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□ たとえばこんな、夏合宿 □

たとえばこんな、夏合宿 1



   === まえがき ===


夏です! 夏休みです!! 節電の夏には、涼しい場所での夏合宿!! ってノリで、天馬くん達の合宿話です。話の展開をコンパクトにしたかったので、三年生と剣城くんはフェードアウトしてもらいました。
神童→天馬の、信介→天馬の、浜野→天馬で、霧野→神童で、円堂←速水っぽい。
話の中に出てきませんが、南沢←倉間かな? 夏だしね~♪ いいじゃん! やるじゃん!! って感じで、あんなことやこんな出来事や、そんなコトまで!! な、納涼企画でお届けしますvvv

この話を書きだした時点では、まだ一年生メンバーに狩屋くんも影山くんも登場していませんでしたので、天馬くんと信助くんの二人です。


   ■ ■ ■


「おおぃ、みんな!! 合宿やるぞ! 合宿!!」

 夏休みに入ってすぐ、円堂はグラウンドに集まった部員の前で、そう楽しそうに声をかけた。

「合宿、ですか?」

 そんな話、一言も聞いてないと言う顔で神童が円堂の顔を見る。合宿の一言で一番喜んでいるのは新入部員の二人、天馬と信助だ。

「合宿だって、信助!! 俺、一度でいいから皆と朝から晩までサッカーしてみたかったんだ!」
「サッカーじゃなくても、天馬とお泊りが出来るんなら僕は大歓迎だよっっ!!」

 きゃいのきゃいのと嬉しそうに手を叩きあっている。

「……残念だな、松風に西園。合宿と言っても、雷門には宿泊施設の整ったサッカー棟があるから、学校に一日中缶詰になっているようなもんだぞ?」

 と、水を差すように霧野。

「そうそう。朝起きる時間から、夜寝る時間まで管理されてさ。遊び暇もないっちゅーの!!」
「……一人になれる時間がないって、ものすごく緊張するし」
「それに、生意気な一年生の顔をずっと見ているのも、面白くないしな!」

 それぞれに浜野・速水・倉間が一言づつ。
 だけど、そんな二年生の言葉など、どこ吹く風の天馬。

「良いですよ、十分です!! とにかく、先輩達とお腹いっぱいサッカーが出来れば!」

 と言う天馬の言葉に、去年の夏合宿を体験している二・三年生は、「ああ、こいつは本当に大が付くほどのサッカー馬鹿なんだな」との共通認識をあらたにする。
 しかし、今はそれが可愛くもあり、心強くもある。この後輩の為に、先輩として頑張ろうかと言う気も、多かれ少なかれ抱いている者も少なくない。

「今年の夏は合宿計画を出してなかったので、今からすぐ出しても許可が出るのに数日かかりますよ? 監督」
「学校の許可なんかいらないさ! 俺の知り合いが場所を提供してくれたから、プライベートで自由に行こう!! って合宿なんだ。サッカー棟の宿泊施設だとバーベキューや花火なんて出来ないじゃないか!!」

 立派な成人男性にも拘らず、円堂監督はこーゆーところ子どもっぽい。
 にこにこと笑いながら、呆気に取られている部員たちを見回す。

「バーベキュー、美味しそう!!」
「うん! 皆で食べたら、きっとすごく美味しいよね!」

 打てば響くような反応は、さすが一年生だ。

「……サッカーの練習の為の合宿じゃないんですか? 監督」

 真面目さが服を着ているような神童の眉が、かすかに顰められる。

「したかったら、すればいいさ。あまり手入れはされてないみたいだけど、一応サッカーグラウンドもあるらしいし。それよりも、今のお前たちにはリフレッシュするための時間も必要なんじゃないのか?」
「監督……」

 ここでキャプテンとして何か一言言わなくては! と思う神童だが……

「キャプテン!! 俺、こーゆーのって初めてなんです! どんな準備すればいいんですか!?」
「天馬……」
「あ、小学校の時の修学旅行と同じで良いのかな? 特に準備しないといけないものって有りますか?」
「…………………」

 神童の手を取って、今にも踊りだしそうな天馬を見ていると、このままこの流れに任せても良いのかなという気がしてきた。

「楽しみだなぁ♪ 朝から夜までキャプテンと一緒だなんてvvv ご飯食べるのもお風呂入るのも一緒なんですよねっっ!!」

 本当に嬉しそうな天馬の様子を見、言われたことを頭の中でイメージしているうちに、胸がどうしようもないくらいドキドキしてくる。それを、あえて冷静さを装って神童は天馬に答えた。

「ああ。そうだな、俺も聞いたばかりだから、今から監督と打ち合わせてくるよ」
「はい! お願いしますっっ!!」

 期待に満ちた瞳で天馬に見つめられ、気恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちを感じずにはいられない神童。
 そんな神童と天馬を複雑そうな眼差しで見つめている複数の人物の存在に、二人は気付いていなかった。


