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□ 京介くんと天馬くん □

リミテッド -抑制されし者- 

 全国大会一回戦、雷門勝利。

( ―――― ここまでの雷門の動きを見れば、ある人物の動きに注目をせざるを得ない )

 窓もなく、観賞植物の一鉢もない無機質な部屋。薄暗い照明と壁に囲まれたその空間で、淡々と男の声がデータを読みあげる。

( もともとの監視対象者は、雷門のキャプテン・神童拓人。内々の反抗的姿勢を抑制するために送り込んでいた南沢の働きで、化身使いの素養を秘めながらすっかり牙を抜かれた飼い犬同然だった )
( ああ、その通り。こちらの支配下に置けない能力者ならば、そのままその『能力』は眠らせてしまうに限る。他の化身使いのシード達のように、その首に縄をかけられ我らの意のままに化身を使うのでなければな )

 低く嫌な響きの笑い声が響く。

( それで? その注目せざるを得ないという人物は、雷門中サッカー部監督、円堂守の事か? )

 『円堂守』の名が出た途端、部屋の中にざわっとした緊張が走る。

( ……それは、今更だろう? あの男も化身使いではあるからな。だが、今問題しているのは、円堂ではない )
( それでは、雷門の監視者として送り込んだにも拘らず、我らを裏切った剣城か? )

 そう言った男の声には、憎々しげな色が滲んでいる。

( ああ、それもある。しかし、もっと危険な要素を含んだ者が雷門には居る )

 沈んだ声の重さは、敵意の深さの表れだ。

( もしかして、雷門二人目の野生の化身使いの事か? )

 ざわざわと波が立つ。
 その者の名は、まだ剣城がフィフスセクターに忠誠を誓っていた頃に、報告に上がっていた名前。サッカー初心者のFランク技能者、今年雷門サッカー部に入部したたった二人の新入部員の一人として。

( ……松風天馬。奴が雷門に現れてから、歯車が狂いだした。飼い犬同前だった神童が反抗心を取り戻し、南沢の工作も利かなくなった。何よりも我らが雷門サッカー部に止めを刺すために送り込んだシードの中でも精鋭だった剣城が、あいつに丸め込まれ懐柔されてしまったのだ!! これは、許しがたい事だ! )

 ダンっ! とその男はテーブルの天板を叩いた。
 フィフスセクターに反抗する輩が敵わぬ抵抗をすることは、常の事。そんなものは抗いがたい圧力で圧死させれば良い。
 しかし、フィフスセクター内部から、裏切り者を出すことは絶対に許せない。裏切りだけでなく、反抗勢力の一端を担うなど万死に値する!

( では、ターゲットは松風天馬、で? )
( ああ。奴らの目の前で、松風天馬を完全に潰す!! 一生、ベッドから起き上がれないくらいになっっ!! )

 それは、異常なくらいな敵意……、いや殺意に近いものだった。

( ……剣城は良いのか? )

 いくらか控えめな声が、そう尋ねる。

( 剣城も神童も、雷門に居る化身使いは皆、潰す! ただし、無残な松風天馬の姿を見て、絶望し恐怖したところでな。フィフスセクターに逆らった者の末路はこうだと、知らしめるために )

 ……サッカーを管理する為に存在する組織、『フィフスセクター』
 
 しかし既にそれは、子ども達の為の、サッカーの為の組織ではなくなっていた。


  ■ ■ ■


  全国大会も対戦が進み三回戦が終わった所で、当初予定されていたトーナメント表は白紙に戻され、新たな組み合わせが発表された。

「……この、次に当たる学校。元のトーナメント表なら、準決勝まで勝ち進まないと当たらない予定の相手だな」

 各校に配布されたトーナメント表を見ながら、神童がそう呟く。

「……同じ手を二回使うほど、俺達が勝ち上がるのが面白くないんだろうな。フィフスセクターとしては」

 吐き捨てるように剣城が言う。

「でも帝国学園の時の様に、実は……って事は、もう無いですよね」

 しゅんと、尻すぼみな発言は速水。

「確かに、勝ち上がった学校の全てが、フィフスセクターに完全服従している訳ではないだろう。かつての俺達みたいにな。革命の旗を掲げた今、俺達は勝ち続けなければならない。それが皆の勇気になる!!」

 強気な発言は、霧野だ。

「そうですよね! 俺達、力を合わせればきっと勝てます!! 俺、そう信じてます!」
「天馬、お前はそう言うけどなぁ、そんなに簡単な事じゃないって分かって言ってんのかぁ?」

