに戻って来る時も、多分な~んにも言わないで戻って来るって思って俺、こうして待ってんですけどね!」

 思わず明かりの無い家の壁を、スニーカーの底で蹴りつける。暗くて判らないけど、明るくなれば俺の付けた足跡がくっきり残っているはずだ。


  ■ ■ ■


「おい、そこの馬鹿。人ん家の壁、蹴るな」

 暗い路地の奥から、突然かかる声。
 いつものように人を小馬鹿にした、どこか冷たささえ感じさせる声。でも、俺は……

「……やっぱりここ、まだあんたの家なんですね。年末なのに明かりもつかなくて、もうどっかに引っ越したのかと思いました」
「……馬鹿。ちゃんと表札も南沢のまんまだろ?」

 表札はそのままでも、もうその家には誰も帰って来ることはなく、いつのまにか突然ある日その表札も外されるかも、って、そんな不安を抱えていたなんてあんたは知りもしないだろ?
 寒さで硬直した感じの俺を横目に、南沢さんは壁に付いている鉄の門扉の鍵を開け、枯葉で埋もれかけている洗い出しのアプローチの上を歩いて家の玄関の鍵を開けた。少ない荷物を玄関先に放り出し、中に上がると部屋の照明を付ける。室外機が動き出したことで、エアコンを付けたことが分かった。

( 本当に帰ってきたんだ、南沢さん! )

 そんな当たり前の行動すら、俺には嬉しい。折角だから、このまま図々しくお邪魔させてもらおうと玄関先に近づいた時、中から身軽な格好で南沢さんが出てきた。ダウンのコートを羽織り、マフラーまでしている所を見ると、今からどこかに出かける様だ。

( 帰って来たばかりなのに、また…… )

 本当に俺の気持ちは、この人の行動一つ一つで大きく揺れ動く。

「出かけるんっすか? 南沢さん」
「ん、ああ」

 俺は玄関先から、家の奥をちらりと見る。部屋の照明とエアコンが付けっぱなしのようだ。

「電気、付けっぱなしっすよ」
「……わざとだ。暗くて寒い家にはそうそう戻りたくないからな。それより倉間、お前暇だろ?」
「まー、暇っちゃ暇ですけどぉ」

 ここで暇じゃないなんて嘘は、流石につけない。明かりも点いていない家の前で、体が凍えるほど待っていた様子がアリアリな今は。

「じゃぁ、付き合え」
「はっ? 何処へ」

 俺の返事も聞かずに、南沢さんはすたすたと俺の前を行く。今度は置いて行かれないよう、俺も急ぎ足で南沢さんの横に並ぶ。ふと、振り返ってみれば、付けたままの玄関灯と門灯のオレンジ色の灯りがゆらりと揺れて、行ってらっしゃいと言われたような気がした。


  ■ ■ ■


「南沢さん、何処行くんすか?」
「すぐに判る」

 すたすたすた。
 俺も一緒に歩いているうちに、段々俺達の周りに人が増えてきた。

「え~っと……。家の人はどうしたんですか? あの家、南沢さんだけみたいっすけど」
「だろうな。親父もお袋も今、日本にはいないし」
「はっ?」
「まぁ、急な話でさ。俺の親父、急遽海外支社へ転勤が決まって、本当なら俺も行くはずだったんだ」
「えっ……?」

 そんな話、初耳だ。もっともこの人が、そんなプライベートな話を外で話す所なんて見たことがなかったけど。

「それも微妙な転勤期間でさ、三年間って期限付き。そんな転勤について行ってみろ、大学受験の準備が出来ないじゃないか」
「はぁ、まぁ……」

 南沢さんがどこの大学を狙っているかなんて知らないけど、高校受験はその高校に受かればOKな訳じゃなく、その先を見越したうえで志望校を決めろとは、年末の三者懇談で俺も言われた事。

