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□ 京介くんと天馬くん □

たくさん食べる君が好き

( あれ? もうすぐ3時間目が始まるのに、どこに行くんだろう? )

 俺は四階にある一年生の教室の窓から、裏門の方へ走って行く剣城の姿を見つけて、そう呟いた。

( ……早退かなぁ。お昼、一緒に食べようって思ったのに )

 登下校時間以外は鍵が掛かっている裏門を、軽くジャンプして乗り越えてゆく剣城の後ろ姿を見送りながら、俺は残念そうに呟いた。
 最近気が付いた事なんだけど、意外なことに剣城って物凄い大食漢だった。今までは、優一さんの事やフィフスセクターの事なんかが気にかかって、あまり食事が喉を通らない感じだったらしい。それも今は、俺達がホーリーロードで優勝して旧フィフスセクターは解体され、新組織は本当にサッカーを愛する皆の為の組織として、響木新聖帝の下で動き始めた。剣城に取って一番心を痛めていた優一さんの足の事だって、外国で手術を受ければ完治すると分かり、もうすでに剣城のお母さんと一緒に優一さんは先週渡航していた。
 そんな流れの中で、剣城は一番食べ盛りな男子中学生としての姿を取り戻していたんだ。

「まぁ、そりゃあれだけの体格と運動量だもん。食べなきゃ持たないよね」

 俺がそう口にした時、丁度教科担当の先生が教室に入ってきて、俺は視線を見えなくなってしまった剣城の背中から、教室の黒板の上に戻した


  ■ ■ ■


 ―――― お昼休み、俺は教室で信助達とお弁当箱をつついていた。

「今日も天馬のお弁当、美味しそうだね!!」
「秋姉、料理上手だからv ちゃんと食べなきゃダメっっ!! って言われて、早弁用と昼用と部活前用のお弁当三つ持たされるんだ」
「へぇ、ちゃんとお弁当三つなんだ。俺なんか弁当は昼用だけで、朝練の後は菓子パンで、部活前はゼリー飲料でエネルギー補給だぜ?」

 と、一緒にお昼を食べていた狩屋がモグモグと唐揚げを食べながら自己申告する。

「僕は昼のお弁当の他は、いつもおにぎり!! 食べる量も味も調節しやすいからね」

 ニコニコ顔でそう言うのは信助。監督からDFからGKへのコンバートを言い渡され、それに真正面から取り組むようになって、そのおにぎりの大きさがどんどん大きくなっていることは、皆承知の事だ。

「影山、お前は空腹対策どーしてる?」

 狩屋が自分の隣に座っていた影山を、肘でつつく。

「あはは、俺も携帯機能性食品のお世話になってます。固形タイプがつい便利で」

 照れくさそうに影山が自分のカバンをひっくり返して、その中身をザラザラと空けた。黄色い箱のご存じな奴もあれば、チョコバータイプのものやサプリメントなどがそれはもう、ザラザラと。

「……すごいな、これ。結構いい値段するだろ?」

 サプリメントの小瓶を一つ摘まんで、狩屋が目を丸くしながら影山に声をかけた。

「多分、ね。親が健康オタクで、ついでに料理が壊滅的に下手なもんだから、なんとなくこんな感じの食事に落ち着いてしまって……」

 たはは、と眉尻を下げて頼りなく笑う影山。
 それを聞いて俺は何故か、円堂監督の顔が思い浮かんだ。そのうち円堂監督の家の食事もそうなるのかもしれない。そこまで考えて、あれ? と俺は思う。

( ……なんだ、剣城が大食漢なんじゃなくて、この年頃だとこれが当たり前なんだよな )

 どうも俺は剣城の事を、特別に見たがっているところがあるようだ。

「そう言えばさ、剣城が3時間目の前に早退する所を見たけど、誰か何か聞いてる?」
「早退? いや、聞いてないよ」
「朝練の時も何も言ってなかったし……、天馬の見間違いじゃない?」
「見間違えるも何も、あの恰好を見間違える方が難しいと俺は思うけど……」

