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君の為に 4

 黒木が豪炎寺から奪った携帯で円堂に連絡を入れた後、豪炎寺は人目につかないよう建物の中を移動させられていた。聖帝の間には、一般職員が知らない秘密の通路がある。何かあった時に、この通路を通って外に脱出することが出来るようになっている。更にこの通路には巧妙に隠された扉があり、この扉の中にもまた通路が伸びている、この通路はこの建物の中心部に作られた秘密の部屋、懲罰房へと続いていた。

「俺をこんな所に連れてきて、どうするつもりだ!?」

 豪炎寺はこの懲罰房に囚われていた。

「さぁ、どうしましょうか? あなたは、どうされたいですか?」

 黒木の目が爬虫類のような、熱を感じさせない光で豪炎寺を見ている。この部屋の用途など、一目見れば誰にでもわかる事。決して良い意味で使われる部屋ではない。
 これだけ大きな組織だ、中には特ダネ記事を狙うフリーライターが不法侵入を問われることも覚悟で、潜り込んでくることもある。
 そんな場合、しばらくこの部屋に滞在してもらって、ここで見たこと聞いたことを忘れてもらうようにしている。また、裏切り者が出た場合も同様、いや、もっと厳しい処置が取られる事もある。医療行為と称して、喉を潰したり、四肢を麻痺させることぐらい簡単な事なのだ。

「聖帝……、いえ、豪炎寺修也さん。彼らはどう出るでしょうねぇ? 明日は大切なホーリーロード全国大会優勝戦。そんな大舞台を前に、あの円堂監督がどう動くか、見物ではありませんか?」

 今では立場が逆転した黒木が豪炎寺の前に立ち、甚振るようにそんな言葉をかける。

「……円堂は、ここには来ない。あいつには、大きな使命があるんだ!!」
「ほぅ、使命ですか。明日の試合、雷門中が勝てば、その時から私が聖帝の座につくことになります。負ければ、一応あなたが聖帝の座を継続することになりますが、なに、それも僅かな間の事です。今までのフィフスセクターの黒い部分を背負って、闇に消えてもらうまでのね」
「お前は、何を……」

 コツコツと、黒木の靴の音がコンクリート剥きだしの床に反響する。

「良くあることですよ。大物政治家の犯罪や不正事件の時などに、事件に一番深くかかっていそうな秘書などが、秘密を抱いたまま自殺するんてことはね」
「お前! 俺に自殺をっっ!?」

 流石の豪炎寺も、顔色を変えた。

「ええ、それで大抵の事は有耶無耶になります。何より、あの円堂守に取って一番大きな打撃になる事でしょう。それこそ、サッカーなど見たくもないくらいに」
「くっっっ……」
「私は、助けに来ると思っていますよ。あの円堂という男、そんなに薄情な男じゃない。何より親友であるあなたを見捨てるなんてこと、できる訳ないでしょうから」

 それは豪炎寺も考えたこと。
 あの円堂であれば、危険を承知してもここに飛び込んで来るだろう。
 この、自分の為に!!

「不法侵入で警察に突きだし、試合は不戦敗。警察に留置されている間に、親友のあなたは今までの罪を告白して自殺、というシナリオではどうでしょう?」
「お前は、それほどに俺達が憎いのか!?」

 この執拗なまでの計画は、自分と円堂を追い詰めるためのものだと豪炎寺は感じ取っていた。

「……愛していたものが、自ら命を絶った姿を見せられた者の絶望の深さを、私はあの男に教えてあげたいんですよ。『サッカーやろうぜ!!』なんて、忌まわしい言葉を世に広めたあの男に!!」
「黒木、お前、もしかして……」

 そう、黒木は言っていた。
 あの輝かしい栄光の影に潜む、悲劇を。
 この黒木も、また ――――


  ■ ■ ■


 懲罰房の中には、豪炎寺と黒木の二人だけ。
 豪炎寺をここに運び込んだSPも、その姿を消していた。

「……ある家族の話でもしましょうか。その家族はごく平凡な一家だった。普通のサラリーマンの父と子ども思いの優しい母。仲の良い兄弟の四人家族。弟は大のサッカー好きで、その頃の彼に取ってのヒーローであったエースストライカーの真似ばかりしていた」