( 確かになぁ……。高校三年の時期に日本に帰ってきて、それから大学受験の準備が間に合うのかって言うのは微妙だよな。そのまま外国の大学にっていうのもありだけど、そうしたら南沢さん、外国で独り暮らし……? )

 そこまで考えて、俺は頭をふるふると横に振る。

「……で、中学じゃ珍しい途中転入可な寄宿制の学校だから、月山国光に転校した」
「へぇぇ、そうなんですか」

 どうせなら、そーゆー話は転校する前にして欲しかった。そんな事を話している間にも、俺達の周りには人が集まってくる。どうやら目指す場所は同じところのようだ。

 俺達の目の前に現れたのは、受験シーズンには大忙しになるあの神様の神社。遠くにある本宮と同じ造りの境内と本殿両隣の梅の花が有名だ。

「……珍しいっすね。縁起担ぎなんてしそうにない南沢さんが、合格祈願ですか?」

 合格祈願と初詣を兼ねた参拝客の波が、俺達を本宮の前へと運んでゆく。途中、何かの花を植えているらしい池の上を渡って行く。冬だから枯れた細い葉だけが残り、少し寂しげな感じだ。花の咲く季節なら、また違う景色が見られるのだろう。

「おい、ちょっとこっちに来い」

 池にかかる橋は三つ。真ん中が丸く膨らんだ太鼓橋が二つと、その間を繋ぐ平坦な橋と。その一つ目の橋を渡った平たい橋を歩いていたら、俺は南沢さんに腕を掴まれ、流れる参拝客の群れから橋の欄干沿いに連れ出された。丁度欄干と南沢さんの体に挟まれたような状態、参拝客は南沢さんの背中を押しながら先に進んでゆく。

「なんですか? さっきの俺の言葉が、気に障ったんですか?」

 人の流れの速い橋の上で、俺達は立ち止まる。周りからは、かなり迷惑な事だろう。

「……お前が、人気のない俺の家の前でずっと待っていたのと同じようなもんだろ。もしかしたらって言う気持ちはさ」
「…………………」
「勿論、神頼みなんてしなくても合格はもぎ取るさ。それが、条件だからな」
「条件?」

 俺は首を傾げる。相変わらず、この人の話は要領を得ない。

「月山国光は、中・高・大一貫校だってこと。こちらでの志望校に受からなければ、帰って来れない」
「南沢さん!!」

 帰って来れない、その一言が俺の体を熱くする。それは『帰って来たい!!』という、南沢さんの希望を表す。その為に、らしくもない合格祈願にまで出向いて。

「大丈夫ですって!! 南沢さんなら。俺が保証しますっっ!!」
「……年下の、ましてや成績がアレなお前の保証じゃなぁ」

 少し意地の悪い笑みを浮かべ、俺を見る南沢さん。こういう所は相変わらずだ。

「知ってるか? 倉間。この橋、俺達が渡ってきたあの一つ目の太鼓橋は、『過去』を表すんだとさ」
「過去? じゃ、今立っているこの橋は、現在?」
「正解」

 そう言って、流れて来る参拝客の姿を南沢さんは不思議な表情で見つめた。人波を迎えるように立てば、その勢いに逆らうことになる。

( 勢いに逆らう、か。確かに、そんな一年だったな )