  ■ ■ ■


 試合と試合の間の、一泊二日の夏合宿。
 合宿と言っても、本当の目的は部員達の息抜きと出来ればもう少しチームワーク力がアップすればとの目論見もある。確かに一部の部員同士では、とても繋がりが強いようなのだが、それがある一方では妙に絡み合って、一筋縄でも一本筋でも行かないのが現状だ。

( さて、と……。ちょっと羽目を外させて、お互い思ってることを出させれば、少しは風通しが良くなるか )

 そんな事を思いながら円堂は、古株が運転するキャラバンに揺られていた。

 あの後、打ち合わせた合宿の内容は急な話でもあるし、校外と言う事もある。また大きな大会中でもあるので不祥事はご法度。女子マネ同行で何かあってはいけないからと、この合宿は男子部員だけの参加にした。実際、中高生を狙ったストーカーや連続暴行魔、噂の範囲でしかないが未成年者ばかり襲う殺人鬼もうろうろしているとか聞く。まったく、油断のできない世の中だ。

 遠足気分、ピクニック気分なのは一年生の天馬や信助だけでなく、釣りが趣味の浜野もどこか浮かれ気味であった。

「でも俺、残念だな。三国先輩が合宿に来られないなんて!!」

 小さな子のように頬を少し膨らませ、本当に残念そうに天馬がぼやく。

「天馬、三国先輩好きだもんねっっ!!」

 と、隣の席の信助がからかう。その言葉に、過敏に感応するのは天馬たちの斜め前に座っている神童だ。その様子を信助が、クリっとしたあどけない瞳の端でちらりと確認する。

( あ、やっぱり。マイナス印象はちょっとしたきっかけでプラスに変わるって本当なんだな。でも、天馬は僕の親友なんだから、キャプテンにだって譲れないよ!! )

 そう、胸の内で呟きながら、今度は神童の隣に座っているピンク頭の先輩に、心の中で声をかける。

( 霧野先輩! 先輩はキャプテンとは幼馴染の親友ポジなんだから、もっとしっかり捕まえておいてくださいね! )

 ……きっと、誰も思いはしないだろう。
 某国民的アイドルで、純真と友情のシンボルである電気系小動物に良く似た信助の、裡(うち)に潜む牙の存在などは。

 そんな一年同士のやり取りが聞こえたのか、面白くなさそうにキャラバンの前の方、円堂の隣の列の窓側に座っていた倉間が言葉を挟んできた。この席には倉間を始めとする二年生トリオが座っている。通路側に速水、大事そうに渓流釣り用の竿を抱ええているのは真ん中の席の浜野、そして窓側の倉間。

「仕方ないだろ。三年生は受験も控えてるんだ。練習メインじゃなければ、受験勉強の方を優先させるのは当たり前」

 出来れば倉間も、この合宿は抜けたかった一人だ。南沢はいないし、三国もいない。その代り、何かと目障りな天馬が一緒となれば、楽しい気分で過ごせそうもないと思っていた。

「……俺も、三年の先輩方がいないと少し心細いです。なんか、世間じゃ色々あるみたいだし……」

 相変わらず、ボソボソと元気のない声は速水だ。なぜか、この雷門一俊足のMFはネガティブでいけない。速水の心細さを感じたのか、通路を挟んで自分の隣の席に座っていた速水の頭を、ポンポンと円堂が撫でる。

「大丈夫! その世間から離れてのリフレッシュ合宿だ。かなり山の中だし、お前たちしかいないから、自由気ままにやって構わないぞ♪ まぁ、なんだ。三年が居れば心強くもあるが、いつかはお前たちが一番上になる訳だし、少しだけ早めにその気分を味わってもいいんじゃないのか?」

 と、円堂はにやりと笑って見せる。二年生部員の見せる受動的な姿勢の一部に、やはり三年への気遣いや遠慮があると見抜いている円堂であった。

「速水、お前は自分がもっと凄い事に自信を持って良いんだけどな」

 速水の眼鏡の奥の頼りなげに瞳を見つめながら、円堂はその言葉をかけた。円堂の光を湛えた大きな瞳に速水の顔が映る。それを自覚した途端、速水の頭にかぁぁと血が上り、ネイティブな不安はどこかに吹き飛んでしまった。

「そっか、そうですよね。三国先輩、三年生ですもんね。この合宿は皆で食事も作るって聞いていたから、また三国先輩の手料理が食べられるって、嬉しかったんですけど……」

 無自覚なままに、次々と爆弾を落とすのは天馬だ。

「ちぇっ!! なんで松風みたいな入部したての奴が、三国先輩の手料理が食べられるんだよっっ!? 俺なんか招待されたのって、去年のホーリーロードが終わった後だったぞ!?」

 それも一年ながら決勝まで良く頑張ってくれたなと言う意味で、自分だけでなく神童や霧野たちも一緒だった。天馬みたいに個人で招かれるんて……、ズルイ!!
 その雰囲気を察知したのか、信助が話の矛先を変えようと別の話題を持ち出した。