 行儀悪く箸を加えたまま、そうブーたれてみる。

「だってさ、ほら? 剣城の奴、いるじゃん?」

 こちらも行儀悪く箸で廊下の方を指し示せば、どこからか隣の教室へ戻ろうとする剣城の姿があった。

「あれ、本当だ。じゃ、なんであんな時間に学校の外に出て行ったんだろう……?」

 俺は首を傾げるしかなかった。


  ■ ■ ■

 そして次の日。
 その日も2時間目の授業が終わり、隣のクラスとの合同授業の為の教室移動で、廊下にゾロゾロと生徒達が出てくる。

「……っと、次はFマートが11時頃でMストップがほぼ同時刻、R-ソンがその5分後。3・4時間目は合同授業で担当は理科専任の榎本か……、授業に遅刻してもちゃんと謝れば大丈夫だな」

 携帯のとあるお得情報板を確認しつつ、剣城は今日の攻略ルート決定する。こんな生活も父親が出張から戻ってくれば、かなり改善される。まぁ、三日後の話だけど。

「母さんと兄さんが手術の為に外国に行って、その三日後には父さんも一週間の出張だなんて、本当間が悪い」

 つまり今、剣城家に居るのは、この剣城京介一人だったりする。

 父親は自分の出張中の食事や家事をデリバリーの家政婦さんに頼んでいたので、練習に忙しい剣城の手を煩わせることはない。だけど、それでも昼用のお弁当が一個だけの食糧事情は、すっかり健康な大喰らいモードに突入している剣城には、とても足りるものではなかった。夕方練習を終えて帰宅した時には、出張家政婦さんはもう帰ってしまっていて、追加の弁当を頼むタイミングを外してしまっていた。

 ……また、何かを誰かに頼むのも、苦手な性格でもある。
 一人で抱え込みやすいのが、この剣城京介という人間である。

 その結果、先生に睨まれるのを覚悟で授業中にエスケープを決める日々だった。

( たった一週間、それだけ切り抜ければいい )

 剣城は、そう思っていた。
 だが、そうは簡単に問屋が卸さない。
 一日目、二日目と、問題なくミッションをクリアし、定価の半額で足りない分の弁当を確保した剣城だが、三日目となるとそろそろ人の眼に付く。現に天馬には気付かれ、ネットでも噂になりかけていた。


  ―――― なんだぁ、あの中坊! 変な改造学ラン着込みやがって、俺が狙っていた弁当を掻っ攫っていきやがった!! 中坊なら中坊らしく、学校の給食でも喰ってろ!!

( ……悪かったな。ウチは弁当なんだよ!! まぁ、給食でも足りない分は確保しなきゃならないけどな )

 お得情報板の画面をスクロールしてゆく。

 ―――― あ、ああ、あいつだろ? めっちゃ足の速い、変な頭した生意気そうな中坊。昨日、俺もやられたぜ。最後の一つをさ。

 ―――― 昨日? 俺も見たぜ。多分、店は違うと思うけど。なんか、そいつ、この辺りを手当たり次第荒らしてるみたいだな。

 ―――― あいつさ、人違いだと思うんだけどさ、もしかしたら雷門中の奴かもしれない。この前のホーリーロードの決勝戦に似た奴が出ててさ。


( うわっ、マズイっっ!! )


 剣城はドキドキしながら指をスクロールさせる。


 ―――― 雷門? あそこは名門私立校だろ? そんな事するような生徒はいねーだろ?

 ―――― だよな~(笑) だけどまぁ、そんな奴こっちで見かけたら、俺も一発ヤキ入れたるわ!!


 はぁぁ、とらしくもなく剣城はため息をついた。もう、この方法で足りない弁当成分を補充する事は出来そうにない。となると、定価で足りない分の弁当を購入するか、家で作って持ってゆくかである。定価でとなると、中学一年生のお小遣い事情としてはかなり厳しいものがある。それでなくても、この三日間の臨時の買い出しで、かなり心許無くなっている。

「狩屋や影山みたいな機能性栄養食品は手軽でいいんだが、フィフスセクターでも散々食わされて、あの手の加工食品に対して拒絶反応が出るから、それは使えない。菓子パンも実はその影響であまり食べられないし、信助みたいに山ほど握り飯作った方が賢明か?」

 どちらにせよ、それは明日の話。
 今日、どうするかが今の重大問題だ。

「……明日の為に、今日はもう早退するか」

 そんならしくない剣城の姿を目に留めた天馬が、勢いよく剣城の下へと駆け寄ってきた。


  ■ ■ ■


「剣城っっ!!」

 俺のその声に、手にした自分の携帯を取り落とす剣城。

「うわっ、あぶなっっ!!」

 とっさに俺は、その携帯をスライディングキャッチ。
 見るともなしに開いたままだった画面の、「雷門中の奴かも」「ホーリーロードに出ていた」なんて文字が目に飛び込む。