 『管理サッカー』の流れに逆らい、手ひどい打撃も受けた。いつも俺の隣に居たはずの人の姿も、その流れの中、離れ離れになって……

「……色んな事があったな」
「色んな事が有りましたね」

 恐らく、俺が思っているような事を、南沢さんも思っているのだろう。

「だけど、今はこうして同じ場所に立ってます」

 遠くを見ている南沢さんの気持ちを、俺は『今』に引き戻す。

「ああ、そうだな。なぁ、倉間」
「はい?」

 視線を俺の上に戻した南沢さんの瞳に宿る光。真冬の一等星よりも強く、俺を射抜く。

「あの橋をお前、俺と一緒に渡ってくれないか?」
「あの橋、を……?」

 南沢さんの言う『あの橋』、それは俺達の前にある二つ目の太鼓橋。それは、つまり……

「……『未来』を、南沢さんと一緒に……?」
「嫌か? 倉間」

 『未来』、その言葉の漠然さと大きさに、俺の頭はついて行けない。だけど、それはとても大きな意味を含んでいて、今は俺を選んでくれたと言う事だけで嬉しくて ――――

「俺で、良いんですか?」
「お前が、良いんだ。お前じゃなきゃ、駄目なんだ」

 たくさんの人たちが、過去から未来に流れてゆく橋の上。俺達は、そんな流れの中の『今』の片隅で、そっと腕を回し抱きあった。


  ■ ■ ■


 チャリン、チャリン、とお賽銭が賽銭箱に落ちる音がする。俺の隣で、ちゃんと礼拝の作法通りにお参りをする南沢さん。俺も、南沢さんの合格を祈願する。

「俺、目いっぱい南沢さんが合格するよう神様にお願いしましたから!!」
「そうか。だけど、お前自分の学業祈願は良かったのか? お前も来年は受験生だろ?」
「へっ! そんなもの、円堂監督の教え通り『サッカー』で進学もぎ取ってやります!!」
「……バカなお前らしいな。あ~あ、本当にサッカー馬鹿だ」

 ぱふんと、俺の頭の上に手を置いて、楽しそうに笑う南沢さん。
 遠くで幾つか目の除夜の鐘の音が響き、いつの間にか新年を迎えていた。

 ブーブーブーとマナーモードにしていた俺の携帯が、家族からの通話を伝える。

「誰からだ? 倉間」
「あ~、多分、母さんからです。ちょっと、すいません」

 参拝客のざわめきを避けるように、参道の端に寄り手で通話口を覆う様にして話し出す。

『大晦日の夜に、何時までほっつき歩いているの! 典人!!」
「あ~俺今、神社に先輩と初詣に来てるから。うん、久しぶりに帰って来た先輩だから。うんうん。そう、話したいことが沢山あるから、このまま先輩ん家に泊めてもらう。大丈夫だって! 先輩一人だから、迷惑かけないからっっ!!」

 それだけ、伝えると俺はすぐに携帯を切った。ついでの携帯の電源も切る。

「おい、倉間……」
「えへっ♪ って、事で今日は南沢さんトコ、泊めてください」
「お前、どうして?」

 あの時、南沢さんが俺を見てくれたと同じように、俺も強い光を浮かべて南沢さんを見つめる。その光の意味は、俺達きっと同じもの。

「付けっぱなしの照明とエアコン、部屋がいくら明るくても暖かくても、一人は寒いから」
「倉間、お前……」

 もう一度、俺の頭の上に下ろされる南沢さんの手。その手で強く俺の頭を自分の胸に引き寄せると、今まで隠していた弱みを見せるように、俺の耳に囁く。

「俺も、同じだ。お前が暗い俺の家の前で待っていてくれた間、俺も不安で仕方がなかった。何も言わずに転校して、ろくにこちらにも戻らず、もうお前との縁が切れているのなら、それならその足で、また月山国光の寮に戻るつもりでいた」
「南沢さん?」

 俺は、上目づかいで南沢さんの顔を見上げる。

「勝手な奴だろ? 何の連絡も無しでいきなり帰ってきて、自分の事を誰も待っていなければ、この町とも縁を切るつもりでいたなんてさ。こんな日なら、お前が待っててくれるかも知れないなんて、お前の優しさに甘えた」

 ああ、なんて勝手な人なんだろうと思う。
 だけど、どんなに勝手な人でも、自分が大好きな人には変わりない。お互い確かめる勇気さえなかったくせに、相手の『優しさ』に甘えた。