「浜野先輩、その釣竿って山の中でも釣りをするんですか?」
「へへへv 本当は磯釣りの方が得意なんだけど、渓流釣りも面白いちゅーかv 監督に合宿の場所を聞いたら、ヤマメやアユなんかが釣れそうなんで、持ってきた♪」

 こういうアウトドアな趣味を持っているのは、本当に良い。
 ここしばらく、釣りなんて気分じゃなかった分、浜野の気持ちはすでに解放区に近かった。そして、その話題にパクリと食いついたのは、また天馬。

「俺も磯釣り、好きですよ! 沖縄に住んでいた頃は、釣りも良くしたけど、素潜りでサザエを獲ったり銛でタコ突いたりしてました!!」
「おっv 嬉しいなぁ♪ 海の話で盛り上がれる奴が部活内に現れるなんて、やったねv っちゅーの!! なぁ、松風。今度、磯釣りに行かねぇ?」
「えっ! 良いんですかっっ!! 俺が一緒に行っても!? 勿論お願いします、浜野先輩!!」

 キャラバンの前と後ろで、状況を無視した賑やかな声が行きかう。

「……意外なところに伏兵、かな?」

 信助は、自分の足元に視線を落として隣の天馬にも聞こえないくらいの声で呟く。

「って、うるせぇ奴らだな! そんなら、二人で釣り部でも始めればいい」

 と言い捨て、けっ、と言う表情で窓の外に視線を向ける倉間。

「後輩、かぁ……」

 速水がまた、ボソボソと。

「神童、大丈夫か?」

 だんだんと、顔色が悪くなってきた神童を心配して霧野が声をかける。

「……部内を纏めるには、釣りも出来て、料理も出来ないとダメなんだな。合宿から帰ったら、早速クッキングスクールとフィッシング教室の予約を入れないと」
「お前、そんな時間的余裕あんのかよ? もう少し、自分を労われよ」

 リフレッシュ目的の夏合宿。その為の移動のキャラバンの中で、神童はキリキリと原因不明の胃痛に襲われていた。それぞれを思惑を乗せてキャラバンは、山道を目的地に向かって走る。

 この後の、あれやこれな出来事を、今はまだ誰も予想するものはいなかった。


   ■ ■ ■


 目的地まであと三分の一と言ったところで、キャラバン内でうおぉぉおおと言う歓声があがった。上げたのは浜野と天馬の二人。二人の視線は、キャラバンの窓から身を乗り出さんばかりにして、山道沿いの渓流に注がれていた。

「浜野先輩!! ここって、釣りに持って来いの場所じゃないですか!?」

 天馬の声が、大きく響く。

「うわっわわわ~~~♪ これ、穴場じゃん! 釣れるじゃん!! 俺、釣りてぇっっ~~~vvvvv」

 浜野の方はリミッター解除されて、今にもキャラバンの窓から飛び出しそうだ。

「おい! 浜野っっ!! 俺を潰すな! 暑っ苦しい!!」

 うっかり窓側の倉間を無視して浜野が窓に張り付いたため、倉間の小柄な身体はぎゅううと浜野の体に押しつぶされていた。

「本当、綺麗な川だね。天馬」
「こんな日に、川遊び出来たら気持ちいいだろうね!」

 一年生の二人も、浜野と変わらないような反応だ。そんな子ども達の様子を見て、円堂が古株に声をかけた。

「古株さん、ここから鬼道の別荘までどのくらいですか?」
「そうだなぁ、多分三十分はかからんだろうな」

 付き合いの長い古株には、次に円堂が何を言い出すか予想はついていた。

「どうせ別荘も俺達だけなんだし、多少遅くなっても誰にも迷惑はかかんないな。よし!」

 そう言うと円堂は、キャラバンの助手席から立ち上がり、皆に向かってこう言った。

「折角だから、皆も川で遊んでいかないか!!」

 反応は十人もいないが、まぁ十人十色。
 盛大に乗り気な者に、どっちつかずな者に、明らかに面倒くさそうな者とに。

 古株は細い山道の中、もしかしたらいるかもしれない後続車の為に、出来るだけ路肩にキャラバンを寄せて駐車した。真っ先に飛び出したのは、勿論浜野だ。続いて、天馬と信助。残ったメンバーは、そんな三人を見て呆気に取られている。