 淡々と黒木の口から語られる、ある家族の話。

「その子はまだ、五歳だった。彼にとってのヒーローの必殺技は、高い中空からの炎を纏った強烈なシュート。それを真似ようと、彼は公園のジャングルジムの一番上からボールを蹴りながら飛び降り途中、体勢を崩し後頭部をジャングルジムの鉄棒に強打させた」
「うっ、まさか……」

 嫌な汗が、豪炎寺の背中を流れる。

「その子は、幸い一命は取り留めた。ただし全身不随の体となって」
「!!」
「父親は、母親の監督不行き届きを責め、母親は一緒に遊んでいた兄を責め、哀れな弟にかかりきり病院で寝泊まりするようになった。弟は自分のしでかした過失の大きさを皆に謝り続け、それを見るのが辛くなった父親と兄は病院に行かなくなった」

 話す黒木の手が、小さく震えているのを豪炎寺は見た。
 その手の震えが意味するものは……。

「家庭と病院にと、家族はバラバラになった。母親不在の家にいつしか父親は戻らなくなり、とうとう失踪してしまった。収入の途絶えた母親と弟は仕方なく病院を退院し、自宅に戻った。自宅に戻っても、生活してゆくあてがある訳でもない。追い詰められた母親が取った道は……」
「もう、良い!! もう、それ以上話すな! 黒木っっ!!」

 予想される結果に、豪炎寺は思わず怒鳴った。

「いや、最後まで聞け! お前には、その責任があるだろうっっ!! そう、その母親が選んだのは、母子心中だった。何も知らない子どもに睡眠薬を飲ませてな! 薬が体質に合わず、途中で吐き出してしまった兄が見た、母と弟の変わり果てた姿。残された遺書に書かれていた言葉は、今もはっきり覚えている!! 大好きなサッカーが思いっきり出来る天国に、皆で行きます。今まで、ありがとうございました。と」
「あ、ああああっっ……」
「分かるかっっ!? お前に!! お前たちの所為で、当たり前の幸せが奪われた俺の気持ちが!!」

 緊縛されていなければ、豪炎寺はその両手で顔を覆い、苦渋に満ちた呻吟の声を上げたことだろう。今はただ、俯き苦しそうに声を震わせるだけ。

「……確かに、直接手を下したのはお前じゃない。だけど!! お前が、お前たちがいなければ、私の家族は今も笑っていられたんだ!!」

 言うが早いか俯いた豪炎寺の横顔を、強い力で一発・二発と張り飛ばす。襟首を掴みあげ、無理やり此方を向かせると、しかとその視線を合わせる。

「そんなお前が、子ども達の為に、本当のサッカーを取り戻すだと? その為に、敵であるフィフスセクターに潜入し、聖帝にまで成り上がった。お前の取った施策で、泣いている子どももサッカーを諦めた子どもも沢山いるんだろうなぁ」

 ピタピタと豪炎寺の頬を嬲りながら、言葉を続ける。

「全国の中学サッカー関係者の恨みを一身に買う聖帝の正体が、あの豪炎寺修也だと暴露されたら、一体どんな騒ぎになるだろうな」

 びくっと、大きく豪炎寺の体は震えた。
 それだけは、絶対に明らかにされてはならない事 ――――

「ゴールキーパーとしての円堂守の存在、ストライカーとしての豪炎寺修也の存在。この二人が揃ってこそ、あの奇跡が始まった。その軌跡を追って今も子ども達はフィールドを駈けている。お前たちが残した、自由で本当のサッカーって奴をな」
「黒木……」
「そんな子ども達の前に今のお前を突き出したら、子ども達が抱いていた憧れは、一瞬にして崩壊する。サッカーを愛し、好きであればあるほどに、自分で自分が嫌になりフィールドを去る事だろう」
「…………………」

 もう、豪炎寺の口からは、どんな言葉も紡がれない。

「……にしても、今の姿はあの頃の炎のストライカー様とも思えない。まず、その似合わないピアスから外そうか!!」

 そう言い放つといきなり、豪炎寺の左耳のピアスを掴み耳朶から引き千切る。あまりの痛みに縛り付けられていた椅子ごと床に倒れ伏す。込み上げる悲鳴を、必死の思いで噛み殺した。

