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□ イナズマ・クロノストーン □

支援者X -京天-


 豪炎寺さんが来てくれた。
 円堂監督が自動車事故で亡くなった、この改変された歴史の中でも『本当の真実』を知る一人として、正しい歴史を取り戻す為に。

 ……いや、それよりも円堂監督を、サッカーを取り戻す為に!!

「……でも、どうして豪炎寺さんは歴史の改変の影響を受けていないんですか?」

 俺の隣で、不思議そうな顔で松風が尋ねる。

「ああ、それは支援者Xから貰った、このタイムブレスレットのお蔭だろう」

 豪炎寺さんが上着の袖を少し上げ、その手首に装着したブレスレット状のデバイスを俺達に見せる。

「あ、それっ……! 優一さんも、持っていた……」
「松風?」

 この歴史改竄事件に関わってから、松風の口から兄さんの名前が出るのはこれで二度目。兄さんも、俺の知らない所でこの事件に関わっているのだろうか?
 でも、それはいつ・どこでの兄さんなんだろう? 
 過去か、未来か、もしかして無数にあると言うパラレルワールドの中の一つの世界から来た兄さんなのかも……?

「そっか! 優一さんもある人から貰った、って言っていたから、きっと同じ人なんだろうな」

 松風の言葉が、俺の中で引っかかる。

 支援者X ――――

 俺は、その名前を聞いたことがある。
 豪炎寺さんも言っていたが、そうフィフスセクター設立に大いに関わっていた、影の立役者として。

( ……ちょっと待て。何か、根本的なところで大きな見落としがあるんじゃないのか? 良く考えろ! 一体、何を見落としている!? )

 支援者Xとは、一体何者なのか?
 なぜ、フィフスセクターは設立された?
 どこから『サッカー』は、その意味を変質させてきた?

 そして、200年後の世界を蹂躙しているセカンドステージチルドレンとは……?

 俺の中で、ずくん! とした悪寒が走り抜ける。
 まさか、まさかっっ!?

( そんな事が有り得るのか? もしかして、プロトコル・オメガの言っている事が正しいのかっっ!? )

 俺は、胸の内の動揺を隠して豪炎寺さんを見る。豪炎寺さんの瞳には、針の先程のブレも無い。歴史を正し、円堂監督を取り戻し、サッカーを取り戻す! そこに、どんな歪みも悪意も脅威もない。

 あるのはサッカーを通じて繋がる共感と、感動と、絆だ。

「俺達に残された手掛かりは、プロトコル・オメガだけだ。奴らは、歴史の改変を進めるのに邪魔なお前達を必ず叩き潰しに来る。お前達が、奴らに勝つことが出来れば、歴史は違う方向へ一歩コマを進めることが出来る。その為には、今よりももっと強くならないといけない」
「はい。俺達もそう考えて特訓をしようとしたんですけど、このサッカー禁止令のせいで、どこにも練習できる場所がないんです!」

 松風が、今の窮状を豪炎寺さんに訴える。
 俺には、次に豪炎寺さんが言う事が判った様な気がした。
 そう、豪炎寺さんはこう言うだろう。

「場所ならある。ゴッド・エデンが」

 ああ、やはり。
 あの島は、究極のシードを生み出すための島。
 フィフスセクターの本当の目的が隠されていた島、『セカンドステージチルドレン』に繋がる秘密を呑み込んでいる。


   ■ ■ ■


 豪炎寺さんの言葉に従い、ワンバダの運転するキャラバンで、俺達はあのゼロ達と試合をしたゴッドエデンに着いた。あの試合後、ゴッドエデンは閉鎖され、施設は放置されたまま、ここにいた人間達は皆島を去った。
 無人の眠りに就いていた島は、また住人を迎え息を吹き返す。

「うわぁー、本当にあの時のままだ!」

 あれから三ヶ月。
 無人だったにも関わらず、施設内のどこにもまだ荒廃の影は忍んできてはいない。

「天馬ーっ!! サッカーボール、あったよ!」

 嬉しそうな声を弾ませて、西園が松風を呼ぶ。
 ここで、俺達が『強くなる』事が、歴史を変える事になるのか?

 ( ――― !! ――― )

 また、背中に悪寒が走る。
 歴史を変える小さな石ころが描く波紋が、正しいのか間違っているのか、今の俺には判らない。俺のこの一歩のせいで、取り返しのつかないことになったら……?