「……ったく、ガキかよ!」

 浜野に潰されて機嫌を損ねたのか、それとも自分達よりも後輩と楽しそうにしているのが気に食わないのか、呟かれた言葉には棘がある。

「なんだ、お前たちは行かないのか?」

 言い出しっぺの円堂も、上着を脱いで上半身裸になり下も練習着で持ってきていたオレンジのハーフパンツに着替えている。

「監督、それ……」
「ん? ああ。俺もひと泳ぎしてこようかと思って。冷たくて、気持ち良いぞv」

 そう言うと、先に飛び出した三人を追うように、円堂も飛び出していった。

「まったく……。これじゃ、どっちが子どもか分からないな、神童」

 真夏の太陽にじゃれるように水しぶきを上げている四人を見ながら、霧野が神童に声をかけた。

「ああ、そうだな……」

 自分も行きたいような、でもあんな風にはしゃぐのは恥ずかしいような、そんな気持ちの狭間で、神童は自分の行動を決めかねていた。

「ガキじゃないんだから、今更水遊びなんてできねーつぅの!! なぁ! 霧野、神童!!」

 キャラバン内に残っていると言う事は、自分と同意見だろうと判断して倉間が言葉をかける。エンジンの止まったキャラバンの中の空気は、だんだんと太陽の熱に熱され、どんよりと重く暑っ苦しくなってくる。
 カタン、と小さな音を立てて倉間の隣の隣に座っていた速水が立ち上がった。

「速水?」
「あ、うん。ここ、暑いから外で風に当たってくる」

 控えめがちと言うか、コソコソといった感じで速水がキャラバンを降りた。そのまま、渓流の方へと歩いてゆく。

「俺達も降りるか? まだ河原の方が涼しいぞ?」

 じっとり汗を浮かべたまま、身動きしない神童に霧野は声をかけ、その手を取って座席から立ち上がらせると、続いてキャラバンを降りていった。

「なんでぇ、みんな降りるのかよっっ!!」

 面白くなさそうに大きな声を出した倉間だが、結局一人で暑い車内に残るのも馬鹿らしく、ブツブツ言いながら下りて行く。運転席の外では、古株がラジオのニュースに耳を傾けていた。

「……物騒なニュースだな。こんな奴でも、純真な子ども時代があっただろうに」

 キャラバンを止めた山道の、木陰にちゃっかり折りたたみ椅子を持ち出して、涼しい川風にあおられながらプカーとパイプをふかし、聞いたばかりのニュースの感想をそう漏らす。黒い車が一台、そんな古株の隣を通り過ぎた。

「まぁ、素直じゃないものは、いつの時代にもいるもんだ。そんな奴らを纏める円堂監督の、お手並みを拝見だな」

 子ども達の声に交じって、円堂の声が一番大きく響いていた。


  ■ ■ ■


「天馬! お前、釣りは?」

 浜野は沢釣り用の竿を二本、持っている。

「ここのちょっと下に、飛び込みが出来そうな大きな岩があったんです。俺、信助と一緒に飛び込んできます!!」

 先に走り出していた信助の後を追うように、天馬も行ってしまう。そんな様子に、ちょっとしゅんとなる浜野。だけど、もとより釣り好きの楽天主義者。気持ちはぱっと切り替えて、川魚が良く釣れそうなポイントを探す。川釣りの良さは、毛バリで釣れるところ。エサを持ち歩かなくて良いのは便利だ。

「わかった! 俺は、この先の浅瀬の所で釣ってる。俺の腕前、見せてやんよっっ♪」
「後から俺も行きますから!!」

 元気に帰ってくる天馬の返事に気持ちも上向き、ピッピッピプゥ~♪ と軽く口笛を吹きながら、浜野がひょいひょいと川の中の岩を踏んで、良さげなポイントに移動する。引率者でもある円堂は、水深のある岸壁沿いの淵の辺りで気持ち良さそうに泳いでおり、その先の大岩からは、その場に上着を脱ぎ捨てた天馬や信助が飛び込みを楽しんでいる。

「……気持ち、良さそうだなぁ」

 石ころだらけの河原にしゃがみ込んで、頭に日よけのタオルを乗せた速水が、淵を大きな水しぶきを上げながら泳いでいる円堂の背中を見つめながら呟く。

「暑いなぁ……」

 感じる暑さが、太陽の熱によるものなのか、それとも身の内を焦がし始めた想いのせいなのか、まだ速水も気付いてはいない。
 一方霧野と神童も、天馬達が飛び込みをしている岩の対岸の、少し大きめの岩の上に立っていた。ここからなら、一応全員の行動が見て取れる。

「……監督がああじゃ、誰かが残って注意を払っておかないとな」

 ああ、悲しいくらい気遣い魔のキャプテンの言葉。
 だけど、霧野は気付いている。皆に目を配っているようで、実は大岩から飛び込む天馬に一番注意を払っていることに。
 無邪気なまでの怖いもの知らずさで、天馬は何度も飛び込む。

 その様子が ――――

( まるで、空に飛び立つペガサスのようだな…… )

 大岩の淵から勢いよく踏み切った天馬の体は、ゆっくりと中空を飛翔する。太陽の光を背に受けた天馬の姿は、光の翼を背負っているようにすら神童の目には映る。
 ばしゃーん、と華やかな水しぶき、陽光にも負けない天馬の笑顔。

「いっくよー、天馬!!」

 信助の小さな体が、同じように大岩を踏み切る。ジャンプ力のある信助の体は、急上昇するツバメのようで、上昇の頂点までくるとクルリと体の向きを変えて、バシュッと鋭く水面に突き刺さる。飛込競技ならきっと高得点だ。

