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□ イナGO2期予想妄想 □

略奪されしもの 前編 ~The pillaged treasure~


  === ご注意 ===


 イナGO2期妄想です。
 京介くんがかなり酷い目にあってます。
 シード達も、ボコボコにされています。

 流血シーンや若干グロ(?)的描写もあります。
 それでも大丈夫!! と言う方だけ、先にお進みください。



   ■ ■ ■



 ちかり、と頭の中で火花が散る。
 声が聞こえた。

「よぉし、なかなか良い仕上がり具合だ。そろそろ、『外』に出しても良い頃だな」

( ……なんの事だ? こいつは、何を言っている? それより、ここは何処だ? 俺は一体…… )

 考えを巡らせようとしたら、頭の中で先ほどよりも激しい火花が飛んだ。突き刺さるような痛みと共に。

「あっ……、ぐぅぅ… 痛っっ……」

 グラっと体が揺らいで、咄嗟に手をざらっとした床に付いたことから、俺はどうやら今まで『立っていた』らしいと気が付いた。頭の中の火花に目をやられ、霞む視界には俺の周り、足元に黒いものが幾つも転がっているのが映っていた。

( ……なんだ、あれは? あの黒いモノの周りに広がっている、あれは…… )

 今度はバチンっ、バチバチバチィと頭の中で稲妻が走る。頭が割れそうに痛くなり、反射的に閉じた瞼の裏に幾つもの閃光が突き刺さる。

「ほぅ、まだ思考力が残っているのか? 止めておけ、考えるだけ無駄だ。今のお前にそんなものは、お前の行動を縛る枷でしかない」

 ふぅふぅと肩で息をしながら、そんな何者かの言葉を聞いている。
 意味が、分からない。
 考えることも、出来ない。
 俺は、一体 ――――

 俺は何も考えないようにして、ゆっくりと視界のピントを合わせてゆく。俺の足元に転がっていた正体不明のモノがもぞりと、死にかけのイモムシが這うように微かに動いた。

「……あ?」

 出たのは、そんな声。
 ぴちゃり、とその動きから遅れて粘った水音が聞こえた。

「……………………」

 何か、聞こえたような気がした。

「なに……?」

 微かな、隙間風の様な音を立てて ――――

「に、逃げろっ…! ま…だ、体……が、う…ごく……っっ、逃げろっっ!! 剣城っっ!!!」

 『ソレ』は、白金の髪を赤黒く染めた、血塗れの白竜。体中の皮膚が鋭利な刃物で切り裂かれ、夥しい鮮血を溢れさせている。倒れ伸ばされた手が、通常ではありえない角度に折れ曲がっている。

「な、なんで、お前が……。ど…どう……して………」

 俺の体が、ガタガタと震えだす。
 その理由を、理解したくなくて自ら思考を停止しようとしている。

「ふ~む、流石は曲がりなりにも『究極』を目指しただけはあるな。他の三流シードよりは耐久性があったみたいだ」
「他の…、シード?」

 その何者かの言葉に俺は、辺りをぎこちなく見回してみる。ようやくピントの合った俺の視界が捉えたのは、窓のない屋内サッカーフィールドに倒れ伏した、昔の仲間達。そう、俺がまだフィフスセクターのシードだった頃、ともに特訓に励んだあの仲間達がみんな、白竜同様に満身創痍、ボロボロの姿で横たわっていた。血だまりの中に倒れている光良、もうぴくりとも動かない浪川、血の塊を吐き出したのか唇を真っ赤に染めている隼総。ゴールマウスの中には、ひゅうひゅうと破れた肺から息が漏れる音を立てながら、咳き込むたびに血の塊を吐き出す兵頭。おそらく肺を突き破った肋骨が、そうやって咳き込むたびに更なる出血を呼んでいる。

「なに…? なんだ、これはっっ……」

 余りにも恐ろしい光景に、俺は自分の両手で顔を覆う。
 ぺたり、ベタベタした鉄のような臭いが鼻を突く。
 顔の表面に、何かがぬらりと張り付く。
 俺は、自分の両手に視線を落とす。

「あ…、あ、あああっっ!!」

 血塗れの、俺の両手。
 それは、それは ――――

 何者かの足が、俺に声を掛けてくれた白竜のボロボロの身体を足蹴にする。

「存外、仲間想いの奴だな。自分をこんな目に合わせた相手に、逃げろなどと声をかけおって」

 その行為が、腹立たしかったのか。
 もう浅く息をするのがやっとな白竜の体を、力を込めて蹴り始めた。
 ガツッ、ガツッ、ガツッ。
 蹴られる度に、白竜の体は空気の抜けたサッカーボールのように弾むことなくぐしゃりぐしゃりと転がって行く。新しい鮮血を迸らせながら。

 ひくり、と白竜の体が痙攣した。
 そして、静かになる。
 何者かが、俺に近づく。

「剣城、裏切り者の剣城! さぁ、よ~く見ろ!! その手の血も、このフィールドに流された血も、全てはお前があの仲間達から絞り出したものだと、その胸に刻み込め!!」
「 ――――― !!!!! ―――――― 」

 俺の自己保存能力は、間に合わなかった。
 俺の意識を落とす事に。
 その事実を記憶して、自覚して、この惨劇を引き起こしたのは自分だと自分自身に突きつける。その先に、待っているものは ――――


  ■ ■ ■


「……手強いな。まだ、『感情』が、『心』が残っているようだ。理論上では、人間の感情や意識など操るのは造作もない筈。脳の必要箇所に埋め込んだナノ電極デバイスにほんの僅か生体電気の一部を電圧を変えて流してやるだけで、凶暴にもなるし攻撃性も増す。破壊行動そのものを楽しむ嗜虐性を煽るのもな」

 電池が切れた人形の様に瞳の光を失くし、硬直した剣城を冷めた目で見つめる。語る言葉に潜む悪意は、隠しようもない。

「とは言え、実用化させるのには臨床データは不可欠。剣城の前の実験体の何人かは、ナノデバイスを植え付けただけで半身不随になったり、電圧をかけただけで廃人になってしまったからな」

 すっと影が増える。

「そいつを連れて研究室にゆけ。脳波の細かいデータと身体的データを精査し解析を急がせろ。ファーストの中で唯一、化身を進化させることが出来た奴だからな。セカンドの為に、ありとあらゆるデータを搾り取ってやる」

