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□ 京介くんと天馬くん □

クロス・オーバー

 12月22日、今日は私の誕生日。
 私の趣味を知っている友人からもらったプレゼントは、明日からの三連休中たっぷりと映画鑑賞できるようにと、映画のチケットが10枚ばかり束になっていた。
 そんな嬉しさから、私は年末の何かと物騒の夕暮れにすっかり油断してしまっていた。車道と歩道の区別のない住宅街の生活道路。ふっと、人気の途切れたその瞬間、後方から聞こえてくる軽いドドッというエンジン音。その音がすれ違ったと思った瞬間、右肩に掛けていたショルダーバックがくん、と引っ張られた。

 そう、よくある引ったくりに合ってしまったのだ。

「あっ! 私のバッグっっ!!」

 後ろからすれ違いざまに原付きバイクの後部座席にいた男が、私のバックを引ったくって人気のない生活道路を無謀運転で突っ走って行く。

 大事な物が入っている私のバッグ。
 お財布や携帯だけでなく、お気に入りのゲームや友人からもらった誕生日プレゼントなど、お金に変えられないものも。

「お姉さん、バック盗られたんですかっっ!?」

 私の後ろから、中学生くらいの男の子の声が聞こえた。

「あ、ええ、そうなの。とても大事な物が入っているのに……」
「判った! 俺が取り返してくるよ!!」

 言うが早いか、その男の子は物凄い勢いで走り出そうとしていた。

「でも相手は大人だし、危ないわっっ!」

 私は、そう言って引き止めようとした。

「大丈夫だから!! 絶対取り返すよっっ!」
「バイクだし無理よ!! 危ないから! 警察呼ぶからっっ!!」
「この道、真っ直ぐ行ったら道路が渋滞してるから、まだ追いつける!!」

 それだけ言うとサッカーボールを私に渡し、疾風のようなダッシュ力で、あっという間に見えなくなってしまった。

「どうしよう……、あの男の子が怪我でもしてしまったら……」

 私はまだ名前も知らないその男の子の事が心配で、その場に立ち尽くしてしまう。

( 中学一年くらいかな? きっとサッカー部の子だよね。正義感が強くて優しい子なんだろうな )

 灯り始めた街灯を通り過ぎるたび照らされる、明るい栗色の天然パーマの髪がどんどん遠ざかって行った。


  ■ ■ ■


「この先の大通りは、この時間いつも渋滞してる。そこで止まれば、十分取り返せる!!」

 天馬はその足に物を言わせ、道交法違反の原付きバイクを追いかける。引ったくりの二人組は小さな原付きバイクのタイヤが沈みそうなくらい大柄な男たちだ。元々馬力の無い原付きバイク、一人分の体重がそのまま重しになって、思う様にスピードも上がらない。

「おい! なんか知らねーけど、どっかの中坊が追っかけてきてるぜ!!」
「なんだってっっ!? この先は……、ダメだ、混んでやがる。そこの路地に入るぞ!」

 慌てて路地を左折する。大柄な男が二人、車高の低い原付きバイクで急バンクすれば、その傾きはかなり路面とすれすれになる。二人とも膝を路面にこすり付けながら、どうにか角を曲がり切りまた空ぶかし気味に加速して直線を逃げはじめる。

「逃がすか! この引ったくり!!」

 直線でのスピードにはもう少しで原付きバイクに追いつけない天馬でも、減速なしで突っ込める小回りの利きが、その距離を縮める。天馬に後ろに付かれるたびに、原付きバイクの二人組はどうにかして天馬を撒こうと左折や右折を繰り返す。角を曲がるたびに原付きバイクのスピードはどんどん落ちてゆく。そんな追跡劇を続けて、次の角を曲がった時、とうとう原付きバイクは角を曲がりきれずに、横滑りして乗っていた二人を振り落してしまった。