「よ~し、俺も!!」

 信助の飛び込みを見届けた天馬が、また大岩を上る。天馬が大岩から踏み切るまでの神童の表情を見れば、どれだけ心配しているかがよく分る。踏み切った瞬間の引きつりそうな顔、鮮やかな飛翔に目を見張る様、そして着水してお互いに笑いあう二人の様子を見ながら浮かべる、寂しげな表情。

( ああ、面倒臭い奴 )

 霧野はそんな神童の様子を見ながら、胸の中で呟く。

「……行くか、俺らも」
「えっ? 何、霧野……?」

 霧野の言葉に振り返った神童の胸を、トンと突いて立っていた岩からそこそこ水深のある川面にと神童の体を突き落す。

「うわっ! 霧野、お前っっ!!」

 その声は、途中でバシャーン!! という大きな水音でかき消される。

「わっっ!!! キャプテン!!」

 神童が岩から落ちたことに気付き、慌てて天馬がこちらに寄ってきた。

「大丈夫ですかっっ!?」

 水深のお蔭と、発達した運動神経とのお蔭で、川底に頭をぶつけて気絶するなんて醜態は晒さずに済んだ。

「ああ、大丈夫だ。天馬」

 心配そうに自分の顔を覗き込む天馬を安心させるように、びしょ濡れのままで弱弱しく微笑む神童。天馬が真っ先に駆けつけてくれたことがどこか嬉しく、それと同時に霧野に対して、僅かな怒りも湧いてくる。

「どういうつもりだ、霧野!!」
「あん? いや~、どっちつかずだったんで、背中を押してあげたんだけど?」

 と、可愛い女の子のような顔に、可憐なこれっぽっちも悪意はなかったんだと言う笑顔を霧野は浮かべている。

「じゃ、俺もそっち行くわ」

 言うが早いか霧野は、白鳥のような綺麗なフォームで着衣のまま、飛びこんできた。その様子を見ていた倉間が、一言呟く。

「……馬鹿じゃねぇのか? あいつら」

 倉間はやっぱり面白くなさそうに、河原の石を蹴っていた。


  ■ ■ ■


 そのあと、天馬は浜野の所に行って川釣りを楽しんだ。浜野の教え方が良いのか、もともと海釣りのできる天馬の筋が良いのか、思わぬ大漁となった。

「凄いですね! 浜野先輩!! こんなに沢山釣れるとは思いませんでした!」
「松風の筋がいいんだよ♪ いや~、俺も面白かったvvv」

 にこにこと、本当に良い笑顔で笑い合っている二人を見て、また神童がため息をついている。濡れたままだった服を霧野に剥ぎ取られて、神童は上半身裸のままだ。

「あ~あ、天馬ってば浜野先輩に釣られちゃってるよ。早くリリースしてもらわなくちゃ」

 ため息をついている神童より口に出す分、信助の方がよほど行動的だ。

「また今度、一緒に釣りに行きたいです浜野先輩!」
「嬉しい事言ってくれるじゃん! よ~し、今度は海釣りな♪」

 可愛い後輩にそんな男心をくすぐられるような事を言われて、おそらく嬉しさの勢いが余ったのだろう。浜野はそのまま、ぷっくりとした天馬の頬に、ちゅっと唇を押し当てた。その光景を見た霧野は、自分の後方でさぁーと言う血の気の引く音と、めらめらぁぁぁ~と燃え上がる嫉妬の炎の音を聞いたような気がした。

「……サッカー部の先輩って、油断も隙もないんだなぁ」
「西園……」
「三年の先輩や剣城がいない分、まだデイフェンスしやすいかと思っていたのに」

 まぁ、確かに信助はDFではある。だけどDFが守るのはゴールであって、特定の選手ではないはず。これもまた、雷門の伝統か。

「お前、見かけに寄らないんだな」
「僕はちゃんと人を見る目があるから。後からその魅力に気づいた先輩方には、負けません!」

 ある意味一途な信助の気持ちも分からないではない。そう、自分にも身に覚えのある思いだけに。ただ……

「ねぇ、霧野先輩。なぜ、あの時キャプテンをけしかけるような事したんです? 霧野先輩だって、キャプテンのこと……」

 霧野はずぶぬれになった自分の服と神童の服を絞りながら、手近な岩の上に置き、天日干ししている。

「ああ、そうだな。だけど、俺はあいつの困った顔は見たくないんだ。誰か他の奴のせいで、あいつが泣くのもな」
「見かけに寄らないのは、霧野先輩もですよね。そんな自己犠牲を選ぶような性格だとは思いませんでした」