 天馬より小柄な倉間が、下からジロっと睨みあげるように天馬を見る。

「え、でも……、倉間先輩……」
「だからお前は、何が何でも俺や剣城の所までボールを運んで来いよ! 俺達が必ず得点してやるからなっっ!!」

 にっと、笑う倉間。
 あれほど天馬を目の敵にしていた倉間でさえ、こうだ。
 天馬自身知らない、それはまた天馬の『力の一つ』であった。


  ■ ■ ■


 トーナメントを組み替えてまで雷門にぶつけてきた相手は、当然フィフスセクターに完全に取り込まれた、ある意味フィフスセクターそのものと言っても良いようなチームだった。そして、執拗に天馬にきついマークをつけている。今もまた、ボールをキープした天馬の前面に立ちふさがり左右からショルダーチャージをかけて、後方に吹き飛ばした。

「おい、剣城。あれ、天馬ヤバくないか?」
「ああ、なんだか嫌な予感がする……」

 天馬は以前、万能坂との試合でラフプレーの洗礼を浴び、危うくその足を折られそうになったことが有る。あの時も、サッカー選手として潰しにかけられていた。その行為を許せなかった剣城のプレーが天馬を救い、そして今に至る。

「お前、天馬のフォローに入れ。前線は俺が頑張る」
「しかし、倉間先輩……」

 吹き飛ばされてもすぐ立ち上がり、天馬は二人へパスを送ろうとする。その天馬のすぐそばには神童の姿。

「……いや、ここはキャプテンに任せましょう。俺達の仕事は得点を入れて雷門を勝利に導く事です!!」

 天馬の側に行きたい気持ちを堪え、剣城は自分の仕事を全うしようとした。


 スピードの乗ってきた天馬の足元に、二人がかりのスライディングが突き刺さろうとする。

「天馬、危ない!! ジャンプだ!」

 神童の指示で、天馬は瞬時に飛び上り難を避ける。が、ジャンプした天馬目掛けてヘディングを仕掛けてくる。天馬はキープしていたボールを必死で神童にパスしてきた。
 そのボールをカットしようともせず、対戦相手は天馬の頭部を狙ってヘディングと言う名の頭突き攻撃を目論んでいる。こめかみに強烈な頭突きを喰らえば、失神だけじゃ済まないかもしれない。プロボクシングの試合で時折起こる不幸な事故を、神童は思い描いた。

( あの二人を、天馬の側から吹き飛ばさなくてはっっ!! )

 ……神童は技巧派のプレイヤーだ。絶妙なタッチのテクニックとボールコントロールでゲームを運ぶ。その分、パワー不足は否めない。


「化身、奏者マエストロ!!」


 神童は、自分のパワー不足を補うために化身を召喚し、敵を吹き飛ばした。
 同じような天馬を狙った攻撃を、その度に神童はマエストロで防いだ。

「神童!! 無理はするなっっ!!」

 離れたところから、剣城の声が聞こえる。
 化身召喚は、プレイヤーの体力を著しく減少させる。それは先の地区大会での対戦校の化身使いのシード達を見ても分かる事。大体限界は2~3回、それ以上は通常のプレイさえ出来ない程だ。

「キャプテンっっ!!」

 今もまた、天馬の危機を回避した神童ががくっと膝をフィールドにつく。

「……お前を、潰される訳にはいかないんだ。お前は雷門だけじゃなく、今の管理サッカーに苦しめられている皆の希望なんだ」
「でも、キャプテンがっっ……」

 息は上がり、全身が細かく痙攣している。
 血の気は引き、顔は青ざめ、握った手も冷たい。

「……入学式の時、俺は自分の仲間を守る事も助ける事も出来なかった。フィフスセクターの恐ろしさに何も出来ず、大好きなサッカーさえ捨てようとした。そんな俺は、ここまで連れてきてくれたのは天馬、お前だ」
「キャプテン……」
「俺に、お前を守らせてくれ」

 今にも倒れそうなその姿。
 しかしそうやって天馬に笑いかける神童は、天馬の眼に誰よりも強く映っていた。

「危ないっっ!! キャプテン! 天馬っっ!!」

 剣城の声が二人の耳に飛び込む。
 相手チームのロングシュートを装った必殺技が、天馬の足元を狙っていた。

「天馬っっ!!」
「神童っっ!!」

 チームメイトが口々に二人の名を呼ぶ。
 神童は咄嗟に天馬の足元に身を投げ出し、その必殺シュートを背中で受けた。

「あうぅぅぅっっ!!」

 苦痛に満ちた神童の声に、前半戦終了のホイッスルが重なって鳴り響いた。


  ■ ■ ■


 フィールドに倒れ伏し、動けない神童を運び出すため担架が持ち込まれる。幸い意識はあるが、負傷したのが背中と言う事もあり脊髄への影響を考え、精密検査を行う為緊急入院することとなった。

