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【イナゴ腐】 桜の木の下で 【拓天・京天・風円】



  ―――― ああ、もう花が咲く季節になりましたか。


 他の吉野の木々達はまだ固い蕾を膨らませ始めた頃ですが、これは山の樹、ましてや歳を取った樹はせっかちです。すでに花は七分咲き、門出を祝う頃には共に風に乗って行く事でしょう。

 私はずっと長い事、ここで多くの子ども達の姿を見てきました。
それは、もう本当に沢山の子ども達の姿を。こうして思い返せば、昔の事もつい昨日の事の様に思い出すことが出来るのです。


   ■ ■ ■


 卒業式のざわめきが講堂から、校庭へと移り、やがて三々五々とまた教室や部室へと移動してゆく。別れを惜しむ下級生や後輩たちに取り囲まれた、晴れの門出を迎える卒業生たち。そんな人の輪を抜け出し、私のすぐ側でそっと佇む人待ち顔の一人の少女。

 彼女は、ここの理事長の一人娘。
 いつかまた、この学び舎に子ども達を指導する立場で戻って来てくれるかもしれません。そう思わせる中学生ながら凛とした姿勢を、私はいつも見ていました。

 おや、彼女の待ち人が来たようです。

「な、なにか用かしら? 私を、こんな所に呼び出して」
「うん……、用って言うか、その、なんだ……。俺達、雷門を卒業したら、別々の学校に行くだろ? だから、その前に言っておきたいことがあってさ」

 彼女の待ち人の事も、よく知っています。
 彼が大変な努力家だと言う事も、仲間やこの学校の事が大好きだと言う事も。
 ……人知れず弱音を零したことも、悔し涙でその大きな瞳を濡らしたことも、私は知っています。

「……何よ、言いたいことって」

 そう、知ってます。
 この二人が最初、どんな関係だったかと言う事も。
 凛とした態度のまま、冷たい言葉を彼に浴びせていたのは、間違いなくこの少女です。
 でも、それも今は昔の話。

「俺、夏未の事が好きだ!! 今まで、本当にありがとう!」

 深々と頭を下げた彼、円堂守くん。
 びっくりしたような顔で、その言葉を受け止めた雷門夏未さん。
 
 今日の彼女は、今まで私が見てきた中で一番可憐で、綺麗でした。僅かに紅潮した頬、微かに震える手、瞳には一粒光を宿した涙。そのどれもが、彼女を初々しく美しく彩っていました。

「……今までなんて言って、これからはどうするの? まさか、言い逃げ?」
「い、言い逃げだなんてっっ!! でも、夏未は俺の事……」

 サッカーにしか興味がなかった円堂くんにしては、大きな変化です。仲間や友人に対して、とても優しく平等に好意を持って接していた彼にすれば、誰か一人だけに好意以上の感情を伝える事なんて無かったのです。

「私にも、答えさせなさい。じゃなければ、これからなんて言いません」
「夏未……」

 すぅう、と大きく息を吸い込むのが判りました。
 そして、彼女ははっきりと自分の気持ちを彼に伝えたのです。

「私も、円堂くんが好きです。今までも、これからも、ずっと!!」
「夏未っっ!?」

 大きく見開かれた、円堂くんの目。丸く、まあるく、鳩が豆鉄砲を喰らったように。

 この勝負、夏未さんの勝ちでしょう。
 円堂くんの顔がふにゃりと緩んで、見事な笑顔を浮かばせたのですから。
 そして想いを伝えあった二人は、初めて手を取り合って仲間達の所へと戻って行きました。

 その日の夕暮れでした。
 
 水色の髪の少年が一人、私の下を訪れました。
 この子の事も、私は良く知っています。
 風の様に速く走れる子です。

「……円堂が、そう答えを出したのなら、俺も答えを出さないとな」

 小さく呟きながら足元に屈み込み、根元を少し掘り返すと自分の髪を纏めていたオレンジ色の髪ゴムを静かに埋めました。
 その色に、どんな想いを込めていたのでしょう?

「せめて、今まで通りお前の隣に、幼馴染の親友として立つ為に……」

 ぽつり、と一滴涙が落ちました。
 誰にも見られぬよう、散り急ぐ花びらで隠してあげました。
 ここにはこんな風に、伝えられなかった想いも沢山眠っているのです。
 
 でも、私は信じています。
 いつかまた、笑顔でこの子達がこの校庭を訪ねて来てくれることを。


   ■ ■ ■

 
( そうそう、そうでしたね。私の予想は間違ってはいませんでした )

 来賓として式に参列したあの子達の姿を見て、あの時、そう思った事を思い出していました。

 色々大変なことが有ったこの数年間でしたが、昨年に続き今年も、この学び舎を巣立つ子ども達の顔は晴れやかです。

 私には、少し前の事ですがとても心配な子がいました。
 優雅な物腰、端正な容姿、責任感が強くて……、そしてとても泣き虫だったあの子。
 傍で見ていても、いつか壊れてしまうのではないかと思うほど、繊細なサッカー部のキャプテン。