 これはなかなかに、コワイ光景かもしれない。

「ふふんv 俺は自己犠牲のつもりはないさ。言ってみれば、余裕みたいな? 伊達に幼馴染で親友やってる訳じゃないからな」

 まさしく小柄な信助を、上から見下ろす霧野。

「……幼馴染で親友ポジって、ルート変更が難しいんだよね。親友は親友、恋人は恋人だから」

 その言葉に対し、下から上目づかいで返す信助。

「何が言いたい、西園」

 霧野の猫目が、猛獣のそれのように険しく光る。

「え? ああ、ゲームの話。気にしないでください、霧野先輩v」

 川遊びで体が冷えただろうと円堂がたき火を熾し、夕食用の魚を残して、その場で焼き始めていた。風向きで、くすぶった煙の匂いと、香ばしい魚の焼ける匂いが二人の間を通り過ぎてゆく。

「おーい、信助! 霧野先輩!! そろそろ焼けますよ~!」
「うん、分かった、天馬。すぐ行くよ!!」

 天馬の声が聞こえた途端、現金なまでにその態度を変えて、愛玩系の仕草と表情で信助は天馬の元へと駈けてゆく。

「……あんなのが、神童に懐いていたら手強かったな。お互い攻略目標が違ったのは、幸いだった」

 荒ぶった気を整え、いつもの表情を取り戻してから霧野も神童の元へと歩み寄る。河原沿いに藪が生い茂り、河原の水面に太陽の光が反射する。藪の葉陰でも、キラリキラリと光が零れていた。

「どうしたんだ? 西園と何か言い合っていたようだが」
「ああ。大したことじゃない。お互いの見解を披露していただけだ」
「そうか。それならいいんだが……」

 霧野と話している最中にピクリと、神童が後ろを振り返る。

「神童?」
「……今、誰かに見られていたような気がして……」

 言われて霧野も、神童の後方を確認する。辺りは人気のない河原と、夏の濃い緑の葉を茂らせた藪があるばかり。

「山菜は今日は来てないぞ? いつも、あいつに見られているから、背中に視線が張り付いているんじゃないのか?」
「そう…かな? なんだか、いつもとは違ったような気もしたけど」
「今も感じるのか?」

 その言葉に、神童は意識を集中した。が、先ほどのような気配は、もう感じない。

「いや……」
「それなら、気のせいさ。山の気が強いところだと、そんな風に感じることもあるそうだぞ? 案外、木魂の気配だったりしてv」

 と、夏向きの話題を振ってくる。

「霧野っっ!!」

 軽く引きつった顔で霧野を睨む神童。神童は、この手のモノにめっぽう弱い。霧野の頭の中で、今夜はみんなで百物語だなとほくそ笑んでいた。

( ああ、そうさ。神童を泣かせてもいいのは俺だけなんだから! )

 信助の事は、決して言えない霧野であった。


   ■ ■ ■


 目的地途中の渓流の河原で遊び過ぎて、慌ててキャラバンを動かしたのは、山の陽が西に傾きだし、山頂を覆う木々の影がその夜色を濃くし始めた頃だった。

「うわっ! ちょっと遊び過ぎた!! 急いでくれよ、古株さん」
「そんなこと言っても、安全運転が第一。それにこいつは山道は苦手でな」

 山道をノロノロ走るキャラバンの後方に、普通乗用車の姿が見えたので古株は、路肩の少し広い場所で先を譲った。

「別荘地なだけあって、山道にも拘らずそこそこ車が通るな」
「ですな。監督たちが河原で遊んでいる時も、何台か車が通っていた。治安が良いのか悪いのかわからんが、パトカーも通ったな」

 そんな事を言いながら、よいしょと言う感じで路肩からまた山道に戻り、ゆっくり上り始める。結局キャラバンが目的地である鬼道家の別荘に着いたのは、予定より遅い六時過ぎだった。
 幸い、黄昏時の明るさは残っているが、それもどんどん暗くなる。今から別荘の準備をして、間に合うだろうかと神童が思い始めた時、唐突に別荘に明かりが灯った。

「あれ? どうして明かりが?」

 円堂も不思議に思っている。

「円堂監督、貸してもらった別荘は俺達だけのはずですよね?」
「ああ、そのはずだが……」

 確認し合う監督とキャプテンを横目に見ながら、倉間が不安を煽るような事を言う。

「別荘の場所を間違えたとか、言わないよな」

 ここが目的地で無いなら、今から本当の目的地を探さないといけないことになる。車内に小さく動揺の波紋が広がる。

「取り敢えずさ、別荘の人に挨拶してきた方が早いんじゃない? 違ってたら違ってたでどーにかなるんだし」

 と、至極現実的な霧野の意見に従い、監督である円堂とキャプテンである神童が挨拶に行くことになった。


   ■ ■ ■


 時代を感じさせる古めかしい作りの別荘。玄関ポーチにも室外用のシャンデリアが取り付けられている。観音開きの扉には、アールデコ調のステンドグラスがはめ込まれ、玄関内にも明かりが点いていることを教えてくれる。

