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□ 子どもの情景シリーズ □

お前は愛しき眠り姫

 十年前と同じ、桜の花に縁どられた校舎を見上げる。あの時は、まさか自分がここで教鞭を取る事になるなんて思いもしなかった。あの頃から変わりの無い校舎内、勝手知った気ままさで教職員室へ向かう。

「あ~、皆さん。今年の新任の先生を紹介します。雷門の卒業生ですので、ご存じの先生方も居られるのではないですか?」

 俺が卒業した後に転任してきたらしい教頭が、古株の教職員に確認するような声をかける。

「はい♪ 私、三年間面倒見てました」

 あ、この声は……

「お久しぶりです! 音無先生」

 相変わらずの子どもっぽい目を、大きな眼鏡で印象付ける一人の女教師。
 髪型だけはこの十年で変化があったのか、サイドを残してアップで纏めている。

「ん~ん! 今は『音無』じゃなくて、『木暮』ねv」
「あ、はい……」

 変化の理由は、それか……

「頼りにしているわよ! 剣城先生!!」

 満面に笑みを浮かべたサッカー部顧問に迎えられ、俺は古巣へと舞い戻った。


  ■ ■ ■


「……変わってないですね、雷門は」
「そうねぇ、あなた達が取り戻したものを、今も大事に守り通しているからかしら?」

 コツコツとサッカー棟への廊下を歩く。

「でも、本当に俺で良いんですか? 名門雷門サッカー部の監督。新任新米の教師ですよ?」
「それは大丈夫! 私が太鼓判を押すわ!! 剣城先生には、人を引っ張って行く力があるって!」

 変わらないな、と本当にそう思う。
 音無…、いや木暮先生の人の背中を押してくれる言葉の強さは。

「円堂さんもね、剣城先生が雷門に新任で来るなら、安心して任せられるって言っててね」
「はぁ…。円堂監督は今、どちらへ?」
「うんv 日本代表監督として招請されてね。世界の仲間に会えるって、飛んで行っちゃったわ」
「監督らしいな。あ、それならコーチが監督になれば……」

 はぁぁぁとため息をつくような素振りを見せて、木暮先生は首を左右に振った。

「兄さんが、円堂さんの後にくっついて行かない訳ないでしょう? 俺が世界を獲らせてやる! なんて言って、日本代表チームのコーチになってる」
「……なんだか、そこまで来ると清々しいとしか言えませんね」
「そうねぇ……。それだけの強い絆を、中学時代に築いたのね。きっと、一生切れることはないでしょう」

 しみじみと、木暮先生が呟いた。

「切れない絆、か。羨ましくもありますね。いつも共にあって、同じものを追い続けることが出来る関係って」

 思わず、そんな言葉が俺の口から滑り出る。
 ふっと、木暮先生の瞳が揺れて視線が足元に落とされた。

「剣城先生にも隣に居て、同じものを追いかけてくれる相手がいたのにね……」

 それが誰の事が、俺には痛いほどに分かっている。

「……過去形にしないでください。俺は諦めていません!! まだ、どんな形であっても一緒にサッカーをやるんだと決めています!」
「剣城くん……」

 そう、木暮先生がまだ音無先生だった頃の様に俺を呼ぶ。
 その声で先生は、あいつの名前も良く呼んでいた。

 松風くん、と ――――


  ■ ■ ■


 雷門での新任の挨拶と、サッカー部監督就任の挨拶を済ませ、俺は既に日課になっている病院へと見舞いに行く。これも十年前と、変わりはない。ただ、見舞う相手は変わったが。

「京介、新任の挨拶は済ませたのか?」

 病院内のホールで、勤務中の兄に声をかけられた。

「……兄さん」
「さっきまで神童くんがお見舞いに来てたよ。彼も忙しいだろうにね」

 と、柔らかく微笑む。
 下半身の自由を失って、随分長い間入院していたこの病院は、今では兄の職場になっている。

「神童が、そうか……」

 中学卒業後、神童はサッカーを辞めた。神童に取って天馬のいないフィールドは、音譜の無い五線譜のようなものなのだろう。天馬の面影を探すことのできない高校のサッカーは、まさしく白紙の五線譜。タクトを振るう気持ちになれなかったのは、判るような気がする。

( ……俺も似たようなものだしな )

 そして、兄の優一も。

 変わり果てた天馬の姿を見た時の、兄の悲痛な表情は今でも忘れられない。
 その姿を見て、兄がどれだけ天馬に感謝していたか想っていたかを知った。
 俺を立ち直らせた事、また幼かったあの頃のような笑顔を取り戻してくれた事。
 なにより、あの日の不幸な事故を昇華させてくれた事に。

 俺も兄も、天馬の笑顔に、あの声に、言葉に、自分たちが抱えていた罪を浄化されたのだった。

「……今でも彼は人気者だね。お前や神童くんだけじゃない。幼馴染の女の子や、此方に戻る事があれば、信助くんも顔を出してゆくからね」

 兄はサッカー選手に戻る事を目標にして励んでいたリハビリを、少しでも天馬の為になる事を目標に、それまで以上に励みだした。
 サッカー選手のような速く走る足やキック力は要らない。ただ、二本の足で歩き、病院の中を移動し、勤務時間内を立っていられる脚力だけで良いと目標値を変えた。それに合わせ、院内学級で高校の卒業資格を取った。その後、看護学校を受験し、松葉杖をつきながら看護学校に通った。