「えっ? なに、これ……?」

 慌てて俺の手から、携帯を取り上げる剣城。
 その顔が、どことなく動揺しているような気がする。。

「お前には関係ない!! 放っておいてくれ!」
「でも……」

 そう言われて、俺は放って置けるような性格じゃない!
 気になる書き込みの文字と、剣城が人知れず授業中に学校を抜け出している事は関連があるんじゃないか? そして、それは何か危険なモノを孕んでいるんじゃないかと、心配で胸が苦しくなる。

 ……もう一人で、あんな重荷を抱え込んで欲しくない。

( 俺にも言えないの? ねぇ、剣城!! )

「……本当になんでもないから、お前が心配するような事じゃないから……」

 俺の表情から何か読み取ったのか、少し語調を緩めて剣城がそう言う。

「剣城……」
「…………………」

( あ~、言えるわきゃないだろっっ!? 俺の腹ペコ対策で、コンビニの半額弁当買うために授業抜け出して走り回ってるなんて、格好悪い事はっっ!! )

 奇妙な膠着状態。
 俺も剣城も動けない。
 そろそろ3時間目も始まる廊下から、人影が消えようとしていた。


  ■ ■ ■


「あら? どうしたのかしら?」

 そんな二人を見咎めたのは、サッカー部の顧問である音無春奈である。

「ん? どうした?」

 その音無の隣には、雷門では見たことのない人物。

「ウチのサッカー部の部員なんです。あの子たちの頑張りがあったから、今の雷門があるって言っても過言じゃなくて……」
「……さっきの話か。外は外で大変だったんだな。でも、そう言う時こそ、子どもの力って有難い。だからこそ、子ども達を守るための教師じゃん」
「うふふ、相変わらずですねv 先輩vv」

 音無に『先輩』と呼びかけられたのは、いかにも体育教師然とした若い女性だった。緑色のジャージ姿で長い黒髪を後ろで一つに束ねている。とっくに成人した音無の体型がお子様に見えるほどのナイスバディ、つくづくジャージ姿なのが勿体ないほどの美人女教師だ。
 もっとも、多感な御年頃である中学生相手なら、こちらの方が余計な刺激を与えなくて良いのかもしれない。

 そんな会話をしながら、音無達は二人の傍まで近づいてきていた。

「もう3時間目始まるわよ?」
「あ、音無先生……」

 二人は自分達の顧問の先生と、余所から来校したと思わしき体育教師(?)に少し頭を下げて挨拶をした。

「ほら、音無先生もああ言ってるし、お前が心配するような事はしてないから……」
「でもっっ……」
 
 尚も食い下がる天パワンコ系少年。
 
「何かあったの? 天馬くん」

 その必死さが、音無にも伝わったようだ。

「あ、えっと……」

 そう音無に尋ねられて、思わず天馬は口ごもる。まさか、剣城が授業をエスケープして、どこかで何かしているらしいなんて言える訳がない。まして、その行動がネットで噂になりかけていると言うのも……。

 3時間目開始のチャイムが響く。
 天馬と剣城、そして二人の女教師だけが廊下に取り残された。
 否が応でも高まる緊張感、その緊張が ――――


 ぐぅぅううぅう~~~~


 腹の虫の一鳴きで、ボロボロボロっと崩れ去った。


  ■ ■ ■


「えっ? あ、今の……」

 俺は反射的に周りを見回し、そして真っ赤になった剣城の顔を見て、何がどうなっているかはわからないけど、理由はこれだと確信した。

「な~るほどじゃん。つまり、そこのワンコ系少年は、そのツンツン系少年が授業をエスケープするのを止めようとしていた訳じゃん? あるある、ウチの学校でも昼飯GETするのに、集団逃亡なんて良くある話じゃんよ」
「あの、もしかして剣城、お腹空いてるの?」

 恐る恐る俺が訊ねてみたけど、真っ赤になったまま石化した剣城から返事はない。

「まぁ……。私が顧問として、もっと配慮しておけば良かったわ。そうよね、今剣城くんの家は、派遣の家政婦さんが来てくださっていると言っても、なにかと頼みずらい事もあるわよね」
「音無先生、それって……」
「私が雷門中に在学していた頃は、練習の終わりや合間には、必ずおにぎりを用意して、皆のお腹を満たしていたものだったんだけど……」