「……古いけど、とても立派な別荘ですね」
「ああ、鬼道の家のものだからな。今はもう、使ってはいないらしいけど、季節ごとの手入れはしているから、使おうと思えば、すぐ使えると言っていた」
「間違いじゃないと、いいですね」
「それを言うな、神童」

 二人はポーンと鳴る呼び鈴を鳴らした。


「まぁまぁ、よくいらっしゃいました!!」

 呼び鈴に呼ばれて現れた人物は、和服の似合う小柄で上品そうな老婦人だった。にこにことした笑顔がとても優しそうで魅力的で、老婦人でありながらとてもチャーミング。

「こんな時間に申し訳ありません。ここは、あの……」
「はいはい、有人坊ちゃまのお友達でございますね? 存じておりますよ」

 闊達な、元気の良さに溢れている。

「あの……、貴女は?」
「ああ、申し遅れました。わたくし、鬼道家の別荘の管理人を致しておりました菊乃、と申します」

 目的地に、間違いはなかったようだ。ほっとした表情が円堂と神童の顔の上に浮かぶ。

「お部屋もたくさんありますから、どうぞお一人一室お使いくださいね。お風呂の方も、別荘の西側の庭に元湯から引いた源泉かけ流しの露天風呂がございます。山道でのお疲れを落として下さいな」

 自分たちで全部やる分、気の置けない合宿になるはずが、なんと露天風呂付きの高級ホテルに宿泊するような塩梅になってきた。

「監督……」
「う~ん、鬼道が気を回して、別荘の管理人さんに連絡してくれていたみたいだな」
「仲が良いんですね、監督と」

 神童の声に、ふっと十年前を思い返す。

「……そうだな。あいつとは俺がサッカーをしていなかったら、絶対出会う事はなかったような奴だから、出会わせてくれたサッカーにいつも感謝してるよ」

 神童も、鬼道の事は知っている。プライベート的には同じような肩書を持つ二人だ。晩餐会などで、何度か同席したこともある。最近あった時は、神童が雷門サッカー部キャプテンと知って、色んな話をしてくれた。その中には、この監督の話もたくさんあった。社会的地位も、選んだ職業も、環境も全て大きく違うのに、それでも感じる強い絆。それを神童は羨ましく思う。

「あの、他の皆様方は? お腹もお空きでしょうし、お部屋で寛がれては……」

 菊乃に促され、慌てて二人は他の部員を呼びに行った。


   ■ ■ ■


 部員が勢ぞろいしても、狭さを感じさせない広々とした玄関。造りの古さはあるが、それがかえって重厚さを醸し出す。照明もLED電球や蛍光灯のようなクールな明かりではなく、昔ながらの温かみのあるふんわりとしたオレンジ色の電燈がゆらゆらと影を揺らしている。

「凄いですねー!」

 感心しきりの、天馬の声。

「……古臭くて、暗いな」

 相変わらず、拗ねたような物言いの倉間。

「でも、このアンティークな感じは良いですよ」

 まるで乙女の様に手を胸の前で組んで、速水が言葉を零す。

「ほほほ。わたくしの様に古ぼけてしまってますからね。お若い方には物足りないかもしれません。お夕食はバーベキューとお聞きしていたので、中庭に炭を熾して取れたての野菜などを用意しております。他に何かお入り用なものがありましたら、遠慮なく申し付けてくださいましね」

 倉間の言葉を聞いても、にこにことした笑顔は変わらない。

「あれ? もしかして……」

 ぴくり、と天馬の体が何かに反応した。
 それに気づいたのか、菊乃が天馬の大きな瞳に、柔和な視線を合わせる。

 
 目と目が合う ――――


 菊乃の目元が更に、柔らかくにっこりと笑みを浮かべて、指を一本自分の唇の上に立てる。その様子は、幼子同士の約束のよう。

( ああ、言わない方がいいんだな )

 天馬はその指の意味を即座に理解し、分かったと言うように頷いた。

 それからは、大バーベキュー大会の始まりだ。
 来る途中で釣った魚は、菊乃が捌いてくれたのでコンロの上で塩焼きに。河原で焼いた時とはまた別の美味しさになる。新鮮な玉ねぎや南瓜は焼くと甘くて、茄子は瑞々しくタレとよく馴染む。骨付きのウインナーや鶏の片足丸々のモモ肉をアルプスの岩塩をまぶしただけで香ばしく焼き上げる。飲んで食べて、笑い合って、子どもらしい表情に溢れている。そんな子ども達の間をまめまめしく菊乃が面倒を見ている。皿を取り替えたり、炭の番から肉や野菜の焼き加減までと、心地良い面倒見ぶり。
 そのせいか、いつにないほど子ども達はにこやかな表情でこのひと時を楽しんでいた。

「なぁ、神童。最初、いきなり監督が合宿するぞ! と言い出し時はどうなるかと思ったけど、なかなかいい感じじゃないか?」
「ああ、そうだな。確かに緊張してばかりじゃ、心身ともに無理をしてしまうから、こんなリフレッシュタイムが必要なんだな」