 いつの頃からか、淀んだ空気に包まれた学び舎は、私にとってもとても息苦しいものになっていました。
 ある年、そんな空気を吹き払う様に吹き抜けた、一陣のそよ風がありました。
 
 それは、新しい変化でした。

 そよ風は追い風となり、黒い霧を吹き飛ばす疾風となり、大嵐を乗り越えた泣き虫キャプテンは、見違えるような逞しさを湛えた少年に成長していました。
 その少年が表情を引き締め、凛とした姿勢で私の側に立っています。

 頭をしゃんと上げて、視線はグラウンドから駆けてくる人影を見つめています。
 口元には優しい愛おしげな笑みを浮かべて。

「ご卒業、おめでとうございます!! 神童キャプテンっっ!!」
「ああ、ありがとう、天馬。だけど、俺はもうキャプテンじゃない。キャプテンは、もうお前だろ?」
「へへっv なんか、俺キャプテンって柄じゃないし、俺に取ってキャプテンは神童キャプテンしかいないから」

 後輩の敬愛に満ちた言葉を聞きながら、彼、神童拓人くんは言葉を発しました。真っ直ぐに、自分の想いを後輩に伝えるために。

「天馬、お前に伝えたいことがある。無理なら、聞き流してくれて構わない」
「神童キャ……、先輩?」

 小首を傾げる後輩、松風天馬くんの姿に、何故か子犬のイメージが重なります。

「俺は、お前が好きだ。チームメイトや後輩としてではなく、一人の人間として松風天馬に恋情を抱いている」

 潔く古風な言葉は、彼の育ちの良さがそうさせるのでしょう。
 告げられた天馬くんの顔に、ぱっと朱が散ります。

「神童先輩、俺、俺……」
「分っている。いきなり俺からこんな事を言われても、お前が困る事は。だから、今日まで言わずに来た。お前の気持ちも考えずに、俺の気持ちを押し付けるのも自分勝手だって事も、良く分っている」
「…………………」
「……俺に取っては、お前が初恋なんだ。初めて、そう言う意味で人を好きになる事が出来た。それだけ、お前は俺に取って大きな存在なんだって、それを伝えたかった」

 暫しの沈黙が流れます。
 神童くんには、天馬くんの返事が分っていたのだと思います。

「ありがとうございます、神童先輩。でも俺、今は先輩の気持ちに応える事が出来ません」
「天馬……」
「あ、いやっっ!! その……、男同士だからとか、そう言う理由じゃなくて……! 神童先輩にそんな風に思って貰えるなんて、俺嬉しいです! 嬉しいからこそ、俺自身もちゃんとしないと、って」

 赤らめた顔で手をぶんぶんと振り回し、神童くんの気持ちを傷付けないよう、言葉を選んで。

「嬉しいと思ったのに、気持ちがそこで止まっているのに気付いてしまって……。何かが、そこで引き留めている感じで、それがどうしてかちゃんとしないと、気持ちを伝えてくれた神童先輩に失礼になるって」
「……無理せず、聞き流してくれて良いと言っただろう? 最後まで黙ったまま、眠らせても良いかと思ったんだけどな。でも、この想いは言葉にして天に還した方が相応しいと思ってしまったんだ」
「神童先輩……?」
「空を自由に羽ばたく、天馬に寄せた想いだから」

 それから神童くんは、天馬くんの頭にポンと手を置き、

「お前が、自分の中にあるものにちゃんと向き合ったら、俺の入り込む隙などない事も分かっているから」
「えっ……?」

 ……流石、神童くん。大人ですね。
 天馬くん自身、今はまだ気付いていない『想い』を察している。

「後はよろしく頼む。これからの雷門サッカー部を引っ張って行ってくれ! 松風キャプテン!!」

 神童くんの、そんなにっこりとした鮮やかな笑みは、満開の桜にも勝るほど。潔く見事な散り際を飾った神童くんの想いは、風に乗って遥か空の高みへと昇華したのでした。


   ■ ■ ■


「こんな所でどうしたの? 剣城くん。新旧キャプテンを呼びに行ったんじゃ……」

 桜の木の下で話す二人を、物陰から見つめる剣城くん。僕はその剣城くんに、そう声を掛けた。

「ああ、そうだな」
「あっ、二人話終わったみたいだよ」

 僕がそう言うと、剣城くんは僕の顔を見て、こう尋ねた。

「そう言うお前は、どうしてここに来た?」
「僕? うん、霧野先輩が新旧キャプテンが揃わない事には追い出し会が始められないっっ!! さっさと呼んで来いって、追加で派遣されたんだ」
「そうか……。じゃぁ、お前が呼んで来い」
「えっ? でも、先に呼びに来たのは剣城くんじゃ……」

 そう言うなり、剣城くんはもう背中を向けて歩き出している。
 僕があわあわしている内に、距離が開いてゆく。

( 剣城くん、神童先輩と天馬くんが二人だけで話しているのを見て、何か思ったのかな…… )

 ふぅ、とため息をつく。
 傍で見ている方が、よく分る事もある。
 だけどそこは、他人が口を出す所じゃないと、僕は思う。

 でも、あの二人なら、いつかきっと……!!

