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□ GOっ子達の色んな話 □

【映画ネタバレ】 水虎が棲む島 【シュウ天】

( お兄ちゃん、これ 私だと思って大事にしてね )

 花嫁の色である白と赤を纏い、幼い顔に紅を差して笑顔で差し出すミサンガ。

( これ…… )

 それは願いそのもの。
 兄に『強く』なって欲しいと、妹から兄への最後の願い。

 そして戻る事を許されない婚姻の船に乗せられて、たった一人の家族である妹は神の元へと嫁いでいった。

 守る事が出来なかった。
 たった一人の妹だったのに!!

 村の若き長でもあり、権力も財力もあった。
 政(まつりごと)を司るのに必要な、蹴球技術も群を抜いていた。

 それでも!!
 
 人の価値が、物事を決める指針が、全てこの蹴球競技の結果に左右される。蹴球競技は神へ捧げる神聖なモノ。その結果は、神のご意志。何人も逆らう事は許されない。たとえ、長の権限を持ってしても。

 ……その年は、酷い年だった。

 空は荒れ狂い、海は吠え立てて船を岸壁に叩きつけ粉々に壊すような大嵐が何度も寒さに震える島を襲った。かと思えば、一滴の雨も降らない春と夏を迎え、村の生き物は全て枯れ果てようとしていた。

 誰言うとなくこれは神の怒りだと、神の御心を癒す花嫁を……、生贄を捧げねばと言う声が大きくなってきた。これだけの神禍を収めるには、下々の娘では無理だろう。各村の村長の娘かそれに準ずる娘を出して、蹴球競技で神ご自身に選んでもらおうと話は決まった。勝ち抜いた村は島の復興を担い、負けた村は神へ花嫁を差し出すことで神の身内となり、その加護を得る。と、そう取り決められた。



  ■ ■ ■


「……だから、俺はっっ……!!」

 シュウは手にしたミサンガに視線を落とす。蹴球競技の結果は、神のご意志。何人でも覆せない。
 だから、相手の村の者に金を掴ませ『負けて』くれるよう頼んだ。
 たった一人の妹を守るために。
 だがその事は、双方の村の者達の知るところになり、シュウの村は戦わずして負けた事になった。

 そして ――――

「俺が、もっと強ければっっ!! そうしたら、お前を生贄に出すこともなかった!!!」


 自分が強ければ、もっともっと強ければ、たった一人の妹を守れた筈!! 
 こんな蹴球競技などが無ければ、人の価値を、この世の物事を動かすこんなモノが無ければっっ!!

 血を吐きそうな、慟哭の呻きがシュウの口から途切れることなく絞り出される。


 ―――― オマエ、ツヨクナリタイカ?


「えっ?」

 誰だろうと、そう思った。
 そう声をかけてきたモノは、素早く俺の手から妹が残してくれたミサンガを奪うと、この島の守り神の森へと駆け込んでいった。あまりの素早さに、その姿が確認できない。まるで風が吹き抜けたように、足元の下草に二筋の踏みしだかれた跡が残っている。森の中、陽の差さない木陰の中で更に濃い影の二つが、どんどん森の奥に駆けてゆくのが見える。子ども位の背丈の、背中に何か荷物を背負った様なずんぐりとした姿なのに、その駆ける足の速さは尋常じゃない。

「待てっ! それを返せっっ!!」

 俺が茫然としたのは、一瞬。
 はっと気を取り戻すと、俺も森の中へと駆け込んでいった。


  ■ ■ ■


 俺は森の中を駆ける。

 先を行く人影らしきものは、常にその後ろ姿を見せながら、本当ならもっと引き離せそうな余裕を感じさせつつ、俺の前を走っている。

「くそっっ!! なんで追いつけないんだ!? あんな、背中に荷物を負った奴らに!!」

 楕円形の、かなり大きな荷物を背負っているのに、そんな事を感じさせない速さ。

「あっ!!」

 俺はとうとう森を突き抜けてしまった。
 突然、俺の顔前に目を射るような太陽の光が溢れる。その強烈な光に目がくらんで、何も見えなくなる。ぽとり、と俺の足元に何か小さなものが投げ出されたのを感じた。


