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□ 十年後メンバー集結中! □

君の為に 3

 長くて重たいミィーティングが終わったのは、もう夜の十時を過ぎていた。全国大会が始まってからは、他の参加中学校と条件を揃える為、部員たちは基本学校内で寝泊まりをしている。雷門は学内合宿も良く行う関係で、その手の宿泊設備は整っていた。夕食や入浴はミィーテイング前に終わらせ、後は休むばかりだが、たった今聞かされた事実に気持ちは興奮し、なかなか寝付けないでいる。

「……無事、監督たち戻ってきますよね」

 一番心配症の速水が、心許無げに隣にいた浜野に声をかける。

「そりゃ、戻って来るっしょ? 監督、嘘は言わない人だもん」
「それは、俺も分かってますよぉ~。それでも、戻れない場合だって……」

 こんな二人に似たやり取りが、宿舎のあちらこちらで囁かれていた。

「ねぇ、信助。俺、なんかとんでもない事の引き金を引いちゃったのかな?」

 何も知らなかったからこそ引けた、その引き金。弾き出された想いは、サッカーへの尽きる事のない愛情。皆が皆、その想いを自覚し、それでも心の底に封印せざるを得なかった想いを、天馬の声が姿が弾けさせた。

「ううん、そんな事ないよ。大好きなものを大好きって言えない方が、おかしいんだ」
「信助……」
「僕たちも、明日はがんばろうねっっ!」

 にっこりと笑いかけた信助の笑顔が、硬くなっていた天馬の気持ちをほぐし、笑顔を呼び戻した。

「そうだね!! 俺達もしっかり頑張らないとね!!」

 お互いに励まし合い、気持ちを鼓舞する二人。
 一人じゃいくら強くても、四方八方から吹き付ける風に、心の熱も奪われそうになる。互いに背中を預けられる存在があれば、吹き付ける風がどれほど厳しく身を切ろうとも、背中の温かさに、奮い立つことが出来る。

「……後輩って、いいもんだな。見ているだけで、大事な事を思い出させてくれる」
「神童?」
「俺達も、ああありたいな」

 何気なく、それでも最大の信頼を込めて神童は、霧野の肩を叩く。

「俺の背中、お前に預けるぞ」
「えっ? ああ、ああそうだな!!」

 言われた言葉の意味の重さと深さに、霧野の返事もどこか上ずる。この大勝負に際して、あの神童がこの俺を頼ってくれた。その事実が、途轍もなく嬉しい霧野であった。

 選手それぞれが胸に抱く大事なもの。
 それに恥じないプレイをするだけだと、固く心に誓う。

「ん? どうした、倉間」

 三年生として最後になる試合。一時期はサッカー部を離れた、大好きな先輩と共にフィールドを駈けるのもこれが最後かと思えば、倉間の胸の内に溢れるのは、対戦相手への滾る思いだけではない。そんな思いが先走って、思わず睨み付けるような視線で倉間は南沢を見ていたようだ。

「……南沢先輩。先輩と一緒にやれる試合も、次の試合で最後です。俺が絶対優勝させて、先輩の花道飾りますから!!」

 顔を紅潮させ、聞く者が聞いたら傲慢にも聞こえる言葉を倉間は口にした。

「へぇぇ、言うねぇ、二年生のくせに。三年生の俺達を差し置いて、『優勝させる』? なかなか大きく出たな、倉間」

 口下手な倉間の伝えたいことなど見通しのくせに、そんな意地悪な言葉をかけるのが、南沢篤志という男。

「えっ、あ、あの……」

 もちろん、そんな気のない倉間にすれば、言われて気付く自分の言葉の遠慮の無さだ。

「……一人が頑張ったからと言って、優勝できるもんじゃないだろう? ましてや、『勝てば良い』って試合でもないんだし」
「あ、はい……」

 確かにそうだった。
 明日の決勝戦は、ただ勝てば良いと言う試合ではなかったのだ。
 一人の人間の命と、これからの中学サッカー界の有り様がかかった『優勝』という意味よりも重要な試合。 