( ……そうだよな。俺も随分勝手だし。あの時、南沢さんが部活を辞める時、引き留めもしなかった。ろくに連絡しなかったのは俺も同じだし、月山国光に居るって分って、あの試合でサッカーでの蟠りも取れたはずなのに、動かなかったのは俺だ )

 俺は返す言葉もなく、ただぎゅっと南沢さんの背中を抱きしめた。

「……お前随分冷たい体してるな。あそこで随分と待っていたんだろう?」
「へへっ。俺、諦めが悪いっすから。きっとなんだかんだ自分の中で理由を付けて、南沢さんの家の前で立ちん坊していたと思います」
「本当に倉間、お前って奴はっっ……!!」

 強く抱き締めた俺の倍以上の力で抱きしめ返される。その腕の中が、胸の中が温かくて、つんと鼻の奥が痛くなる。目元にじわっと涙が滲む。

 
 ―――― だから、俺は精いっぱいの勇気を振り絞ってこう言った。


「……どんなに寒くても、温めて欲しい相手は俺、南沢さんだけっす。だから、その……」

 勇気を振り絞っても、俺が言えるのはここまでだ。そう口にしただけで、実はもう顔は真っ赤で、体中が熱くなって汗ダラダラで、頭からはきっと湯気が出ている。

「倉間、お前……」

 南沢さんの眼が見開かれて、それから優しげに細められる。

「ああ、分かった。皆まで言わなくても良い。合格祈願も初詣も済ませたし、さっさと帰るか」
「はい……」

 小さな声で、そう返事を返す。
 そっと手を繋いで、来た道を戻って行く。
 あの場所から、もう一度新しい一年を始める為に。

「俺な、志望校に合格出来たらあの家で独り暮らし出来るんだ。そういう約束を、親と取り付けてる」
「えっ……?」
「だから、何としても合格したい訳なんだ。そうしたら、お前の側にいられるだろう?」

 なんなんだろう?
 今年はまだ始まったばかりなのに、こんなにラッキーな事が続いていいんだろうか?

 こうしてまた、南沢さんと二人で歩けるだけじゃなく、付き合う事も、人目を気にせず側に居られる環境まで許されるなんて。

「まぁ、受験はこれからが本番だけど、その前に、な……♪」
「え、あの……」

 確かに自分から言いだしたことだけど、改めて南沢さんからそう言われると、恥ずかしくてドキドキして、あたふたと慌てる気持ちが俺の心を支配する。そんな様子の俺を面白そうに眺め、それから南沢さんは俺に耳打ちする。

「……今夜は寝かせない。お互い体の芯から温まろうな」
「ひえっっ!! あ、あの、やっぱり、俺っっ!!!!」

 あたふた、あたふた。
 繋いだ手を放しもせずに、俺は思わず駆け出そうとした。

「ようやく本当の自分の気持ちを伝えたんだ。俺は、この手を放すつもりはない。なに、朝に見る夢も二人一緒なら乙なものさ」

 その言葉に、俺はふと思う。
 眼覚めた時、そこが南沢さんの腕の中なら、恥ずかしいけどきっと幸せな事だろうと。南沢さんも同じように思ってくれていることが、無性に嬉しかった。

「あの、こんな俺だけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ。お前くらいだぞ、俺をここまで信じてくれたのは。二人で今年は良い一年にしような」

 そう言って、気がつけばもう南沢さんの家の前。
 付けっぱなしだった家の灯りが、とても暖かく優しく俺達を迎え入れてくれた。


 どこかで、誰かの優しい声が聞こえる。


 ―――― 幸多い、素晴らしい一年になりますように、と。


  
 2011年12月31日脱稿





   === あとがき ===

初詣に出かける南倉話です。今回はかなり甘めのお話になったかと^_^; 
本日がお誕生日の日さんへのプレゼントにと思って書きました♪ お誕生日、おめでとうございます!!




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Date:2012/03/16
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