 そして、今もなお少し足を引きずる事はあるが、患者の気持ちがよく分る看護士として、職場での評価も高い。

「どんな具合だ?」
「変わりはないね。まるで奇跡だよ。あの時から、天馬くんの時間は止まっている」

 天馬には、俺や神童同様に化身使いの才能があった。
 それ以上に、その化身を一つに纏める『結ぶ』力を持っていた。それが覚醒したのはフィフスセクターの強制合宿の時だった。あの時でも、その力は凄かったが、あの最終戦の時の天馬は、まるで人ではないようなものだった。自分以外の化身の力を、周りのみんなの力を一つに合わせ出現させた超化身。その威力は敵チームを完膚なきまでに叩きのめした。
 しかし、その凄すぎる力はまだ子どもに過ぎない天馬の生身の体には、衝撃が強すぎた。力が暴走し、超化身がフィールド外に攻撃を及ぼそうとしたのを、天馬は必死で押し留めようとした。

 その結果、天馬は深く深く、誰の声も届かない意識の最深部まで眠りについてしまったのだった。

「……時間が止まる、か」
「そう、神の御業と言っても良いね。だって信じられるかい? この十年間、一口も水も食事も取らずに、点滴などの栄養補給を受けないで、眠り続けることが出来るなんて」
「それでも、信じるしかないだろう? 目の前に、その天馬がいるんだから」

 小声で交わされる、そんな会話。
 少し離れた所から、兄さんを呼ぶ同僚看護士の声が聞こえた。

「ああ。それじゃ、京介。俺、今夜は夜勤だから」
「分かった。先に寝ておく」

 最後に、そんな言葉を交わして俺は兄さんと別れた。
 別れた後、俺の足は特別室のある病棟へ向かう。
 その先に ――――


  ■ ■ ■


 特別病棟。
 ここに入院するのは、有名人だったり金持ちだったりするからか、病棟と言うよりもホテルのような佇まいである。バス・トイレ完備の広めの個室は、殺風景で清潔第一の無機質な一般病室に比べ、設えも手が入っている。
 腰板張りの壁は、上半分は柔らかなベージュ色の珪藻土の塗り壁。窓も味気ないアルミサッシではなく、ペアグラスの出窓になっている。病室内に備え付けられた家具も、一流ホテルにも引けを取らない高級な物。

「円堂監督の奥さんの計らいか。金持ちって、やる事が凄いな」

 そんな部屋の真ん中に、これもやはり普通の病室用ベッドより高級高機能なリクライニングベッドが置かれていた。

 そして、そこに眠るのは ――――

「天馬……」

 俺は、伏せられて久しいその瞼の上に軽く口づけを落としながら、天馬の名を呼ぶ。
 俺と一緒にフィールドを駈け廻っていた時のままの姿、癖毛の髪もあどけなさが抜けない柔らかな頬のラインも、まだ子どものままの手も。

 まぎれもなく、あの松風天馬その人。

 ふと、ベッドの横のテーブルの上を見ると、新しいオルゴールが置かれていた。
 何気なく蓋を開けると聞いたことのない、でも可愛らしく明るく元気なメロディーがオルゴールの懐かしい音色で流れ出す。

「……新曲か。神童の奴、お前の為にまた新しい曲を書いたみたいだ」

 そっと天馬の耳元に、オルゴールを近づける。
 耳に優しいその音色、可愛らしい曲調は、あの頃の天馬を思わせる。

 俺は知っている。

 神童が、こうしてたびたびお前の元を訪ね、こうして自分の作った曲のオルゴールをお前に贈り続けていることを。目覚めぬお前のこの手を取り、涙を流しながら恭しく口付ける神童の姿を。

 あるいは兄の、お前を看護する姿を。
 病衣を肌蹴け拭き清める時の、兄の表情に浮かぶいたたまれなさ。
 温かさも柔らかさもあるのに、少しも成長しない体、眼覚めぬ子ども。
 人目を憚りながら、お前を抱きしめる兄の眼にも、涙が浮かんでいる。

「なぁ、天馬。そろそろ、起きろよ。お前が目覚める日を、皆待ってるんだぞ?」

 俺の声が聞こえたのかどうか、僅かに目元が動いたような気もした。

「俺な、今日から雷門の教師になった。いつかお前が目覚めた時、お前はまたあそこに帰るだろう? いつもお前と一緒に居たくて、そう決めたんだ」

 顔を寄せ、恋人に語りかけるように。
 ああ、決してあの十年前がそうだった訳じゃない。

 あの時はまだ、そんな気持ちは抱いていなかった。
 ……いや、気付かない振りをしていた。

 俺はまだ、子どもだったから。
 俺も、天馬も。
 友達でいいと、大好きな友達同士でいいと、思い込んでいた。

 決して、あれはそんなものじゃなかったのに。

 お前が隣に居なくなってから、否が応でも気付かされた。
 俺は、お前が ――――

「……起きて、その青い目に俺の姿を映してくれよ。お前のその声で、俺の名前を呼んで欲しい」



 眠り姫、眠り姫。
 その眠りを覚ますのは、だぁれ?



「天馬……」

 想いを込めて、あの時のままの幼い唇に、すっかり大人になった自分の唇を重ねる。
 この熱さが、お前を思う物狂おしさが唇から伝われと、願いを込めて。

 

  2011年09月29日脱稿





   === あとがき ===

唐突に思いついた京天ネタ。というか、天馬受け。ある理由で眠り続けて子どものままでいる天馬くんと、その天馬くんに想いを寄せる京介くん・優一兄さん・神童くんの話です。
有難いことに、この話は9/30ルーキー12位、10/1ルーキー1位にランクイン出来ました!!
嬉しくて、飛び上がったのことは内緒ですv




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Date:2012/03/17
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