 ズルズルと、人形の様に剣城はフィールドから連れ出された。
 フィールドに残された者達の幾人が、意識を保ていたか判らない。だがその者達は皆、瞳に痛ましげな光を浮かべてその姿を見送る。自分達をこんな瀕死の体にしたのは間違いなく剣城自身だが、それでも自分達は知っている。
 脳を弄られ、人外の力を振るう剣城の眼に、血の涙が流れていたことに。体は脳に仕込まれた電極で操られ、凶暴な力を仲間だったシード達に叩きつけてきたが、それを剣城が望んでいたとは誰も思ってはいない。剣城の顔に浮かぶ、恐ろしく膨れ上がった破壊欲求を満たす悪鬼の様な表情も見た。それを、必死で押しとどめようとする本当の剣城の引きつったような表情も。

 自分達は、知っている。

 自分達の苦しみは、ここまでだと。
 ここで殺されるかもしれない。
 もう、二度とサッカーは出来ないかもしれない。
 だけど、剣城が皆の身代りなってくれたから、俺達はここで終われると。
 だから、剣城を恨む気持ちはこれっぽっちも無い。

 剣城は、これからもああして殺戮者として血の涙を流しながら、また別の誰かを、もしくは昔の仲間を屠り続けてゆく。

( ……地獄だな、ここは。なぁ、剣城。お前は、どこまで墜ちてゆくんだろうな )

 誰の呟きか、誰の想いかも判らない。
 窓のない屋内フィールドは、闇の中に静まり返っていた。



  ■ ■ ■


 いつもなら、春も過ぎて五月の爽やかな風の中でくたくたになるまで走る日々を過ごすはずだった。心地好い疲れと、充実感を感じながら。
 しかし、始業式からこちら、全国のあちらこちらのサッカー部は活動を停止していた。その数が、どのくらいあるのか当の部員達でさえ把握出来ていない。

 そう、剣城が何者かに拉致されてから ――――

「それじゃまた、連絡に来ますね」

 剣城宅の玄関先でスニーカーを履きながら、天馬は見送りに来てくれた優一にそう挨拶をした。

「いつもありがとう、天馬くん。俺も俺で色々調べてはいるんだけど、どうにも独りだけの力じゃね……」

 目の前で剣城を連れ去られた優一さんは、目に見えてやつれていた。

「無理はしないで下さい、優一さん。ここで優一さんに何かあれば、剣城が悲しみます!!」
「……優しいね。本当に力のある者は、その力に見合う優しさも持っている。力ない者のそれは、ただの弱さだ」
「優一さん……」

 何も言えなくて、俺は玄関を出た。
 こうして剣城の家に通うのは、もう何度目だろう。被害者である優一さん家族にも、警察の捜査内容はあまり詳しく語られてないらしい。
 
( ……それだけ大変な事件なんだ。なぁ剣城、お前なら大丈夫だよな? )

 今まで辛い目に会って来て、それでも頑張って、ようやく願いが叶うという今になって、なんでお前がっっ!!
 まだ明るく、人目のある通りを歩きながらどこかの建物の壁を、俺はドンっ! と力任せに拳で叩き付けた。じんじんと伝わる拳の痛みに、胸の痛みを紛らわせるようにして。

「くそっっ!! 絶対、見つけ出してやるからな!! 絶対、絶対だっっ!!!」

 それは、誓い。
 大好きな人たちを悲しませない為に、そして俺が見つけた宝物を取り戻す為に!
 
 だけど、俺も優一さん同様、出来ることは限られている。
 幸い、この事件の危険性や規模の大きさに危機感を抱いた円堂監督達がすぐに動き出して、比較的余所の学校よりは早く情報を手に入れられる状況にあった。俺が優一さんの所に通うのも、そう言う理由がある。


   ■ ■ ■


 放課後、俺は信助とサッカー棟へと向かう。
 練習の為ではなく。

「ねぇ、天馬。ちゃんと警察は剣城の事、探してくれてるのかな?」
「ああ…。警察だけじゃなく、円堂監督や鬼道コーチ、その他の先輩方も動いてくれているから」

 部活が活動停止なのは、生徒の身の安全を守るためのもの。特に拉致された生徒のいる学校は、神経を尖らせている。登下校共に単独行動を禁止し、決して人目の無い所に立ち寄らないことを厳しく言いつけられている。学校内でもかならず複数人で行動することなど、ある種の厳戒態勢が敷かれていた。
 雷門は名門中学だけあって、他よりはセキュリティーが高い。また理事長に戻った前雷門理事長より、今はその一人娘でもあり円堂監督の奥さんでもある夏未夫人が、理事長を務めるにあたって警備員の増員も図られていた。校内の安全が確保されたことにより、円堂監督や鬼道コーチは校外を、手掛かりを求めて飛びまわっている。

 俺と信助は、捜査の進捗状況を聞くために毎日、ミィーテイングルームには顔を出している。いや、俺や信助だけではない。サッカー部員全員が、剣城の安否を心配していた。だが、その場で望んだ情報が得られることは少ない。俺達が子どもだからかもしれないが、警察や円堂監督からの情報があまりにも少ないのだ。

「……どんな情報でもいい。俺、知りたいよ」
「うん、そうだね。天馬」
「声を大きくして誰にでも尋ねてみたいのに、拉致された剣城の身の安全を思うなら、部外者には絶対知られるなって!! って円堂監督と鬼道コーチに強く言われているから……」
「犯人を刺激しない為だって聞いたけど……」
「せっかく、これから一緒にサッカーが出来るって思っていた優一さんの気持ちを思うと、俺、俺、もうっっ……!!」
「剣城は、お兄さんの目の前で、連れていかれたんだもんね」

 沈んだままの気持ちで、ミィーテイングルームに入ると先に来ていた神童先輩が俺達に声を掛けた。

「今日も早いな」
「そう言う神童先輩だって……」
「ああ、今日は皆に知らせることがあってな」
「知らせる事っっ!!」

 俺と信助の声が重なる。
 この時期に来て、皆に知らせる事とは当然、この拉致失踪事件の進展に他ならないだろう。

「神童、円堂監督から連絡があったって?」

 俺達がそんな驚いた声を上げた時、俺達の後ろからそんな声がかかる。

「倉間か。霧野が今、円堂監督の知り合いを迎えに行っている。皆が集まった所で、説明してもらえるようだ」

 神童先輩の言葉に促されたように、続々とミィーティングルームに部員達が集まってきた。一旦サッカー部を離れ、途中で復帰したセカンドチームからは一乃先輩と青山先輩が代表で、残りはファーストチームの面々だ。
 皆が重苦しい空気の下、緊張を隠せない表情を浮かべたままで待っていると、扉の向こう、廊下の先から複数人の足音が聞こえてきた。