「とにかく、強くなってプロトコル・オメガを倒さなくちゃ! その為には……」

 松風が、自分の拳を強く握り占める。

「化身アームドだね」

 松風の心を読んだように、フェイが言葉を発した。

「それが出来なければ、プロトコル・オメガと戦う事は出来ない」

( 松風……、フェイ ―――― )

 この確かめようもない疑問を口にすれば、俺たちはここから一歩も動けなくなる。だから、未来の是非は今は置いておく。この歴史を確定させない為にも、あいつ等に勝つことは必要最低条件だ。そう、言われるまでもない。ここに居るのは、すべて化身使い。皆の思いも、その一点のみ。

 どうすれば化身アームドが使えるようになるのか?
 ワンバダは出来る! と言う強い思いがあればとか言い、フェイは化身の声を聞け、と言う。
 俺は、その手の精神論や電波発言は苦手だ。明確な目標値を提示された方が、余程やりやすい。それが例え、100メートルを9秒切って走れと言われても。



「はぁぁ、流石に初日からアームドは無理だよね」

 化身の使いすぎで、体力の限界を超えた松風が水分補給のボトルを手に、屋内フィールドの人工芝の上にゴロンと横になる。

「飛ばし過ぎるな、松風。怪我でもすれば、それこそ取り返しがつかなくなる」
「うん……。ねぇ、なんで豪炎寺さんは一緒に来てくれなかったのかな? 豪炎寺さんのアドバイスも聞きたかったよ」

 しゅんとした声の調子、こういう時の松風はどこか捨て子犬のような雰囲気がある。

「豪炎寺さん、か……」

 伝説の炎のスタライカー、豪炎寺修也。

 俺や兄さん、松風の憧れであり目標でもあるサッカープレーヤー。
 確かに、豪炎寺さんが放つシュートもその背後に控える炎の魔人の力を得て、驚異的なパワーを生み出す。フィフスセクター内で密かに囁かれていた、『野生の化身使い』初代の一人だ。

「……そうだな。だけど、豪炎寺さんには豪炎寺さんでやらなければいけない事がある。俺達には俺達にしかできないことがあるように」
「豪炎寺さんにしか出来ない事?」
「ああ。だから、俺達も……」

 豪炎寺さんは、おそらくフィフスセクター本部をもう一度、調べ直しているはずだ。円堂監督を助け出した後、俺達がどう動くのが『正しい歴史』に繋がるのか見極めるために。俺もここで特訓しながら、何かデータが残っていないか調べてみる必要があるだろう。


 ―――― フィフスセクターを支援した『X』が、未来人だと言うのなら、その思惑が何なのかを。


 ぐるりとスタジアム内を見回していた松風が、ぽつりと言葉を零した。

「見れば見るほど、凄いスタジアムだね。これも、その『支援者X』からの支援があったから出来た。だけどさ、その『X』が居なかったら、こんなスタジアムはないんだよね? フェイ達の話を聞くとどうやら未来人みたいだし、本当は現代に居ない筈の人物なんだからさ」

 松風の言葉に、俺の心臓が大きく鼓動を打つ。息苦しくなるほどの強さと速さで。度々感じていた悪寒が、冷たい稲妻のように俺の背中を駈け上る。


   ■ ■ ■

 
 色んな事柄が俺の頭の中を駆け廻る。先に頭に浮かんだ疑問が、嵐を呼ぶ雷雲の様に俺の胸にいっぱいに広がる。


 ―――――― サッカーハ、イツカラ変質シタ?


( 円堂監督達が世界一になってから、日本でサッカーが爆発的な人気になった。その人気が嵩じて、サッカーの強さが、物の価値観を決める指標になって…… )

 そこで、俺ははっと気づく。

 どうして、そうなった?
 人気のあるスポーツなら、他にも沢山あるじゃないか?
 なぜ、『サッカー』だけが物の価値観を左右するようになった?

 誰かが、そうなるように仕向けたのか……?
 サッカーを持ち上げるだけ持ち上げて、奈落の底に落とし込むために。
 サッカーをスポーツから切り離し、腐敗させ、抹殺するために。


 ―――― サッカーを、後の世に伝えさせなくするために。


( それを防ぐ為に、フィフスセクターは作られた? ただ、サッカーを守る事だけが目的じゃない。「サッカー少年法」なんてもので俺達を縛り付け、管理して得ようとしたモノがある。『セカンドステージチルドレン』という力を……  )

 体が、小刻みに震える。

 行きついてしまった可能性の残酷さに。
 もし、もしも、この自分達が『正しい歴史の中の現在』と認めているこの日常が、『既に改変された歴史の中の日常』だとしたら……。
 歴史の改変が、円堂監督達がまだ中学生だった頃に行われていたとしたら……。


 ―――― モシカシタラ、イナズマジャパンハ世界ニ行ッテイナカッタカモシレナイ……?


 それが『正しい歴史』だとして、これからの悲劇を回避するために大掛かりな修正を施したとしたら、俺は何を失うのだろう?
 サッカーは数多くあるスポーツ種目の一つとしての認識に留まり、他のスポーツの様に誰もが練習出来て楽しむモノになる。当たり前に、普通に、目立つこともなく。

 今の、『サッカー禁止法』の世界から見れば、それはきっと幸せな事。いや、『少年サッカー法』すらない世界なのだから、誰も泣くものはいない筈。
 そんな中で、俺や兄さんは豪炎寺さんに出会える機会があるのだろうか?
『豪炎寺さん』を知らない俺達が、子どもの頃にサッカーをしていても、『あの事故』は起きたのだろうか?
 兄さんの為に、自分のサッカーを封印してシードになった俺は、そこにいるのか?
 いや、それよりも俺達はサッカーをしていたのか?