 ふるっと頭を振って僕は、桜の木の下に居る二人に向かって駆け出していた。


  ■ ■ ■


「神童先輩~~っっ!! 天馬く~ん! 霧野先輩達が呼んでますよ~~~っっっ!!!」

 僕は走りながら、そう呼びかける。

「わざわざ呼びに来させて済まなかったな、影山」

 どこかすっきりした笑顔で、神童先輩が僕を見る。

「天馬も時間を取らせて悪かった。お前も早く、戻らないとな」
「あ、いえ……」

 あれ?
 天馬くん、顔が赤くない?
 そっか、神童先輩から ――――


 ……そして、それを剣城くんは見ていたんだ。


 他人が口を出すことじゃない、ってさっき思ったばかりなのに、僕の口は思わずこんな事を呟いていた。

「さっきまで、剣城くんも一緒に探していたんだよ。もう、部室に戻ったかなぁ」
「えっ? 剣城が?」
「うん。天馬くん、あまり遅くなると、剣城くんに怒られちゃうんじゃない?」
「うわっ! ヤバイっっっ!! 済みません、神童先輩! 俺、先に戻って準備の確認してきます!!」

 僕の言葉が引き金で、天馬くんは物凄い勢いで部室に戻って行った。

「……こんなにも、判りやすい性格なのにな」
「そうですね。気が付いていないのが本人同士なんて、周りはどうしてやれば良いのかって感じになっちゃいます」
「頼むな、影山」
「僕にですか? 神童先輩は良いんですか? 神童先輩だって……」

 僕の言葉に、神童先輩が大人ぽっい柔らかな笑みを向ける。

「ああ。俺の想いはちゃんと咲かせて、空に飛ばしたから」

 そしてまた、微笑む。
 一歩、僕より大人の顔をして。

 神童先輩の言葉で振り仰げば、そこには今を盛りと咲き誇る満開の桜の花。その白い花びらが風に乗って空へと舞い上がる様に、目を奪われる。

「綺麗ですね」
「綺麗だろう。だから、もう良いんだ」

 そうして、僕たちも部室へと向かった。


   ■ ■ ■


  ―――― そろそろ、夕暮れの風が冷たくなってきました。

 サッカー棟の一室から、つい先ほどまで賑やかな声が聞こえていたのですが、今はもう静まりかえっています。名残惜しげな声を掛けあい、それ以上に母校を巣立つ先輩方へのエールを送り続けていた声も、今は聞こえません。

 今年も、素敵な旅立ちを見送る事が出来ました。
 また一つ、増えた私の宝物。

 その宝物を仕舞おうと、自分の想いの中を思いめぐらせば、つきっと小さくとげが刺さった様な想いに気付きました。

( ……卒業を待たずして、ここを去ったあの子は、今頃どうしているだろう? もう、半世紀も前の事だけど )

 『輪』の中にあって、いつも孤独だったあの子。
 私の側で、強く激しく暗い想いを抱いてフィールドを見つめていた子。
 その想いの根源が何かに、気付くことが出来なかった可哀そうなあの子は ――――

( あの子が埋めて行ったものが、ここにはまだ残っているのに )

 人気の絶えたフィールドに、かさりと小さな足音が聞こえました。

( あら? この子、さっき神童くんを迎えに来た―― )

 この子もどこかあの天馬くんに似た、子犬を思わせる雰囲気の子です。
 あたりをきょろきょろと見回し、人影が無い事を確認して小さく呟きました。

「 ―――― やっぱり僕、雷門に来て良かった」

 その一言が、なにより嬉しい。

「……伯父さんと雷門の因縁を知っているから、大きな声じゃ言えないけど ―――― 」

 ぽつり、ぽつりと想いを零す。

「……伯父さんが居なかったら、僕はサッカーをすることは無かった。雷門に来る事も、天馬くんや剣城くん達に会う事もなかった」

 染込む、想い。

「ここに来て、サッカーの面白さを初めて知った。仲間が出来て友達が出来て、自分の『影山』の名前の束縛から解放された」

 遠い昔に埋められた、悲しい想いを浄化してゆく。

「サッカーも雷門も仲間達も皆、僕の大事な宝物! それを与えてくれたのは零治伯父さん、あなたです」

 浄化される、想い。

「ありがとう、零治伯父さん」

 ふわりと浮かび上がったあの子の想いは、真っ直ぐに天を目指して登って行きます。
 心からの感謝の言葉に見送られて。

 私の心残りも、溶けてゆきました。


 ■ ■ ■


 色んな子ども達を、見てきました。
 色んな想いも、見てきました。
 今までも、これからも。
 この学び舎で学び、成長してゆく子ども達の姿を見つめ続けて。 

 私は、桜です。
 フィールドが見える校庭の片隅、校舎の影に残った一本の山桜です。
 
 
 
 幾世代もの子ども達を迎え見送った、雷門の桜なのです。



【了】
 
2012.3.24

 

 


   
 
*    *    *

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Date:2012/05/29
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