「へっ、よーやく一人、病院送りに出来たな」
「まぁ、一人でも相手は雷門のキャプテンだし、化身使いだ。雑魚な部員の3~4人潰したのと同じだけの効果があるさ」

 休憩に入った相手チームの選手とすれ違いざま、そんな声が聞こえ、天馬は思わず相手を睨みつけてしまった。

「お前達っっ!! 良くも、キャプテンを……!」
「感謝しろよ、お前。お優しいキャプテン様がお前の身代りになったんだからな!」
「なっ!?」
「でもなぁ、体を張ってまで守った可愛い後輩も、後半戦で俺らに再起不能なまでに叩き潰されちゃうんだけどなぁ」

 ニヤニヤ笑いながら、そう嘲る相手選手に滾るものを感じながら、天馬は一歩近寄ろうとした。その天馬を、剣城の手が引き止まる。

「剣城っっ!!」
「……相手にするな、天馬。今はキャプテンの容体の方が重要だろ」
「あ、ああ……」

 その言葉に、慌てて皆は試合会場に隣接している救急病院へと走っていった。


  ■ ■ ■


「えっ!? それは、本当なんですかっっ!!」

 神童の様子を見ていた医師が、神童の手足の反応を見ながら軽く頭を横に振り小さく呟いた言葉に、周りの皆は血の気が引くのを感じた。

「まさか……、そんな事が………」

 天馬は、目の前がぐらりと回る気がした。
 剣城も、二度目の宣告に血が滲むほどに唇を噛みしめている。

「……その可能性が高いと言うことで、まだそうだと判断できるものではありません。いまから精密検査と緊急手術を行います。どなたか、大人の付添いの方を」
「ああ、それでは俺が」

 そう言って、医師の側に歩み寄ったのは鬼道コーチ。

「キャプテン……」
「キャプ… テン……」

 天馬の大きな瞳から、涙がボロボロ零れ落ちている。その一滴が神童の頬に当たり、ふっと神童は瞳を開いた。

「……泣いているのか? 天馬」
「だって、だって、キャプテンが……」

 泣きじゃくる天馬は、まだ中学一年生の幼さしか感じさせない。
 神童は、そんな天馬を安心させるように優しく微笑んだ。天馬の柔らかな癖毛の頭を撫でてやりたいけど、今は手が……、いや、足さえも感覚が無く動かせない。

「安心しろ、天馬。俺は絶対戻って来る! お前や皆が待つ、あのフィールドへ。だから、それまでは天馬、お前がキャプテンだ!!」
「え? はっ? 俺がっっ!?」
「そう、お前だ。任せたぞ、天馬!!」

 そこに、試合会場から係員が走ってくる。

「済みません、もうハーフタイムが終了します。試合会場に戻らなければ、試合放棄になります」

 その言葉に、神童が命じた。

「行け! 皆!! この試合、勝って俺を待っててくれ!」
「でも!!」
「お前達!! キャプテンの思いが分からないのかっっ!?」

 声を大にしたのは、剣城。ストレッチャーに乗せられ、手術室に運ばれる神童を見送り、天馬達は会場に戻る。最後にその場を離れようとした剣城を、神童が小声で呼び止めた。

「キャプテン?」
「剣城、天馬を頼むぞ。あいつら、口だけじゃない。間違いなく、天馬を潰しに来る!!」
「……言われるまでもない。元シードの名にかけて、俺が絶対天馬を守り抜いてやる!」

 力強い剣城の言葉に、神童はようやくほんの少しほっとした表情を浮かべた。


  ■ ■ ■


 しかし、後半戦はさらに熾烈を極めた。

 退場した神童の代わりに、元セカンドのキャプテン・一乃を入れたが戦力ダウンは免れず、どうしても天馬への当たりがきつくなる。仕方なく剣城をボランチに下げ、倉間のワントップの陣形で試合を進める。天馬も得点力を持つMFなだけに、チャンスと見れば前線に駈けあがる。その天馬にピッタリ沿う様に剣城も動く。天馬にレッドカードすれすれの技をかけてきても、寸前で剣城に阻まれる。

 この試合相手の目的が天馬潰しだと言うのは、試合をしている者なら誰でも、ひしひしとその肌で感じていた。これだけの実力がありながら未だ得点していないのは、ものの5秒もあれば得点できる自信と、相手からは絶対得点されないという驕りからだ。雷門イレブンの疲労感もピークに達しようとしていた。それでも必死でゴールを守り、天馬を守って突破口を開こうと走り続ける。天馬も度重なる自分への攻撃で、だんだんと躱し方を覚え、逆に相手側が焦り始めていた。