「はぁはぁはぁ、ようやく追いついた! さぁ、お姉さんから取ったバックを返して!!」

 ノーヘルで強か路面に打ち付けられた痛みも加わり、しがない引ったくり犯のくせに、その顔は凶暴犯並に怒りに燃え狂っている。

「……舐めた口利くんじゃねぇ、このクソガキがっっ!!」

 バックを取り返そうと近づいた天馬の腹目掛けて、倒れていた引ったくり犯のうちの一人が拳を振るう。咄嗟に躱す天馬。するともう一人も起き上がり、左右から天馬を挟みこもうとする。逃走中に路面でこすり付けた膝からだらだらと血を流し、その痛みも怒りを燃え上がらせる燃料になっている。

「俺達の足、こんなしちまって…… ああっっ!! 手前ぇの足も、へし折ってやる!!」

 ぐわっと言う勢いで二人が同時、天馬に飛びかかろうとした。

「うわっっ!!」

 更に天馬が身を屈め、後ろに下がろうとした時 ――――

「えっ!?」

 シュッ、と何か鋭いものが後方から天馬の顔の横を通り過ぎた。それは天馬の左右から襲い掛かろうとしていた引ったくり犯の手を弾いて、また天馬の後方へ転がってゆく。

「……誰が、誰の足をへし折るって?」

 天馬の後方から聞こえた声。
 天馬が良く知る、頼もしい声。
 この声は ――――

「剣城っっ!!」

 転がったサッカーボールを手にし、鋭い視線を引ったくり犯二人に突き刺しているのは、雷門サッカー部のエースストライカー、剣城京介。

「あ、そのボール……」
「お前がこのボールを預けたお姉さんから、事情は聞いた。相変わらず、無鉄砲な奴だな」

 天馬を見やる剣城の眼が、ほんの少し柔らかくなる。

「だって、お姉さん物凄く困っていたんだもん!!」
「判ってる。その事自体は、俺も責めん。兄姉を困らせるような奴は地獄に落としても構わないからな」

 天馬を見る眼がどことなく柔らかな分、翻って引ったくり犯に向ける視線の凶悪さは、地獄の獄卒のようである。

「なんだ! お前も、そいつの仲間か!! たかが中坊が一人増えたくらいで、俺達が負けっかよっっ!!」

 チンピラらしいセリフを吐いて、ついでにテンプレ通りナイフまで振りかざしてきた。

「天馬、下がれっっ!!」
「剣城!!」

 剣城の声に、天馬はずさっと剣城と同じ位置まで下がる。

「へへ、ナイフは怖いよなぁ。切れたら血、出ちまうもんな」
「どっから切り刻んでやろうか? そこの後から来た奴、その澄ましたクソ生意気な顔をズタズタにしてやる!!」

 脅し文句と一緒に、引ったくり犯の二人は天馬達に改めて襲い掛かる。

「あ、遅っ……」
「普段、あんなもの使って歩きもしてない奴が、俺達に敵う訳ないのにな」

 突っ込んできた二人を難なく躱し、くるりと体勢を反転させる。
 ピクリと、剣城の表情が変わる。

「聞こえるか? あの音」

 言われて、天馬も耳を澄ます。

「あれ、パトカーのサイレン?」

 その音は、引ったくり犯の後方から聞こえてくる。後ろに逃げ場がないと気づいた引ったくり犯が、がむしゃらに前に立つ天馬達を突破しようと無茶苦茶にナイフを振り回し始めた。

「うわっ、あぶなっっ!!」
「天馬、お前は下がってろ」
「だけど、剣城お前……」

 剣城が手にしたサッカーボールににやりとした笑みを落とす。

「なぁ、天馬。あいつ等が刃物使うなら、こっちだって使ってもいいよな?」
「ダメダメダメっっ!! 子どもが刃物なんか振り回しちゃダメだよ! 剣城が捕まっちゃう!! でも、俺達刃物なんて持ってないよ?」