「神童、来てもらったぞ。それと……」

 霧野先輩が先だってミィーテイングルームに入り、後続の人達に入室を促す。

「丁度僕も情報が欲しかったところだから、同席させてもらうね」

 その声と共に現れたのは、白恋中のコーチである吹雪さん。

「えっ…? 白恋中の吹雪コーチがどうして……」
「……うん、ウチも雪村を連れて行かれた。ここに来れば、なにか情報を得られるかもと思ってさ」

 そう言いながら、険しい色を浮かべた瞳を、自分の背後にいる人物に投げかけている。

「警察に問い合わせても、答えられないの一点張りじゃぁね。可愛い後輩の為だし、動ける者が動かないと。それに彼なら、僕にも話してくれるだろうし」

 北海道からわざわざ東京まで出てきた理由をそう述べると、吹雪さんはミーティングルームの空いている椅子へと腰をかけた。

( ああ、やっぱり。どこも、詳しい情報を貰えていないんだ )

 俺は胸の中で、そう呟いた。
 
「……耳が痛いな。今回の事件はあまりにも悪質で特殊なため、一般には伏せられている事が多い。なにも警察だって手をこまねいている訳じゃないぞ」

 苦々しそうな表情を浮かべ、その男の人は口を開いた。

( あれ? この人って確か俺が小さい頃、遊んでもらっていた…… )

 なんだか見覚えのあるその人の顔を、思わず凝視する。

「あの、あなたは……?」

 円堂監督からは『昔の知り合い』とだけ説明されていた人物が、どうやら警察関係者だとは知れたものの、名前も所属も分からないままなので、おずおずと神童先輩が訊ねる。

「俺は土方雷電、警視庁の特殊捜査班の刑事だ」
「雷電兄ぃに!! やっぱり、そうだ!! 俺だよ、天馬だよ!!」

 俺の記憶に間違いは無かった。

「大きくなったな、天馬。八年ぶりだもんな、良く覚えていたな」
「雷電兄ぃにには、サッカーで遊んでもらっていたから」
「まぁ、お前も居るし、鬼瓦のおやっさんや円堂の強い要請を受けて、雷門は重要警戒校に指定された。で、俺が派遣されてきたという訳だ」
「重要警戒指定校……? それって、どういう意味ですか?」

 尋ねる俺の強まる緊張が、そのまま固い声の調子に現れている。

「……簡単に言えば、次に『狙われる』可能性の高い学校、って事だな」
「……っって、もうここは被害に遭ってます!! 剣城が攫われたんですよっっ!? これ以上の、被害なんて……!!」

 本題に触れないような話し方に、俺の不安が爆発する。

「まだ、天馬達の耳には入ってないんだ。そうか……、かなり情報が押さえられているんだな」

 顎に手をかけ、考え込むように吹雪さんが呟く。

「土方、ここまで来たら今まで押さえていた事を話さないと、ダメなんじゃないかな?」
「ああ、そのつもりで俺も出向いてきた。かなりショッキングな内容だが、自分達の、そして仲間の安全に関わる事だから注意深く聞いて欲しい」

 ミーティングルームに響く低く重たい土方刑事の声。
 ゴクリ、と息を飲む音がそこここで小さく聞こえた。


   ■ ■ ■


「まず、今回の拉致誘拐事件の被害範囲を説明する。端的に言って、被害規模は全国に及ぶ。各地に派遣されていた監視者としてのシード、総勢百名は下らないと言う規模だ」
「ひゃっ…、百名っっ!!」

 誰かが、そんな声を上げた。

「そして、時を同じくして警視庁に差出人不明の小包が届けられた。怪しい小包なので、鑑識の方でX線透写したところ、とんでもないモノが入っていた」
「……爆弾?」

 思わずそう口にしたのは、狩屋だ。
 土方刑事は、ゆっくり首を横に振る。

「……まだ、そっちの方が良かったな。入っていたのは、人の左腕だ」
「左腕……? まさか、本物……」

 土方刑事が重々しく頷く。

「鑑識の調査だと、その左腕には生体反応があった。つまり、誰か生きている状態で、左腕を切断されたと言う事だ」
「それ、拉致された誰かの腕、って事なのかっっ!?」

 霧野先輩が激昂して、そう大声を上げる。その傍らで速水先輩が血の気を失い、ふらりと倒れそうなのを浜野先輩が支える。神童先輩の顔色も真っ青だ。

「そして、手紙が入っていた。もし、この件を世間に知らしめるのなら、毎日誰かの手か足を送りつける、とな」

 悔しさを表すように、固く握り占められた土方刑事の拳がぶるぶる震えている。

「けっ!! どこの気違いだっっ! そんな真似しやがって……」

 霧野先輩と同じく、倉間先輩も怒りのあまり椅子を蹴立てて立ち上がった。

「じゃからか、ワイ等にもよう情報が伝わってこんかった訳は。確かに、子どもにはよぉ聞かせられん話じゃけんのぅ」

 腕を組んだまま、努めて冷静な声で錦先輩が言う。

「最初から警察を挑発に来ている。下手に動けば、捕まった誰かが被害に遭うぞ、と。だから警察や関係者の方で、箝口令を敷いた。その間でも、出来るだけの捜査は進めている」

 皆が落ち着くのを待って、土方刑事は次の言葉を続けた。
 俺はそのショッキングな報告に、優一さんのやつれた本当の訳を知ったような気がした。きっと被害者家族には、こういう事情があるから辛いだろうけど、捜査が進むまではじっとしていてくれと言われているのだろう。

「その百名余りの被害者の共通点は皆が皆、化身が使えるということだ」
「化身が使える……」

 そう呟きながら俺は、その場に居るメンバーを見回した。
 神童先輩をはじめ、錦先輩や信助、そして自分。
 もし、その何者かが『化身使い』を何らかの理由で集めているのであれば、確かに雷門中は格好の標的だろう。

「奴らの狙いは、今の所はっきりしてはいない。ただ化身を出せるものを『能力者』と呼んでいたところからすると、その『能力』を何かサッカー以外のものに使おうとしておるのだろうと推測されている」
「昼日中の学校内から生徒を拉致るような犯罪を犯してまで、化身能力者を集めたっていうのに、まだ足りないってぇのかっっ!!」

 見た目と反する荒い言動で机を蹴っ飛ばしたのは、霧野先輩だった。

「……そうなんだろうな。もしかすると、フィフスセクターで養成された化身使い達と、そうでない者の化身との間に、何か重要な違いがあるのかも知れないね」

 少し考え込むような顔をして、吹雪さんがそう言った。

「……成程、だからこその重要警戒校、か」

 重々しく、言葉を口にしたのは神童先輩。

「あれっ? でも、シードじゃない化身使いのいる学校って、雷門以外にもあるよね? そっちの方は、警護しなくてもいいのかな?」

 信助の問いかけは、尤もな事。雷門だけとなると、それは特別扱いが過ぎるかもしれない。危険なのはどこの学校、生徒でも同じなのだから。

「……監視者として各中学校に送り込まれたシードじゃなくても、フィフスセクター傘下の中学校にいた化身使いは最初の大量失踪事件の被害者になっている。木戸川の滝や幻影学園の真幌も。そして白恋の雪村もね。僕が調べた限りじゃ、もう残っているのはここと新雲学園と聖堂山のぐらいのものなんだ」