「おい、とにかく相手かまわず潰すぞ!」
「潰すまでもなく、かなりへばって来てるけどな」

 へへへと、下卑た笑いを浮かべる。

「効果的に潰すなら、あいつだな。ちょろちょろと目障りだ。ターゲット潰す前に、あの裏切り者を潰すか」
「そうだな。そうすれば、雷門に取っても貴重な得点源が減る訳だし」

 そんな簡単な打ち合わせをアイコンタクトで済ませ、巨漢DFの二人は天馬にわざとボールを持たせ、ダブルショルダーチャージをかけようとした。それを見た剣城が、いち早く天馬と敵DFの間に入り込む。罠とも知らず並走する剣城。巨漢に似合わぬテクニックで天馬サイドのDFがうまく天馬の足元のボールを剣城の前に押し出した。すかさず剣城の横を走っていた敵DFが、ショルダーチャージをかける。普段なら、そんなことくらいではバランスを崩さない剣城も、ほんの僅か体の軸がぶれた。そこに天馬を躱したもう一人の敵DFのスライダー攻撃。

「うわぁぁぁっっ!!」

 剣城の足元に、がっちりと相手DFのスパイクがぶつかっていた。そのまま、巨漢に吹き飛ばされ、フィールドに倒れ伏す。

「剣城っっ!!」

 天馬の顔色は、もう真っ青だ。
 天馬に取っても、サッカー選手の『足』は特別の意味を持っていた。

「お前達、よくも剣城を……!!」
「接戦なんで、こういう接触プレイも当然あるさ。避けられない方が、未熟なんだろ?」

 鼻の先でせせら笑う。

「……許さない! お前達!! キャプテンだけじゃなく、剣城までもっっ…!」
「へっ、あいつもこいつも、お前のせいでこんなことになってるんだぜ? とっととお前が潰れればいいだけの話なのにさ」

 それは、明らかに悪意。
 サッカープレイヤーがサッカーの試合中に抱いてはならないモノ。
 
 サッカーは、誰かを傷つける道具ではないのだから。


  ■ ■ ■


「……許さない。サッカーをそんな事に使って、大事なキャプテンや剣城や仲間達を傷つけて。俺、絶対許さない!!」

 フィールドに倒れ伏した剣城は、天馬の周りの空気の色が変わったのを感じた。小さくゴォォォと、風の鳴る音が聞こえる。風の臭いはキナ臭く熱気を帯びている。

「うおぉぉぉぉ、絶対許さない!!!」

 天馬の『気』が満ちる、天馬の背後から黒いものが空間に滲み出す。

「魔神ペガサスっっ!!」

 天馬の化身、魔神ペガサス召喚。
 しかしその姿は、今まで見たペガサスとは違っていた。

 羽は黒き炎と化しており、瞳には赤黒い炎が燃え盛っている。
 巨大な体は、今にも内から溢れる『力』で、弾け飛びそうな怖さを感じさせた。
 天馬は化身を従え、敵陣営に飛び込んでゆく。止めようとした巨漢DF達が次々と、天馬のスピードが生み出す烈風に弾き飛ばされ、容赦なくフィールドに叩きつけられる。みしみしと、ペガサスの両腕のリングが軋んでいる。さらに暴力的なパワーの迸りを、天馬が放つ『気風』の中に感じる。

「……もしかしてあのリング、あれは化身のリミッターなのか……?」

 剣城は茫然としながら、その様を見ている。
 腕のリングが弾けとんだ瞬間、天馬が敵ゴールに向かって鋭いシュートを放った!

 空気が焼ける臭いと、キーンという高い音。
 天馬が放ったシュートは、憤怒の炎を纏って敵ゴールに突き刺さっていた。

 恐ろしいモノを見るような眼で剣城が天馬を見れば、天馬の体も白く発光している。その光に触れ、空気がじじじっと音を立てる。

( まずいっっ!! 天馬の奴、暴走している! )

 剣城は直感した。
 天馬は、自分や神童とは違うタイプの化身使いなのだと。

 自分達には化身使いとしては、一試合2~3回という限界があるのに比べ、おそらく天馬のそれには限界がない。
 その代り、リミッターが外れてしまった状態が続けば、自分自身も燃え尽きるまで暴走してしまう。
 文字通り、真っ白な灰になるまで。

 放出されるエネルギーの奔流に、誰もが固唾を飲む。
 化身使いと呼ばれ、フィフスセクターが一手に囲い込もうとしている『能力者』の、これが本来の『力』なのだ。

( と、止めなくてはっ! このままだと、天馬はっっ…… )