「それにさ、お前。さっき俺とやるサッカーは、次の試合で最後みたいに言ってたけど、来ないのか? 俺と同じ高校」

 上から覗き込むような姿勢で、そう倉間の耳に囁いてやれば、倉間の顔はもう真っ赤だ。

「えっと! あの、それって……!!」

 はっきりとは言わないが、それは南沢から倉間へのメッセージ。


 ―――― 『待っている』、と。


「まぁ、今のお前の学力じゃ、ちょっと厳しいかもな。結構レベル高いぞ? 俺の志望校」

 と、いつもの様に倉間をからかう。

「へっ! 南沢さんが必ずその志望校に合格するって決まった訳じゃないじゃないですか!! そーゆー台詞は、合格してから言ってください!」

 言われた倉間も、いつもの様に遠慮なく言い返す。
 こんな二人のやり取りを、やれやれまたかと、生ぬるい目で見守る三国始め三年生組と二年生組の一部。神童と一年生二人は、ハラハラしながらその状況を見ている。そんな空気が流れたせいか、自分たちが挑むおよそ予想もつかない試合展開に対して、緊張感は不思議なほど感じなくなっていた。


  ■ ■ ■


「なかなか良いチームだな」

 帝国の選手に比べれば、随分と子どもっぽさが残っている選手たち。幼稚な子どもっぽさなら、捻りつぶすのも容易いだろうが、純粋だから感じる子どもっぽさは、その想いが怖さを撥ね返す強さになる。

「当然だろ? あの円堂のチームなんだからさ」

 何を今更と言う感じで、鬼道の言葉に風丸は返す。

「円堂と剣城は?」

 さらに風丸は、先を続けて鬼道に問い返す。

「もう、豪炎寺を救出に行った」
「そうか……。円堂に取って、豪炎寺は特別だもんな」

 どこか寂しげに響く、その言葉。

「風丸……」

 鬼道は知っている。
 風丸が、円堂の事を親友以上に想っている事に。
 幼馴染で親友だった、円堂と風丸。

 でも、その気持ちは徐々に変化していった。

 円堂の前に豪炎寺が現れ、『円堂のサッカー』が輝きを持ち始めてから。
 その輝きに魅せられ、人々が集まり、さらに大きな輪になって ――――

 その輪の中心にいたのは、いつも円堂と豪炎寺。
 最初から円堂のすぐ側にいた風丸と、遅れて円堂の側に来た鬼道が感じた、その距離感。その『場所』に立ちたいと、すぐ側にいながら熱望してしまう。その熱が狂おしいほどの恋情に変わるのに、そう時を必要とはしなかった。
 悲しいほどに円堂は公平で、自分の周りにいる者たちをそれぞれの立場で理解し、気持ちを寄せていた。風丸とは唯一、サッカーを縁(よすが)にしない大事な幼馴染という絆を結び、鬼道にはその天才的な頭脳と冷静な司令塔ぶりに惜しみない尊敬の念を抱き、豪炎寺には子どもの様にそのプレイを熱愛した。豪炎寺も、円堂のサッカーへの想いと真摯なプレイ、諦めることのない前向きさに惹かれ、円堂自身を愛している。それはまた、円堂の想いに呼応する鏡に映したように。

「……円堂と木野が、雷門サッカー部『生みの親』なら、円堂と豪炎寺は雷門サッカー部『中興の祖』。 豪炎寺抜きで、円堂のサッカーは語れないだろう?」
「……行かせて良かったのか?」
「あの状態の円堂を見て、お前は明日の試合の為にここに残れ。俺が代わりに行く! なんて言えないだろ? 監督の代わりはいても、豪炎寺に取って円堂の代わりはいない」

 そのすべてを受け入れて、それでも尚、風丸は円堂の為に。

「……俺達をこんな気持ちにさせて、あいつだけちゃっかりと雷門と結婚しただなんて、釈然としないな」

 円堂の結婚を知らされた時も、「そうか」としか反応しなかった鬼道の、本音が垣間見える。

「釈然としないって、面白い事を言うな鬼道。俺は、仕方ないかなって思ったよ。雷門は女だからな。これが、俺達三人のうちの俺以外の誰かとか、あるいはヒロトや立向居とかだったら、もっと釈然としなかったと思う」
「風丸?」
「同じ男なのにっ! てな」

 風丸はそう言いながら、割り切ったようにさばさばと笑う。
 笑えるようになるまで、どれほどの胸の内の葛藤があったかと思い、ふと我が身を振り返れば、かける言葉は無いと鬼道は口にしかけた言葉を飲み込む。

「話が脱線した。俺達もあの子達同様、無事戻って来ることを信じるだけだ。しかし、急な話だ。なんの準備も出来ないまま、行かなければならなかったのは不安だな」
「いや、壁山に連絡して、仕事で使う作業車を出してもらった」
「壁山?」