 俺の呼びかけは、音無先生の回想に打ち消される。ああ、でも今もそうしてもらえていたら、俺も秋姉にお弁当三個なんて負担掛けずに済んでたな。

( そっか、秋姉も雷門のマネージャーやっていたから、練習後の空腹具合が判ってるんだ )

「う~ん、わかった!! ここはあたしが一肌脱ぐじゃん! そら、そこのツンツン少年、今はこれでも食べて午前中乗り切れ」

 とその緑ジャージの先生が、剣城に何かチョコバーの様な固形食糧を渡す。

「……俺、この手のヤツには拒絶反応が出るんで」

 小さな声で、剣城がそう呟く。
 そっか。
 だから弁当なんだ、剣城は。

「これは特別製だから、大丈夫! 滅多に食えるモンじゃないじゃんよ?」
「でも……」

 その先生はそんな剣城の態度を気にもせず、一旦渡したその携行食品を剣城の手から取り上げると、そのパッケージをバリっと破り中身を取り出し、おもむろに剣城の口の中に押し込んだ。

「で、音無! どこか、コンセントが使える空き教室か何かないじゃんか?」
「コンセントが使える……? ああそれなら、サッカー棟のセカンドチームの部室が空いてるわ。あそこなら、私の権限で使えるし」
「よっし! じゃ、少年たち!! 昼になったら、そこに集合じゃん!! 美味いもん食わせてやるじゃんよっっ!!」

 この見知らぬ先生の物凄い勢いに押され、口に突っ込まれたチョコバーのようなもので、ゴホゴホとむせる剣城の背中を叩きながら、俺達はバタバタと理科室へと向かった。


「あの……、先輩?」
「丁度良かったじゃんよ。今日は年休取ってるし、久しぶりに『外』の食材を買い込みに出たついでにここに寄ったから、食材もあるし」
「でも、部室には調理器具なんて何もありませんよ?」
「大丈夫、大丈夫! 任せて欲しいじゃん!! あ、包丁だけは貸して欲しいじゃんけど。その部室、水は使えるじゃんか?」
「……水は小さな洗面台がついてますけど、本当にコンセントしかありませんよ?」
「それだけあれば、心配ないじゃんよ。新しく買い換えたから、リサイクルに出そうと思って車に積んでいたアレが、ここで役に立つとは思わなかったじゃん♪」

 どこか言動も何もかも、得体のしれない人物であった。


  ■ ■ ■


「……天馬、お前行くのか?」

 合同授業が終わって、さぁお昼。俺は秋姉が作ってくれたお弁当を抱え、あの先生が指定したセカンドチームの部室に足を向けていた。

「あ、うん。行くよ。折角、ああ云ってもらったんだし……」

 俺の横を、剣城が手ぶらで歩いている。

「剣城、お前お弁当は?」
「朝練の後に、喰っちまったよ」

 ああ、それじゃお腹も空く訳だ。学校生活と部活生活を両立させるには、食事三回分は携帯しておかないと。

「……父さんが帰ってくれば、そこのところ話してもらって用意してもらう事は出来るし、母さんが帰ってくればもうなんの心配もいらない話なんだけどな」
「でも、今が腹ペコなんだよね、剣城は」
「まぁ、な。こんなに大喰らいだなんて、お前幻滅するだろう?」

 俺は頭をブンブンと横に振る。

「そんな事ないよっっ!! それで言えば、俺だって弁当三つだし! 皆も、それぞれかなりの量の食糧持ち込んでるしっっ!!」

 俺の必死な言葉が面白かったのか、ほんの少し剣城の口元が綻んだような気がした。

「それに俺、剣城がご飯食べているところを見るのって、好きだなぁって。食べ方が綺麗で、剣城らしく気持ちいい食べっぷりだなぁ、っていつも思ってた。あんまり綺麗な食べっぷりだから、実は剣城も俺達と変わらない大食漢だって気付くのが遅れたくらいだし」
「……それって、褒めてるのか?」
「褒めて……? うん、まぁ、好きだってこと!!」