「ああ、それにそのうっとおしい長髪も。顔を晒すのが嫌だったのでしょう? 前髪をそんなに長く延ばして、額を覆いかくすようにして」

 次に鋏を手にし、うっすらと酷薄な笑みを顔に浮かべ黒木は、床に倒れた豪炎寺の顔を覗く。

「私としては、昔の前髪を上げたスボーツマンらしい髪型の方が好ましい」

 グイっと豪炎寺の髪を鷲掴むと、床から自分の顔の高さにまで引き摺りあげる、黒木は掴んだ髪を、拳の下から無造作に鋏を入れた。ザリっザリっザリっと鋏の入る音がして、色素の薄い頭髪が辺りに散らばる。掴んだ髪の最後の一束が切られ、がくんと頭が床に落ちる。何度もそれを繰り返されて豪炎寺の頭は、不揃いの短髪にされてしまった。

 散らばった白金色の髪が、懲罰房の蛍光灯の下できらりきらりと反射している。その光の中に、力なく豪炎寺は倒れ伏していた。口の中で、小さくぶつぶつと同じ言葉を繰り返している。

「……来るな、円堂。お前が来るべき場所は、ここじゃない。俺の事は、捨てておけ。頼むから、来るな円堂……」

 抗う気力を失くした豪炎寺に、冷めた視線を投げつけ黒木は懲罰房から出た。豪炎寺は来るなと願っているが、間違いなく円堂はここに乗り込んでくる。この場所が、そうやすやすと見つけられるものとは思ってはいない。

「……そうだな。円堂がここに来たとして、そこからどう動くかが問題だな。不法行為を働いてくれればよいが、そうでなければ、こちらの対処法もいくつか考えておかねばな」

 胸の内であれこれ考えながら、黒木は秘密通路から聖帝の間へと戻っていった。


  ■ ■ ■


「じゃ、このIDカードがあればフィフス本部に潜り込めるんだな!」

 目金が偽造したカードを手に、今にも突撃しそうな円堂を不動が首の後ろを捕まえて、車のシートに押し付ける。

「んなわきゃ、ねーだろ! このボケっっ!!」
「え~、なんでだよっっ!! その為のIDカードだろ?」

 まるでその偽造カードこそが切り札の様に思っている円堂に、さすがにそんなに簡単な事じゃないだろうと、剣城も声に出さずに呟く。

「……まぁ、潜り込むのは潜り込むが、それは直接豪炎寺を救出するための手段ではない」

 静かに言葉をかけたのは、佐久間だ。

「佐久間?」

 その落ち着いた口ぶりに、円堂も壁山も剣城も視線を向ける。プレーン組で打ち合わせているのか、不動と目金は佐久間が話し出すのを待っているような感じだ。

「相手は、おそらく円堂が乗り込むのを見越しているだろう。相手に取って問題なのは、円堂がどう乗り込んで来るか、だ」
「どう、って、どう言う意味だ?」

 自分の出方が重要だと判断し、少し改まった顔で円堂が訊ねる。

「あ~、つまり殴り込みをかけて来るか、ヘコヘコ頭を下げて来るかってことだ」

 分りやすく且つ、円堂をからかう様に不動が横から口を出した。

「えっ? そんな目立つ方法で本部に侵入するつもりだったのか?」

 意外な方法を提示する大人組に、だんだん剣城は不安が増してきた。隠密裏に侵入する為に、IDカードを偽造したのにそれでは意味がないじゃないかと思う。

「ふふ。随分と心配そうだな、剣城。こんな大人たちじゃ、心配か?」

 鋭く剣城の表情を読み取り、佐久間が余裕を感じさせる声音で声をかけた。

「あ、いや……」
「……円堂は目立ちすぎるから、却って目くらましに最適なんだ。円堂が動けば、相手はその動きに注目せざるを得なくなる。だが不法な事は、こちらも不利になる。円堂の出方は、正々堂々と本部の正面玄関から、自分の要望を突きつけて強硬に居直る事だ」
「そんなっ……!! そんな事をして、もし豪炎寺さんの身に何かあったら……」
「その心配はない。円堂が乗り込んでくることを見越しているのなら、その通りなったからと、慌てて豪炎寺をどうこうすることはないだろう。あくまでも、俺達が仕掛けを終わるまでの、時間稼ぎをしてもらえればいい」
「仕掛け?」