( サッカーをしていない俺が、この仲間に、松風に巡り合える可能性はどのくらいだ? 豪炎寺さんを知らなくて、フィフスセクターもない歴史の中で、俺が天馬に会える確率は…… )

 考えることが、恐ろしかった。
 今ある全てを、失ってしまうようで。

 『エルドラド』と『支援者X』とフェイ達 ――――

 未来の、対立する存在。
 今は信じるしかないが、フェイ達がどちらの陣営とも違う第三勢力だと言う事だけが頼みの綱だ。
 歴史さえも、おもちゃの様に捻じ曲げてしまう奴ら。
 腹の底から、沸々と怒りが湧いてくる。

「剣城、怖い顔してる」

 そんな松風の声が聞こえた。

「あ、なに……」
「何が何だか判らない状況に、放り込まれたんだもんね。怒りたくなっても仕方がないよね」
「松風……」

 さっきまで、人工芝の上でのびていたのにむくりと上半身を起こし、何か言いたげな松風の様子。
 俺は、そう名前を呼んで水を向ける。松風は、立ち上がりながら言葉を続けた。俺もそれに続く。

「……俺もよく分らないんだけど、でも、何処に行っても、どんな状況でも、俺は俺を信じる事から逃げないでいようと思う」
「何を言ってる? 松風」

 判らないことを言って、俺の顔を見る松風。その口が小さく動き、俺に取って大事な存在の名前を形作る。

「優一さんが、俺があったパラレル世界の優一さんが俺に教えてくれたんだ」
「兄さんが……」
「ちゃんと話さないといけないって、俺思って……。俺にサッカーをしている剣城を返してくれたんだ、優一さん」
「サッカーをしている俺? 何を当たり前な事を言って……」

 松風の茶色の頭が、フルフルと横に振られる。

「……プロトコル・オメガの歴史改変で、『あの事故』が無かった世界が上書きされそうになっていたんだ。その世界では、優一さんは優秀なサッカープレイヤーで海外にも留学を斡旋される位で、剣城は優一さんを留学させるために、サッカーを止めてしまっていた」
「俺が……?」

 その世界は、俺が今思っていた世界に近い。

「でもね、優一さんは剣城がサッカーをしない嘘の世界は正さないと、って豪炎寺さんと同じブレスレットの力を使って、俺の居るこの世界に来たんだ。そして、自分の足が動くその世界に俺と一緒に戻って剣城とサッカーして、剣城も心からサッカーをしたい!! って気持ちになって、歴史は修正された」
「その、もう一つの世界は?」
「……消えたよ。修正したから、上書きされる予定の歴史は最初から無いものに」
「その世界でも、俺達は出逢っているんだな?」
「うん。でも、剣城は俺の事、知らなかったけど」

 松風の灰蒼色の瞳が、微かに寂しげな色を浮かべて揺れる。

( それを、兄さんは偽りだと断じた。俺や松風の為に ――――― )

 『今』の俺の為に、俺が望む姿の兄さんが消えてゆくのを、松風は見ていたんだ。

「なぁ、松風。お前なら判るな。その世界の俺や兄さんがどうだったかを」
「うん。剣城は剣城だったし、優一さんは優一さんだった。だから俺も、今の俺を信じようって」

 顔を紅潮させ、握りこぶしまで作って俺に力説する。
 そんな松風の姿が、俺の胸に希望の光を灯す。
 ああ、それなら俺も信じてみよう。

 こうして、俺達が出会うのが必然なら、どんな形でもどんな世界になっても、きっと会える。
 俺は俺を信じて良いんだと、俺達の為に自ら消える存在になった優しい兄さんの為にも。
 

 スタジアムのルーフ近くの空間が揺らぐ。
 俺達が強くなっては困る連中のお出ましのようだ。

「松風」
「え、なに?」
 
 俺の動いた視線を追って、松風の視線もその異変を捉える。
 現れたのはプロトコル・オメガ2.0……、いや、彼らの自由意思で編成されたチームA5。

( この戦いもお前のシナリオなのか? 支援者X。だけど、俺達がお前の書いたシナリオに踊らされるだけの人形だと思うなよ。俺は俺を信じる。俺は、俺を信じてくれる仲間を裏切らない!! )

 お前とこうしてサッカーを続ける為にも、俺はこいつ等に勝つ!
 ありえない状況でも『信じる』と強く思った時、俺の中に大きな変化が生まれていた。




『信』を尊ぶ、それは何よりも騎士の誉れ ―――――





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Date:2012/08/28
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