 ――――アソコ、イケ。オマエ、ツヨクナレル
 ――――ソレガ、ホントウノツヨサカドウカハ、オマエガキメロ


 ざざっと、風が吹き抜けたような音がした。その風が俺の横を吹き抜けた時、俺は水の匂いを感じた。

「あそこって、一体どういう……」

 その不思議な声に、辺りを見回す。そんな俺の視点が、あるモノを見つけ停止する。俺の視線の先に、何時の間に作られたのか、岩山でできた城塞が聳えていた。


  ■ ■ ■


 強くなりたかった。
 どうしても、強くなりたかった!!  
 死んだ妹の為にも、そんな運命を強いた蹴球競技……、いや『サッカー』を支配するためにも!!!

 その城は、そんな人間の為の城だった。

 サッカーを支配するために強くなる事を望んだ人間が集まる所、強くなる為に鍛えられる所だった。俺の実力はすぐにも認められ、その城の中で一つのチームを任せられる程だった。
 自分のチームの練習には、城の中よりもむしろ森の中を好んで使った。こちらの方が俺には自分の領域の様に感じられて。

 そして、出会ったのだ。
 あの光の風、松風天馬に。

 同じサッカーをしている筈なのに、天馬や天馬のいるチームには、あの暗く押しつぶされそうな影はなかった。負ければ惨めな未来しか待っていないのは、あの時の俺と同じ筈なのに、その影を感じさせない。
 真剣勝負であるはずのサッカーの途中でも、『守るべきもの』を見失わない。サッカーは大事だけど、それが全てではないと、その行動で指し示す。

 大事な物を守るために、強くなりたい!! その想いは同じ。
 だけど、『サッカー』だけが強くあれば良いとは、考えていない天馬。

 天馬はサッカーが強くなる事は、全てに対して強くなりたいと思う気持ちの表れだと言う。

 サッカーそのものを守る為にも、と。

( サッカーは楽しむ為のものだよ。サッカーで強くなるってことは、仲間との絆が強くなるって事、皆の為に頑張れるって事なんだって俺は思うんだ )
( 天馬…… )
( 試合では敵味方かもしれないけど、試合が終われば皆サッカーが好きな同じ仲間。お互い分かり合って、助け合って、一緒にまた強くなっていける仲間だから、諦めなければ何でも出来るって俺、信じてる!! )
( だけど、今はサッカーが全ての価値を決めているんだろ? 人の価値も、その未来も )

 そう、俺はそれで大事な妹を失った。
 天馬は、その癖の強いふわふわの頭を思いっきり横に振る。

( そんな事は無い!! サッカーがそんな事を望んでいる訳じゃないんだ! 大人が勝手にそう思っているだけで、俺達はサッカーをそんな権力の道具だなんて思っちゃいない!!! )
( でもね、天馬。そうなってしまったものは、もう変えようがないんだよ )

 ……変えることが出来るなら、俺だって変えてみせる。
 サッカーで全ての価値が決まるような、サッカーさえ強ければ全て思うままになるような世界なんて、俺だって憎い。

 でも、出来なかった結果が、今の俺。
 こんな俺を天馬、君は止められるかい? 変えられるかい?