 佐久間が言ったその言葉を繰り返す剣城に、佐久間と不動、目金の三人が怪しく笑って見せた。

「その為には剣城、お前にも十分働いてもらうからな。指示を間違えるな」

 威圧感のある不動の物言いに、ごくり、と唾を飲み込む剣城。

「あっ、その前にキャプテンにはコレを飲んでもらわないと」

 そう言いながら、目金が小さなカプセルを取り出した。

「なんだ、これ?」

 渡された円堂が、薄暗い車内灯でカプセルを眺め眇めつしている。

「最新鋭の胃カメラですよ。それをちょっと改造しました」
「改造?」
「はいv カメラ機能の代わりに音声通信機能と発信機能を組み込みました。知ってます? お腹の中って、結構外からの音って伝わるもんなんですよ」
「へぇぇ、でも、それで?」
「音声データも重要な証拠になりますから。勿論、相手もそんなものの持ち込みを警戒して身体検査するでしょうが、まさかお腹の中までは覗けませんからね!」

 と、鼻高々。

「円堂。お前は出来るだけごねて、相手から色んな言葉を引き出させろ。情報は多ければ多いほど良い。最悪の場合、お前も監禁されて構わないからな」
「監禁っっ!?」

 さすがの円堂も、この佐久間の言葉にはびっくりした。

「お前を監禁するとすれば、ほぼ十中八九豪炎寺と同じところに監禁されるだろう。そうなれば、二人纏めて救出する事になる。どこにいるか分からない豪炎寺を探して本部内をうろうろするより、お前に飲ませた発信機の信号を辿った方が余程安全だからな」

 にやりと笑いながら、隻眼を細める佐久間。

「……つまり、お前らは俺に捕まれって言ってるんだな?」
「ああ。お前という切り札を手にすれば、あいつらにも油断という隙が出る。そこが狙い目だ」

 良くできました、と言わんばかりに佐久間は澄ました顔をして、円堂を見ていた。


  ■ ■ ■


 打ち合わせを終わらせ、壁山に作業車を動かさせる。
 目的地は、フィフスセクター本部がある区画から2ブロック離れた公園の側だ。

「それじゃ、行くか」
「結局、監督はIDカード無なんだ」
「ああ。そんな偽造カードを持たせていたら、その場で警察を呼ばれてもしかたがいないからな」

 と、不動。

「そのくせ、俺にはコレかよ?」

 そう言う剣城の手には本物の自分のIDカードと偽造のカードが。

「入る時は自分のカードで入れ。それまで、その偽造カードはケースから出すんじゃないぞ。本部に入ったら、私物を取りに来たとでも口実をつけて、お前は一人になれ。一人になったら自分のカードはロッカールームにでも置いておいて、偽造カードを持って本部の最地下の設備室にゆくんだ」
「設備室?」
「ああ。そこには地下水路につながるマンホールの入口がある。中から施錠されているから、開けて待っていろ」
「分かった」

 緊張で、固くなった表情で剣城が頷いた。
 
「気を付けていってらっしゃいっス、キャプテン!!」

 心細そうに壁山は、作業車を下りて歩き出した円堂と剣城を見送る。

「壁山!」
「は、はいっス!!」

 呼んだのは不動だ。

「ここからは、専門家のお前に頼む。俺と目金の二人を、無事フィフスセクターの地下水路まで案内してくれよ」
「わかりましたっス! 任して欲しいっス!!」

 ドン、と大柄の胸を太くて逞しい拳で叩く。

「佐久間君、後のオペレーティング、頼みましたよ」
「ああ、任せろ。お前らはくれぐれも見つからないよう、気を付けろよ」
「ふふふ、その為に僕が行くんですよ。フィフス本部のメインシステムのハッカーなど、朝飯前ですからねっっ!!」

 胸を張り、ますます調子に乗る目金。

「……お前、中学時代サッカー部に入ったのは、本当に何かの間違いだったんだな」

 呆れたように言う佐久間の言葉に、目金が反論する。

「いえ、そんな事はありません。今、この時に僕のスキルを役立てるために、僕はあの時、サッカー部の皆と出会ったんだと思っています」
「目金……」
「こう見えても、僕は雷門サッカー部OBですから」

 その目金の姿に、佐久間もああと思う。
 確かに、出会いとそういうもの。

 出会いがあって、相手を思う気持ちがあって、だからこそ、自分の力を生かそうと思う。進んだ道は違っても、一度でも交われば、その軌跡は消えることはない。そこには、『思い出』という宝物が煌めいている。

「お前を敵に回さなくて良かったぞ」
「それって、男として言われて嬉しい言葉の一つですね」

 目金もにやりとした笑いを浮かべたあと、先にマンホールの穴の中に消えた二人を追って、穴の闇の中に消えて行った。


   2011年09月04日脱稿






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Date:2012/03/22
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