 わたわたと両手を振り回す天馬に柔らかいと言うよりも愛しさが籠った視線を投げかけ、剣城は一声大きく叫ぶ。

「喰らえっっ!! デスソードっっっ――――!!!」

 至近距離で発動された、剣城のデスソードは引ったくり犯の腹を直撃し、お姉さんの通報を受けたパトカーの前まで吹き飛ばした。


  ■ ■ ■


 ファンファンファン、と遠ざかるパトカーのサイレン。中にはなぜかぐったりしている引ったくり犯二人が連行されている。後日、事情聴取をお願いしますと言われ、バックの中身を確認されたあと、バックは無事私の手元に戻ってきた。

「ありがとう!! 本当に取り返してくれたのね」
「だって、お姉さんが困っていたから……」

 そんな事、当然だと言う表情でその男の子は私の前に立っている。その後ろにはその子の友達だと名乗り、私から事情を聞くや否や私が預かっていたサッカーボールを抱えて走り出した子も一緒だ。

「あなたも一緒になって、取り戻してくれたのね。本当にありがとう」
「……いや、兄さんや姉さんを困らせる奴らは、皆地獄行きだと常日頃から思っているもんで」

 低い、ドスの利いた声でそう答える。

「今日はね、お姉さんの誕生日だったから、お友達からもらったプレゼントがこのバックには入っていたの、だから……」

 私はバックをぎゅっと胸に抱きしめる。

「お姉さん、誕生日だったんだ」
「……誕生日だったのに、災難でしたね」

 ちょっと表情が翳る、子ども達。

「ううん。こうしてバックは戻って来たし、あなた達みたいな素敵な子とも出会えたわ。これこそ、神様からのサプライズなプレゼントね!」

 私は、とびっきりの笑顔をでにっこり笑う。

「そうだわ。あなた達、映画は好き? これ、明日から公開される映画のチケットなんだけど、二人で観に行ってね」

 と、プレゼントで貰った映画チケットの束から二枚引き抜き、二人に渡す。

「えっ? いいんですか!! うわぁ、これ俺が観たかった奴だ。でも……」

 映画のタイトルを見て目を輝かせた後で、遠慮深そうにでも……、と言葉を濁す。

「貰っておけ、天馬。その方が、お姉さんも喜ぶ」

 好意を不必要な遠慮で断る事は、相手に悲しい思いをさせる事だと知っているのだろう。大人っぽい感じの子だけど、この子も優しい。

「それじゃ、ありがたく頂きます。そして、お姉さん! お誕生日、おめでとう!!」
「お誕生日、おめでとうございます」

 見知らぬ優しい二人の男子中学生に、そんなお祝いの言葉を貰う。

「あら、やだ、お姉さん嬉しすぎ……」

 トゥクン、トゥクン、胸が高鳴る。

「それじゃ、俺達はこれで」
「気を付けてください、お姉さん」

 二人は仲良く、夕暮れの道を歩き出す。

「あなた達も、気を付けてね」
「はぁい、お姉さんも――」

 栗色の髪の子から、そんな返事を貰う。
 隣の紫色の髪の子は、ちょっと後ろを振り返り微かに頭を下げたような気がした。

 楽しげな声が、二人の間から聞こえてくる。

「ねぇねぇ、剣城。いつ観に行く?」
「あん? お前が決めろ。お前の都合に合わせるから」
「そっか! じゃぁ、明日は!? 明日、何か用事ある?」
「ん~、あっても無いようにするから問題ない」

 聞こえてきた、会話。
 いつまでも、見守っていたいような、側に居たいような、そんな感傷に囚われそうになる。

「さて、私も帰らなくっちゃ。家でのご飯、何かなぁ~♪」

 目に見えないプレゼントを胸に、私も家路を急ぐ。
 この胸の暖かさと一緒に。


 
  2011年12月22日脱稿






   === あとがき ===

12月22日、なのさんお誕生日おめでとうございます!! 
天馬くんと京介くんにも言わせたくて、この小話を書いてみました。なのさんのお誕生日仕様の二人です。








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Date:2012/03/16
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