 吹雪さんぐらいになれば、警察が隠していても、昔の仲間の伝手を辿ればある程度の状況は探れる、実際木戸川の亜風炉照美監督や聖堂山の豪炎寺修也監督とは、旧知の仲だ。

「ここと、新雲学園や聖堂山くらいしかないって……」

 吹雪さんの言葉に、俺の胸は不吉な予感でいっぱいになる。

( ……太陽は無事なんだろうか? 術後間もないのに )

 その俺の不安は、もっとも最悪な形で現実と化した。


  ■ ■ ■


 目の前に広がる惨劇は、もう何度目だろうか?
 ずぶずぶと、自分の体が血の池に底に引きずり込まれそうな恐怖に俺は身震いをする。
 俺の目の前に倒れ伏しているのは、太陽の加護を受けたサッカーの申し子。燃え盛る明るい髪が血と泥で汚れ濡れそぼり、夏の空の様な青い瞳は力なく翳っている。

「ど、どうして……、君、が……? な…ぜ……」

 雨宮太陽、天馬と共にあの戦いで、更なる高みへと羽ばたいた選手。
 誰よりもサッカーが好きで、誰よりも真剣に天馬と戦いたがっていた相手 ――――

( あ、俺は…… )

 心が揺らぐ。
 つきっ、と頭の奥が痛くなる。
 パシっ、と瞳の裏で火花が散った。
 ググッと、心の奥からどす黒いものが湧きあがる。


 ―――― ナンデ オ前ガ 天馬ニ近ヅク?
      目障リダ 消エロ! 消エ失セロッッ!! ――――


 俺は自分の顔が、悪魔にも似た引き裂かれたような笑みを浮かべたのを感じた。もう倒れて動けもしないのに、その体にロストエンジェルを叩き込む。本来なら『外』に向かって具現化される『化身』を、自分の身に内包させて一体化する。従って力のロスは無くなり、より強力なロストエンジェルを発動させていた。
 自分の体の中で暴れる『力』が、自分の骨を軋ませ、筋肉繊維を引き千切っている音が聞こえる。『外』に出すことで回避していたそれを、そのまま体内で爆発させるから、身体に掛かる負荷は避けようもない。
 何者かが口にした『自壊』の意味には、この肉体の損傷も含まれていた。

「……天馬…が、悲し……む…よ……」

 残った僅かな力を振り絞って、呟かれた太陽の言葉。

「天…馬……?」

 胸が握りしめられるように痛くなる。
 体中の血が、ドクドクと音を立てて駆け巡る。

( ―――― 嫌だ! もう、嫌だ!! こんな、こんな事はっっ! )

 後悔なのか、暴力への渇望なのか、絶望とも切望ともつかない判らないものが俺の中から溢れそうになる。

「おや? また、何か考えているのか? 言っただろう? 考えれば考えるほど、自分で自分を追詰めると。自分の考えなど捨ててしまえ。そして、早く楽になれ」
「う……。あぁぁぅ……」

 俺の中で荒れ狂う残虐な力に、飲み込まれそうな俺がいる。
 強く、強く、誰よりも強いその『力』は、全ての感覚を麻痺させるほどの陶酔感を与える。思う存分振るう破壊と暴虐の力。振るえば振るうほど、もっとと望む俺がいる。そんな俺の足元で蠢くのは、かつての試合相手だったり知人だったり。

「うん、辛いか? 苦しいか? ならば、早く私たちが望む『一番』の力を手にすることだ。お前が一番になれば、もうこんな血腥い真似をしなくても済むぞ」
「う、ううぅ……」

 早く終わらせたいと思う。
 仲間だった、元シード達も叩き伏せた。
 かつての対戦相手も、同じように踏みにじってきた。
 それでも、まだ足りないと言う。

 もっと、もっと相手に血を流させ、選手生命を断つような大怪我を負わせても、まだ終わらない。

( ……誰でもいい!! 俺を止めてくれっっ! これ以上、仲間達を傷付けないうちに、サッカーを穢さないうちにっっ! 俺が、この暴力に慣れてしまわないうちにっっ!!! )

 そんな俺の胸の内を読み取ったのか、いやらしい笑みを浮かべて

「くくくっ、ならばお前の罪悪感を快感に書き換えてやろう。なに、お前の脳内に埋め込んだ幾つかの電極に電圧をかけてやれば、人間の脳など簡単に騙される。相手にとっての苦しみや恐怖が、お前にとっての快楽に繋がるのなら、遣り甲斐もあるだろう? 次は、いよいよ……」

 俺を操る何者かが、心底愉しそうにそう言い放った。
 脳内に流される電流の電圧が微妙に調整され、俺に麻薬にも似た陶酔感を色濃く与えてくる。逆らいようもなく、体の隅々まで、心の端々まで、残酷な力が染込み、溢れる『力』を使う事の悦びに体が震える。

「ん? どうだね、剣城。今の、気分は?」

 ふーふー、と荒い息を吐く。
 体の奥底から、押しとどめようもない破壊欲求が湧き出してくる。

「……やら、せ、ろ。早く、相手、を……、連れて、こい」
「ふふふ。そう、その調子だ。お前に比べれば、他の選手など取るに足りぬ。虫けらのように踏み潰せ」

 何者かが満足そうに笑うのを、俺はただ聞いていた。


  ■ ■ ■


 何者かは、多くのシード達や化身使い達を使って剣城の『人の心』を砕き、ただ戦うだけの比類なき暴力を振るう殺人マシンと化させようとしていた。そうして剣城をプロトタイプとして完成されたプロセスに従って、セカンドと呼ばれる世代の子ども達は、化身と一体化した、人でありながら人外な最強の兵器として量産される。

 武器の補給も何もいらない、大掛かりな作戦すらも必要としない。
 一人で大隊一個分の働きをするような、そんなスーパーウェポン。
 そして何よりも都合が良いのは、限界を超えれば自壊してゆく手間の要らなさ。愚かな戦争を繰り広げる顧客(クライアント)の為に、ただただ要求通りの兵器を供給し、使い捨てさせる。。

 生身の肉体が破壊した跡であれば、それは自然の中で浄化されるもの。打ち捨てられた戦車がいつまでも、その鋼鉄の骸を原野に晒し続けるのに比べれば、自壊した肉体は速やかに土に帰り、この惑星の糧となるだろう。

 これほど潔く美しい兵器があるだろうか?