 風丸が首を傾げる。壁山は高校卒業後、家業を継ぐためまだまだ現役ばりばりの父親と一緒に仕事をしていると聞いていた。その家業は確か……。

「水道工事業だったな。でも、なぜ?」
「あの作業車は、どんな時刻でも、どこに止まっていても、怪しまれることはない」
「まぁ、確かにな」

 水漏れや水道管の詰まりなど、ある意味早急に対応しないと大変なことになる。24時間対応を宣伝文句にしている水道工事業者も多い。

「その作業車内が、救出作戦の指揮所だ。あちらには不動と佐久間を付けている。それに目金も。必要であれば、待機しているメンバーをこき使えとも伝えている」
「待機しているメンバー?」
「うむ。不動や佐久間が使いやすい様に、源田や辺見あたりを待機させている。あいつ等は、割とこういう事に対しての適応性が高いんだ」
「……それは、組織的に統率のとれた荒事に向いている、と取って良いのか?」
「そういう事だ」

 ふぅ、と軽いため息。

「さすが、帝国らしい」
「お褒めに与り、恐悦至極」

 浮かぶ苦笑いを噛み殺しながら、鬼道が肩を揺らしている。

「さぁ、あちらはあいつ等に任せ、俺達は明日の試合をどう演出するか、作戦を練ろう」
「ああ、そうだな。預かったあの子たちに何かあったら、俺は円堂に合わせる顔がない」
「あの子達の安全を図りつつ、勝ちも負けもしない試合。正直、そんな試合のゲームメイクなど、今までしたことがない。どう組み立てたものか……」
「相手チームの取る行動を予想した対策を打たないとならないけど、本当に難しいな」

 メンバー表とポジション別攻撃パターンを見比べながら、夜遅くまで二人は作戦を練り続けていた。


  ■ ■ ■


  風丸達が話し込む少し前、雷門中の裏門から出てきた円堂と剣城に向けて短くパッシングする、一台のワゴンタイプの作業車があった。

「キャプテン! こっちですこっち!!」

 中学時代と変わらない腰の低い態度と声で、壁山が円堂を呼ぶ。

「何、グズグズしてんだよっ! さっさと車に乗れ!!」

 後部座席を開きそう言うのは、こちらも相変わらず口の悪さが健在な不動。その隣には、モバイルPCのキーボードを操作している目金。

「キャプテン、あれから侵入ルートを探しているんですが、これがちょっと……」

 と、歯切れが悪い。

「円堂とお前、乗り込んだらとりあえずこの場所は移動するぞ。どこか人目のつかないところで、作戦会議だ」

 この場での指揮官であろう佐久間が、そう指示を出した。佐久間の指示で作業車を発進させた壁山は、人目につかないところと言う指示で作業車を24時間営業のそこそこ駐車量のあるファストフード店の駐車場に入れた。

「じゃ、俺コーヒーでも買ってくるっス」

 よく気が付く性格は今もそのまま。大きな身体でも、壁山はどこか小動物めいたところがある。

「……可愛い後輩だな、円堂」

 口元をほんの少し緩めて、佐久間が言う。

「ああ。俺が雷門中の二年の時、あいつらが一年でサッカー部に入部してくれたと時の嬉しさはなかったなぁ」

 円堂の声にも、懐かしさが滲んでいる。

「おいおい、今はそれどころじゃねぇーだろっっ!?」
「そうですよ! これから敵の本拠地に潜り込むんですから!! しっかりと侵入経路と逃走経路、それに侵入方法と豪炎寺くんの居る場所の把握、することは山ほどありますよ!」

 目金も不動同様、びしっと気合を入れさせる。

「あ、ああ、すまん。それで、今はどうなってる?」

 目金の言葉に素直に謝る円堂を見、円堂がキャプテンだった頃のサッカー部は、それはもう自由な空気に溢れていたんだろうと、剣城は思った。

「玄関や裏口は、たぶんセキュリティが掛かっているでしょうから、そこからの侵入は難しいでしょう。他の侵入経路を探さないとですね」

 皆の顔が引き締まる。壁山が買ってきたコーヒーの香りだけが、車内を満たしていた。

「よぉ、お前。名前、なんってんだ?」

 唐突に不動が剣城に向かって声をかけた。

「あ、ああ。俺は剣城だ」
「そうか、剣城か。お前、フィフスセクター本部には行ったことが有るのか?」

 今いるメンバーの中で一番フィフスセクターに近い剣城に、その視線が集中する。

「……ああ、ある。俺は雷門にシードとして派遣される前は、フィフスセクター直属のサッカーチームにいたから、他のシードよりは詳しい」
「シード、ねぇ。お前、俺らと行動するって、それはフィフスセクターを裏切ったって事になるんじゃねーの?」