  ■ ■ ■


 ……凄い試合だった。
 全ての既成観念や、常識や、力のバランスや、そんなものが全て吹っ飛ぶほどに。

 究極の力を求めた俺と白竜。

 強さこそが、絶対のものだと信じて!!
 天馬は、いや雷門イレブンはそのための生贄。俺達が究極の強さを手に入れるために、踏み潰し蹂躙し尽くし、その力を根こそぎ奪う事がその仕上げ。恐れと恨み、絶望の奈落からの怨嗟の声。それを、お前達から絞り上げた時こそ、俺達は究極の力を手に入れる。

 フィフスセクターに逆らう者達には、終わる事のない服従と恐怖を。
 従う者には、より強い恭順を求めて。

( ああ、天馬が言っていたのは、これだったんだな )

 死力を振り絞り、諦めることを知らないものだけが辿りつける境地、そこは神に祝福されたフィールド。勝つとか負けるとかは些事な事として意識から消去され、今はただ、このボールを共に追う事の出来る嬉しさだけが満ち溢れる。自分がキープしたボールが仲間の一人に繋がる時の幸福感、相手チームにカットされた時の、相手への賞賛。そんなチーム愛、隣人愛、そしてサッカー愛に満たされた、究極の時間。

( 『強い』と言う事は、こういう事を言うんだ。この境地に至るまでの努力を厭わない気持ちが、強さなんだ )

 神のフィールドで繰り広げられる究極のプレイは、シード候補として集められ、恭順さと引き換えにサッカーへの自由な愛を手放しかけていた子ども達の眼を覚まさせる。光に溢れる風が、俺の、子ども達の心を覆っていた黒い霧を吹き飛ばしてゆく。

 そこには、太陽が輝く青空が!!

( そうだね、天馬! 天馬、天馬っっ!!! )

 あの日からずっと暗闇に沈み込んでいた俺の心が、その翼を広げ大空に羽ばたく心地よさを俺は感じた。


  ■ ■ ■


「あ~、面白かったね! シュウ!!」
「うん! 本当に面白かったよ」

 試合が終わり、俺達は自由になった。本当なら、もっとこんなサッカーを天馬達とやりたい。だけど、天馬達は大事な試合が控えているから、すぐにでも島を離れないといけないらしい。

「またサッカーやろうね!」
「また、その時は、ね」

 天馬と本当の友達になれたのに、『また』という時が来ないのを、俺は知っている。ここは、俺の『本当』の時間ではないから。

「あ、そうだ、これを、天馬に……」

 せめてもの思い出に、天馬に俺の事を覚えて居て欲しいから、俺は妹からもらったミサンガを天馬に渡す。

「いいの? これ。ミサンガって、願いが籠っているんだろう?」
「……『強く成れますように』って願いがね。俺はもう、その願いは叶ったから、これからまだ闘い続ける天馬に」
「ん、ありがとう! シュウ。シュウの気持ちも一緒に、俺達これからも諦めずに戦って行くからね!」

 にっこりと笑顔を浮かべ、ミサンガを受け取ってくれる天馬。ミサンガを挟んで今、俺と天馬は繋がっている。

( ……俺にもう一度、その機会が与えてもらえるのなら、この天馬のように困難から逃げ出さず、大事なものを守る為の強さをもって立向いたい!! )

 強く、強く、心にそう思う。


 ソレハ、ホントウニ?
 ナラバ、モウイチド ――――


 俺の目の前が、光の粒が広がるように煌めき、真っ白になった。


  ■ ■ ■


「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」

 俺は妹の声で、はっと我に返った。

「あれ……? 俺、どうして……」
「疲れているの、お兄ちゃん。隣村の村長さんが見えてるわ」
「ああ、そうか。今度の生贄を決める蹴球競技の打ち合わせか……」

 俺の呟きに、妹が顔を暗くする。
 今度の生贄、いや村の者達はこの島の守り神との聖婚の儀式と呼んでいるが、その花嫁候補に俺の妹とその幼友達である隣村の村長の娘が選ばれていた。どちらの村が勝っても、必ず泣く者が出るのだ。

「お兄ちゃん……」

 俺はグッと、拳を握りしめる。これは、本当に神が望んでいることだろうかと? 
 生贄を出すことで、このやるせない不安感や恐怖感を抑え込もうとしているだけじゃないのか?

 そのことを俺達は、『仕方のない事』と諦めてはいないか?