 あれ? 剣城の顔が、また真っ赤になっちゃった。

 とてとてとて、と歩いてセカンドチームの部室の前まで来たら、物凄く良い匂いが辺りに漂っている。

「うあぁ、美味しそうな匂いだね!!」
「ああ……、でも部室じゃ調理出来ないはずだけど……」

 そう、それは本当の話。火災予防で部室とか普段火の気のない所で、卓上コンロや何かの炎による熱源を感知したら、すぐに警報が鳴るようになっている。

「そうだね。一体、どうやって料理したんだろう?」

 俺も頭に疑問符を抱えて、そっと部室のドアを開くとそこには ――――

「よぉ、待ってたじゃんよ! さぁ、腹いっぱい食べて、元気に勉強に部活に頑張るじゃんよ!!」

 あの緑色のジャージの先生と一緒に俺達を迎えてくれたのは、五つの炊飯器だった。どの炊飯器からも美味しそうな匂いが立ち上っている。

「せっかくだから、ご馳走になりましょう。ね、天馬くん、剣城くん」

 音無先生が家庭科室から借りてきた食器に、俺達の分の食事をつぎ分けてくれている。

「すごいね、これ! ご飯は鶏炊き込みご飯だし、熱々のお味噌汁もある。おかずも肉じゃがと魚のキノコの酒蒸し。それに、焼きプリンのデザートつきだ!!」

 と、俺が歓声をあげれば

「あ、ああ…、本当に凄いな。それを全部、炊飯器で作ってしまうのも」

 と、茫然と剣城が呟いた。

 
  ■ ■ ■


 次の日から、俺と剣城はその炊飯器クッキングを実践し始めた。しばらくの間は、音無先生もセカンドチームの部室を使っても良いと許可してくれたし、本当ならあの頃の様にマネージャー達におにぎりを作らせることが出来れば、部員にこんな負担を掛けさせないのにとの思いもあったようだ。

「……でも、出来るもんだな。これで」
「あの先生から貰ったレシピ通り刻んで、分量通りの材料や水や調味料を入れてるだけなのにね」

 二人でこっそり作って、二人で食べる、皆に内緒のご飯。
 共有する秘密が、また美味しかったりする。

「しかし、残念だな。こうしてお前と作って食べるのも、今日で最後か」
「そっか……、今日はもうお父さん帰って来るんだ」
「ああ。明日からは、俺も弁当三つ持参だ」

 せっかく見つけた二人だけの楽しみなのに、それがもう終わってしまう。
 なんだかとっても残念な気持ちがした。
 本当は俺も最後だって気が付いていたから、今日のメニューは特別。

 パエリヤと煮込みハンバーグ、コーンスープに人参や南瓜やブロッコリーの温野菜サラダ、そして ――――

「甘い匂いがする。これ、天馬が仕込んでいた分だな」
「へへ、だって今日はそんな日だろ? だから ――――」

 豪華な昼食も食べ終わり、そろそろデザートタイム。俺は取って置きのデザートを剣城の前に差し出した。
 ほかほかと、まだ湯気が立っている生チョコを練り込んだチョコレートケーキをワンホール。

「ねv 食べて♪ 俺からのバレンタイン・チョコケーキ♪♪」
「天馬、お前……」

 剣城の切れ長の瞳で見つめられると動けなくなるから、視線を逸らしながらナイフとフォークを渡す。それを受け取りながら、ふっと小さく息を漏らした剣城が言葉を続けた。

「……たくさん食べる俺が好きなんだろ? 天馬は」

 そう言われて、俺の顔は真っ赤になる。
 見れば、剣城も真っ赤で。

「いくらたくさん食べろと言っても、これは一人じゃ無理だ。だからお前も、な」
「あ、うん……」

 そう言って、剣城が切り分けてくれたチョコケーキを俺も食べる。
 ムシャムシャ、ゴクン。

( うわぁ、ふわふわで甘い ―――― )


「なぁ、天馬。今度は家でも作ってみないか?」
「家で?」
「ああ、俺の家で。お前の所は秋さんがいるから無理だろう? ……父さん、割と出張がちだからさ」
「えっ、でも、それって……」

 そこから先は、言葉に出来なかった。
 言った剣城も、聞いた俺ももう真っ赤の二乗で、俺は小さく頷くしかできない。

 体中が熱くって、口に含んだチョコケーキもトロトロと溶けて消えてなくなる。

「……俺も好き、だから」

 小さく、かすれた声で呟かれたその言葉が、口に含んだチョコケーキよりももっと甘く、俺に体に染込んでいった。



   2012年02月13日脱稿




   === あとがき ===

京天バレンタイン(?)話。京介くんが思いっきり大食漢で、ちょっとアレですが、そんな京介くんが大好きな天馬くんの話です♪ 
今回、とある高校の先生を音無先生の先輩として、ゲスト出演させています^_^;



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Date:2012/03/16
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