「……この惑星(ほし)には、虫けらの様な人間が多すぎる。増えすぎたレミングが自ら海を目指すように、増えすぎた人類もそうあるべきなのだ」

 電極に脳内を支配され、機械のような光を宿す剣城に語って聞かせるように何者かは、言葉を続けた。

「増えすぎた人類の淘汰方法は、戦争が一番だ。殺人ウィルスを散布する方法も簡単で良いが、それだとこの惑星に与える影響が大きすぎる。変異したウィルスが罪もない動物たちをも襲いかねないからな」

 それはその何者かの想いなのか、それとも更に上位からの指示なのか。

「この惑星にとって一番の害虫は、人間そのものだ。この奇跡の惑星に住まわせてもらっていると言う敬虔さも感謝も足りない。むしろ、傷付け続けてきた。ならば戦場で、その虫けら退治を自らの手で行うのは、せめてもの罪滅ぼしとは思わんかね?」

 凍てついた眸、消えた表情。
 およそ人らしさの欠片をも見せない、人形のような剣城。
 殺戮人形と言う名の、最終兵器。

「今の戦争で使われる兵器は、後の始末が悪いからな。地雷を使えば地雷原が残る。戦略核兵器を使えば原子野が。どちらも人間以外のものにも影響が多い。実に、美しくない兵器だ」

 そして、剣城を見る。

「だけど、お前は違う。生身の体で人でないモノとして振るう力は、ただただ全てを破壊する。まだプロトタイプだというのに、すでに引く手あまただ。世界が変わる。いや、変える」

 何かに酔ったように、誇らしげに。
 だが、続いて吐き出された言葉には、どこか苦々しげな響きが含まれていた。

「……お前は知らないだろうが、かつて成長期の子どもを使った『ハイソルジャー計画』というものがあってな、あれは軍備としての人間兵器配備計画だった。まぁ、真正面から国防に対して喧嘩を売れば、大抵成就する前に潰される。ああ、そうだ。その計画を潰したのは、お前達の監督でもある円堂達なのだが」

 『円堂』、その名を耳にしてぴくりと剣城の体が微動した。

「うむ、先ほどもそうだったが、まだ微かに反応があるな。もう少し、微調整が必要か」

 何事か呟き、少し思案するような色を浮かべる。

「まぁ、良い。お前はあくまでも、プロトタイプ。どこまでやれば壊れるかを見るのも、この実験の目的だからな」

 上々の出来に、目を細めて今や一体の兵器と化した剣城の姿を見やる。
 そこには、人でなしな傲慢な笑みが浮かんでいた。


  ■ ■ ■


 重要警戒態勢に入った雷門では、土方刑事を始めとした警備陣が雷門サッカー部員の警護に当たっていた。部員達、特に化身が出せる俺や神童先輩たちや、それからファーストチームの皆を自宅に帰すのは危険なので、サッカー棟内の合宿施設で寝泊まりするようになっていた。事情を尋ねに来た吹雪さんも、円堂監督達不在の今、少しでも力になればと滞在してくれている。

 皆の中に、恐怖に満ちた緊張感が否が応にも高まっている。大きく膨らんだ風船が、いつ小さな針先で突かれてぱぁんと割れるかとでもいうような、そんなピリピリした緊張感だ。
 そんな合宿所に、珍しく優一さんの方から訊ねてきた。きっと俺が、校内に軟禁(?)状態なのでだろうと思う。
 神童先輩や土方刑事から、捜査の状況を聞きに来た優一さんの表情は暗い。

「……済みません、あまり情報がなくて」
「いや、良いよ。君達も、こうして合宿所内に避難してるくらいだからね。俺よりも、もっと身動きが取れないのは仕方がない」
「俺も、警察の人間として情けなく思っている。拉致された子ども達の安全を考えると、派手な捜査に踏み切る訳にも行かず、やり方の薄汚さに腸(はらわた)が煮えくり返りそうだ」

 ある意味、雷門はこの一件に関しては、一種の牙城。
 ここを落とされたら、闇で動き出した『何か』を止めることが出来なくなりそうな、そんな怖さがあった。

「出来るだけ俺の方からも、連絡を入れるようにさせる。それで、今は我慢してくれ」

 苦しげな思いを声に滲ませ、土方刑事が頭を下げた。

「……よろしくお願いします」

 優一さんも、頭を下げた。
 サッカー棟を出て行こうとする優一さんを見送りに、俺もサッカー棟正面玄関のロビーまで一緒に下りる。

「優一さん、顔色が真っ青ですよ」
「……もともと病院暮らしが長かったからね、白すぎるからそう見えるんだよ」

 そう優一さんは言うけど、何か違うと俺は思う。その証拠に優一さんはロビーの何もない所で何かに突っかかり、思わず転びそうになる。両腕でしっかり抱えていた捜査資料のコピーや何やらが辺りに散らばる。

「あっっ……」
「俺、拾います。ちょっと待っててください」
「ちょっと待ってくれ、天馬くん!!」

 なぜか大声を出す優一さん。
 優一さんの制止の声が掛かる前に、俺の手は一枚の写真を拾い上げていた。

「……なに、これ?」

 写し出されていた光景に、そんな間抜けな声を出す俺。
 辺りを見れば、まだ何枚かの写真が落ちている。

「これも……」

 拾おうとして、俺の手が止まる。床に散らばった写真の一枚一枚に焼き付けられていたのは、剣城の足下に倒れている、拉致された元シード達。天河原の隼総や万能坂の光良達や、それから……。 最後の一枚には、もうボロボロになった太陽に向かって威力を増したロストエンジェルを打ち込む剣城が写っていた。

「……嘘、だろ……? これって……。俺は、信じないっっ!!」 
「嘘なら……、本当に良かったんだけどね……」

 優一さんが、優しい顔に悔しくて悲しくてやりきれない色を滲ませて……、泣いていた。今のCG技術なら、そんな合成写真だって作ることは出来るだろう。でも家族の、ましてやあれだけ仲の良い兄弟である優一さんの眼を誤魔化すような偽りの写真なんて作れない。

「この写真、どうしたんですか?」
「……罠、だろうな。写真の他にメモが一枚入っていた。とある場所を指定したものだ」
「そこへ来い、と?」

 俺はああ、と気付く。
 優一さんはこっそりその情報を、土方刑事に知らせようとしたのだろう。
 
 でも、出来なかった。

 もし、万が一にでも警察が動いたことが判ったら、捕まっているシード達の腕や足が切断されてしまう。だから、ここまで来ても優一さんは、知らせることが出来なかった。

「……行くつもりなんでしょう? 優一さん」

 優一さんが、こくりと頷く。

「じゃぁ、俺も行きます。きっと奴らは優一さんを捕まえて、もっと剣城に自分達の言う事を聞かせようとする筈です! あの剣城が、自分から進んでこんな事する訳がありません!!」

 優一さんに何かあったら、剣城が悲しむ。
 そんな事にはさせない、絶対!!