「……安心しろ。お前も、お前の友達も生贄なんかにはさせない。神に喜んでもらうのは、もっと他に方法がある!!」

 そう、今の俺なら知っている。
 天馬達が起こした、あの奇跡を目の当たりにしたから。
 そして自分も、その奇跡を起こした一人だったから。


 ……俺は、必死で説得した。
 生贄を捧げるのではなく、蹴球競技こそを神への供物とするのだと。
 俺達のプレイを見て、村の皆が不安感や恐怖心を克服し、連帯感や希望を見出すような、そんな試合にして見せると。

 風当たりはきつかった。
 自分の妹可愛さだろうと、罵られもした。
 だが! ここでこの流れを変えないと、これからも蹴球…… 『サッカー』は人の心を操る道具にされてしまうだろう。大事なのは、一体感なんだ、共有する心なんだ! 何事にも諦めない心が、明るい未来を切り開くんだっっ!!


 風が吹く。
 新しい風が ――――


「天馬。俺、やったよ。大事なものを守り抜いたよ」

 天馬と出逢った森の中、小さな石像の前で俺はそう語りかける。

「お兄ちゃん、ここにいたの?」
「ああ、お礼を言いたくて」
「蹴球の神様に?」

 妹も、足元の小さな石像に視線を落とす。

「いや、遠くにいる友達にだよ」
「遠く、の?」
「ああ、遠くの」

 きっともう、二度と会う事のない友達に。
 大事で、大好きな友達に。

 大好きな、天馬に ――――

 俺はふと思い立ち、石像の後ろに回り込むと、いつも持ち歩いているナイフで石像の足元に小さく何か彫り付ける。この後に、この文字を読む者などいないだろうと思いながら。

「―――― ありがとう、天馬。心の友に―、ってこれって、お兄ちゃん?」
「きっと目に触れる事などないだろうけど、今の俺の心を残しておきたくて」
「本当に大事なお友達なんだ」
「さ、もう行こうか。そろそろ、収穫のお祝いの試合が始まるから」
「うん。私、昔は試合って嫌いだった。負ければ、酷い目に合う事が判っていたから。でも、今は好き。皆一生懸命で、見ていて胸がワクワクする。それは勝っても負けても、変わらない。勝てば凄い! ってお祝いできるし、負ければ次は! って、もっと応援したくなるから」

 妹が、にっこりと笑う。

( 聞いたか? 天馬。これが、サッカー愛なんだな )

 仲良く森の中を帰って行く、兄妹(あにいもうと)。
 その後ろ姿を見送り、ハスの花の咲く聖なる池に帰って行く影が二つ。



 『時』をも超越できる神、水虎の棲む池へと ――――


  2011年12月25日脱稿





   === あとがき ===

 映画ネタバレな話です。
 最初はシュウくんの存在を、妹を生贄で殺され、その無念の思いを残したままシュウくんも亡くなって、『想い』の強さが今天馬達にその姿を見せているんだと思っていました。そして、ほんとに大切なものを見つけて、無念の思いが晴れて昇天したんだなぁ、と。

 が、それはちょっと切ないなと。
 で、ふと気づいたのが、蘭丸くん達の特訓中のワンカットに登場したあの「河童」です。そう「河童」と言えば、記念すべきイナイレ100話で登場した河童。ヒロトくんと小暮くんをからかって一昼夜森で過ごさせたのに、実は現実時間で5分も経っていなかったという、超ミラクル!!

 シュウくんの悲しみが深すぎて、それを哀れに思った河童たちが時空を超えさせて、天馬達に会わせたのではと。そして本当の強さに気付き、今度は真正面からその困難に立ち向かう勇気と覚悟を持った時、また河童たちが今度はシュウくんを連れてきた時間より少し前に戻したとしたら、と考えてこんな話になりました。

 妄想100%の話ですけど、少しでも楽しんでもらえたら幸いです(*^^)v




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Date:2012/03/17
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