 剣城のシードと言う肩書、加えて所属組織を裏切る様な行為。
 不動の視線は、剣城を疑ってかかっていた。しかし、剣城もそんな不動の視線を、不遜なまでの態度で撥ね返す。

「……何を今更。万能坂戦で天馬を庇った時から、俺は裏切り者さ。今じゃ、それで良かったと、胸を張れるくらいに」
「あ~、それじゃフィフスの皆さんも、剣城君が雷門側に寝返ったって事は承知なんですね?」

 念を押すように聞いてくる、目金。

「知ってるだろうな。俺の直属の上司の黒木の前で、啖呵切ったからな」
「そう、そうですか……。と言う事は、もう剣城くんのIDなどは使えそうにありませんね」

 ふぅと残念そうな声を出す目金。

「ID?」
「そう、IDです。それが使えれば、剣城君の代わりに、僕たちの誰かが侵入することも出来る訳ですし」
「俺は今までフィフスの本部でIDなんか使った事ないぞ?」

 そう、使ったことはない。常に本部に出入りしていたから、受付の職員とは顔見知りだったし、練習場とロッカールーム、ミーティングルームなんかはシードであれば出入り自由だった。それ以外の……、そう例えば聖帝の間などに呼ばれた時は、必ず上司と一緒だったから、やはり使ったことはない。

「おや? 知らなかったんですか? 僕がフィフスセクターのセキュリティコンピューターにハッキングをかけた時に、データで残ってましたよ。本部内をそれぞれのIDの持ち主がいつ入館して、いつ退館したかとか、どの部屋にどのくらい滞在していたかとか」
「なにっっ!?」

 それは密かに、シードであっても監視されていたと言う事に他ならない。

「全館に人感センサーのようなものが張り巡らされていて、IDを持っていない者が通ると、監視室に通報されるようになっています。代わりに、そのIDを持っていれば、まったくの他人でも人目にさえつかなければ、館内は割と自由に動けるんです」
「そうか。俺のIDだと、監督たちが動いているのがバレるのか」

 ここまで来て、本部内に入れないことに剣城は歯噛みする。

「……当然予想されるべき事柄だろう。取り敢えず、一つだけならIDは確保している」

 そう言葉をかけたのは助手席に座っていた佐久間だ。

「へぇぇ、さすがに抜け目がないな! それでこそ、帝国参謀ってか!!」

 明らかに茶化しながら、不動が佐久間をからかう。

「……それを言うなら、鬼道総帥の人望に対して賛辞を述べろ。総帥の人柄に惚れ込んだシードの御門から、何かあれば使って欲しいと提供されたものだ」

 と、預かったIDカードを不動に渡す。シードにとってこのIDカードは、フィフスセクターに置いての、存在証明のようなものだ。これが無ければシードではなく、また渡した相手に、自分の個人情報全てを委ねるくらいに危険なものでもあった。

「こんな重要なものを、御門は簡単に他人に渡して……」
「それだけ御門にとって帝国は、居心地の良い場所だってことだ。フィフスセクターなんか、どうでもよいと思えるほどにな」

 にやりと、勝ち誇ったように佐久間が笑った。

「え~と、ちょっと拝見。それと、剣城君のIDカードも見せてもらえます?」

 ゴソゴソとなにやら怪しげな道具を出しながら、目金が手を差し出した。

「おうよ。どーするんだ? 目金」
「どーするって、分かってるくせに。不動くんv」 

 目金は二枚のIDカードを見比べ構造と差異を確かめると、広げた道具を使ってたちまちのうちに、数枚のIDカードを複製した。

「これでよし! と。念のため、どのIDカードも識別番号は別々の番号を振り当ててますから、みんなが一斉に動いてもモニターには正常に映るでしょう」

 胸を張りながら、そこにいたメンバー一人ひとりに一枚ずつ複製したIDカードを渡す。

「監督、これって偽造カードなんじゃ……。犯罪だろ?」

 ここまで、事の流れを黙ってみていた円堂に、流石にこれでいいのかと剣城が尋ねた。

「まぁ、任せておけ! こいつらは、本当に頼りになる奴らばかりなんだからなっっ!!」

 事の是非に関わらず、円堂の頭には仲間に寄せる絶対なる信頼がド~ン!! とある。それは、この場に置いても揺らぐことはない。

( ……大丈夫か、俺? 豪炎寺さん救出に失敗して、なんだかんだで犯罪者の烙印押されたら、兄さんに会わせる顔がないぞ )


 非常識な大人の中に、常識的な子どもがひとり ――――
 剣城は初めて、心細さを感じていた。




   2011年08月23日脱稿





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Date:2012/03/22
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