 先ほどの衝撃で、まだ立ち上がれない。
 おそらく、と剣城は思う。

 腕のリングと胸のリング、リミッターの本体はあの胸のリングの方だろう。
 その証拠に、胸のリングが小さく鳴動するたびに、大きな気流が吹き荒れる。

( あれが解除されたら…… )

 恐ろしい光景が、剣城の脳裏に描かれた。

「止める! 俺が、止めるっっ!!」

 痛む足を引きずりながら立ち上がり、『気』を高める。

「剣聖ランスロットっっ!!」

 剣城の背中から大きく翼を広げるように化身が現れる。

「ランスロット! ペガサスを止めろっっ!!」

 鋭く腕を振り、ランスロットをペガサスにぶつける。いつもならその両手には盾と剣を携えているが、今は仲間を救う時。素手のままで、暴走しかけているペガサスを止めに入る。腕のリングの代わりにその両手で手首を掴み、前に立ち塞がり動けないように。

「あ、熱いっっ!!」

 燃え盛るペガサスの腕を取ったランスロットの灼熱感が『気』を伝って、剣城の掌も赤く焼く。

「くっ……、俺があいつを止める!!」

 ペガサスの足を止めたことで、天馬の足も止まっている。無邪気で陽気で素直な分、怒りの炎で身を焼いている天馬は、もう周りの声など聞こえていなかった。ただただ、敵を打ち払う、その意思だけが天馬を動かしていた。
 
 周りの者すべてが凍りついたその場で、剣城が天馬の体を背後から抱え込む。白く発光している天馬の体は、触れれば火傷をしそうに熱い。それでも剣城はしっかりと力を込めて天馬を抱きしめた。


  ■ ■ ■


「あ……? な、に……」
「分かるかっ!? 天馬、俺だ! 剣城だ!!」

 まるで人形の様にぎこちなく焦点を失くした瞳を、剣城に向けてくる。

「剣城……?」
「そうだ、俺だ。俺なら、大丈夫だ。足も大したことない。だからお前も、その怒りの気を鎮めろ」

 人形のような表情に、ほんの少し天馬らしい表情が戻って来る。

「でも! キャプテンがっっ!!」

 正気を取り戻した天馬だが、神童の事を思い出し、またも気が激昂しかける。

「キャプテンも大丈夫だからっっ!! このまま暴走したら、お前の方こそ取り返しのつかないことになる! 俺やキャプテンを泣かせる気かっっ!?」
「剣城……」

 天馬の耳に届いた剣城の声は、涙声。
 それに気づき、振り返ってみた剣城の顔は、その瞳に涙をにじませていた。

「剣城、泣いてる……?」
「バカ、俺が泣くか」

 口ではそう言うが、どれだけ自分の事を心配してくれたのか、ぎゅっと抱きしめられた背中越しにはっきり伝わるものがある。いつもの天馬に戻った瞬間、ペガサスの腕にはあのリングが現れ、翼の黒き炎が静まると共にその姿は消えうせた。

「へへ、俺バカだから暴走しちゃった。心配かけて、ごめんね」
「天馬……」

 剣城の腕の中で天馬がへらぁと笑うのと、試合終了のホイッスルが鳴るのは同時だった。

「あ、試合終わったね。俺達、勝ったのかな?」
「ああ、お前がシュートを決めたからな」
「そっか。良かっ…」

 途中で天馬の声が途切れる。

「天馬? 天馬っっ!?」

 剣城が腕の中の天馬を見れば、意識を失くしてくったりしていた。呼吸が安定しているので、暴走した反動だろうと剣城は思う。
 腕の中、おとなしくなった天馬の体は、いつもより一回りも小さく感じる。だが、その小さな体の裡(うち)にあれ程の力を秘めている。


 自分の身を、焼き尽くす程の ――――


( ……天馬、お前はこの俺が必ず守り抜く! 何があってもだ!! お前が今度みたいに暴走するなら、俺は俺の命を懸けても止めてみせる! )


 腕の中の、大事な者。
 その想いを剣城は、自分の胸に深く深く刻み込んだ。



  2011年10月17日脱稿





   === あとがき ===

ゲームPVを見て、神童くんの入院シーンの原因が天馬くんを庇っての事だったら…な妄想に大いに萌えて、前後を考えずに勢いだけで書き上げた拓天・京天SSです。体を張って天馬を守る神童と京介。傷つく二人を見て天馬、覚醒!! みたいな♪
10月19日、ルーキーで66位にランクインしました♪




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Date:2012/03/16
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