「駄目だよ、天馬くん。危険すぎるし、それに君は合宿所に避難中だろ? 土方刑事の他に、たくさんの警察関係者が警備に当たっているんだから……」
「それでも! です。合宿所のセキュリティーや警備網なんて、その気になったら抜け出せない訳ないんですよ!!」
「天馬くん……」

 俺はそう言って、ロビーの天井に設置されている監視カメラに目をやった。勿論、設置されているのはここだけではない。廊下や階段の踊り場など、必ず人が通るような所には設置されている。
 それでも、その気になったら相手だって、ここに侵入してくる事は出来るはず。その時は、こっそり忍び込むなんて手段じゃなく、大掛かりに襲ってくるだろう。
 だけど、今はその時期じゃない。反対に、こちらとしては集団でいるからこその、防御力だ。被害に遭った中学校の様に侵入者が少人数なら、皆が皆、本気を出せばそれなりの戦闘力を持っている。

「もう止めても聞きません。そのメモを俺にも見せて下さい」

 俺が言い出したらきかない性格なのは、優一さんも知っている。剣城も散々言っていただろうから。

「……呼び出されたのは俺だけだ、だから、天馬くんは離れて待機していてくれると、約束してもらえるなら」
「判りました。約束します」

 そして、優一さんが見た目より厳しい性格なのも知っている。これも剣城に散々聞かされたから。とても嬉しそうに。一人っ子の俺には、羨ましくて仕方がないほどに。

 俺と優一さんは、自分たちに取って大事な宝物を取り戻す為に走り出す!!


  ■ ■ ■


「……動きがあったみたいだよ、円堂くん」

 サッカー棟の監視室に詰めていた吹雪は、ディスプレイに映る優一と天馬の只ならぬ様子をそう判断し、円堂に連絡を取った。

「そうか、ようやくか。本当ならこんな手は、使いたくないんだけどな」
「仕方がないよ。あれだけ水面下で警察が動いているのに、敵はこちらには絶対尻尾を掴ませないようにしている。拉致られた子ども達を救い出す為にはね」
「だけどさ、俺やっぱり子どもを囮にするっていうのがさ……」

 歯切れの悪い円堂の言葉、その言葉に重なる様に通話先の雑音が吹雪の耳に伝わる。

「円堂くん?」
「ああ、俺だ、鬼道だ。他に方法は無いと、納得させた筈なんだが、やっぱり円堂は円堂だな」
「そこが円堂くんの良い所だろ? それは鬼道くんも一緒。ちゃんと打つ手は準備しているんでしょ?」
「まぁな。化身使いが多数いる学校に的を絞って、仕掛けた罠だ。子ども達を学校内で保護していれば、外に呼び出すための接触を計るか、もしくは足が付くのを覚悟で多人数で襲撃するか、そのどちらかと踏んでいたからな」

 ふっ、と小さな笑みが吹雪の口元に浮かぶ。

「そうだよね。僕をここに呼んだのも鬼道くんだし、豪炎寺くんに聖堂山で雷門と同じ保護体制を敷かせたのも、ね。あっちには瞳子さんと砂木沼さんがいるんだっけ?」
「……あの二人がいて、それだけで済むはずはないだろ?」

 声の調子だけだけど、明らかに通話相手の口元には人の悪い笑みが浮かんでいることだろうと吹雪は思う。

「どっちにしても、子ども達は必ず無事救い出す!! 薄汚い大人の勝手にさせない!!! そして、子ども達に手を出した奴らは、全部叩き潰してやる!! 絶対、絶対にだっっ!!」

 いつの間に変わったのか、通話口からそんな力の籠った円堂の声が響く。

「それじゃ、僕は天馬くんが合宿所を抜け出しやすくしてあげればいいんだね?」
「ああ。一つ肝心なことを確認しておく。皆、ちゃんと雷門ジャージを着用しているんだな?」
「それは、勿論。夏未さんから着替えようとして、新しいジャージを提供してもらったからね」
「なら良い。そのジャージにはファスナーの留め金に、特殊な発信機が仕込まれている。これで、天馬の居所を見失わずに済む」

 監督・コーチともに不在の雷門中。
 これも、敵をおびき寄せる一つのトリックだった。


  ■ ■ ■


( よし! 身代わりの人形はベッドに押し込んだし )

 優一さんが呼び出されたのは今夜の十二時、場所は川沿いにある廃業した自動車整備工場跡。そうっと、足音を忍ばせ同室の信助を起こさないように気を付けて、二階の部屋から廊下に出る。

(さて、ここからだな )

 あの後、何気ない風を装って吹雪さんに訊いてみた。
 監視カメラや、警備員や警察がどんな風に自分達の安全を守ってくれているのかと。
 そして聞き出した内容は、外から侵入してくる敵に対しての備えなので、監視カメラの監視範囲は内よりは外に向けられていると言う事。カメラの死角になるポイントには、警備員や警察官が常時見回っている事。見回りの人員の交代は、三時間置きだと言う事など。

( って事は、俺が部屋を抜け出したりしたのは監視されてないって事なんだよな。でも廊下や階段は使えないし…… )

 そこで俺は、一番近い監視カメラを探した。廊下の途中に二か所、設置されている。そのカメラは懐中電灯で辺りを照らすように、カメラのレンズを右や左振っている。

( あれ? あんな風に動いているって事は……! )

 俺は監視カメラの動きを良く見て、片方のカメラが廊下の右側を、もう片方が左側を向いた時に、廊下の中央辺りにあるトイレへと飛び込んだ。トイレの正面には階段があるけど、その踊り場にある監視カメラは廊下まで映し出せない筈だ。

( あとは、トイレの窓から下に下りれば良い )

 高さはちょっとあるけど、このくらいなら飛び降りるのは難しくない。下に誰も居ないことを確認して、俺は飛び降りた。植え込みの陰に隠れながら、裏門を目指す。校内って結構植え込みが多くて、姿を隠せるもんだと改めて思った。

( う~ん、流石に裏門には警備員さんと警察官が立ってるよね )

 裏門のすぐ近くの植え込みの陰で、俺は様子を伺う。ふと見ると、裏門の所に出前の人が立っていた。何か、警備員さんと話している。すると、裏門の鍵は開けられて、出前の人が中に入ってきた。

( 夜食の出前かな? あ、警備員さんが出前の人を案内している )