 空腹が満たされ、今は菊乃お手製の赤紫蘇ジュースを飲んでいる二人がそんな会話を交わしている間にも、まだまだ食べ足りないのか、天馬達はバーベキューの網の上を睨んでいる。

「ほら、天馬! これ、もう焼けたよv」

 信助は程よく焼けた牛ロースを自分の箸で摘み、タレを絡めて天馬の口へあ~んvvv と。

「美味い! 本当に、美味しいよ!! これ!」
「じゃ、今度は僕に食べさせて♪」

 にっこりと無邪気な笑みを浮かべて、可愛らしくおねだりをする信助。しかし、その丸くて大きな瞳が、勝ち誇ったようちらりと神童の方を見たことに、当の本人も霧野も気が付いた。

( まぁ、確かに神童にあんな真似は出来ないな )

 赤ワインを思わせるグラスが、神童の手の中で小さく震えている。見かねて霧野は、ぼそっと神童の耳に囁いた。

「……神童。お前、そんな顔するくらいならいっそ松風に告っちまえよ」
「えっ? は、霧野……、お前何を言って……」

 動揺からか、ぱしゃりとグラスの中の赤い液体が地面に零れる。

「俺が何を言っているか、分らないお前じゃないだろ?」

 霧野の眸は不思議だ。夜なのに、まるで獣のように青く光って見える。その瞳に射抜かれて ――――

「お、俺が松風の事を好きだとでも、お前は言うのか?」
「そうじゃないのか? 今のお前の様子は、西園に嫉妬しているだろう」

 本人が認めたくない事実を、端的な言葉で指摘する。

「馬鹿なっっ!! あいつは部活の後輩で、男だぞっっ!? そんな奴を、どうして俺が……」

 必死で否定するのは、一歩踏み出してしまったら、後戻りできなくなるということを、本能的に察知しているからだろう。

「それでも、だ。お前だって、気付いているんだろう? あいつのせいで自分は変わってしまったと。その中に、そんな気持ちが生まれてしまったとしても、それもまた真実だ」

 そう、霧野も自分の中に同じ想いを抱えてるからこそ、神童にも否定してほしくない。夏は恋愛の季節。それはいつかめぐり合う本当の『恋』の為の予行練習かもしれないが、思春期の男の子同士でも有りである。

「どーしたの? 深刻そうな顔しちゃって」

 いつ見ても陽気な浜野が、デザートの杏仁豆腐を片手にこちらの方へとやってきた。

「浜野……」
「せっかくの合宿? キャンプ? なんだからさ、今日だけは、そんな深刻そうな顔はポイッしておけよ」
「そうだな、浜野の言うとおりだ。それ、美味しそうだな。どこにあった?」

 浜野の手元を見て、この場を離れる口実を作る。

「うん? 菊乃おばあちゃんの手作りだってさ。バルコニーのテーブルの上にあるぜ」
「そうか、それじゃ俺も一つもらってこよう」
「あ、俺もお替りv」

 そんな声を合図に、神童は浜野とその場所を離れた。霧野一人を残して。
 その様子を見ていたのか、信助も天馬を促す。

「向こうのテーブルに、デザートがあるみたいだよ」
「じゃ、俺もらってくるね!」

 天馬がその場所を離れたのと同時に、信助は霧野の元にやってきた。

「霧野先輩」
「あん、なんだ西園」
「また、神童先輩をけしかけてた」

 霧野は手にしたグラスの赤い液体をぐいっと飲み干す。

「良いの? そんな事しちゃって。天馬もキャプテンの事、好きなんだからね! あの二人が上手く行っちゃったら、泣くのは霧野先輩だよ?」

 言うに落ちたと、霧野は信助を見据える。

「お前もだろ? 西園。って言うか、俺は泣かないし」
「霧野先輩……」
「松風と上手く行っている間、あいつが笑っていられるなら俺はそれでいいんだ。まぁ、松風は他の奴らからも好意を向けられているから、いつまでも神童の側にいないかもしれないが」
「そんなことになったら、キャプテンも泣いちゃうよ?」

 霧野の眼が、ギラリと光る。

「俺の知らないところで、あいつが誰かに振られて泣くのは許せないけど、俺がけしかけた結果でなら、あいつを泣かせたのは俺だからそれはいいんだ。そうして泣いて、最後に俺の所に戻ってくれば」

 思わず信助は、目を瞠る。
 そして霧野の神童に寄せる想いも、大概だなと信助は思う。
 いったいここにはこれから、どんな色の恋の花が咲くのであろうか?

 季節は夏。
 命あるもの、全てが恋と言う熱病に浮かされる季節。
 それはいろんな意味を含んで、純情な可憐なものから、犯罪紛いのあんな事やそんな事まで取り揃えて、足元でぱっくり口を開けて待っている。


 奈落に落ちるか、実が成るか、それはもう運次第 ――――



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Date:2012/03/16
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