 二人いた裏門の警備は、これで一人。
 尚も見ていると、今度は警察官のトランシーバーが呼び出し音を立てた。それを手にして、応答する警察官。受信状態が悪いのか、裏門から少し離れた建物の影に回り込む。

( しめたっっ!! 今がチャンスだ! )

 足には自信がある。
 その僅かな隙をついて、俺は裏門を潜り出た。潜り出ながら思う。

( ……こんなに簡単に外に出られるなら、襲撃者が侵入するのも簡単なんだろうな )


 ―――― この時俺は、この偶然が全て仕組まれていた事に気付いてはいなかった。


  ■ ■ ■


「……天馬の奴、無事外に出たな」

 出前を届けに来た飛鷹は、吹雪の見ているディスプレイを覗き込みながら小さく呟く。急いで夜の闇の中に駈けてゆく天馬の後ろ姿を映し出しているディスプレイの横に、マップと光点だけが示されているモニターがある。

「今の所、こんな手しかないからね。アップはもう済んでるんだろう?」
「言われるまでもなく。いつでも出られます」
「じゃぁ、頼んだよ」

 寡黙な飛鷹は、黙って頷く。
 天馬の居場所を示す光点を追いながら、更にその天馬を狙うだろう何者かに気付かれることなく、包囲網を形成する。

 何者かを、その場で捕まえるのが目的ではない。
 天馬達に危害が及ばないよう、牽制する事。
 そして後を付け、アジトを探る事。

 この二点が目的の、ミッションだった。


  ■ ■ ■


「天馬くんっっ!!」

 廃工場の影から、俺を呼ぶ声がする。

「優一さん、相手はまだ……?」
「ああ、まだのようだ。油断するな、どこから何を仕掛けてくるか分からないからね」
「はい、優一さん」
「さぁ、天馬くんはどこか、物陰からし相手の出方を見張ってきてくれ」

 それは、俺がここに来る時の約束。
 でも、俺はそれをあえて破るつもりでいる。優一さんの手元を見れば、優一さんがどんな覚悟でここに立っているかがわかる。

「優一さん、約束を破ってしまいますけど、俺もここにいます!」
「天馬くんっっ!?」
「……だって優一さんは、剣城の為に戦うつもりなんでしょ? 俺も一緒に戦います!!」
「天馬くん……」

 優一さんはここしばらく使っていなかった、歩行杖を手にしていた。俺と優一さんはお互いに背中を合わせるような体制で、夜の闇に眼を凝らす。訊きたいことは沢山ある。どうして剣城が、あんな事をしているのか? あれは、本当に剣城なのか? どうして沢山の元シード達、化身使いを集めているのかなど……、いや、本当に言いたい事は ――――

( 剣城を返せっっ!! 俺や優一さんの元にっっ!!! )

 気配は、なかった。
 車のエンジン音も、工場敷地内の小石を踏む音も立てずに、その男たちは俺達を取り囲んでいた。

「ふふふ、やはり読み通りだな」

 低い男の声。
 特徴と言えば、それだけしか与えない。

「読み通り?」
「そう、お前にあれを送りつければ、そいつまで釣れるだろうってことさ」

 ふっと俺と優一さんは、小さく笑う。

「最初から罠だと思ってるさ。だけど、こっちも危険を冒さなければ、真相には近づけないからなっっ!!」
「中学生と、少し前まで車椅子に乗っていたような奴が、俺達とやり合おうなんて、どれだけ馬鹿なんだ?」

 明らかに小馬鹿にした態度を隠そうともしない。確かに、中学生離れした元シード達をやすやすと拉致してきた手際を持っている奴らからすれば、俺達の行動は馬鹿な命知らずの行動としか思えないだろう。

「馬鹿かどうかは試してみてから言ってもらおう。その前に、どうして俺達をここに誘き出したのか、聞かせてもらおうか!」

 凛と響く、優一さんの声。

「聞きたいのか? それが、お前達の絶望に繋がるとしても」
「……逃げないと決めた。おそらく、俺達が邪魔なのだろう? 京介を操る為に!!」

 言い放った優一さんの言葉に、取り囲む五人の男達の気配がざざっと揺らぐ。

「ほぅ、よく分るな。お前の弟・剣城京介はほぼ俺達の望みどおりの性能を発揮してくれている。感情の無い、化身一体型の人間兵器として。ただ、あることに、過敏な反応を示す。つまり、それが兄であるお前やそこの松風天馬や、円堂守などの存在に、だな」

 あの凄惨な光景が剣城の手によるものだとしても、それはこいつらに心を操られているから。そして、その本当の剣城の心はまだ殺されていないと俺は思う。

「剣城の前に、お前達が生存(い)ることそのものが、計画の妨げになる。まぁ松風天馬、お前は特殊な化身使いでもあるから、半殺しにして研究所送りだが、剣城優一、お前にはここで消えてもらう!!」

 ぶん、と風を切る鈍い音。怪しい男たちの一人が隠し持っていたバットを、優一さん目掛けて振り下ろした。街の不良に因縁をつけられて、その挙句に、みたいなシチュエーションを想定しているのだろう。
 俺がぱっと飛びのいた瞬間、俺の後ろでガチィィィと噛み合う音が響く。俺が優一さんの方を見てみると、優一さんは手にした歩行杖でバットを軽々と撥ね返していた。

「このチタン製の杖は特別でね、取っ手の中にスタンガンを仕込んである。杖の先から放電出来るように」

 そう言いながら優一さんは返す手で相手の胸元に鋭い突きを入れ、バチィィィと火花を飛ばした。優一さんを襲った男が、あっけなく地面に倒れ伏す。優一さんの杖が、とんでもない凶器だと判断した男たちが、その杖を奪いに来る。

「よこせっっ! 若造っっ!!」

 杖は一本。
 二人がかりでなら、対処できないだろうと左右から襲い掛かる。

「危ない!! 優一さんっっ!!!」

 俺は咄嗟に、足元の小石を二人の男の目元目掛けて蹴りつけた。ひゅんと、小気味よい音を立てて、男たちの顔面に飛んでゆく石つぶて。一人はまともに命中し、思わず顔を手で覆う。もう一人は避けた事で体勢を崩し、そこを強かに優一さんの杖で叩かれた。

「確かに俺は、長い間車椅子生活だった。だが、そのお蔭で腕の力がとても強くなってね、杖の扱いにも慣れた」

 足場を崩すことなく、ひゅんひゅんと杖を振るう優一さん。追い詰められれば鼠だって、猫を噛む。
 俺達だって、牙を剥く。


  ■ ■ ■


 ひゅう、と口笛が漏れた。

「へぇ、中々やるじゃないか、あいつら。こりゃ、もう少しお手並み拝見、だな」
「おい、ここで見てるだけでいいのかぁ? そろそろ乱入した方が良くないか?」

 目の前で繰り広げられている、その不穏な光景を遠巻きで見ている二人の人影。
 人を食った様な不遜な目つきの長髪の男と、浅黒い南国風な顔立ちの男。

「乱入するって言ってもな、俺達はあいつ等を『助ける為』に乱入するんじゃねーんだぞ? 俺とお前が喧嘩して、その勢いであそこに雪崩れ込むって筋書きなんだからな」
「ああ、あいつ等に俺達が『動いている事』を悟られない為だろ?」
「真剣に殴り合わなきゃ、あいつ等の眼は誤魔化せねーぜ? 出来れば、痛い思いはしたくないよなぁ」

 にやにやと、視線の先で起こっているヤバイ情景を楽しんでいる風な男、不動明王。

「まぁ、そう言われればそーだけどさ」

 答えるのは、綱波条介。
 鬼道が指示した包囲網は、完璧に作動していた。
 マナーモードに設定していた二人の携帯が、同時に震える。

「あぁ、そうか。良し、判った」
「んじゃ、そろそろ切り上げさせるわ」

 スピーカーフォンにしていたから、二人とも先方からの報告を聞くと短くそう返事を返して通話を終わらせる。

「目金の奴、あいつ等の乗ってきた車に発信機を無事取り付けることが出来たみたいだな」
「ああ、吉良の所で開発した特殊な奴だ。それ自体は何の電波も出さないから、発見される危険性の低いタイプ。こちらから出す電波の反射状態で居場所を探るというものだからな」

 そんな言葉を、かつてのイナズマジャパンメンバーが語っていた頃、天馬達を囲んでいた男達の動きが変わった。
 天馬に目つぶしを喰らった男が、優一の杖で叩き伏せられた男の腕を取り、二人の側から離れる。スタンガンで昏倒させられた男は、そのまま取り残されていた。

「……面倒になって来たな。まぁ、取り敢えずはお前達を明日、雷門から引き離せれば一応は成果あり、なんでな」
「俺達を、雷門から引き離す?」

 良く意味の分からない事を言う。

「すぐ判るさ」

 そう言った男の隣にいた男が、懐から取り出した物。
 法治国家である日本では、法に定められた者しか持つことを許されていないモノが、その男の手にある。

「……撃ち殺すつもりか?」
「さぁな」

 男の指が、ぐぐっと引き金に掛かる。
 銃口の先は天馬達を捉えている。

 バアァァン、と銃声が轟くと同時天馬達の背後にあった廃工場が爆発炎上した。建物の破片や取り残されていた古い車体の破片が、天馬達の背後から鋭い矢じりのように飛んでくる。
 天馬達の足元にいた、優一によって倒された男の頭に一発の銃弾がめり込んでいた。

「……松風天馬、お前が生き延びていたらその時はまた、迎えに来る。大怪我を負って不随の体でも、研究材料にはなれるからなっっ!!」

 廃工場の中に、なにか仕掛けでもしていたのだろう。火の手の回り方が尋常じゃない。

「くっそっっ!! あいつら、やりやがった!!」
「行くぞ! 綱波っっ!!」

 不動達が天馬達二人に駆け寄る間に、不審な男たちは姿を消していた。爆風で吹き飛ばされ意識を失った二人を、不動と綱波は急いで救急病院に運び込んだ。


  ■ ■ ■


 ぱちり、と俺は目を覚ました。
 ぽっかりとした空間の中に寝かされているような、そんな感じ。空気には清潔で、どこか消毒薬臭いにおいが混じってる。

「あ、い痛たたたっ……。えっと、俺どうしたんだっけ……?」

 ここに来るまでの事を思い出そうとする。
 この怪我は……。

「そうだっっ!! 優一さんはっっ!?」

 がばっと飛び起き、体のあちらこちらで小さな悲鳴を上げさせる。この痛みはあの爆発で負った傷のせい。幸い、骨に異常はなく大きな裂傷もないようだ。

「俺も天馬くんが庇ってくれたから、軽傷で済んだ」

 その人の声が、俺のすぐそばで聞こえた。

「優一さん……」
「体、大丈夫かい?」
「はい、あの、ここどこですか?」

 あの爆発の後の記憶がない。
 誰が、ここに連れて来てくれたかも ――――

「よぉ、目ぇ覚めたか?」
「大したもんだよな。あれだけの爆発に巻き込まれて、その程度で済んだなんてさ」

 俺達の前には二人の大人。
 あれ…、でも……

「条介兄ぃに? 兄ぃにが、どうしてここに?」

 俺はびっくりした。
 沖縄で可愛がってもらっていた人が、いきなり目の前に現れれば。

「ん~、円堂の頼みでさ。他の奴らに気付かれないよう、警護していた」
「あ~、俺はあった事があるよな? あのゴッドエデンの時に」
「はい、不動さん。あの時は、お世話になりました」

 どうやらここには、俺達の味方しかいないようだ。

「で、さっきのお前の質問。ここは病院だ。そしてもう、朝だ。一応、雷門の土方や吹雪には連絡を入れてるがな」
「流石に軽傷でも、意識を失くしていたお前達を、そのまま雷門に連れてゆく訳にはいかないし」
「はい……。無茶をしました。でも、ああでもしないと敵の動きが掴めなくてっっ!!」

 警備中の校内を勝手に抜け出して、それでこの様だ。手掛かりになりそうな一味の人間は、仲間の手で処分されて、辺りは爆風で吹き飛ばされた。きっともう、手掛かりなんて残されていない。

 剣城にたどり着く、方法は ――――

「おっ? 呼び出し?」

 不動さんが上着の内ポケットから、自分の携帯を取り出す。耳に当てたその表情が、すっと厳しいものになる。

 不動さんが、通話を切る。
 一瞬の、沈黙。

「……剣城京介が、雷門に現れた」

 その一言は、俺に決定的な何かを伝えていた。

 

  2012年02月26日脱稿




  === あとがき ===

京介くんが敵の手に落ち、雷門を襲う!!その時、天馬くんは… みたいなノリで書きだした話です。前回書いたイナゴ2期妄想novel/782201を踏まえて、京介くんが敵の手で「人間兵器化」されてます。精神状態かなりボロッボロです。加えてあちらこちらに流血表現と若干のグロ描写もあります。ご注意ください。話の背景的なものは、「子ども情景」シリーズと同じで、この話の天馬くんのポジョションを京介くんがやる、って感じです。

ツイッターでリクエストを募集した際、応えてくださったrasuさんよりの、ダークでシリアスで重くて物騒なものが好き、という要望にお応えすべく存分に盛り込んでみました。
そして2月26日~27日、RR2位・3位入りできました(*^^)v



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Date:2012/03/21
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